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少し性的表現がありますので苦手な方はご注意ください。
65・・・病み上がり
「じゃあ、リオ、ママお仕事に行ってくるから、ちゃんと寝てなさいよ。ギター弾いてちゃだめよ。」
「ふあーい・・・・・。」
 リオの顔を見てから理沙が玄関に向かおうとしたそのとき、リビングでインターフォンの電子音が軽快に響いた。
 こんな朝早くから誰だろう。理沙が警戒しながらそこに立つ相手の姿をモノクロの画面で確認すると、真っ直ぐな髪で顔が隠くれたジャケット姿の細身の男が映っていた。理沙が眉をひそめる。
「どちら様?」
みなもとといいます。リオ・・・さん、いますよね。』
 それは、妙に冷ややかで、それでいて人懐っこさを感じさせる声だった。
「・・・・・リオは今、まだ熱があって人に会うどころじゃないんだけど・・・・・。」
 理沙が不信感丸出しの強張った声でそう言うと、
『あ、オレ、見舞いに来たんです。ほらっ。』
 そう言いながら、瑠偉はカメラに向かってお土産らしきケーキの箱をかざして見せた。もう片方の手にはビニールの買い物袋を提げている。
「・・・・・ちょっと、待っててね・・・・・。」
 まだ、朝の八時過ぎだった。理沙が引きつった顔でこたえてから瑠偉がエレベーターで九階に着いたのは、それから四分後のことだった。ベッドで寝ているリオに向かって理沙が瑠偉の来訪を伝えると、リオは寝ぼけまなこのまま口だけでへらーっと笑い、足をばたつかせて喜びを表現した。それを見た理沙は、呆れながらも仕方なくオートロックを解除したのだった。

「おはようございます。お邪魔します。」
 瑠偉は顔半分を覆っていた長い前髪をゆっくりとかき上げながら、無遠慮に動く目で理沙を見下ろした。
「リオのお母さんですよね?」
「・・・・・ええ・・・・・。」
「リオに似てますね。思ったとおり、綺麗だな。」
「・・・・・・・・・・。」
 照れも無く言い放つ瑠偉に唖然としながらも理沙は作り笑いで応えた。瑠偉の調子の良さもさることながら、目の前にあるその類まれな美貌に圧倒され、理沙の口はうっかり閉じることを忘れさせられた。
 そんな自分を悟られないように、理沙は大人の威厳を保とうと威嚇するように言った。
「・・・あなた、高校生じゃないのよね?学生?リオとどういう関係?」
 瑠偉は、首を傾げるようにしながら長い髪の間から屈託の無い笑みを覗かせた。
「オレ、リオと同じバンドの仲間で、リオの男です。服飾の専門学校に行ってます。今日は休みなんで・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
 リオの男・・・・・。そのストレート過ぎる表現に、理沙の口は今度は完全に閉じてしまう。

 二ヶ月前にリオは自分の胸で大泣きしていた。その娘に新しいボーイフレンドができたのなら歓迎してあげなくてはいけない。だが、妙に妖しいオーラを発するこの遊び人風の男に簡単に気を許していいものだろうかと、理沙は頭を悩ませる。

「オレ、お母さんが仕事に行ってる間、リオの看病してますから。」
「・・・・・・・・・・。」
 だが、もう家に招きいれてしまったのだからしょうがない。 何よりもリオが喜んでいる。自分の留守中に具合の悪い娘の世話をしてくれるというなら文句の言いようも無い。
「分かったわ。・・・・・じゃあ、私は出掛けるので。・・・・・後、お願いします・・・・・。」
 理沙はそう言うと、不健康そうな美少年に軽く会釈してからそそくさと家を出た。これでいいのだろうか、と少しの不安と疑問を感じながら・・・・・。

「リオー、来たぞーっ。」
 瑠偉はリオの部屋に入ると、ベッドで横たわりながら笑顔を見せるリオの上にダイブした。その衝撃に「んがっ」と声を上げながらもリオは嬉しそうに瑠偉の首に腕を巻きつける。
「瑠偉・・・・・会いたかったー・・・・・。」
「オレもー。」
「んーっ」と言いながら二人はすぐにキスを交わす。柔らかい感触を味わいつくすように二つの唇は張り付いたまましつこく離れなかった。

「ごめんな、オレの風邪うつしちゃって・・・・・。」
 リオが高熱を出して倒れたのは先週の土曜日。丁度潜伏期間約一週間とすればつじつまが合った。三日目の今日になっても熱が下がらないところを見ると、やはり瑠偉の病が感染したのだろう。
 首筋にキスをする瑠偉にリオは戸惑うように言った。
「リオ、昨日お風呂入ってないよ・・・・・。汗いっぱいかいたけど。」
「じゃあ、オレが洗ってやろうか・・・・・。」
「えっ・・・・・。」

