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79・・・咲の告白、その2
「・・・・・あ・・・・・?」
 すぐに瑠偉が怪訝けげんな顔で問い返した。咲が言葉を足す。
「うちのパパだよ・・・・・。中二のときからパパとヤってる・・・・・。」

 凍りついた。瑠偉も晃もリオも、誰も何も言わなかった。言えなかった。咲の言葉の意味を解釈することで精一杯だった。
 しばらくの沈黙のあと、晃がしわがれた声で聞いた。
「・・・・・お前の親父って・・・・・母親の再婚相手か、なんか・・・・・?」
 せめてそうだと言ってほしい、という願いがこもっていた。恐らく瑠偉もリオも同じ思いだろう。

「違うよ・・・・・。あたしも中学のとき、自分で戸籍とか調べた。そしたら、正真正銘の親子になってた。血液型とかも普通に辻褄つじつま合うし。」
 咲は生気の無い顔で続ける。
「・・・・・パパは、あたしがあんまり嫌がるもんだから、そのうち薬を使うようになった。いつの間にか飲み物に盛られてて、あたしは知らない間にいい気分になってた。ぶっ飛んでるあたしを、パパは思う存分好きなだけ犯したよ。毎日、毎日・・・・・・・・・・・・・・・。」

 咲の生い茂った付けまつ毛の間から黒い涙がこぼれ落ちた。それを見て、ズキンと、リオの胸に切るような痛みが走った。リオには咲の涙が、鋭くえぐられた傷口から流れ出る黒ずんだ血のように見えた。
 瑠偉も晃も複雑な面持ちで、咲を凝視するしかできなかった。

「・・・ママに言ったら、最初はパパと離婚してあたしと一緒に家を出るって言った。でも、結局しなかった。離婚したらママは働かなきゃならないし、今更そんなこと無理だって。お金に困るだけだって。パパは別に浮気したとかじゃないから、普通に離婚の裁判したって慰謝料も取れないって。もし、パパがあたしにしたことが周りに知れたら、あたしの将来のためにも良くないって。それに、パパはでかい会社の重役だから、変なこと世間にばらして体裁が悪くなるくらいなら、何も見なかったことにしたほうが特だって・・・・・ママは言ったよ。パパがちゃんと働いて離婚さえしなければ、ママは遊んで暮らせるんだもんね。」

 涙を流しながら、咲は痛々しい笑いを浮かべた。そんな咲を見て、リオも同じようにいつの間にか頬を涙で濡らしていた。
 きっと咲は、母親だけが頼みの綱だったのだろう。事実を伝えるのにも勇気がいったに違いない。その母親も、救いの手を差し伸べるどころか容赦なく咲を突き放した。咲はたった一人で薬漬けになりながら、父の与える拷問と戦ってきたのだ。

「・・・・・それから、ママは家の中でもあたしを避けるようになった。まるで汚いものでも見るようにあたしを見るようになった。・・・それまではあたしのことを、世界一かわいいお姫様とか言ってたくせに・・・・・・・・・・。結局あたしはママにとって、ただのペットみたいなもんだったんだよ。そんで今は、パパのおもちゃ。けがれたおもちゃ。・・・・・だからあたしは、仲間が欲しかったんだ・・・・。薬やって、オヤジとヤッて、あたしと同じように汚れてくれる仲間が・・・・・。」

 肩を落として口だけで笑いながら、咲は力なく泣き崩れた。その姿は、全てを諦めたような、全てを捨て去ったような、哀れな抜け殻にしか見えなかった。

「でもあたし・・・・・、晃とヤッたとき、初めてエッチで幸せ感じたんだぁ。心がじんってあったかくなったんだぁ。晃とヤるたんびに、何だかあたしの中の汚れが少づつキレイになってく気がするんだ・・・・・。」

 そんな、馬鹿な・・・・・。それは、絶対気のせいでしかないと、晃は思う。自分は咲に対してそんな純粋な想いでセックスをしたことなどない。勿論、そこに愛情などというものはかけらも無い。そんなことは咲だって、分かりきっているはずだ。それでもキレイになると言う咲の言葉が、晃の胸の奥底に隠れている良心というものを攻撃しないわけがなかった。

 リオは、涙で崩れた顔のまま四足よつあしで這って行き、がむしゃらに咲を抱きしめた。抱いてやりたかった。包んでやりたかった。それしか思いつかなかった。声を殺して、咲と一緒に泣いた。
 咲のしていることを肯定することはできない。けれど、全てを咎めることもできない。咲はあくまで最初はただの被害者でしかなかった。咲は我が身が壊れてしまわないように、暗中模索の末、仕方なく心のとりでを築き上げただけだ。それは咲自身が真から望んだことではない。

