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野生の電子レンジが襲ってくる世界にきました -天才ハッカーのハッキング無双ライフ- 作者:じいま

ジャングル脱出編

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プラズマライフルの木

「おはようございますご主人様。起きてくださいませ。冷凍カプセルのエラーを検知いたしましたわ。」

目の前に、赤いランプが点滅しているのがぼんやりと見える。あたりに響くアラーム音、俺を起こす女性の、美しい声。徐々に意識がはっきりしてきた。もう200年経ったのか?視界がぼやけてはっきりしない。腕で目をこすると、カプセルのフタに、なにかの文字が表示されているのが見えた。

// 未知のエラー //
// マニ歴999999年 不正な値を参照しています //

なんだ?冷凍カプセルのシステム障害?あれからどれくらい経ったのだろう。

それにしても寒い。手足の感覚がない。待っていれば冷凍施設の管理ロボットが救出にくるはずだが、寒くて仕方ないので自力で脱出することにした。カプセル内の緊急脱出ボタンの保護カバーを感覚のない手で叩き割り、そのまま力まかせにボタンを押し込む。腕が崩れるような感覚があったが、視界がぼやけてよく見えない。カプセルの蓋が開き、転げおちるように外に出る。

あたりを見回す。明るかった冷凍施設の廊下は真っ暗だ。管理ロボットの姿もない。他にもいくつかカプセルが並んでいるが、どれもフタは閉じたままだ。何が起きたのだろう。

その時、自分の身体の異常に気がついた。腕の肘から先、脚のヒザから下が完全に凍結して、まるで氷の彫刻のようになっている。脱出ボタンを叩いた右手にいたっては、手首のあたりで粉々に砕けたらしく、ほのかにピンク色の傷口から先には何もない。凍っていなければ大量の血液が吹き出して、スプラッタ映画さながらの光景が見られたことだろう。冷凍されててよかった。血は苦手だ。

状況が理解できず混乱するが、痛みはない。痛覚はナノマシンが自動で遮断してくれる・・・そもそも凍っているので痛くないのかもしれないが・・・。その場でしばらく待つと、ピキピキという音とともに足が血色と感覚を取り戻し、なくなった右手が綺麗に生えてきた。痛みもないし、感覚もしっかりしている。さっきまでの寒気すら感じない。はからずもナノマシンのすごさを証明してしまった。

「マキちゃん、マキちゃん起きてる?」

「改めまして、おはようございますご主人様。推定200年ぶりにご挨拶できた感動で、私の猫の額ほど小さなメモリ領域がオーバーフローを起こしそうです。」

返事をしたのは、腕に装着しているデバイス・・・正確には、デバイスにインストールしているAIだ。

俺の左腕には、俺が自ら改造した小型の万能デバイスが巻いてある。見た目は歴史の教科書に載っている「腕時計」にそっくりであるが、その機能はまさに万能。ハッキングから言語の翻訳、付近のロボットや生命体の捜索などなど、いろいろなことができるし、状況に応じて必要な機能を作り出すこともできる。俺の身体から発生するわずかな生体電流で動作するから、バッテリー切れの心配もない。

搭載しているAI「マキちゃん」は、ゴミ処理場で偶然拾ったアンドロイドの残骸から回収した、メイド型アンドロイドのAIである。今のところ身体はなく、人格データだけが腕時計の中に存在している。ほとんど燃えカスのようなアンドロイドの残骸を遊び半分で漁ったら、ほぼ完全な状態のマキちゃんが回収できたのである。アンドロイドのハードウェアは高価であるが、優秀なソフトウェアやAIは知的財産権の関係でそれ以上に高価であり、また入手が難しい。回収したときは、それはもう興奮したものだ。それ以来400年以上、マキちゃんは常に俺の腕時計にインストールされていて、いつもサポートしてくれている。

「ご無事なようでなによりですわ。ところでご主人様、200年以上経ちましたけど私の新しいボディはご用意できましたか。200年以上経ちましたけど。」

「その話、今じゃなくてよくない?」

左腕のデバイスから、ホログラムのメイドさんが浮かび上がる。身長は30センチほど。銀色の髪に青い瞳、彫刻のように美しい顔立ちは常に無表情でクールな印象を受ける。メイド服の上からでもわかる抜群のスタイルが目を引く。このホログラムは、マキちゃんが自身を再現したというアバターである。ただの映像なので触れることはできないし、視界が狭まるので割と邪魔だ。

「マキちゃん、勝手にホログラム表示しないでっていつも言ってるじゃないか。」

「無味乾燥なご主人様の人生に一雫の潤いを、というメイドなりの気遣いですわ。」

もう400年ぐらい経つのに、腕時計にインストールしたのをまだ根に持っているらしい。本人は最高級メイド型アンドロイドだったと自称しているが、俺にはとてもそうは思えない。絶対、性格のせいで処分されたんだと思う。言うこと聞かないし。

