act.2 麗しの王子様<1>
大学まで遠回りになる路線を使ってまで、一緒に通学してくれた蒼と別れた最寄駅から学校までは、バスを利用するには距離が短く、徒歩で行くにはやや遠い。
駅前の駐輪場に待機している相棒の自転車で、季節によって感じ方の変わる朝の空気を切って走る感じが好きだ。
正門を抜けて校舎裏まで回り込むと、早朝から活気ある声がグラウンドから響いてくる。
「生き生きしてるねー、相変わらず」
奥に野球部、手前にサッカー部が朝練を始めていた。
実績も部員数も誇るこの二大勢力が屋外施設(要はグラウンド)の利用優先権を握っている。
あたしが在籍する陸上部なんて、部員数も少なく実績もロクにない弱小運動部。
隅の方でチマチマと練習している姿は、それら運動部の花形に隠れて大して目にも留まらない。
練習時間をずらしてトラックを使用させて“もらう”身分だ。
「宙っ!」
耳慣れた名前が大きく響いて、呼ばれた本人が蹴り込まれたボールの方向へ素早い反応を見せる。
ワントラップして自在にその球体を操る足捌きは、目に鮮やかだ。
昨日マッパでフローリングに突っ伏していた同一人物とは、誰も思うまい。
一年の頃からレギュラーとして活躍している二男・宙は、サッカーだけしていればいいのに、と思うほど部活の時は兄妹の欲目を差っ引いても見栄えする。
学校での生活ぶりも家とのギャップが大きく。
故に、騙される女子生徒達多数。
故に、実態がバレて振られること多々あり。
鋭くゴールに突き刺さったボールの行方を見守って、あたしは部室へ向かった。
「うわっ」
突然背後から何かが飛んでくる気配を察知して、反射的に体がそれを避けた。
勢いよく擦り抜けたサッカーボールは、数十メートル先まで転がって行く。
「あれ、なんだ。避けるので精一杯?」
朝の爽やかな雰囲気すらも台無しにする、ヒトをバカにしたような口調がボールの後からやって来た。
振り向いたら、がっかりする。
分かっているのにそうせざるを得ない衝動に駆られてしまうほど、日々のお決まりになっている、ヤツの、絡み。
「よ、マリン」
にやにや笑いながら近づいてくんな!
大丈夫、とか。ごめん、とか。他に言うコトがあると思うけど!?
・・・そんなことは目の前の男に言っても無駄。
少し目尻が上がり気味の大きな瞳。
片側に流した長い前髪。
隠れていない側の髪は全体に短い、非対称な髪形をしている。
引き上げられた口元が、際立って一層小憎らしい。
「ワザとだろ、今の」
「朝のごあいさつ、だろ?華麗にトラップの一つも決めてくれると思ったのに、期待ハズレだな」
睨みつけると、小さく眉を上げる。
「そんな期待は必要ないから」
「宙の妹のクセに」
「関係ないだろ!」
意図的にあたし目掛けてボールを蹴り込んだコトなど、この男にとっては本当に挨拶程度のことなんだ。
――あたしは的でも、壁でもないからな!
しれっとした顔で横を通り過ぎていこうとするそいつより先に、走って向かったあたしがボールを確保する。
右足で地面に押さえ込むように挟んだそれを。
「っざけんな!!」
そいつめがけて思い切り、蹴り飛ばしてやった。
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