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63・・・秘め事、その2
 瑠偉に腕を引かれて連れて行かれたのは、階段を昇りきった先の少し広い踊り場のような場所で、使っていないような椅子や機材が雑然と置いてあるところだった。一応、会場の外なので音はだいぶ遠くに聞こえる。とりあえず、叫ばずとも普通に会話はできた。

 瑠偉に抱き上げられて、リオは壁に寄せて置いてあった大きなベースアンプの上に座らせられた。電気は階段を照らす蛍光灯の光がかろうじて届くのみで、辺りは薄暗い。

「ひどいよ・・・・・瑠偉・・・・・。」

 リオがまだ熱の冷めない体を抱くようにして、蚊の泣くような声を出した。たった今、ライブ会場で瑠偉に散々体をもてあそばれ、立っていることさえままならない状態にされてしまった。

「イっちゃった・・・・・?」

 そう言われて、リオはじっと瑠偉を見据えてから左右に首を振った。瑠偉は薄く笑いながら、リオの膝の裏に両手を添えた。
「じゃあ、不完全燃焼だろ・・・・・。」
 リオに唇を寄せながら、瑠偉の手は膝を曲げたリオの足を静かに持ち上げていく。瑠偉の視線の先に、さきほどいじり回した部分が下着に隠れて顕わになった。
「もうダメ、・・・・・瑠偉っ。」
 リオが訴えても返答は無い。アンプの上にリオの足の裏を乗せると、瑠偉は自分の右手の中指と人差し指にはまっていたリングを外した。身軽になったその指を、再びリオの下着の中にしのばせる。
 足の付け根から進入したその指は、ぬめる勢いに任せて奥深くまで突き進んだ。
「あっ。」
 行き詰ったところでリオの体が弾けるような反応を示した。そのまま激しく出し入れされると、リオが首を後ろに倒しながら喉の奥で小さな悲鳴を上げた。その声が、今度はコンクリートを打ちっぱなしの壁に冷たく響いた。
「人にっ・・・・・、聞こえちゃうっ・・・・・。」
 リオが泣きそうな顔になって訴える。
「大丈夫・・・・・こんなとこ、誰も来ねぇーよ・・・・・。」
 瑠偉は空いている左手でリオのシャツをたくし上げ、下着から解放された胸を激しく揉み回した。そして、顔を擦り付けて舌先でその先端をもてあそぶ。
 
「瑠・・・・・偉・・・・・・、だめ・・・・・・・・・・・。」

 リオの足がまた痙攣しだした。閉じた目に涙が滲む。さらなる愛撫を求めるように、リオの足が淫らに開いていく。あらゆるところを同時に攻められて、リオの脳は次第に活動を制御されていった。
 虚ろな目を向けるリオを見下ろしながら、瑠偉は静かにリオから手を離した。

「どうしてほしい・・・・・?」

 言いながら瑠偉は、目の前にある青い血管の走る首筋を舌で舐め上げた。その行き着いた先にある穴に低い声で煽る。
 
「言えよ・・・・・。」

 熱い息と一緒に囁かれて、体中が瑠偉を求めて次の行動を煽り立てる。一度けられてしまった火は、燃え尽きない限り中途半端にいつまでもくすぶったままだ。
 それでも、これ以上進めることをどこかで咎める自分がいる。こんな所で瑠偉にいいようにされている自分をさげすむ自分もいる。

「ほら・・・・・。」

 再び瑠偉の指がぐっと一気に押し込まれた。「あぅっっ」と声を上げ、リオの体ががくんと波打つ。瑠偉は逃げるリオの横顔を追いかけて、食い入るように間近でその反応を窺っている。
 こたえられないほどの快感を強いられて、リオは体中の訴えを言葉に反映させる。もう、これ以上我慢できない・・・・・。
 
「入れて・・・・・瑠偉の・・・・・。」

 リオが大きな瞳に涙を溜めて訴えると、瑠偉は満足したように目を細めた。
 そして、わざと時間を掛けてジーパンのジッパーを下ろし、苦しげに圧迫されていたそれをリオの眼前に勢いよくさらけ出した。
 それを見てしまったことで、リオの呼吸は一層の乱れを見せる。リオはもう、それを自分の中に飲み込ませることしか頭に無い。

「おっつー。」
 階段の下のほうで、そんな声が聞こえてきた。もっと下のほうでは、がやがやと人の話す声もする。バンドの演奏の音がしばらく前から途絶えていたので、LIVELAのライブが終わったのだろう。続いて、誰かがリオを探しているような会話が聞こえた。

