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            act.2 麗しの王子様<4>
世の中には色々な人間がいるのだと、しみじみ思った昼休み。

グラウンド奥に位置する各部の部室は、東西向かい合わせにコンクリ仕様の平屋が二棟。
東側に野球部が、西側にサッカー部がグラウンドに一番近い場所に部室を構えている。
あたしの所属する陸上部の部室は西側奥から二番目で、最奥は空き部屋になっていた。

「ホント依存症とは縁遠いな、あたし」

昼休みには我が家の主夫・修兵からメールが入って来ることが多い。
朝練時に置いて行った荷物の中に携帯を忘れたことに気付いて、部室へ取りに来たときのこと。

ぼそぼそと隣から声が聞こえていることは、割とあることで。
空き部屋のその部屋をいろんな用途で使用する生徒がいるということは知っている。
だから別段人の気配を感じたところで気にもかけないんだけど。

地震でも起きたのかと思うほど床が震えた。
続いて激しい物音。

尋常じゃないその音に、ケンカかもしくはヤバいことでも始まってるんじゃないかと、部室を飛び出し隣の部屋の扉を急いで開いた。

「何やって・・・」

床に男が二人、転がっていた。
覆いかぶさる大きな背中と、下敷きになっているネイビーブルーの髪の持ち主。

取っ組み合いのケンカをしているような雰囲気じゃあない。
上に乗った一人が、距離を縮めて何かをしようとしているのが明らかだったから。

「・・・これが受け、ってやつか・・」

そう、恐らくこれは未遊に見せたら発狂して喜びそうな類の光景。

ふうん、と。

のんびり観察・学習している場合などではなかったのだけど。

「“受け”ってなんだよ」

下で羽交い絞め状態にされているその男が、こちらに気付いて眉を顰めたアクアだったから、呑気に見物人を気取っていられたんだろう。
大きな背中の持ち主の方は、確か柔道部の主将を務めている三年生だ。
ハッとした顔でこちらを見たまま硬直している。

「ばっちり見られてますけど、先輩」
「・・あ、あぁ・・悪かった・・」

碧の声に我に返った先輩が大きな体を随分と小さくし、気まずそうにあたしの横をすり抜けて部屋から去って行く。
残された方はゆるゆると上半身を起こして後頭部に触れながら、痛みの余韻を引きずっていた。

「思い切り押し倒しやがって・・痛ぇ」
「どっちもいけるとは知らなかった」
「違うっつーの。こっちは被害者」

今朝のこともあって、ざまーみろ、と内心舌を出していたことは内緒だ。

「ソッチの趣味ないからな、可愛げなくてもオレはオンナのがいい」

横目でちらり、こちらを窺う。
何かを含んだような視線の意味を理解し切れず、

「どっちでもいいけど。じゃ」

と扉を閉めようとすると名前を呼ばれた。

「なに」
そらに言うなよ」
「・・ヤキモチ妬くから?」

そう言わせてしまうほどに、兄の宙と碧は仲がいい。

「宣伝カーみたいなあいつに触れまわられたら、今度こそ先輩あのひとに新境地開拓させられる」

うんざり、と言ったように肩を落としたその様子が可笑しかった。
いつも高慢で鼻持ちならない男の弱点を見た気がしたから。

「男女問わずモテる男も、苦労するね」
「うるせえな、嫌味か、それ。・・好きな女に興味すら持たれてないことの方がよっぽど苦労する」

まともに恋愛を語るなんて意外だった。
こんな見てくれチャラチャラした男でも、苦労なんてするのかと。

「ふうん」

人として少しだけ感心した相槌に、碧は何故かいきり立った。

「・・突っ込めよ!そこ、激しく突っ込むとこだろ!」
「そ?別にどうでもいいし」

突っ込みを要求してくる、面倒な男との会話を無理やり終わらせて扉を閉める。

「こっちだって、お前みたいな愛想なしの相手なんかしてられるか」

そんなぼやきにも似た響きの声が途中まで、聞こえた。

「鈍感オンナ」
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