act.2 麗しの王子様<2>
「お前サッカー部にでも鞍替えすんの?」
教室へ入って席に荷物を置くなり、窓際から笑いを含んだ声がする。
野球部の、藤堂だ。
一部始終を見ていたと思われる口振りが、練習の間もずっと不完全燃焼だったイライラを誘発する。
「野球部の一年って暇なんだ」
「球拾いに向かった正面でやってたら、嫌でも目に入んじゃん。如月のすげぇ蹴りもビックリだったけど、それを簡単にトラップした竜崎先輩には驚いた」
「今、その名前出すのやめてくんない。さすがに藤堂にも手が出るかもしれない」
「おーおーそりゃまた・・」
腹立たしいのはあのふてぶてしい態度もあるけど、人が渾身の蹴りで繰り出したボールを簡単に受け止めて、なんてことない顔をしたのが火に油。
サッカー部所属という事情を考慮しようとも素直に出来ないのは、日頃のアイツの悪態に対してをも含めた負けず嫌いなあたしの性格のせいだ。
「とにかくそんな怖い顔するなって。“王子様”がそんな顔してたら、女子ががっかりするだろ?」
「・・あたしは別に“王子様”気取ってるつもりないんだけど?」
「はは、そっか。そりゃ悪ぃ」
軽い調子で受け流されて、溜め息をつく。
入学してから5カ月。
一年女子の一部では、あたしを“王子様”的存在で崇拝しているという話を聞く。
見た目も態度も、この口調も。
彼女たちの興味をそそり、(一部ジャンルの異なる女子には)妄想を掻き立てるのだと。
そう言って近づいてきたのが、クラスメイトの未遊だった。
小さめのぱっちりとした目を縁取る睫毛のカールに相当の拘りを持つ彼女は、ぱっと見可愛い女子なのに中身は少し・・いやかなりの腐れ女子。
「お願いマリン!男の子になって?」
「はっ?」
「私マリンなら、理想の束縛してくれると思うの」
未遊は彼氏に束縛されたい、M女。
自分の求める理想の束縛(彼女に言わせればそういう基準が設けてあるらしい)に満たないと、愛情が欠けているだの、甘やかしすぎだのと理不尽な理屈を述べて、男たちを切って捨てていく。
「また、別れたんだろー。アイツは無理っぽいって言ったじゃんか」
「うん、言う通りだった。・・だからマリン~!」
甘えて抱きつこうとする未遊を寸前で阻止する。
「朝っぱらからM女の戯言に付き合う気、ないから」
さり気なくSの素質を見込まれたって、素直に喜べるはずもない。
・・っていうかさ、あたしってそうなの?
過った疑問に首を捻り、未だ掴まれたままの腕を振り払うと、
「もっと言って」
ウットリとした眼差しを向けてきては次を要求してくる。
「色目使うな、ウットリするな、胸押しつけて来るなっ!!」
頼むから、離れてくれっ!
・・・あぁ、ウザい。
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