 そのあと、瑠偉はバスタブに湯をはり、恥らうリオをよそにさっさと服を脱がせて風呂場まで抱いて運んだ。
「熱があるから、ざっとな・・・・・。」
 瑠偉は自分も服を脱ぐと洗い場のマットの上に尻をつき、自分を跨がせる様な格好でリオを同じ向きに座らせた。
 ヌルヌルと泡にまみれて瑠偉の両手が背後からリオの全身を滑り出す。リオは人形のように瑠偉のされるままになって、だるい体でその心地よさにうっとりと目を細めた。そんなリオに柔らかいキスをしながら瑠偉が呟く。
「何か、熱のあるリオも色っぽいな・・・・・。」
 瑠偉の手は、どうしても決まった場所にばかり留まってしまう。手で掴みきれないほどの胸の膨らみをぐにゃぐにゃとマッサージされ、リオは無意識に身をくねらせた。
「瑠偉・・・・・、何かそこばっか洗ってる・・・・・。」
「ああ・・・・・うん・・・・・。」
 瑠偉の手が、今度は泡まみれの足の間に伸びた。シャワーを使って泡を洗い流す。
「リオ・・・・・、ここ、いくら洗ってもぬめりが取れないよ・・・・・。」
 瑠偉はそこをシャワーで湯をかけながらしきりと指で擦っていた。リオの切ない息遣いがさっきから風呂場に響いている。
「だってぇ・・・・・、ムリだよ。瑠偉がすると・・・・・ずっと・・・・・このままだよ・・・・・。」
 リオは瑠偉の首に腕を絡めながら震える声を上げた。
「リオ・・・・・入れちゃ、ダメ・・・・・?」
 瑠偉が遠慮がちに、擦れ声でそう言った。(たかぶっているのがその声で分かる。
 リオは腰の辺りに、とてつもなく硬くなったそれをさっきからずっと感じていた。
 振り向きながら、リオはすぐ後ろにある瑠偉の唇に自分の唇を重ねる。そして、熱を帯びた不安定な目つきで答えた。
「入れて・・・・・。」
 そう言われた直後、瑠偉は再びリオの唇に自分の舌を躍らせるように挿し入れた。
 瑠偉もリオもそんな予定では無かったのに、付き合い始めたばかりの二人が肌を重ねていれば結局こういう展開になってしまう。

 リオの両手をバスタブに付かせて腰を抱えながら、瑠偉は背後から静かに進入した。
あったかい・・・・・。」
 悩ましげな溜息と共に瑠偉がそう漏らした。ねっとりと絡みつくその感触に浸るように腰を押し付けて、瑠偉は窪んだ瞼をうっすらと閉じた。

「リオ・・・・・イイよ・・・・・・・・・・・・マジ、イイ・・・・・。」
「瑠偉ぃ・・・・・・・・・・、早く動いて・・・・・・・・・。」
 言い終えないうちに、リオの語尾は言葉にならなくなった。
 結局、そのあと風呂から上がった後も二人はベッドの上で二回交わり、夕方になってから瑠偉は帰って行った。

 夜になって帰宅した理沙がリオの状態を確認すると、朝に比べて飛躍的に体温が上がっていた。眉を困ったように八の字に曲げながら理沙が呟いた。
「やっぱり、夜になると熱ってどうしても上がっちゃうのよね・・・・・。もしかして、今日って満月?」
 果たして、それだけが理由だろうか。それ以前に、瑠偉の看病はリオの病気回復に向けて何か役に立ったかどうかは疑問だった。理沙の心配をよそに、布団から出したリオの顔はふやけたように満ち足りた笑顔を見せていた。

「あら、おいしそう。」
 理沙が鍋に入った瑠偉の作品である特製シチューを見て明るい声を上げた。
「あの子が作ったんでしょう?すごいじゃない、まだ若いのにこんなものが作れるなんて。人は見かけによらないものね。・・・ちゃんとお世話してくれたのね。」
 まんざらでもない顔で鼻歌を歌いながら、理沙は瑠偉の作ったシチューを温めなおした。

 
 月、火と学校を休んだリオは、水曜日になって何とか薬を飲みながら登校することができた。
『 風邪治った?今日学校が終わったら話があるからRISEライズで会えないかな。 』
 春斗からのメールだった。RISEライズというのは彼らがいつも使っているスタジオの名称だ。
『 まだだるいけど、大丈夫だよ。今日ブラドの練習あるんだ、七時まで。そのあとでいい? 』
 リオが返信すると、すぐに返事が帰ってきた。
『 OK。じゃあ、七時にRISEに行くね。他に晃と荒井ってやつも一緒に行くから、よろしく 』
「・・・・・・・・・・。」
 何だか状況がよく分からないが、一応リオは今日春斗たちと練習のあとに会う約束をした。

