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(前回のあらすじ)
過去の事件について話し合い、仲直りをしたリオと優弥。感極まって抱き合っていると、優弥はリオを押し倒してしまった。拒絶はしたものの動揺を隠せないリオ。急いで瑠偉に電話をしたのだが・・・。
82・・・ライバル?
『 瑠偉のおうちに行く 』
 そうメールしてリオは携帯を閉じた。
 結局あのあと、瑠偉とは連絡がつかなかった。仕方なくリオは、またしても瑠偉のマンションの一階のエントランスで一人待ちぼうけだ。

「はぁ・・・・・。」
 自分と背丈の変わらないねじれた観葉植物を横目で見つつ溜息をつくと、背中で壁にるようにして地べたに腰を下ろした。リオの頭の中は、さっき学校で起きた事件のことでいっぱいだった。
 優弥にキスされた。触られた。押し倒された。そして、腑抜けにされた・・・。
 問題は、一番最後のところだった。その反応は、リオの中では決して許されないことだった。あれからずっとリオは、そのことを反芻して懺悔することをめられない。早くこの記憶を抹消したい。違うことで頭の中を満たしたい。それには瑠偉に会うしかないのだ。会って抱きしめたい。体中、瑠偉でいっぱいにしたい・・・。

 リオが意気消沈しながらガラスのドアから外に目をやると、腕を組みながら歩いてきた男女の二人組が、玄関に続くアーケードの手前で立ち止まるのが見えた。二人は互いに向き合って見つめ合い、何か言葉を交わしている様子だ。
 何気なく眺めていたリオは、急にその二人に釘付けになった。アーケードの下で見つめ合う二人の内、男のほうはまぎれも無く瑠偉だった。
 今日の瑠偉の出で立ちも、全身黒でジャケットとジーパンというよく見るスタイルだった。それに対し目の前に立つ女のほうは、白と黒の女性らしいデザインのスーツ姿で、カジュアルながらもそれは高級感に溢れていた。緩くウェーヴした長い髪の横顔からは真っ直ぐな高い鼻が覗き、波打つスカートから伸びたふくらはぎには、引き締まった筋肉が芸術的な線を描いている。

 リオは首を突き出して食い入るように女を見た。その姿は、まるで大輪の白薔薇を思わせる、女優のような華やかさと存在感に満ちていた。一見若いが、良く見ると年は三十を越しているようにも見える。普段リオが、当たり前のように「おばさん」と呼んでいる世代だ。だが、その女は決してその言葉に似つかわしくない確たる美貌があった。その年代に相応ふさわしい内側から滲み出る奥行きは感じられても、表面上の衰えは全く見受けられない。尚且なおかつ、リオにはまだ備わっていない気品と匂いたつような色香があった。

 負けた・・・・・。そうリオが実感して虚脱状態になったとき、女の白い手が、向き合っている瑠偉の頬に添えられた。瑠偉はジーパンの尻ポケットに両手を突っ込んだまま、黙って女を見下ろしている。女は別れの挨拶でも口にしているのか。
 リオはそのとき、瑠偉の表情を見て息を飲んだ。瑠偉が女に向けたその眼差しは、瑠偉が以前自分に見せたことのある、あの甘えたような憂いを帯びた目だった。

 細い指が頬から静かに離れると、女は瑠偉を見ながら気高く微笑んだ。そして、何か言葉を発してから瑠偉に背を向け、綺麗な姿勢のままきびすを返した。瑠偉は直立不動のまま、女の後姿をしばらく目で追っていた。まるで、別れを惜しんでいるかのようだ。その姿を、リオは絶望的な思いに沈みながら、ガラス越しに眺めるしかできなかった。
 瑠偉が玄関に向き直り、ようやくリオの存在に気付いたときには、茶色の瞳に映る瑠偉は涙でぼやけてしまっていた。

