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 9・・・夏休み突入
 怜の率いるBloody Dollsとの対バンのライブの話はすんなりまとまり、チェリッシュとHYENAの出演が決まった。ライブは八月。リオは、夏休みの視聴覚室での練習日をHYENAと同じ日になるようにチェリッシュの分の予約を入れた。
 あとはバイトだ。女子高生のできるバイトといえば大抵飲食店に偏る。リオは、駅前にあるセルフ式のコーヒーショップに決めた。ただ単に店が新しかったのと、ショーウインドーに入っていたケーキにそそられたからだ。一つ気に入らないところがあるとすれば、制服にフリル付きのエプロンがあるというところ。

「俺もそこでバイトしようかな。」
 リオが優弥にバイトのことを話すとそんな答えが返ってきた。
 はたして、リオも優弥もあっさり面接をパスしてしまった。リオは、ピアスをはずすことと、腰まである髪を束ねてまとめることを言い渡された。優弥は、ピアスはもちろんやはり髪を後ろ一つに結び前髪は上げるように言われた。リオと優弥は別々に休みの予定表を提出したが、二人とも同じ内容だったので店長に小首を傾げられた。
 バイトも決まり、ライブも決まり・・・、あとは空いている日に遊びの予定を入れるだけだった。
(遊びって何をしたらいいのかな?)
 リオは、去年の夏休みもファミレスのバイトとバンド活動に明け暮れた。そして、夏の終わりに優弥に誘われて同じクラスの友達と公園で花火をやった。
(バイトも一緒だし、今年の夏は、優弥とたくさん一緒にいられる・・・。)
 リオは、これから始まる毎日に期待に胸を膨らませた。

 一学期も無事に終わった。
「だめよ、水泳ちゃんと出ないと。」
 終業式の日、リオは担任である中年の女教師から通知表を渡されるときにそう言われた。リオは肌が弱いので水泳の授業は全てさぼった≒見学した。その代わり、その分を補習のマラソンをして何とか単位をもらった。それなのにカレンは一緒に海に行こうなどと言う。
 それを横で聞いていた優弥までもが乗り気になっている。だが、

「ロックミュージシャンは日焼けしないんだよ!」

 リオはそれを押し通し、室内プールか夜まで営業しているプールだったら行くという条件で話が成立した。
 そういうわけで、リオは今日カレンと一緒に水着を見に行くことになった。やはりカレンが一緒でないとリオは面倒臭くてまたスーパーに行ってしまうかもしれない。だが、そのスーパーに水着まで売っているかどうかは定かではないが・・・・・。

 今回は、優弥も早坂もついてきた。
「やっぱビキニっしょ。」
 優弥と並んで立っていた早坂が言った。その一歩前では、腕組みをしたリオが足を肩幅に開き、じっと水着たちを睨んでいる。カレンはたくさんの水着を手に取り、あれでも無いこれでも無いと水着を当てた自分の姿を鏡に映してはチェックしていた。やはりリオはどれにしたらいいかさっぱりわからない。ただ、どれも胸がはみ出てしまうのではないか、という心配だけをしていた。

「リオ、胸出すのは基本だよ。谷間無いとかえって問題だよ。」
 と、Fカップのカレンは自分勝手な意見を押し付ける。
「はあ・・・。」
 リオにはよく分からない。こんな恰好をしたら痴漢に会うんじゃないかと思ってしまう。それに、水着に全然ロックを感じないところが最大のネックだ。

 結局リオは自分で決められず、優弥の奨めたものに決めた。茶色い豹柄の胸が三角形のビキニで、デニム地の短パンがおまけに付いている。短パンは足の付け根よりちょっと長い程度で、裾の部分はわざと糸がほつれていた。カレンや早坂も、「これがリオらしい」と推すのでよしとした。これにまたブロンズ色のじゃらじゃらと揺れるネックレスと、やはり同じ感じのサンダルをカレンに選んでもらった。カレンの方は、キュート系で揃えたらしい。

「あたしのは何系かな。」
 カレンに訊ねると、
「リオ?リオのはとりあえずワイルド系かな!」
「・・・・・・・・・・。」
 ワイルド系はともかくとして、カレンの言う、キュート系と姫系とロマンチック系の違いは一体何なのか、リオには謎だった。なんでも細かに区分したがるのはカレンの習性だ。

