act.3 ウワサの二人<4>
――サッカー部、クリスマス合宿らしいね。
そこかしこで肩を叩かれ言われた一日だった。
妙に同情染みた眼差しも、もれなくセットで。
部室の中で一人気疲れから息を吐いたあたしの背中から、声がする。
「まーまー。みんなの注目物件なんだから、仕方ないよ」
所属する陸上部の部長が苦笑いを浮かべていた。
「注目物件って・・あたし達は不動産じゃないんですから」
「ふふ。でもあれは完璧に監督の嫌がらせだってことも、みんな言ってる」
碧がぼやいていたのと同じ事情を、他の生徒達も知っているということのようだ。
「合宿所に潜入予定なんだって?」
声を顰めて耳打ちする部長が、何に気を使ったのか知らないけど。
未遊の突拍子もない発言が筒抜けで、生徒達に広がっていたことも同時に発覚した。
「あれは友達が勝手に言ってるだけです」
「そうなの?マリンもずい分積極的だと感心してたんだけど、なんだぁ」
「あの・・部長、つまらなさそうに言わないで下さい」
まるで、あの妄想好きの提案をみんなが期待しているのかと思うじゃないか。
「でも、彼氏の方はその話聞いてちょっと嬉しそうだった、って聞いてるけど?」
「は・・・?」
あぁそう言えば、部長の彼氏って、1こ下の碧と同じクラスだったっけ。
・・にしてもさ。
どんだけ注目されてるんだ、あたし達。
学校中の至るところに潜む目と耳の数を思うと、背筋が軽くぞっとした。
***************
「あぁそれな」
お互いに自転車を押しながら、並んで歩いた。
通学の路線が被るのはほんの3駅だから、学校から最寄駅までの道程は放課後に碧と一緒にいられる貴重な時間だった。
「確かに、マリンが合宿所に寝込み襲いに来るらしいって聞いた。宙がえらい盛り上がってたぜ?」
容易に想像がつく大盛り上がりの二男の姿を思い浮かべて、口元が緩む。
隣の男もまた笑みを浮かべていた所を見ると、同じことを考えていたんだろう。
「それ、ないから。期待しないでよ」
はあっ、と声になる一歩手前のワザとらしい溜め息が、暗闇に白々と吐き出された。
「・・またずい分とバッサリいってくれるな・・まぁお陰で?無駄な期待せずに済むけど」
「してたんだ、期待」
「半分は希望、っての?」
あたしへ向けた月色の瞳がからかうような色を含む。
「合宿の朝、宙の迎えついでに会いに行くから」
「“ついで”なら別にいい」
「あ?」
「それなら合宿終わってからゆっくり会える方がいいよ」
ついでに顔出せ、っていうならそっちの方が嬉しい。
カラカラと音を立てて回っていた自転車のタイヤが、止まる。
「お前の顔が見たくて悪いかよ。ついでは・・迎えの方だって」
拗ねたような口調。
足を止めた碧が顔を背けてそう言った。
ホント素直じゃない、この男。
「だったら最初からそう言えばいいじゃん。いつも言ってる」
速度を落として、少し先であたしは止まった。
「そういうことなら朝、待ってる。嬉しいよ碧。ありがと」
気持ちを伝えると。
驚いたように目を見張った碧が、次の瞬間唇を軽く噛んだ。
「明日から、自転車、ナシな」
「・・なんで急にそんな話」
何の脈絡もないことを突然言い出した碧は、自転車を押し進めて隣までやって来た。
「これじゃ、腕にも抱けなきゃキスもできねえだろ!」
照れたように叫んだ顔に。
きゅっ、と。
胸が少しだけ疼いた。
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