「リオ・・・・・?何だ、いたんだ。」
 瑠偉が早足でリオに歩み寄った。メールを見ていなかったのか、瑠偉の表情は意外そうだった。今のやりとりを見られていたと悟ったのか、少し困惑気味である。
「・・・・・って、何で泣いてんの・・・・・?」
 情けなくも悲しみに歪んだ顔を見て、瑠偉が不思議そうに訊ねた。リオは泣きながら、への次に曲げた口を開け必死に訴える。
「うっ・・・・・、浮気ぃ・・・・・。」
「・・・・・は?」
「浮気・・・・・、したぁ・・・・・。」
「誰が。」
「瑠・・・・・偉・・・・・。」
「誰と。」
「い、今の・・・・・女の人ぉ・・・・・。」
 リオの顔はもう涙で崩れ、簡単には修正がきかなくなっている。ついでに鼻水までがタラタラと垂れてきた。

「今の女の人って・・・・・もしかして、おふくろのこと・・・・・?」
 瑠偉が無表情で言った。リオはすぐに理解できず、水分の多い顔のままいた。
「お袋って・・・・・・・・・・お母さん・・・・・?」
「そう、オレのお母さん。・・・・・小百合さゆりさん。」
 リオの呆然とした顔に、瑠偉はぷっと吹き出してから、横を向いて声も無く笑い出した。リオがうろたえる。
「で、でも、腕組んでたし・・・・・。」
「ああ。あの人、そういうのが好きなんだ。」
 瑠偉は何でもないことのように言う。リオはまだ納得が行かない。
「若過ぎるし・・・・・。」
「うん。オレ、あの人が十八のときの子供だから。」
「いっ・・・・・。」

 十八歳というと、リオがもうすぐ迎える年齢だ。そうなると、リオの母親の理沙よりももっと若いということになる。
「いい女だろ?小百合さん。あんま年とらねぇんだよな。若返りに金でもかけてんのかな。」
 確かに、「いい女」なのかもしれない。だが、自分の母親のことをそういうふうに言う二十歳の息子の神経が、リオにはよく理解できなかった。しかも、親子で腕を組んだりするものだろうか。それについては、瑠偉は軽くかわした。

「オレもあんましお袋にベタベタされんのも抵抗あるんだけど、まあ、会うのも半年ぶりだし、たまにはいいかなって感じで・・・・・。」

 『半年ぶり』という言葉がリオの心を少々広くさせた。今一つ腑に落ちない点はあるが、相手が母親ならば妥協するより他は無い。親子という、自分には踏み込むことのできない特殊な間柄なのだ。それに、二人の仲むつまじい姿は見ていてそう気味の悪いものでもなかった。それがかえってリオを不安にさせたのだが。

 リオが気抜けして床に目を落としていると、瑠偉の人差し指がリオの目の下の水滴を拭った。
「バカだな、何、泣いてんだよ。お袋に嫉妬しっとしちゃったの?マジ、ウケる。」
 笑っている瑠偉の顔を、リオは上目遣いに見ながら控えめににらんだ。
「リオのその目、好きだ。でもちょっと、この顔何とかしようぜ?」
 瑠偉はそう言いながら、道端でもらったらしきティッシュをジャケットから取り出し、リオの顔をきれいに掃除し始めた。
「浮気なんかしねえよ・・・。女に誘われてもちゃんと断ってるし。(えらいな、オレ。」
 リオの涙と鼻水を拭いながら瑠偉が柔らかく言った。リオは考えてしまった。女の誘いとはどんな誘いなのだろう。そんな話は初耳だった。

「どうしたの?今日は。」
 瑠偉がそういい終わらないうちに、リオは瑠偉に抱き付いていた。開いた胸に除く素肌に顔を押し付け、疲れきった声を出す。
「瑠偉に、ギュウってしたかったの・・・・・。」
 そう言いながらしがみ付いてくるリオを、買い物袋を抱えた手で瑠偉も抱き返した。
「待っただろ。早く部屋に入ろう。」
 瑠偉の口調はあたたかだった。リオの頭を撫でてから制服のブレザーの肩を抱き、エレベーターにうながした。
  