「・・・・・リオ?あれ、どこ行ったんだー?さっきまで中にいたんだけど・・・・・。」

 こたえたのは明人の声のようだ。そんな声を遠くに聞きながら、リオと瑠偉は二人だけの世界に入ろうとしていた。

「瑠偉・・・、早くぅ・・・・・。」
 待ちきれずにリオが自分から腰を浮かした。早く繋がりたくてしょうがない。
あせるなよ。」
 瑠偉が気だるげに笑いながら身を沈め、熱くなったものをリオの濡れたそこにあてがった。
 らすように先端の部分を滑らせていると、新たに階下で聞き覚えのある男の声がした。

「・・・・・気分が悪いって・・・・・うちのヴォーカルが一緒なんだけど。」

 その声に、閉じかけていたリオの目が我に返ったように開いた。
 遠くで話す声に、さらにもう一人問いかける声が加わる。

「・・・・・気分って、腹痛か何か・・・・・?」
「・・・・・さあ・・・・・。ただ、しゃがんで下向いてたから・・・。かなりヤバそうだった。」
「マジで・・・・・。これからライブなのに。」
「・・・そう、そろそろ支度しないと・・・。」

「待って・・・・・!」

 そう言ってリオは瑠偉の胸を片手で制した。瑠偉が動きを止める。
 リオは瑠偉を見つめながら耳を澄ませた。
 説明をしているほうの声は恐らく怜だろう。もう一人は、どこか聞き覚えのある中音域の男の声だ。いずれにしても、二人がリオを探して近くに迫ってきているということは判断できた。

「なんだよ・・・。どうした・・・・・?」
 再び行動に移そうとしていた瑠偉を前に、リオは両足の膝を合わせた。そして、消え入りそうな声で言った。
「もう・・・・・やめる・・・・・。」
「・・・・・え・・・・・?」
「・・・・・こんなところでするの・・・・・、怖いし・・・・・。」
「・・・・・何で、急にそうなる・・・・・?」
 リオは足を下ろして瑠偉から顔を背けながら、落ち着かなく目を動かす。

「・・・・・だってリオ、声大きいもん。ここじゃ響くし、怜に聞こえちゃうよ。そしたら恥ずかしいし、気まずいし・・・・・。」

 最もな意見だが、瑠偉の言うようにリオの態度が変わったのは確かに「急」だ。下で他の誰かがリオを探しているのを聞いても、聞き流してことを進めようとしていたはずだ。リオの言い分は今一説得力に欠ける気がした。

「・・・・・怜だから・・・・・?」
「・・・・・えっ?」
 瑠偉の声は、下までは届かない音量ながらも、どこかとげのある響きがあった。 
「怜だから、まずいわけ・・・・・?」
 そう言われて、リオがぶんぶんと顔を左右に振る。

「関係ないよ。誰に聞かれたって一緒だよ。」

 ふと、瑠偉の脳裏にあのエロックスの匂いが蘇った。以前リオを抱きしめたときに鼻をかすめた怜のいつもの匂い。でもそれは、たまたま怜の部屋にいたリオが、同じ空気に晒されて移ってしまっただけなのだと一人で納得したのだ。なのに、今そのことが急に気になりだした・・・。

「たった今おねだりしておいて・・・・・。今更なんだよ・・・。」

 瑠偉の眉根が不機嫌に寄った。リオが恐る恐る瑠偉を見返すと、瑠偉の体からは得体の知れない冷気のようなものが放たれている気がした。
 苛立ちを隠せない瑠偉は、一層語気を強めてリオに迫る。

おさまりつかねぇーよっ・・・・・。」

 思いのほか大きく響いたその声は、階段の下にいた怜と春斗の耳にも入ってきた。反射的に二人は声のするほうを見上げた。その先は行き止まりのはずなので、二人はそこで立ち往生していた矢先だった。その階段の先の一つの踊り場を折り返し、さらに続く階段を昇った先にリオと瑠偉がいる。

 春斗が怜に目で何かを訴えた。怜はそれが瑠偉の声だと判断し、階段に足をかけたそのとき、再び新たな声が控えめに聞こえた。

「いやぁぁ・・・・・。」

 それがリオの声だと、春斗にはすぐに分かった。でも、その切羽詰った調子に、春斗は自分の取るべき次の行動に悩んだ。足元を見ながら微かに耳に流れてくる声に集中する。怜も身を硬くして耳をそばだてている。
 その後は、しばらく会話の内容までは聞き取れなくなった。ただ、何となく押し殺した声で何か話しをしているのは分かる。冷たい壁を伝って、湿った息遣いのようなものが僅かに感じとれるだけだ。
 リオと瑠偉はこの階段の先にいる。そう判断できたが、怜も春斗も動けずに立っているしかできなかった。

 そのとき、リオは座っていたアンプの上から冷たい床の上に移動していた。
「やだ、やめて。お願い・・・・・、瑠偉っ・・・・・。」
 リオは後ずさりしながら薄暗い奥地に逃げる。
「ふざけんなよっ。」
 瑠偉が、獲物を追うようにじりじりと迫っていく。
 リオが四つん這いで背を向けたとたん、すぐに瑠偉の手によってその腰が捕らえられた。この状態で瑠偉を止めるのは、到底ムリな話だった。

