8・・・カレン先生
三回コールでカレンが出た。
「もしもし、リオ?」
「うん、カレンあのね・・・。」
とりあえず、チェリッシュがBloody Dollsの対バンに誘われたこと、他にもHYENAを誘うということを伝えた。話が終わると、リオは本題に入った。
「あのね、教えてほしいんだけどね・・・・。」
「・・・何?」
「カレンは、下着ってやっぱ上下お揃いにしてるの?」
「・・・・・・・・は?」
「カレンはいつも、どこで下着買ってるの?」
そこで、急にカレンが意地悪そうに言った。
「じゃ〜、リオはいつもどこで買ってるの〜?」
「・・・・・さあ。」
そんなこと、いちいち覚えていなかった。リオにとってはどうでもよく興味も無いことだった。今までは・・・・・。
思い出したようにリオが言った。
「あ、スーパーとか?食品買いにいったついでとか・・・。」
「って、主婦かよっ。さすがリオ!」
カレンは呆れた声で吐き捨てるように言った。リオはよく食品を買いに、学校帰りに通り道にあるスーパーに寄る。リオの家は母子家庭なので、リオが食事の用意をすることも多かった。そこのスーパーは、一つのフロアに食品と雑誌、簡単な衣類も置いてある。おしゃれに疎いリオが下着類を買うには手頃な店ではあった。が、一般的にそこで下着類を買うのは主婦ぐらいのものだった。
結局、若者向けのお店で探したほうがいいよ、というカレンの親切なアドバイスから、リオはカレンお奨めの店に明日連れて行ってもらうことになった。
翌日登校するときリオは、怜から対バンに誘われた話を優弥にした。優弥は、「怜先輩のバンドか〜。」と一言呟き、「一応、みんなに聞いてみるけど、多分出る。」と答えた。
「今日ね、帰りはカレンと買い物に行くから。」
リオが、一緒に帰れない旨を伝えると、
「何、俺一緒じゃだめなの?」
優弥が、左右のポケットに両手を突っ込んだまま首を傾げて言った。
(あたりまえだ・・・。)
「女の子向けのとこばかり、いっぱい寄るから・・・。優弥、退屈するだろうから・・・。」
リオがそう言ってはぐらかすと、優弥は、「ふ〜ん」とつまらなそうに鼻をならした。
下着を選んでいるところなどを優弥に見られたら、変な妄想を抱かせてしまいそうだ。実際リオとしても、明確な決心はしていなくても、あることに対しての準備に他ならない。かといって、変に期待されても困る。
学校にほど近い通学路、リオと優弥が手を繋いで歩いていると、周囲を歩く同じ学校の生徒たちが、ひそひそと面白そうに自分たちの噂をしているのが分かった。
春から新一年生が入ったので、二年生のリオたちは気になるカップルなのかもしれない。何せ、優弥は新入生歓迎ライブでいきなり目立つことをしてしまったし、外見の派手さだけでもかなりの目を引く。優弥のヘアスタイルを維持するには、一週間置きに教師から言われる嫌味に耐えなければならない。それほどに、最近は少し長くなりすぎた。全体的に肩よりも五センチは下に伸びている。
「髪、切んないとな〜・・・。」
優弥が、自分の襟足あたりを片手でいじりながら言った。
「何センチくらい?」
「ん〜・・、一センチ?」
「・・・・・・・・・。」
リオは何と言っていいのか分からない。
(切っても誰も気づかないんじゃないか・・?)
あえて口に出しては言わなかった。彼には彼のこだわりがあるのだろう。
二人が学校に着くといつも、チャイムが鳴る前のぎりぎりの時間だった。素早くあたりを見回し誰もいないのを確認すると、リオと優弥は一瞬で弾けるようなキスを交わした。
口が離れると互いにニっと笑い合う。
「じゃあ、後でな。」
「うん。」
軽やかに手を振り、二人はそれぞれ隣同士の教室に別れて入って行った。
放課後、リオとカレンは学校から駅までの道を歩いていた。
「この際だから、はっきり言っちゃうけどさ〜。」
カレンが切り出した。何?という風にリオがカレンを見た。
「リオ、マジでちょっとおやじ入ってるよね〜・・・。」
カレンの指摘にリオは何ともなしに、
「ああ、下着のこと?大丈夫。今日から生まれ変わってスーパーでは買わないよ。」
そう言ってリオは、カレンのお奨めのランジェリーショップを二件まわり、上下セットの下着を五セット購入した。これだけあれば当分は心配無しだ。
さすがに下着だけは、ロック系というわけにはいかなかった。黒にしてしまうとキャミソール同様、制服の白いブラウスに透けてしまう。抵抗あり、だ。というわけで、選んだのは全て淡色のものばかりだった。リオにはよく分からないので、ほとんどカレンが「これかわいい〜っ」と言った商品を選んだ。カレンに言わせると、全体的に「姫系」とか言うものになるらしい。
「夏休み、優弥と旅行にでも行くの?」
さりげなさを装って、カレンがリオに尋ねた。買い物を済ませ、二人はミスタードーナッツにいた。甘いものを食べないリオだったが、最近は味覚が変わったらしかった。
「行かないよっ。ママにばれたら大変だし・・・。」
オールドファションをかじりながら、思わずリオは大きな声を出してしまった。普段、地声の大きいリオはあまり力まないようにしていたのだが・・・。
「優弥のこと、好きになっちゃったみたいだね。」
意味深な笑みを浮かべつつカレンは言った。リオは、
「あー・・・・。」
と口元だけ笑いながら下を向いた。襟足のあたりがなぜか熱い。
「やっぱカレンも、早坂のことが好きなんでしょ?」
何と返していいか分からないときは、反撃に限る。
「え・・・・。」
カレンは、やはり目を逸らして頬を少し赤くした。そして、
「そりゃあ、付き合ってるんだし・・・。」
と補足した。派手な外見とは裏腹に、その手の話になるといつになく純情なカレンではあった。
そこでリオは思い出したように、また少し力んでカレンに向かって言った。
「あのね、また聞きたいことがあるんだけどっ。」
リオは、テーブルに肘を付いた状態で両手をグーにしている。カレンの返事はすぐに返ってきた。
「ダメ!」
「・・・・・へっ?」
「ダメ!ダメ!ダメ!・・・これを読んで、それでもまだ聞きたいことがあったら聞いて?」
と、用意していたように三冊の雑誌を鞄から出し、リオの目の前に置いた。それはファッション雑誌二冊と、もう一冊は明らかに十代の女の子をターゲットにしたと分かる名前の雑誌だった。
訳も分からずリオがぱらぱらとそれを捲ると、そこにはリオの知りたい事が書いてありそうな妖しい雰囲気がムンムンと漂っていた。リオは慌ててすぐにそれを閉じた。人に見られると、相当恥ずかしい。
「サンキュー、カレンっ。借りるね!」
(何てカレンは気が利くんだろうっ。)
リオは単純に感動していたが、カレンにとってリオの隠れた要求を読みとるのは、いとも容易い事だった。そんなことは、リオには知る由も無い。