「あ、今日は青い。」
 リオが明るい声を出した。いつもグレーを好む瑠偉の目は、今日に限っては南国の海面のような色をしていた。しかもそれは、こぼれんばかりの異様な大きさだ。
「どう?これ。超デカ目だろ。今、手に入るカラコンの中でもダントツにデカ目なんだって。」
 瑠偉は自分の目を指差しながらリオに顔を接近させた。
「うん。とってもかわいい。お人形さんみたい。キレイにメイクでもしたら、もろ女の子になれるね。」
 実際、瑠偉の顔はそうだった。Bloody Dollsのライブでは黒いアイラインを太く眼の淵を囲むので、美しいというよりはおどろおどろしい、というイメージだが、実際に瑠偉が普通にメイクをすれば簡単に女に変身してしまうだろう。

「このカラコン、咲がくれた。この前のお礼だって。」
「え?咲が?咲、あれからどうなったの?」
 リオの中間試験が始まる前日、瑠偉はリオと晃と共に咲を連れて、倉田の元に身の上相談に行ったのだった。
 瑠偉、リオ、晃、そして優弥が見守る中で、咲は自分の抱えている苦しみ、そして自分のしている過ちの全てを倉田に打ち明けた。咲としても、相手が大好きな晃の兄ということもあって、何のわだかまりも無く全てをさらけ出すことが出来た。倉田はそれを真摯に受け止めた。そして、家に帰りたくないという咲を、倉田の彼女である由紀奈のところでとりあえず預かるというところまで話は進んだ。

「アイツ、薬やってたことと友達の売春の斡旋あっせんしてたこと、警察に自首するって親に言ったらしいよ。もちろん、親父の会社にも言いふらすって脅したんだって。これ、倉田の提案だって。」
「へえ・・・・・。」
 リオは思う。やはり、倉田は脅し作戦が好きなのか・・・。
「そしたら案の定、それだけはカンベンしてくれって親が泣き付いてきたんだと。そのかわり、家出てワンルームマンションで一人暮らしさせてやるって。たっぷりのお小遣いと車つきでね。」
「・・・・・すごいじゃんっ。」
「そう。全部倉田の書いた台本通りにやったんだって。うまくいったみたいだな。」
 思わずリオは万歳をしたくなった。これで晴れて咲は自由の身になれる。自分を苦しめる者のいない自分だけの城で、伸び伸びと安穏な生活ができる。もう咲は、寝る場所を求めて夜の街をさ迷う必要もないのだ。
「でも車付きって?免許は?。」
「持ってたよ。免許証。車校は誕生日前から通えるからな。」
 まだ高校三年になったばかりの五月だった。咲の行動は早い。

「知ってる?アイツの親父、明正めいしょう製薬の偉い人なんだって。」
 明正製薬。小さい頃からよくテレビのCMなどで耳にした大手製薬会社の名前だった。リオが常備している鎮痛剤も確か明正製薬の製品だ。
「そうなの?」
「そう。そういう親父だから、自分の子供がそんな犯罪起こしたってことになったら出世にもひびくし、特に虐待のことなんかばらされでもしたら週刊誌も飛び付くだろうってことで。」
「そっかぁ・・・・・。」
「あ、お前にも咲から何か預かってきたぞ。」
 瑠偉はむやみに可愛らしいデザインの紙袋をリオの眼前でぶらぶらと揺らして見せた。
「プレゼントだって。」
「えっ、リオに・・・・・?」
 瑠偉の部屋に入り、リビングのソファーで早速袋の中身を確認してみると、とてつもなく少女趣味のワンピースが一枚、ひらりと登場した。それは、よくあるテーブルクロスのような大柄のタータンチェックで、基本色は控えめなピンク色だった。デザインは、Aラインのミニ丈で、肩口はギャザーが寄った丸いちょうちん型、そして極めつけに、胸全体に特大のリボンが張り付いている。

「な、なんじゃぁ、こりゃあ・・・・・。」
 驚愕のあまりリオは呻き、それを両手で目の前に垂らして背筋を寒くした。こんな服をもし自分が着るとしたら、それはロックを知らない小学生のとき以来だ。何かの冗談だろうか。
「リズリサかぁ。やっぱ、かわいいな。」
 瑠偉がリオの横に身を乗り出して、楽しそうに言った。
「・・・・・そういう名前の服なの?」
「リズリサって・・・ブランド名だよ、姫ロマ系の。服の名前を言うならチュニックワンピだろ?そんなことも知らんのか。」
「う・・・・・。」 