「ただ、親がいればいいってもんでもねえんだな・・・・・・・・・・。」

 それとなく漏れた晃の独り言に、思わず瑠偉も、感慨深げに遠くを見つめた。
 自分を守るはずの愛すべきものが、突然悪魔に変身してしまうこともある。人生、いつどう転ぶかなんて誰にも分からない。

 
 そのあと晃は、初めて咲を、まるで自分の恋人であるかのように一晩かけて抱いた。
 咲の名を何度も呼びながら、一つ一つの動作を思いの限り優しく、温かく、ときには激しく、愛おしむように抱いてやった。

「咲・・・・・・・・・・、お前の汚れ、俺がキレイに落としてやるよ・・・・・・・・・・。」

 晃にとってそれは、あくまで都合の良い偽装の愛情表現でしかない。だが、晃が咲にしてやれることといったら、これぐらいのことしかない。一時の幻想でも何でも、咲が自分を求めるというのなら、それに応えてやるだけだ。
「・・・・・・・・・・晃ぁ・・・・・・・・・・。」
 晃を全身で感じながら、咲は火照った身を震わせ、涙を流しながら何度も天国に上りつめた。咲にとって晃と肌を重ね合う時間は、現実の悪夢から逃避できる、この上ない至福のひと時だった。


「ここで眠れるか?」
 座席を倒した運転席で、瑠偉が横にいるリオに尋ねた。
「うん。平気だよ。」
 リオも助手席の椅子をリクライニングして寄りかかり、体ごと瑠偉のほうを向いている。
 リオと瑠偉はマンションの地下の駐車場で車の中にいた。その夜瑠偉は、咲と晃に自分の部屋を一晩貸してやることにして、自分たちは車の中で寝ることにした。

「明日起きたら、あいつを金八のところに連れて行こう。」
 頭の後ろに両腕を組みながら瑠偉が言った。
「金八・・・・・?」
「そう。金八先生。倉田先生。晃の兄貴。あいつだったら、何とかいいようにしてくれるかもしれない。オレも高校んとき、散々世話になった。」
「・・・・担任だったんでしょ?今、リオの担任なんだよ?明日も公民館で一緒に勉強する予定なの。」
「え?・・・・・うそ、マジ?・・・・・・・・・・笑えるな。世間は狭い。・・・・・じゃあ、そこに直接連れて行くか・・・・・。」
「・・・・・えっ。」
「・・・・・えって・・・・・?何?」

 毎日担任に勉強を見てもらっていることは話してはいたが、そこに優弥もいるということは、瑠偉には今まで黙っていた。
 素直にその事実を伝えると、瑠偉は「ふうん」と言ったきりそっぽを向いた。
「・・・じゃあ、オレの知らない間に、毎日あいつと仲良く並んでお勉強してたってわけだ。」
「・・・・・で、でも、ただ隣に座ってるだけだし・・・・・。倉田先生もいるわけだし・・・・・。」
「・・・・・何、言い訳してんだよ。」
「言い訳じゃないよ。瑠偉が何か、機嫌悪そうだから・・・・・。」
「別に機嫌悪くなんかねえよっ。」
「・・・・・思いっきり悪いじゃんっ。」
 リオに向けた瑠偉の表情には、明らかに嫉妬の色が浮き出ていた。
 そのあとすぐ、リオの唇は瑠偉の唇で豪快に塞がれた。乱暴に舌を吸い上げながら、瑠偉は助手席のリオの体の上に圧し掛かってきた。

「何か、面白くねーっ・・・・・・・・・・今日はやめとこうと思ったけど、やっぱヤることにした。・・・・・お仕置きだっ・・・・・。」
「えっ・・・・・?あ・・・・・?」
 がたんと音を立てて、瑠偉はリオの座るシートの背もたれを限界まで倒した。
「瑠偉・・・・・・・・・・ねえっ・・・・・。」
 それからすぐに、リオがとてもじっとしていられなくなるような瑠偉のお仕置きが始まった。リオは自分の穿いていた短いタイツで両手首を一つに縛られ、せまいシートの上で釣れたばかりの魚のように身を転がすはめになった。
「お願い・・・・・瑠偉っ・・・・・これ、解いて・・・・・・・・・・。」
「だめ。」
「・・・・・瑠偉のこと・・・・・抱きしめたいよぉ・・・・・。」
「だめだ。今日のリオは奴隷どれい。」
「瑠偉ぃ・・・・・・・・・・お願い・・・・・・・・・・。」
「そう言うわりには、思いっきり感じてんじゃん。・・・・・・・・・・おっ、すっげっ・・・・・・・・・・。」
「だめ、瑠偉、だめ・・・・・。」

 誰もいない深夜の地下の駐車場で、瑠偉の赤い車だけが不自然に揺れていた。車内から漏れ出る、リオのくぐもったすすり泣く声と一緒に。



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