能力の描写が難しいっす…。
よくわかんないかも…。
十七話。探し物。
水曜日。
心理学的には学校に行きたくなくなる気持ちが一等強くなるらしい、水曜日。
昔やっていた「学校へ行こう」というテレビ番組が火曜日の夜にやっていたのはそれが理由だという、どうでも良すぎる都市伝説がある、水曜日。
夏休みが終わり、ニ週間目。
仕事が入った。
平日に。
しかも、殻を破った成虫の討伐。
異常な面子であった。
広島宏、上條朱音はもちろん。
ポストマン、カットコーナー、と呼ばれる二人の能力者。
どちらもとびきりの非論理武装者である。
別々に仕事をしたことはあるが、こうも強大な面子が集まったのは初めて見た。
深夜。午前二時。
僕は黒いジャージを着て、現場へと走った。
人の形の化け物が、二匹いた。
まず、裏方である空間操作の能力者が三人がかりで、化け物のいる空間を中心に半径七十メートルぐらいの円を描く形で、切り取る。
巻き込まれた建物などにも空間操作を重ね、コーティング状に保護する。
外側からの一方通行である見えない壁で囲む。
化け物は囲まれたことに、まだ気付いていない。
何かを探すように、辺りをキョロキョロと探っている。
時折、お互いでコミュニケーションを取り、指を差したりしている。
僕が不死身になった場所の近くだ。
みんなが隠れている場所に僕も行く。
「やぁ、少年!すまないね、平日なのに」
本当に申し訳なさそうにする朱音さん。
「いえ、大丈夫ですよ。それにしても、電話貰ったときはビックリしました。宏さんに加えて、間垣さんと鈴木さんも一緒だなんて」
間垣さんがポストマンで、鈴木さんがカットコーナーである。
「遅ぇんだよ豆粒!呼んだら光より速く駆け付けろ!」
言うまでもなく宏さんの罵声だった。
「まぁまぁ、宏さん。これでも速いですよ」と制したのは鈴木さん。
この中では、僕と並ぶ常識人である。
能力はこの中でも引けを取らないほどあり得ないけれど。
「うふふ。早くしましょうよ朱音さん」間垣さんが言った。
間垣さんの下の名前は「清治」である。
そう、残念ながらオカマであった。
「そうだね。作戦とは言えないほど粗末な作戦だけどね、しかし言い訳もあるんだ。策というものは、戦場にルールと障害があって初めて成り立つものなんだよ。ここには障害なんて無いし、化け物がルールなんて持ってるはずがない。ま、勝てるだろうからご勘弁願うよ。少年、君が最初に入ってくれ。私たちはここでやつらの戦い方を見るから」
当然のように言う。
当然である。
僕は死なない囮で、死なないデコイで、死なない噛ませ犬で、死なない斥候で、死なない神風で、死なない鉄砲玉で、死なないやられ役なんだから。
だから答える。
「分かりました」
当然のように。
当然に。
「武器は随時、間垣さんの力で君の前に送るから。落とした武器は拾わないで良いよ」
ポストマン。
配達屋。
任意の物体を、任意の場所へ飛ばす。
飛ばす物体に、今のところ制限は見つからないらしい。
その物体に触れていないといけないわけでもない。
座標を指定するため、動く物体を飛ばすのには苦労するらしいけれど。
例えば金庫の中にあるお金を、金庫を開けずに手元に飛ばすことだってできる。
動かない相手なら、外傷を刻まずに脳ミソを抜き取ることだってできる。
「少年。できるかい?」
「大丈夫ですよ」
「良い返事だ。相手の力量を見極めたら、鈴木さんの能力で、私たちが化け物の後ろにいきなり現れるから、あとは只のドンパチだ」
カットコーナー。
近道。
単純に、空間を抜き取る。
あるはずの空間を、欠落させる。