 なぜか女のリオよりもガールズファッションに詳しい瑠偉であった。服飾の専門学校に行くくらいだから当然と言えば当然なのだが、それにしてもヒメロマとは一体何語だろう・・・。ワンピースを胸に当てながらリオは頭を悩ませた。普段、女子に人気のブランドなど目も向け無いリオには未知の世界だった。
 紙袋の底を見ると、ラメを散りばめたピンク色の封筒が目に入った。抜き取って、封をしたハート型に光るシールを剥がしてみる。

『 リオへ
 この前はリオの服にゲロ吐いちゃってごめんね。 かわりにこのワンピ、着てみて。きっとリオに似合うと思うよ。
 晃のお兄さんていい人だね。晃とは全然タイプちがうけど。彼女さんもいい人だった。料理うまいんだよ。カルボナーラなんてちょーヤバかった。あと、あたし悪い事全部やめたから。足洗ったから。これからは生まれ変わるよ。今度一人暮らしすることになったから遊びにきてね。一緒に酒でも飲もうよ。
 それから、リオのメアドおしえろ。あたし字書くの苦手だし、これじゃマジダルいんですけど〜。
 PS.リオの彼氏って、イケてんじゃん。晃には負けるけどね。ちょっとブラドのVo.に似てるね。 』

 咲の字は丸みを帯びていて、日本語をアラビア文字に変形させたようなものだった。
「アイツ、オレのこと、見たことあっても誰だかは分かってなかったんだな。」
「うん。そうみたいだね。」
 咲は瑠偉がBloody Dollsのヴォーカルだとは気付いていないらしい。やはりメイクをしていないと違うのか。
 二人は顔を寄せ合い、便箋を覗き込みながら笑い合った。そして目を合わせてから自然と軽く唇を重ねた。そのまま抱き合いながらリビングのソファーの上に転がった。

「・・・・・これ、どうしたの・・・・・。」
 瑠偉の人差し指が、リオのブラウスから除いた白と黒のゼブラ柄の絆創膏ばんそうこうをくすぐった。首筋に貼ってあったものだ。
「ちょっと・・・・・、毛虫が降って来てね。」
 予め用意していたセリフだった。今の時期、桜の木の下にいれば毛虫が降って来たとしてもおかしくはない。我ながら妥当な言い訳だとリオは自己満足に浸る。その反面、少しの罪悪感と、瑠偉に見透かされるのではないかという不安もあった。気取られまいと、リオは瑠偉を見ずに顔だけ横に向けていた。

「こんなとこにバンドエイドなんか貼ってると、いかにもキスマークですって普通男は思うぞ。」
 ゼブラ柄を見据えながら、瑠偉は面白くなさそうな顔で言った。
「キスはキスでも毛虫さんのです・・・・・。」
 リオは負けじと他愛も無いことのように言う。
「ちょっと見せて。」
 とたんにリオが怖気づいた。もし見られたら、うそがバレる可能性大だ。バンドエイドの下には、優弥の歯が付けた模様がまだ淡い痕を残している。リオは慌てた。

「だめなのっ・・・・・膿が出ちゃって貼り付いてるから、がすと痛いんだもん。」
「へえ・・・膿なんか出るの?腫れるだけかと思った。」
「・・・・・・・・・・。」
 もう、限界だった。何度もうそを口にできるほど図太い神経はリオには無かった。かといって、素直に事実を打ち明ける勇気も無い。
 勢いリオは起き上がると、胸の上に重なった瑠偉の体を手で押し退けた。

「ちょっとシャワー借りるね。」
 立ち上がってすたすたとバスルームに向かう。
「何、リオ。もう、すっかり、その気?」
 背後の声を聞き、リオが即座に振り返った。
「・・・違うっ。ちょっと今日、汗かいたから。それに、これも着てみるよ。」
 言いながら、咲にもらったワンピースを旗のように高々となびかせてみた。この際、注意をこれに向けさせてこの場を逃げ切るしかない。

