act.1 いろんなウワサ<3>
ぺちゃ、くちゃ。
お喋りをそんな擬音で例えることがあるけれど。
ホント、しみじみ、いつもながらに納得してしまう。
我が家の二男はよく喋る。
こと、家族が一つの食卓を囲む食事の時間は尚更だ。
「――でさー!今日もまた碧が駅で他校の女子に告白されてたんだよね。相変わらずあ~っさり、振ってたけどさぁ」
「なんだ宙。お前その碧に結局何一つ勝てねぇんじゃねぇか。まぁ勉強はお前に負けるヤツを知らねぇけど、サッカーも天才的で、女子からの人気も上回ってんだろ?」
そのお喋りに適当ながらも相手をするのが、修兵で。
一人黙々と食事を続けるあたしは、聞き流そうにも出来ない大音量で続けられる会話を、いつもこうして聞かされる羽目になる。
「オレだってそれなりにモテてるの!知らないのしゅーへーだけだよ?マリンだって見たよね?」
突然振られて、少し固まる。
(・・あぁそういえば、前に宙のクラス訪ねた時に廊下で告られてたっけ)
「そうだっけ」
あの時の事を思い出して、つい口調が意地悪くなる。
「えぇ~!そりゃないよぉ」
「本当にモテる奴は、自分で言ったりしねぇんだよ。蒼みりゃ分かんだろうが」
今日はまだ戻っていない、身近で納得の存在である長男を事例に上げて。
鼻であしらう一言が宙のプチ自慢に幕を下ろした。
(さすが、年の功)
年の話をすると不機嫌な様子を見せるようになった、アラフォー世代の修兵に心の中で小さく拍手を送る。
その隣でシュンと落ち込んだようにも見えた宙が、でもさ、と勢いを復活させた。
「碧には勝とうとか意識してないよ、オレ。サッカーじゃ負けたくないって思うけど、すげーって思う方が強くてさぁ。他にも尊敬するとこいっぱいあってさ・・あぁ、ホント、いいヤツだよなぁっ!碧ぁ~大好きだぁぁぁっ!!!」
・・・・・って、ここで絶叫するな、バカップルめ。
「そんな好きなら付き合えば」
軽い冗談で言ったつもりだったのに。
何をどう捉えたのかよく分からない宙が目を輝かせる。
「え?いい!?マリンの許可が下りたなら・・・いでっ」
「冗談に紛らわしい冗談で返すんじゃねぇよっ!」
修兵の巨大なゲンコツが、その脳天を直撃していた。
目尻に涙を浮かべたその顔を見て、ふと思い出した。
「・・・・ねぇ宙。碧が前に、サッカー部の先輩を殴ったっことがあるって話聞いたんだけど・・」
妄想好きのクラスメイトが“可愛いよね!”と大絶賛する、大きな茶色の瞳と目が合ったまま数秒。
「そんなことあったっけ?」
うーん、と。
視線を天井に向かって走らせながら首を捻る。
現場を見たという藤堂から話を聞いていなければ、誤魔化されたかもしれない。
なかなかの小芝居を見せるほど、言いたくない、ということらしい。
「なら、いいよ」
『――余程の理由がなきゃ・・』
その理由、っていうやつを、恐らくこのお調子者は知っているんだろう。
大好きな碧を、何かから守っているのかもしれないと思ったら。
少しだけ。
――やるじゃん。
兄貴らしくも思えた。
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