「俺が冷凍されてから、何年経ったかわかる?」

「いいえ、ご主人様。今の私はご主人様の生体電気が動力ですから、ご主人様のモノがカチカチになられている間はスリープしておりましたわ。」

「普通に左腕が凍ってた間って言おうよ。」

そうだった。マキちゃんは冷凍される時に管理ロボットに取り上げられるかと思ったが、「どうせ凍ったら何もできない」という理由で持ち込みを許可されたのだ。壊れなくてよかった。誰もいない真っ暗な冷凍施設の中を、マキちゃんのナビゲートを頼りに出口を目指して進む。マキちゃんが懐中電灯代わりに前方を照らしてくれるので進めるが、とにかく暗くて静かだ。動くものの気配がまったくない。

ほどなくして出口にたどり着いた。出口はとても重厚な、本来は自動で開閉するはずの扉である。俺が最も嫌いな作業・・・必死の肉体労働でこれをどうにか開くと、そこにはさっきまであったはずの美しい都市の姿はなかった。目の前に広がるのは、熱帯のジャングルである。動画でしか見たことがないような見事な緑の熱帯雨林が、そこにある。

落ち着き始めていた頭が、再び混乱する。俺が眠っている間に、一体何が起きたのだろう。ホログラムのマキちゃんが出現し、小首を傾げている。呆然としていると、目の前に大きなカエルが跳ねてきた。どうみても生きたカエルであり、ヌメヌメした粘膜が少し気持ち悪い・・・が、その背中に釘付けになった。

「なぁマキちゃん・・・ヌメヌメした電卓がぴょんぴょん跳ねてるんだけど」

「ご主人様、ついに頭がおかしくなりやがられましたか。ご安心ください、ご主人様の頭がお狂い遊ばされても、マキはいつもお側におりますよ。」

なぜか生きたカエルの背中に、完全な状態の電卓が埋め込まれている。というか肉と電卓が融合しているように見える。思い切って素手で捕まえてみると、触り心地は完璧に生きたカエルであった。しかし、背中のキーを叩いて計算してみると、間違いなく四則演算ができる。キーの押し心地も良い。たしざん、かけざん、粘膜、ぬめぬめ・・・混乱してるな、俺。

「マキちゃん、なにこれ?」

「・・・簡易スキャンを完了しました。クソ腕時計の低脳なスキャン性能と私の高度かつ崇高な分析力によりますと、これは電卓とカエルが融合した生物のようです。」

「なんていうか・・・見たままだね・・・。」

電卓ガエルを離してやり、ふと目の前の木を見上げる。見慣れない、黒くて、1メートルぐらいの長さがある果実がたくさん実っている。いや、果実といったがとても果実には見えない。木からぶら下がっているが、どう見ても人工物だ。そのうちの1つに手が届いたので、力を込めてもぎ取ってみる。

「これは・・・どうみても・・・ライフル・・・だなぁ・・・?」

ライフルって木から生えてるものだっけ。あまり銃器には詳しくないが、昔見たプラズマライフルによく似ている。公衆衛生局の掃除ロボットをハックしたら暴走して暴れ出し、それを鎮圧しに来た特殊部隊のサイボーグが似たようなものを持っていた。金属を撃ち抜くのに実弾兵器よりずっと有効なのだ。あの時はログを全部消して、走って逃げたっけ…。

「ローカルデータベースと照合しました。グレッグ社製、汎用アサルトプラズマライフルGR-3199に酷似しています。・・・もちろん、GR-3199は木になっているものではありませんが」

「つまりこの木は・・・プラズマライフルの木ってこと?」

試射してみようと思ったが、弾薬が装填されていない。あたりを見回すと、同じ木からマガジンが大量にぶら下がっているのを見つけたので、ひとつもぎ取ってライフルに装填する。スコープを覗くと、残弾数722と表示されている。ますます木から生えていたものと思えない。プラズマライフルの製造には高度な技術とクリーンな設備が必要なのは言うまでもない。こんな野ざらしのライフルからプラズマ弾など間違っても出ないだろうし、暴発して怪我するのが関の山だろう。

「ご主人様、暴発の危険性がありますので、試射は私を腕から外して安全な場所に安置したのち、ご主人様お一人で行われることをオススメいたします。聞いていらっしゃいますかご主人様、おーいご主人様。おおおーいごしゅ」

近くの地面に向けて、引き金を引く。緑色のプラズマがまっすぐに発射され、地面に小さな焦げ跡を作った。どうみてもプラズマライフルです。本当にありがとうございました。

「ご主人様、もうあなたホントあれですよご主人様聞いてますかご主人様」
新作の連載をはじめました。こちらもよろしくお願いします。
勇者様はロボットが直撃して死にました
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