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ちょっとまぁ一段落。
長らく気合い入ってたんで作者も疲れました。
ほのぼのが続きます。
三十七話。残る謎、微笑む会話。
結局何も起こらずに、家に帰る。

家に帰ると、女性がいた。
二人いた。
一人は言うまでもなく神谷なつき。
あと一人は、ついさっき派手に喧嘩した上條朱音である。

「やぁ少年」
「初めてですよね」
「家に入るのはね」
「何の用です?あ、いや、帰れって意味ではないですよ」
「なつきを引き取りに」
「引き取りにって……」
当のなつきさん本人は、暗い。
暗い。
Cryだ。
泣いている。
「いえ、あの、圭ちゃんに好きな人がいることで悲しいんじゃないんです。純粋に良いことだと思いますよ」
多分、本気でそう思っているんだろう。
好きな人がいるわけじゃないけれど、彼女はできたから似たようなものだ。
「じゃあ何で泣いてるんですか?」
「せっかく仲良くなれたのに……」
思わず苦笑。
上條朱音も、神谷なつきの頭を撫でながら僕をみて苦笑している。

「朱音さん。なつきさんをどこに?」
「あの白い部屋だよ」
「なんだ。なつきさん、別にいつでも会えるじゃないですか」
「あ……そっか」
馬鹿だった。

「でも、やっぱり寂しいですよね」
「仕事の度に会いに行きますよ」
「……お願いします」
「悪かったね、少年」と上條朱音。
「あぁ、あの件ですか」
スパイ。
挙動の監視。
もう、必要無いから、持っていく。
まぁ、それが仕事ってやつなんだろう。
構わない。
なつきさんが荷物を取りに行ってるうちに、聞いておこう。
「朱音さん」
「なんだい?」

「アンチロジックのボスと、まだスタバ行ってるんですか?」

謎はまだまだあるんだよ上條朱音。

「朱音さん。空間操作の能力者でも分からない異空間の中身を、何故あなたは知ってるんでしょうか」

「……何から何まで、暴こうとするんだね。スタバの話しをどこから聞いたかは分からないけれど、問題から問題を導いて、答えからすらも問題を導く。さすがはニヒリストで人間過信で、懐疑論者の、田中くん」
「頭が悪いんで答えはでませんけどね」
「ま、安心しなよ少年」
「安心?」
「その問題に回答を渡すつもりはないから」
「そうですか」
まぁ別に期待はしていない。
ハッパをかけるのが目的だ。

「なつきさん、何もいっぺんに持って帰る必要はないんじゃないですか?」
こう言って欲しかったんだろう。
大きな荷物を、演出過剰気味に重そうに引きずりながらチラチラと上條朱音を伺う神谷なつき。
「良いですよね朱音さん」と助け船を出してみた。
「うん。全然構わないよ」
パァ、と顔を輝かせながら「ありがとうございます!」と言うなつきさん。
かわいい。

「ていうか少年。やっぱり生意気だよねこの部屋。高校生で2LDKって君ね……。なつきが居ても全く支障が無かったろう」
「えぇ」
全くその通り。
「どうだい。『リ=ロジック』、あぁ、霧島唯を同棲させるのは」
なつきさんは部屋に荷物の選択へ行っている。
「同棲?っていうか、『リ=ロジック』?」
「なかなか良い名前だと思うけどね。『再論理』」
能力を破壊する能力。
非論理を持って非論理を制す。
非論理が非論理を正論理へと巻き戻す。
破壊することで、巻き戻す。

リ=ロジック。

「ま、良いんじゃないですかね」
「同棲は?」
霧島唯と暮らす。
彼女を守るために。
あの容姿端麗と同棲。

ふむ。

「有り得ないですね」

「何故だい?」

「霧島唯は、今さっき、あぁ、えっと、朱音さんとの喧嘩の後、僕の彼女になりました」
「へぇ」
素直に驚いている。
「じゃあ少年。尚更に理由ができてるじゃないか」
「僕は彼女のことを愛していない」
「酷いやつだね」
「そうですよ。僕は最低で最悪で下劣で汚い人間です。だいたい一年前、こうやって彼女を作って、失敗した」
「二の舞じゃないか」
「いいえ。決定的に違うところがあるんですよ。言ったでしょう。霧島唯は僕にとって、この世の何よりも大切な人間だ。前の彼女は、好きでもないし、一番大切でもなかった。『彼女』ということで、それなりに大切な人間ではありましたけどね。でも、その元彼女は、残念ながら僕の仮面を好きだった。いえ、それ自体は全くもって悪いことではないんです。でも、さっきのような僕が、本当の僕かもしれない。断定はしませんけど、僕にはあんな野蛮な部分もあるのは確かです。それこそ、二重人格と言われてもおかしくないレベルで、自分の中で温度差がある。霧島唯は、それを知っています。それどころか、驚いてくださいよ。僕の嘘を全て見抜く」
「それは、凄いな。本当に凄い」
「彼女に、言いましたよ。『好きではない』という旨のことをね。彼女はそれでも良いと言った。大分省略しましたけど、天才の朱音さんならわかりますよね。彼女はそれでも良いと言ったんです。じゃあそれで良いんですよ。霧島唯がそれで良いのなら、この世は全てがそれで良い」
「で、同棲がダメな理由に、どう繋がるんだい?」

