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            act.5 聖なる夜に<4>
アクアを出迎えに外へ出ている間。
彼の訪問時刻を知らないはずの修兵が目を覚まして、玄関に準備してくれた温かい心遣い。
寝不足の碧には体に沁みたようだった。

『ね、一緒に食べようよ。コーヒーもあるしさ』
『・・オレには早朝からケーキ食える胃袋備わってねぇ』

げっそりした表情でこっちを見るから、じゃあ一人で食べるからいいよ、と。
行儀は余り宜しくないけど、そのまま箱の中に指を突っ込んで。
一つまみ取り上げると、口に放り込んだ。

甘さ控えめで少し苦味の効いたチョコレートの風味が、好みの味だった。

『美味しいよ、碧!』
『そりゃどーも』

止まらなくなったあたしの指が、次々とケーキを口に放った。


夢中で気付いた時には、肩に凭れる碧の体。

「・・碧?」

スースーと寝息を立てる音が聞こえる。
気持ち良さそうに眠っているから、そのまま寝顔見物を決め込むことにした。

左側に流した前髪がさらりと顔にかかるのを、何度も指で掻き上げてやる。
もう一度触れてみた頬は温かい。
寄り掛かる体の隙間を縫って、背後から回した腕で彼の腰を抱く。

こんなになるまで頑張って、あたしの為に準備をしてくれて。
泣いて喜ぶような可愛いことが出来ない自分が歯痒い。

「大好きだよ・・碧・・」

前髪を掻き上げ露わになったその顔に引き寄せられるように。

その薄い唇に自分の唇で触れた。
気付かれないように呼吸を止めて。

そっと触れるだけのキス。

ドキドキと鼓動が早くなったのは、自分からキスをするなんて大胆に出た行動と。
碧の寝顔に、彼の言葉を借りれば【欲情】してしまった恥ずかしさと。

どちらが大半を占めてるのかなんて、分からない。

ヒーターが温める外からの熱と、体の中から湧き上がる内からの熱で、顔が燃えるように熱い。

「でも碧は・・・」

もっとずっと色んなことを我慢してる、んだよね?


――日頃から募った欲求不満、っての?


キスをすることすら我慢出来なかったあたしは、碧を責める資格も軽蔑する立場でもないのかも。
あおいがいつか言ってたように、もう少し委ねても・・・いいのかな。

「そこの二人。朝飯どうする?・・なんだ、碧のヤツ寝てやがんのか」

遠慮がちに修兵が、キッチンに繋がる側の廊下から顔を覗かせた。
後姿で分かったんだろう、回り込んで寝顔を確認するとニヤリ、悪巧みの笑みを浮かべた。

「おら碧!さっさと起きねぇと遅れっぞ!」
「うあっ!!!」

突然耳元で上がった修兵の声に、全身を大きく震わせて碧が目を覚ました。
思い切りあたしへと体を寄せるようにして、大男を見上げる。

「しゅ・・・修兵さん・・・?あ。お邪魔してます・・」
「イチャつき終わったなら、飯食ってけ」
「いやまだ何も・・・てっ」

ぺしっと軽く頭を叩いて修兵がキッチンへと戻っていく。

「・・・・なあマリン」

口元を押さえた碧がゆっくりと振り返った。

「オレ・・寝てたよな?」

何かを探る様な眼差しがあたしを見る。

「え?うん」
「口の辺りが甘いの、何でかお前知ってる?」

トパーズ色の瞳を悪戯っぽく細めて。
訊いてくる時点で気付いたクセに、性格の悪い奴。

「――知らない」
「じゃあさ。オレの立てた仮説、確かめさせてくんね?」

がっちりと背中に回した腕に体を引き寄せられて、碧との距離がぐっと近くなる。

「オレの唇奪ったろ」

質問じゃなく確認の雰囲気を纏った言葉が、目の前の口から紡がれた。

「だから・・知らな・・・」

言葉が塞がれそうになる直前。
バタン!と激しく開かれたリビングの扉。

「碧ぁ~!!」

その声に固まった、あたしと碧。
飛び出す絵本みたいに姿を見せたそらによって、未遂に終わった仮説の実証。

「・・・ってうっわわわわわっ!ちょっとしゅーへー!まだ取り込みちゅ・・・」
「待て宙。黙っとけって」

くるり体を半回転させた宙の背中を、碧の腕が掴んだ。

「オレ、碧とマリンんがチューしてるところだけは見ないようにーって思ってたのにぃ!サンタさんの意地悪ぅ~~」

うわっと。
告白して振られた女子みたいに走って逃げた。

見送った背中にぽつり、呟く。

「・・なにがサンタさんだ・・・宙のバカ・・」
「つーことで、続き」

邪魔者が姿を消した途端再び寄せてきた顔を、手で押し退けた。

「やっぱりさ。雰囲気って大事だなって思うよ」
「・・ってぇ。ま、いいや。飯食わせてもらうわ。腹減った」

苦笑を浮かべた碧は家の中に上がり込む。
続こうとしたあたしは、パーカーのフロントポケットに違和感を感じて思い出した。

「・・忘れてた」

彼に手渡すハズだったプレゼントの存在。
取り出したそれを、玄関に置かれたバッグの中に仕舞いこむ。

――どうか、監督に見つからないようにと、願いを込めて。
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