「リオ、絶対あれ似合うよ。」
 帰り道、リオと駅の構内を並んで歩きながら優弥は機嫌良く言った。カレンたちとはさっき駅前で別れた。
「そうかな・・。明日からのバイトの制服よりかは似合うかもね。」
 と、リオは少し憂鬱そうに言った。
「マジですげ〜楽しみ。リオの制服も、あと一緒にバイトできるのも。」
 優弥は逆に楽しそうだ。
「うん、リオも・・・。」
 優弥にそう言われると、リオはかわいい制服を着なければならない憂鬱から開放された。
 梅雨明けもまだとはいえ七月の夕方の駅の構内は蒸し暑かった。リオと優弥の握り合った手も幾分か汗ばんでいたが、二人はその手を離せないでいた。

 午前六時半、眠い目をこすりながらリオはバイト先のコーヒーショップにいた。そこはチェーン店のよくあるコーヒーショップとしては規模は大きいほうだった。夏休みに新しく入ったバイトのメンバーはリオと優弥の他に女子高生がもう一人いた。女性用の制服は白い丸襟ブラウスに、黒いミニのセミタイトスカート、その上に問題のギャザーのたっぷり入ったフリル付きの白いエプロンを付ける。エプロンの角もやはり丸い。頭用の付属品がなかったのがリオには不幸中の幸いだった。リオはその制服を着て、頭はミッキーマウスのように髪の毛を二つの雑な団子にしていた。前髪だけ七三に分けピンで止めている。

「かわいい。何かのフィギュアみたい。」
 優弥は、他の従業員に聞かれないようにリオの耳元でこっそり囁いた。「かわいい」はリオにとって、全く褒め言葉ではなかったのだが、優弥に言われるとなぜかまんざらでもない。
 もう一人の女子高生も制服を着ると、リオと目を合わせてにこりと笑った。目の周りを細く黒で塗っている。リオもうっすら瞼にブラウンのアイシャドウをぼかしてきた。 
 優弥はといえば、学校の制服を蝶ネクタイにしただけのような無難な格好だ。言われた通り髪を後ろ一つにゴムで結び、前髪は左右三ヶ所ずつピンで止めてあり、おでこが出ている。そのせいかいつもの優弥より大人びて見えた。

 仕事中、リオは携帯を忘れた事に気付いて急いでロッカーに取りに行った。すると、店内に続く従業員用の通路でばったりと優弥に出くわした。
「あれ、優弥も忘れ物?」
 リオの質問に優弥はいたずらな笑みを返すと、辺りを見回しながらリオの手首を掴んで素早くロッカールームに引っ張り込んだ。
「えっ、優弥、何・・・・・?」
 リオがそういい終わらないうちに、優弥はリオを壁に追い詰め、すぐに唇を求めて来た。
(えー・・・・・。)
 どくんどくん脈打つ心臓の音を自分で感じながら、リオは優弥のキスに身を任せた。すぐにリオの耳たぶは赤くなり、息も苦しくなった。でも、優弥はなかなかリオの唇を離さない。
「人が・・・・・、来ちゃうよぉ・・・・・。」
 リオがのぼせたような目で優弥に訴えると、
「まだ、大丈夫・・・・・。」
 優弥が舌先でリオの唇を一周させると、目を閉じたままリオが小さく震えた。
「仕事・・・・・中だよ・・・・・?」
 優弥がキスを続けながら答える。
「だって・・・・・・・・、リオがかわいいから、・・・・・悪い・・・・・・・・。」
「・・・・・え・・・・・?」
「今日のリオ・・・・・・・・見てたらキス・・・・・、したくなった・・・・・・・・。」
「優弥・・・・・。」
 リオの体が次第にふにゃふにゃと歪んでいく。これで、まともに仕事ができるのだろうか・・・・・。

 エアコンの入っていない密室のローカールームは耐え難いほど暑かった。それに加え、二人の発した熱気のせいで湿気も増した気がする。

「じゃあ、順番に戻ろうか・・・・・。」
「うん・・・・・。」
 さりげなくタイミングをずらしながら、二人は別々に店内に戻っていった。

 午後三時半、勤務時間終了。着替えを済まて帰ろうとすると、店長が飲み物を出してくれた。朝番のメンバーでカウンターに座り、少しお茶と雑談をしてから二人は手を繋いで店を後にした。


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