百キロ先の場所に、只の一歩で辿り着くことのできる能力。
一秒で世界を一周することのできる能力。
ドアのないどこでもドアだ。
「じゃ、行ってきます」
ザ、とアスファルトを踏み鳴らし、立ち上がり、化け物の正面に立ち、覚悟を決める。
決死の覚悟ではないけれど。
見えない壁を通り抜け、声をかける。
不敵な笑みで。
「よぉ」
仕事の時間だ。
*
化け物の身長はどちらも百八十ぐらいか、それ以上。
金髪の男と、黒髪の男。
どちらも爬虫類のような顔をしている。
こちらを見ている。
夏休みに会った化け物のように、すらすらと、流暢な日本語で話し始めた。
「誰だよお前」
「田中」
と言うと同時に、目の前に音も無く真剣が現れ、アスファルトに突き刺さった。
柄を右手で持ち、引き抜きながら言う。
「もしくは、ゾンビ」
ダン、と懐へと飛び込む。
金髪の脇に入ったが、すかさず黒髪の蹴りが僕の左側頭に撃ち込まれる。
冗談のような威力。
頭蓋が爆発して、脳漿を撒き散らしながら体ごと吹き飛んだ。
見えない壁に右側の体を強打する。
全身の骨に亀裂が入り、右腕は折れる。
そして治る。
一撃で血まみれになった顔を上げ、刀が無いことに気付く。
「あらま」
と言ったのは金髪だった。
黒髪も、蹴ったあとのポーズを維持しながら目を丸くしている。
今度はナイフが手の平に現れた。
カッコよく逆手で持とうか迷ったが、どうやって振れば良いかわからないので普通に順手で握った。
戦闘訓練なんか受けてない。
黒髪が言った。
「人間ってあんなに丈夫だっけ?」
金髪が答える。
「前に喰ったのは女だったじゃん」
「男は頑丈なのかー…」
喰った。
確かに、そう言った。
人間を、喰った。
化け物。
「人間喰うのかよ」
二人は気付き、金髪が僕に答えた。
「今はお腹すいてないから、別にお前は喰わねーよ」
そうかい。
と言ってユラユラと近づく。
ふぅん。
人間を喰うのか。
『人間を殺す』ねぇ。
殺して、喰うのか。
なんだ、普通じゃん。
だってこいつら化け物だもんな。
僕と違って生きてる生物には、食事は必要だ。
ただ補食対象が人間なだけだ。
別に、なにも、理から、外れて、ない。
僕らだって牛を殺して食べるし。
そんなもんだ。
燃え盛る怒りなど皆無の心情で、僕は駆け出す。
さっきと同じように、金髪の懐へ。
左手のナイフを突きだそうとした瞬間、金髪の右拳が飛ぶ。
僕の顎に食い込み、拳圧で下顎が無くなって、舌が飛び散る。
けれど体まではもっていかれなかったので、構わずナイフを振る。
心臓の位置を狙ったナイフは、ドス、と十字に組まれた腕に阻まれ、急所までは届かなかった。
「ぐぁ…」と金髪がうめくと同時に、僕は後ろから頭を掴まれ、景色が回り、コンクリートに叩きつけられる。
顔面が亀裂の入ったコンクリートに嵌まる。
後頭部をまだ掴まれている。
万歳のポーズで地面に倒れている僕を感じて、無様だなぁ、なんて思っていると、グイと頭を持ち上げられ、また叩きつけられる。
繰り返される。
しばらくして、いきなり止まったと思ったら、今度は巨大な岩が落ちてきて、文字通りペシャンコになった。
すぐさまその岩が消滅した。
ポストマンの力で、上に岩を出現させて重量で落下させたことはすぐに分かる。
一応、僕を助けてくれたのだ。
化け物は少し遠くに離れていた。
「なんだ?今の岩」
「あいつ能力者じゃねーの。さっきから色々武器だしてんじゃん」
能力者だけどな。
この頑丈さには疑問を持たないのか、と思っていると、今度は銃が出てきた。
これは今までの仕事で何度か使ったことがある。
