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更新がだいぶ遅れてしまいました。いつも読んでくれている皆様、すいません。最近頭がこんがららっています。登場人物、多すぎですよね。
80・・・試験明け
「リオ、リオ、凄いよ、凄いよっ。掲示板、早く見て、見てっ!」
 試験開け、リオが登校し下駄箱の前で靴を履き替えていると、カレンと愛里がリオ目がけて興奮気味に走り寄ってきた。
「何が?」
「リオ、中間の結果の上位に載ってたよっ。」
「えっ・・・・・・・・・・?」
 急いで人を避けながら廊下を駆け抜け、職員室の外の掲示板の前に辿り着いた。背伸びをして十人ほどの人だかりの頭上を見上げると、「一学期中間考査結果発表」と題したA4用紙に、増田リオ(3−A)と印字されているのを見付けた。なんと二十五位だ。リオの通う日の出台南高校は通常、試験の高得点者の上位三十位までを掲示することになっている。

「おぉぉぉぉ・・・・・・・・・・。」
 感動のあまり、リオの口から思わずそんな声が出た。その異様な音色に周囲の生徒が皆リオを振り返った。この成績は、リオにとって自己新記録だった。
「やればできるじゃないかぁっ、増田リオっ。写メ、写メ、ママに送らないと・・・・・。あと、怜にも・・・・・。」
 一人でしゃべり、一人で自分を褒めている。昂りながら携帯を操作していると、横でカレンがさりげなく言った。
「優弥も載ってる・・・・・。」
 見てみると、二十九位のところに三上優弥(3−C)とあった。思わず呟く。
「すごい・・・・・。頭やられてなかったんだ・・・・・。」
「・・・・・え?」
 意味を問うように愛里がリオを見た。
「・・・・・何でも無い・・・・・。」

 一時間目の授業は英語のライティングだった。
「クラスの最高点は八十五点だ。取ったのは、増田。学年トップだぞ。」
 倉田が答案用紙を返しながら笑顔で言うと、とたんに「え〜っ」と大勢の声が上がり、教室内がざわめいた。皆一様に、席に着いたリオを意外そうに注目している。
「学年トップ・・・・・、学年トップ・・・・・。」
 本日、二度目の感動だった。慣れないことにリオが目を血走らせ、八十五点の解答用紙を穴が空くほど見つめていると、横を通りかかった白井晴太がそれを一度覗き込んでから言った。
「君に負けるとはね・・・・・。世も末だよ。」
 リオが見上げると、苦笑気味に自分の答案をぶら下げて見せる白井だった。八十点だった。たったの五点差だ。言葉の感じでは、白井はリオをかなりの落ちこぼれと(あなどっていたようだ。リオにしてみれば、ただ毎日倉田に強制的に勉強させられた結果なだけだが、こうなってしまうとそれも極秘情報だった。
 白井の言う、「世も末」はいまいち解せなかったが、とにかく勝ちは勝ちとして素直に受けとめよう。リオは立てた親指をこめかみに当て、白井に得意満面な笑みを向けた。

 放課後、リオは倉田に呼ばれて進路指導室にいた。倉田は悠々と椅子に座り、横にある机に頬杖を着きながら機嫌良く言った。
「増田、今回のテストはよく頑張ったな。ちなみに、三上も英語は良かったぞ。ごほうびをあげなくちゃな。」
「ごほうび?」
 倉田は目の前に立つリオの腹目がけて、ごちゃごちゃと物が入った口を結んだビニール袋を投げて寄こした。とっさのことに、かろうじてリオは両手でそれを受け止めた。
 良く目を凝らして見ると、一瞬ガラクタに見えたそれは以前倉田に没収されたアクセサリー一式だった。カレンや早坂たちの分も全部入っている。リオの顔が素直にほころんだ。
「三上の分もそこに入ってるから、ついでに渡しておいてくれよ。これと一緒に。」
 倉田は一冊の大学ノートをリオに手渡した。不思議そうにリオが見る。
「俺とアイツの交換日記だ。」
「はあ・・・。」
「それから。」
「はい。」
「・・・・・お前、最初俺の奴隷になるって言ったとき、妙な覚悟決めてただろ。」
「・・・・・え・・・・・。」
「俺にヤバいことされると思ってただろ。」
 そこで倉田が悪意に歪んだ笑いを見せた。
 リオは俯いて、決まりが悪そうにした。覚悟は決めていた、といっても正直なところ、やはりあれは相当無謀な発言であったと後になって悔やんだ。あの時は、頭に血が昇っていたのだ。今となっては倉田の穏便な計らいに感謝するばかりだ。