 放課後、リオがギターを抱えて下校しようとすると、校門の前に瑠偉のスポーツカーが停まっているのを発見した。周りを歩く生徒たちが、皆その車と一際目立つ瑠偉を物珍しそうに見ながら通り過ぎていく。かけている真っ黒なサングラスが手伝ってか、学校という健全な景色に今日の瑠偉は余計にそぐわない。
「瑠偉−っ。」
 リオは一緒にいたカレンと愛里に別れを告げると、一目散に赤い車に走り寄って行った。れいのごとく瑠偉は、車の外でドアにもたれながら上を向いてチェリーを吸っていた。リオに気付くと、かけていた黒いサングラスをおもむろに頭にずらした。
「迎えに来たよ。」
 瑠偉が目の前に立ったリオに虚ろな目で微笑んだ。リオが押さえきれずに満面の笑みで瑠偉を見つめると、
「キス、しようか。」
 そう言われて、リオは目を丸くした。ここは自分の通う学校の校門前で、今は下校ラッシュの真っ最中だった。
「あ、いや、それは後で・・・・・。」
 リオが周囲を見ながらそわそわとする。こうして車の前で瑠偉と対面しているだけでも、皆が見て行く。
「いいじゃん、別に・・・・・。」
 リオが言い返す暇もなく、瑠偉はすぐにリオの後頭部を押さえてぐっと唇を重ねてきた。
「うぐぅー・・・・・。」
 そんな声を出したのも最初だけで、リオはすぐに瑠偉のつくり出す世界に引き込まれてしまった。自分たちの周りでざわざわと何か話す声が聞こえたが、もうどうでもよかった。

 突然、ピーっという口笛の音が聞こえて二人が口を離すと、片手で親指を上げた松本が笑顔の美羽と手を繋ぎながら歩いていく姿が目に入った。そのとき、たまたまその背景によく知った顔がリオの目に飛び込んで来た。
 それは、優弥だった。早坂と他の男子生徒二人と共に並んで歩いている。優弥は首だけをこちらに向け、流れるような視線を送りながら二人の前を無言で通り過ぎていった。優弥の金のメッシュがまだらに入った薄茶の髪が、ライオンのたてがみのように風になびいている。

「行こうぜ。」
 優弥の後姿を複雑な表情で見ながら立ち尽くしているリオを見て、瑠偉はその手を強引に引いて車に乗せた。

 午後七時五分前、Bloody Dollsの入ったスタジオRISEのBスタジオの扉が開いた。
「どーもーっ。」
 挨拶をしながら、春斗は片づけをしているBloody Dollsのメンバーに向かって頷きながら中に入ってきた。その後ろに晃と、リオが見た事の無い高校生が一人続く。

「リオに用事?」
 一番扉に近いところに立っていた明人がベースをケースに入れながら声を掛けた。
「はい。リオちゃんをバンドに誘おうと思って。」
 春斗がそう言うと、すかさず瑠偉が大股で迫ってきた。
「おいおい、俺らを前に堂々と引き抜きか〜?」
 瑠偉の言い方は冗談めいてはいるが、壁に追い詰められた春斗はその威圧感に少々慌てふためいた。
「いえ、あのっ・・・・・違うんで・・・・・。コンテストに出るバンドを作ろうと思って・・・・・。」
「コンテスト?」
「はい。高校生限定の夏にあるコンテストで・・・。最強のメンバーで出たいと思って・・・・・。」
 言いながら、春斗は返事を促がすようにリオのほうを見た。
「あー・・・・・、でもこっちのバンドのスケジュールとか合うかな。」
 リオが戸惑うように怜のほうを見ながら言った。怜は一瞬リオと目が合ってからすぐそっぽを向き、片付け作業をしながら独り言のように言った。
「・・・大丈夫だろ。コンテストなんて、そう何度も予選があるわけでもないし。それに、落ちればそこでさっさと終わっちまうし。」
 そこで、スタジオにBloody Dolls のメンバーの微かな笑いが起こった。「ひでー」と春斗が抗議する。

 リオは晃の隣にいる初対面の高校生のほうに視線を移した。
 バンドマンであることを主張するように、彼の金髪は一般的な男子高校生のそれよりもそうとう長めだった。顔をほとんど覆っている前髪の間から光る細い目が、固定された監視カメラのようにリオの姿を鋭く映し出している。

「その人は、ドラムの人?」
 リオの質問に、金髪の少年の隣にいた晃がすぐに答えた。
「そう、会うの初めてだよな。学校がちょっと遠いから見たことないと思うんだけど、すげードラム叩くぜ?」
「ふーん。じゃ、叩いてみてよ、今。」
 リオは無表情で続ける。
「それで決めるよ。ドラムがショボかったら話になんないじゃん?」
 言い終えて、リオはそのドラマーを見ながら閉じた口だけで笑った。一瞬にして、スタジオの中が張り詰めた空気に包まれた。そこにいた全員が見慣れないドラマーのほうに不安げな視線を送った。
 少年は微動だにせず射るようにリオを見据えながら、片目だけを一瞬ピクリと動かした。
「いいよ。」
 思いの他快活な声でこたえてから、少年は器用にくるくるとスティックを回しながらドラムセットのほうに向かった。



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