朱音さんのチョイスだろう。
大事に両手で構え、横に走りながら、トリガーを引く。
ガアン、と銃撃。
もちろん当たらない。
しっかりと足を据えて、動かずに、慎重に狙うのなら話しは別だが、走りながら、しかも動く的になんて百発撃っても当たらない自信がある。
ボッ、と音がすると同時に、化け物二匹に挟まれる。
速い。
かなり速い。
まず初撃は左側からの黒髪の上段蹴り、首を後ろに反らして難なくかわす。
続いて右側の金髪が繰り出した脊髄を破壊する形の左フックを体を半回転させて、掠りながらもギリギリ流す。
気付くと目の前に黒髪の踵が飛んでいた。
さっきの流れの回し蹴り。
当然避けきれない。
しっかりと鼻の頂点を捉えられ、しっかりと吹き飛ばされる。
ぐるぐると回って、見えない壁に正面衝突。
鎖骨が折れ、肋骨が何かの臓器に刺さる感触。
超痛ぇ。
「ひゃひゃひゃ!んだアレ!?全っ然死なねー!男って頑丈だなぁおい!女と同じ生き物かよ!」
腹を抱えて爆笑する金髪。
うーん。
いつもみたいな快感が得られない。
相手が馬鹿なせいで無力さを自覚してないからか。
「つまんねぇ」
呟く。
「くだらねぇ」
呟く。
「殺してぇ」
唸る。
アレだ。
ロストブレーキの時間。
「おら」
と言って走り出す。
武器は拳。
黒髪が金髪の前に出て、右足を引いて身構える。
あからさまな蹴りの構え。
僕は避けない。
フッ、と黒髪の右足が消えて、僕の腹を襲う。
両手で抱え込むようにして、爆撃のような蹴りの威力と同時に、足を受け止める。
捕まえた。
左手で黒髪の足首を掴みながら、右手を引き、筋肉を爆発させる。
「ぎょ、く、さ、い、パァァァァンチ!」
とアホな掛け声を叫びながら、黒髪の鼻を砕く。
僕の拳も砕ける。
それで玉砕パンチ。
僕の素敵必殺技。
横から来た金髪の裏拳が首に入り、衝撃と共に体がふわりと飛ぶ。
距離を取った形で一旦落ち着く。
「は、鼻がっ!鼻が折れっ…!」
と鼻血を出しながら騒ぐ黒髪。
金髪が怒りの表情で言う。
「んだテメェ!オレらは忙しいんだよ!」
「忙しい?探し物でもしてんのかよ」
僕が言うと、黒髪が涙目で返した。
「あぁそうだよ!この辺にいるはずなんだけどよぉ、テメェが邪魔しやがって!あ、お前、場所知らねぇか?」
僕の黒い思考が昂る。
情報を得られる。
「場所?言ってみろよ。この辺は庭みたいなもんだ」
金髪が答える。
「えっと、なんつったっけ…名前は──」
言い終えぬ内に金髪の背後に上條朱音、黒髪の背後に広島宏が現れ、同時に触れる。
同時に、死んだ。
石のように固くなって、生命活動に終わりを告げた。
「お疲れ」
と朱音さんが僕を見て言う。
とぼけるな。
今、無理矢理に、話しを切らせたんだろう。
「探し物があったらしいですよ」
ふぅん、と言う朱音さん。
「豆にしちゃあ、良い仕事っぷりだったじゃねぇか。豆粒から豆に昇格だ」
宏さんが会社の方向に歩きながら僕に言い残した。
「何を隠してるんですか」
単刀直入に上條朱音に問う。
「……何も隠しちゃいないさ、少年。こいつらと何を話したのかわかんないけどね、我々は何も隠しちゃいない」
「探し物についてですよ」
「…んー……あぁ…。えっと……。心当たりはあるけれど、まだ確信が無いんだよ。それは本当」
「それを教えてください」
「断る」
そう言って、間垣さんと鈴木さんのところへ歩いていった。
隠してるじゃん、と心の中で呟いて、上條朱音を睨み捨てた。
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