「僕は孤独は愛している」

ふむ、と顎をさする上條朱音。

「僕は霧島唯は愛していないけれど孤独は愛している。けれどね、朱音さん。孤独は霧島唯ほど大切ではない。彼女が同棲したいというなら、喜んでそうします。けれど愛しているものを自ら手放すほど、僕はできている人間じゃあない」

「まぁ、良いんじゃないかい。彼女に危険がせまれば、同棲でもなんでもするんだろう?」
「えぇ。もちろん。最後に偽善心から言わせてもらうと、高校生で同棲というのは、あまり普通じゃあない。僕は普通も愛してる。彼女には、普通であってほしい」

偽善だねぇ、と少し申し訳なさそうに笑う上條朱音。
「反省してるんですね」
「え?あぁ、少年に言われて気付いたよ。私も立派な偽善者だ」
「ま、気付いたからなんだって話しになっちゃうんですけどね」
また苦笑いする上條朱音。

「しかし少年。あの般若とはどこで知り合ったんだい」
「秘密ですよ。僕の切り札なんですもん」
手札を晒して、切り札を曝しても、負けることはない。
最強のカード。
目の前で全てを見ているのに、対策もできない策。
最強とはそういうことだ。
全ての者にとってあの男は最強で、それ以外の何でもない。
触れることは叶わず、敵うことは有り得なく、越えることは不可能で、憧れることすら許されない。

「ダーティー・ハリーみたいな登場だった」
「年齢バレますよ朱音さん」
「ビデオで観たかもしれないだろう」
そうですか、と言った時に、なつきさんが部屋から出てきた。
携帯をいじりながら。
チラチラと僕を伺いながら。
漫画のように鈍感な男など、人に好かれる価値は無い。
「メアド交換しましょうか」
またもや、パァ、と顔を輝かせ、ぶんぶんと首を縦に振る。
かわいい。


*


どうせまた、遅くても今週の土日にはきっと会うので、惜別というわけではなかった。
じゃあね、またね、ぐらいである。
物凄く濃い日々が続いたので気付かなかったが、なつきさんが来て一ヶ月も経っていない。
だから僕は長く感じていたけれど、濃い日々を送ったのは僕の方で、なつきさんはそうでもないので、結局のところたったの二、三週間だ。

惜しむほどの別れではない。

僕が世界で一番愛してる孤独が戻ってきた。

それだけなのである。

これで霧島唯、つまりは僕の彼女に浮気だとか何だとか言われることもない。
まぁあいつがそんなことを言うかと言われれば、あまりそうは思わないけれど。

自分の部屋に詰め込んだ荷物を、元に戻そうかと思ったとき、メールが来た。

『おやすみ』

たった四文字。
霧島唯からだった。

だから僕も返す。
わざわざ全部を消して、打ち直す。

『おやすみ』

かわいい。
神谷なつきに負けず劣らず、かわいい。

人を好きになる、とはどういうことなのだろうか。
『恋をすると周りが見えなくなる』、つまり『恋は盲目』だか『愛は盲目』だか、とにかく『溺愛』という状態異常は、実は数字で証明されている。
ロマンスを破壊することだけがサイエンスの仕事ではない。
何とかとか言うホルモンで脳がいっぱいになるらしい。

怖い。

いやマジで怖い。

まぁ、これを支持するロマンチストは、実は『心』というものが脳の活動の結果だということも一緒に認めてしまうことにもなるんだけど。

只では引き下がらないサイエンス。

とにかく僕にはまだそのホルモンは分泌されていない。
夜も眠れるし、何も考えられないわけでもない。
ふとした瞬間に見とれることはあっても、いつもいつでも見ているというわけでもない。

電話がきた。
無論、霧島唯から。
「もしもし」と応じる。
「あ、えっと……、圭太」
「なに」
「おやすみ」
吹き出した。
吹き出してしまった。
「あぁ、おやすみ」
「いま笑った!?」
「いやいや、そんなことないだろう。吹き出したの間違いだ」
「むかつく」
「すいません」
「圭太」
「なに」
「毎日じゃなくて良いから、電話していい?」
「なんで許可取るんだ?」
「だって圭太、一人が好きじゃん」
うん。
そうだよな。
お前は何でも知ってる。
「だから、圭太。登下校とかは一緒じゃなくて良いから、電話していい?」
「良いよ。かなり良い。ていうか唯。お前さ、好き勝手やって良いんだよ。お前が一番大事なんだから、お前がやることは全部尊重する」
「……恥ずかしいんだけど」
「オレも電話で良かったよ」
僕もひくぐらい顔が熱い。
「あ、明日は学校来れるの?」
「うん」
「そっか。じゃあ、おやすみ」
「あぁ。おやすみ」

プチ、ツーツー。

ふむ。
悪くない。


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