「んぁぁっ・・・・・・・・・・。」

 堪えきれず、リオの口から熱い息にまみれた呻き声が漏れた。
 そのあとはもう、止まらなかった。瑠偉の猛るような動きと共に、リオの悲痛な声は遠慮なく辺りに木霊した。口を塞ごうとした手は瑠偉に拘束され、リオは両腕をしっかりと押さえつけられたまま背後から散々に攻められた。

「やっ・・・・・ダメっ・・・・・・・・・・瑠偉っ・・・・・・・・・・いやぁぁっ・・・・・。」

 本当は無理矢理こんなことをするのは、瑠偉の趣味じゃない。瑠偉としてもそこまで動物なつもりはない。けれど、今日は止められなかった。ここで拒むリオを許せなかった。怜がそばにいるというだけで、急にてのひらを返すリオを・・・・・。

「ほら、声出せよ。・・・・・聞かせてやれよ。お前の感じてる声・・・・・・・・・・。」

 リオの耳元で氷のように冷たく囁く。そして、リオの中が自分一色に染まるまで、瑠偉は一切攻撃の手を緩めなかった。

「瑠・・・偉・・・・・ダ・・・メ・・・・・。」

 リオに拒まれれば拒まれるほど、なぜか瑠偉の欲望は激しく燃え上がった。めちゃくちゃにしてやりたいという逆上する自分に煽られながら、瑠偉は容赦なく腰を躍らせた。

「瑠偉・・・・・・・・・・。」

 次第にリオから拒否の意を示す言葉は無くなり、代わりに瑠偉の名をしきりと呼ぶようになる。
 リオはすでに、ただ瑠偉から与えられる刺激に素直に浸るだけの状態になっていた。
 瑠偉が動きを止めて白い背中に自分の上体を重ねながら、荒い息で潰された声で囁いた。

「・・・・・イイか・・・・・?」

 そこで、勢いよくぐっと腰を打ちつけた。小さな悲鳴と共にリオの体が思い切り跳ねる。

「・・・・・イイ・・・・・・・・・・すごく・・・・・気持ち・・・イイ・・・・・。」

 涙交じりの声が灰色の壁に響く。もうリオは、自然に漏れ出る声の音量を押さえる余裕はない。
 瑠偉はもう一度リオの背後に体を重ね、今度は優しく問いかけた。

「オレのこと・・・・・好きか?」

 そしてまたゆっくりとリオの中から抜けていき、更なる強い刺激をずんっとリオの下腹部に送り込んだ。リオが一度呻いてから、熱に浮かされたような顔で振り返り、こたえる。

「・・・・・好き・・・・・瑠偉・・・・・・・・・。」

 そのまま赤い舌を伸ばし、瑠偉の唇を呼び寄せた。 

 そのときすでに、階段の下に春斗の姿は無かった。春斗には、聞こえてきたリオの声で今瑠偉との間に起きている状況を全て把握できた。そしてすぐに春斗は、何も言わずに踵を返して怜の前から消えてしまった。
 独り取り残された怜は、他に誰もいないその場所で、苦痛な拷問に耐えることとなった。

 聞きたくないのなら、自分もどこかに逃げればいい。なのに、なぜかそれができない。それどころか、怜の足は静かに階段を昇り始めていた。自分でも、何をしているのか分からない・・・。

 怜が階段を昇りきるまでも無く、状況はすぐに確認できた。段々と大きく聞こえてくるリオの声は、目に飛び込んできた光景と共に怜の胸を無残に打ち砕いた。

 奥まった壁のすぐ手前に、仰向けになったリオに覆いかぶさる瑠偉の背中。瑠偉の動きに合わせて意志をなくしたようにがくがくと揺らされる白い足。リオの口が吐き出す、執拗に繰り返される瑠偉への愛の言葉。

「好きっ・・・・・・・・・・好きぃ・・・・・・・・・・。」

「リオ・・・・・・・・・・。」

 後方に反っているリオの表情は、斜め後ろから見る怜にはよくうかがえない。けれど、見なくてもその声色から十分に想像がついた。きっと瑠偉の与える快感に身を震わせ、泣きながら悦に浸っているのだろう。

 もう、リオは瑠偉のものなのだ・・・・・。
 そんなことは、確かめるまでも無かったはずなのに・・・・・。

 息を切らしながら夢中で交わり合う二人に背を向け、怜は元来た階段を無気力に降り始めた。ブーツのかかとが床を鳴らす音が、リオと瑠偉の前から段々と遠ざかっていく。
 その音を横目で追いかけながら、瑠偉は汗で光る腰をしなやかに回転させた。
 


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