「・・・・・・・・・・だって先生、なんか、いかにもって感じで怖かったし・・・・・。」
「あれは脅しだ。」
「脅し?」
「そう。お前がどこまで本気か知りたかった。」
「・・・・・・・・・・。」
「ついでに言えば、薬が見つかったら『恐らく退学』と言ったが、実際はせいぜい停学で済んだだろうな。それから・・・警察に行ったとしても少年院送致まで行かないで保護観察止まりで何とかなっただろう。多分。」
「いっ・・・・・・・・・・。」
「やる気にさせるには、ある程度の脅しは必要だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「それに、お前は今、みなもとと付き合ってるんだろ?」
「はい。」
「アイツが好きなんだろ?」
「・・・・・うん。」
 返事をしながら、下を向いて襟足を熱くした。先日、瑠偉と一緒に咲を連れて倉田のところに相談に行ったのだ。そのときに、瑠偉は倉田に、「先生、これオレの彼女」と言ってリオを紹介したのだった。そのときの、瑠偉の照れたような自慢げな笑顔が忘れられない。

「・・・・・だったら、俺の奴隷になるなんて言っちゃだめだろ。三上をかばうのもいいが、お人好しもいい加減にしろよ。そこまでお前が踏み込んだら、今度は源がかわいそうだろ。それともこんなこと、お前たちにとっては大したことじゃないのか?お前は源に、詳細を告白できるのか?」
「えっ、できないよ、それは・・・・・。」
 倉田が言い終わる前からリオは首を振って否定していた。
「・・・・・だったら、こんりんざい、軽はずみな行動は慎めよ。相手が俺だったから良かったが、これが花岡先生だったら分かんないぞ。本当に喰われちまうかもしれねえぞ。」
「・・・・・・・・・・。」
 それを聞いて、リオはつい条件反射でおぞましい想像をしてしまうのだった。それだけは勘弁してもらいたい。生物教師の花岡にはリオが優弥と付き合っているときに目の敵にされていた。それとは関係ないが、リオは花岡とすれ違うとき、必ず息を止める。
 恐らく、「奴隷になる」などと言えたのは相手が倉田だったからだ。自覚が無かったとはいえ、そのことは意識の片隅に確実にあったはずだ。

「・・・・・・って先生、そんなこと言っていいの・・・・・?」
「ん?」
「花岡先生のことを、そんなヤバイやつみたいに・・・。」
「だって本当にヤバイぞ、あの人。いつも何か匂うし、職員室で座ってても一人でぶつぶつ何か言ってるし、時々カニみたいに口から泡吹いてるし・・・・・。」
 なぜかこのときばかり早口になる倉田だった。
「うえっ。そーなの?」
「そうだ・・・・・とにかく、これからは源に変な秘密は持つなよ。今回のことは黙っててやるから。」
「うん・・・・・。」 
「あいつは結構、傷付き易いところがあるんだ。小さな子供みたいに・・・・・。」
 そこで倉田は何かを思うように窓の外に視線を移し、日を浴びてまばゆく光る若葉の群れを見つめた。何かを追憶しているのか。
「・・・・・そういうわけで、アイツの手前、俺とお前の間にまた秘密ができたってことで、これからもお前は永遠、俺の奴隷だなっ。」
 倉田の笑顔に、リオも笑顔で頷いた。倉田の奴隷なら、そう悪くはない。
 
 進路指導室を出てから、リオは倉田に渡された日記帳を見下ろした。
 勿論、鍵が掛かっているわけではない。中が見たい。見ても良いだろうか・・・・・。
「えーいっ、見ちゃえっ。」
 リオは一秒悩んだ末、誰もいない廊下の隅で壁に寄りかかり、そっとノートを開いてみた。それが倉田の意図であるとは、鈍感なリオに分かるわけがない。

