act.1 如月家の人々<3>
父親は恋愛小説家。
連載モノを現在1本とちょっとした短編小説やエッセイなどを含めたら、月に4-5冊の雑誌でその名前を目に出来るくらいはそれなりに忙しい、らしい。
男勝りで淡白な母親とのバランスを取るように、ロマンチストでなかなかの情熱家。
・・という話は修兵からこっそりきいた話。
昔の二人は大恋愛の末に結ばれたのだというけれど、離れ離れですれ違いの多い生活ぶりを見ていると二人の熱は恋愛期間に完全燃焼してしまったのだろうかと思うくらいあっさりしている。
「マリンの性格は本当に皐月に似たんだなぁ。運動神経は父さんの血を間違いなく引いてると思うけど。嬉しいような・・なんだか複雑だな」
「なんで、フクザツ?」
「自分が苦労してきただけに、マリンを好きになる子も同じ道を辿るのかと思ったら大変だろうなと同情するというか」
過去の恋愛過程を思い返してなのか、溜め息交じりに苦笑した。
「まあでも」
大きな手があたしの頭に乗った。
「一緒にいて楽しいには、違いない」
寝不足と疲労の隠せない顔に浮かんだ、優しい笑顔。
この笑顔の主が発した余計なひと言で、夕飯時に一人ハチの巣を突いたように大騒ぎになった宙からの追及を交わすのが面倒で。
黙って事情を受け入れた側の蒼が助けてくれなかったら、何度その顔に鉄拳制裁を加えることになったか分からない。
「あたし、男に生まれたかった」
女として生を享けた以上は避けて通ることは出来ないだろうと覚悟はしていた、厄介なモノがとうとうやってきて。
出遅れた目覚めに対するその時の気持ちといったら。
安心したとか待ち遠しかったなんてとんでもない、茫然自失だった。
「修兵に泣きついたって?」
数日前から半端ない腹痛に見舞われて。
初めて目にした鮮血に衝撃を受けて、気が動転したのは事実。
恥ずかしいのと悔しいのとで、母親代わりの修兵に泣いて縋ったんだ。
「宙は少し騒ぎ過ぎだったと思うけど、父さんはとても嬉しいと思ってるよ。皐月がいたなら、一番喜んだに違いない。女の子が欲しいと強く望んでいたのは彼女だったから」
「それなのに・・女らしくなくて、ごめん」
「父さん達が望んでるのは外見の部分や気性じゃないんだ。異性を想う気持ちだったり、母性だったり、内面的な箇所が女性らしく成長していって欲しいと願ってるんだよ。そうすれば、外見は自然とついてくるようになるから」
「・・うん」
「男より、女の子の体は変化が大きいし、今回みたいにデリケートな部分は戸惑う気持ちも当然だと思うよ。だけどそれを乗り越えて、女であることに誇りと自信が持てるようになってくれたら、嬉しいな」
あぁ。そんなこと、小学生の頃に母さんからも聞いたような気がする。
・・きっと、受け売りなんだろうな。
「こんな時は、母親の必要さを痛感するなぁ」
「修兵と父さんがいてくれれば、平気だよ」
「・・それも、皐月が可哀相だ」
小さく、笑う。
男臭くない父さんの匂いは昔から大好きだった。
どっちかっていったら、宙の匂いの方が、ニガテ。
父さんの隣はいつも不思議と落ち着いて、素直でいられる。
寄り掛かる肩の高さが、余り変わらなくなった。
だけど頭を抱える手の大きさは小さい頃からずっと大きくて。
身長がどれだけ伸びても、敵わない。
敵わないものがあるって、それだけで、あたしには尊敬に値するから。
「あたし・・好きになるなら、父さんみたいな人がいい」
こんな風に安らげる男に出会えるなんて、思えない。
好き放題で家になかなか戻って来ない母さんに、少しだけ、嫉妬した。
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