 約五分後、ざっとシャワーを浴び終えたリオは再びリビングに戻ってきた。ピンクのワンピースを着て渋い顔をしながら・・・。
「・・・・・かわいいっ。」
 リオとは正反対に瑠偉のほうは異様に好感触な反応だ。立ち上がってリオの周りをぐるぐると移動しながら見学する。

「すっげーかわいいっ。・・・・・でも、この激しい頭も何とかしようぜ・・・・・?」
 ワイルドにぼさぼさにしたリオのロックな頭は、姫ロマ系のお洋服には到底似合わない。それは瑠偉の手によって数分後にはぺちゃんこに潰され、やわらかく編んだ三つ編みが両肩に垂らされた。さっぱりと、ひたいも覗かせる。
「何、これーっ、ダサダサ〜、ありえな〜い。」
 変わり果てた自分の姿にリオが抗議の声を出す。
「何で?いいじゃんか、たまには。超かわいいよ。三つ編み、萌えっ。」
 瑠偉のあまりの喜びように、リオは文句を言う口を結んだ。結局、好きな人が望む自分になれるのならそれでいいのだ。そういうところは、一応リオも平均的な恋する乙女であった。

「・・・瑠偉って、本当はこういう恰好の子が好きなんだ・・・。」
 リオが拗ねたように言った。
「別に・・・?似合ってるって言いたかっただけ。」
「ホントに・・・・・?」
「ホントに。ロックなリオもピンクのリオも、どっちも好きだよ。」
「・・・・・・・・・・。」

 そのあと、瑠偉はリオの携帯を構え、ピンクに身を包んだリオの全身を写真に撮ってメールで送った。送信先は言うまでも無く、ワンピースの送り主の咲である。
 瑠偉はその他にも多様なポーズをリオにとらせ、今度は自分の携帯のカメラで写し始めた。リオが何も言わないのをいいことに、瑠偉は調子に乗ってきわどいポーズを要求する。
「たまんねえな、このアングル。いいオカズになりそう。」
 瑠偉はまるでカメラマンのように寝転びながらリオにレンズを向け、鼻息を荒くした。瑠偉の行動は段々とエスカレートしていく。リオが身の危険を感じ始めたそのとき、瑠偉はぺらっとワンピースの裾を捲り上げて一言、不満気に漏らした。
「また、こういうの、穿いてる・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」

 瑠偉の言いたいことは分かっていた。前々から下着を「Tバックにして」と言われていたのだ。それを、あえてリオはいつも聞き流していた。あんなもの、穿いたこともないし、穿いたらその感触はさぞ気持ち悪かろう、と思っている。率直に言えばあんなもの、リオにとっては邪道でしかない。

「リオのためにさぁ、これ作ってきたんだけど・・・・・。」
 瑠偉はジーパンのポケットから何かを取り出して、リオの目の前にぶら下げて見せた。
「オレんちの合鍵。」
 そう言って瑠偉はニッと笑った。とたんにリオが目を輝かせ、その鍵に手を伸ばすと、
「おっと。」
 触れる直前に瑠偉は素早く後ろ手に鍵を隠した。
「えっ・・・・・。」
 リオが拍子抜けする。獲物を目の前で奪われて、蛇の生殺しもいいところだった。少し傷付く。瑠偉の意図を探るように目で訴えた。

「これ、欲しい・・・・・?」
 そう言う瑠偉の目は何だか悪意に満ちていた。それでもリオは、合鍵を手に入れたい一心で素直に頷いた。
「・・・じゃあ、リオがTバック穿いてくれたら、あげる。」
「・・・・・はぁ?!」
「交換条件、ね。」
「・・・・・。」
「ってことで・・・・・。」
 今日はこれでおしまいと言わんばかりに、瑠偉は平然と尻ポケットに合鍵をしまいこんだ。それをリオは複雑な思いで目で追った。
 Tバック・・・・・。次の課題はハードルが高かった。リオの過酷な修行は果てしなく続く。
 


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