『五月七日
 昨日は、瑠偉るいさんとさきあきらが一緒に公民館に来たんでマジ驚いた。しかも晃は先生の弟で瑠偉さんは元生徒?ちなみに増田リオの元彼の俺としては、瑠偉さんを見るとぶっちゃけムナクソ悪いです。でも俺はそんなことを口にする権利も無い。俺はただの血の気の多い動物でヘタレ野朗だから。でも、アイツと別れてそろそろ三ヶ月。だいぶ落ち着いてきた。人間って三ヶ月経つと、細胞とか血液とかだいぶ入れ替わるっていうけど、そういうのもあるのかな。そんで、薬のほうは相変わらずやってないです。彼女にもやめさせたし、咲のやつもやめられるといいが。あいつはちょっと年期が入ってるからきついかも。でもって、俺の彼女が咲とつるんでウリみたいなことやってたってのは、すっげーショックでした。結局、ギリでセーフだったらしいけど。でも、アイツは頭いいくせに違う方面でちょっとバカなところがあるから、今回は考えさせられました。それもこれも、何も気付かなかった俺が悪かったんだなって反省もした。』

「そっかぁ・・・・・・・・・。」
 一人、感慨深げに呟くリオだった。
 優弥は相変わらず薬を断っている、彼女との問題も解決した、リオとの関係も落ち着いてきた、とある。全て順調だ。でも何だか少し寂しい気がするのは、気のせいだろうか。
 リオは、全ての邪念を振り払うように、頬が震えるほど顔を左右に振った。
 何を思っているのか・・・。自分には今、瑠偉がいる。それでいいのだ・・・。
 そして何となく次のページを捲ってみると、日記にはまだ続きがあった。

『昨日、うちの親父をバタフライナイフでメッタ刺しにして殺す夢を見ました。そんで俺は、真っ赤な血しぶき浴びて全身赤い点々だらけになった。これはよく見る夢で、ストレスが溜まると見るんです。そんで、それ見た翌朝は、起きると妙にすっきりしてる。気分爽快、頭すっきり。
 最近思うのは、いっそ親父が死んでくれたら俺のうつも治るのかなって。俺は親父を殺したいのかなって。自分でもよく分かりません。親父が死んだとき、全てが解明されるのかもしれない。』

 読み終えて、リオは苦いものでも飲み込んだように眉根に皺を寄せた。
「何だ、これ・・・・・。病んでるよ、優弥・・・・・。」
 そして、その下にはあまり達筆ともいえない鋭角な字で倉田のコメントが記されていた。
『とりあえず、枕元に凶器は置いとくなよ。』
「・・・・・ホントだよ。」
 その内容の重さに耐え切れず、即座にノートを閉じた。
「これじゃ、だめだよ、優弥。」
 見てはいけないものを見てしまった・・・・・。どうにも処理できない思いを抱えたまま、リオは優弥のクラスに向かった。
 もうほとんどの生徒が下校しており、廊下でも二人の生徒と擦れ違っただけだ。無人となった教室に踏み込んで優弥の机を見つけると、その中にこっそり日記帳をしまい込もうとした。こんなもの、本人に直には渡せない。ほんの少しでも自分が読んだという可能性を優弥に疑われたくはなかった。実際、読んでしまったのだが。

「何、やってんだよ。」
 突然何の予兆も無く声がして、飛び上がるようにして声のほうを振り返った。
「俺の机に何か用か?」
 いつの間にか黒い鞄を肩に掛けた優弥が教室の入り口に立っていた。両手をポケットに突っ込みながらスライドドアの側面に寄りかかり、相変わらず表情は無い。しいて言えば、機嫌は少々悪そうに見える。
「あ、あの・・・・・、これっ。」
 仕方無く、しまおうとしたノートを再び引き抜き、歩み寄って優弥の目の前に両手で差し出した。
「倉田先生に渡しといてって言われたの。・・・・・あと、これ・・・・・。」
 リオはポケットの中からビニール袋を取り出し、中をあさった。優弥のものと思われるリストバンドを摘み上げるが他のものと絡まって上手く取り出せない。金属が擦れ合う音がむやみになるばかりだ。
「えっと・・・・・。」
 焦る・・・・・。すると痺れを切らしたのか、優弥が自分の手をビニール袋の中に強引にもぐり込ませてきた。
 リオの指が、優弥の手のほのかな体温を感じた。触れ合った指と指が動きを止めた。ほんの数秒、二人の全ての神経がそこに集中されたようだった。
 我に返ったリオは、急いで自分の手を引っ込めようとした。その指の塊を、優弥の手が瞬時に鷲掴わしづかみにした。

非常に中途半端ですが次回に続きます。


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