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登場人物
リオ・・・チェリッシュのギター兼Bloody Dollsのギター
ルイ・・・Bloody Dollsのヴォーカル
優弥・・・リオの元彼氏 HYENAのヴォーカル
早坂・・・HYENAのドラム、優弥の一応親友
カレン・・リオの親友 チェリッシュのヴォーカル 早坂の彼女
松本・・・HYENAのギター バスケ部 美羽の彼氏
56・・・爽やかな強敵
『4月2日
 こんにちは。ギターのRIOです。マリちゃんこの前の差し入れのクッキーおいしかったDEATH。ありがとう!・・・怜が言ってました。って自分で書けよ!
 最近のあたしは、減ってしまった体重を元に戻すために毎日ケーキとドーナッツを食べて生きてマス。
 もうすぐ春休みも終わり、RIO も高三になるよ!そういえばもうすぐRUIも二十歳の誕生日。「オトナ〜」とか言って浮かれてます。
今度のBloody Dollsのライブは横浜です。燃えるぜ!(スケジュールはLIVEのとこをクリックしてね)
 今、曲書いてます。今度も思いっきりメタルだ〜!』

 Bloody Dollsのホームページのプログの項目をクリックすると、メンバーのざっくばらんに並んだブログが出てくる。最近だれも更新していないというマネージャーの加奈の指摘により、今回はリオが書き込むことになった。加奈は、ドラムのクニの俗にいう「彼女」だ。今までは主にミカが管理していたのだが、怜との破局を期に事実上引退してしまったので、今は加奈が実権を握っている。
 このブログにメッセージが書き込んであった。

 コメント:haru 『どーも。LIVELAの春斗です。4/16横浜ヘヴンズガーデンうちらも対バンだって知ってた?』

 コメント:RIO 『そーなのー?知らなかった!楽しみだー!あたしの新しいギター見てくれ!』


 新学期、初日。リオは新しいクラス、三年A組でおとなしく席に着いていた。隣の席にはまたしても松本がいる。
「また、お前と一緒かよー。」
 松本があくびをしながら、まんざらでも無さそうにそう言った。最近の松本は、HYENAに入ってから意識して髪を伸ばしているようで、やっと目の下まで伸びた前髪に青いメッシュを入れていた。が、バスケで鍛えたがっしりとした体形が、ロック少年の雰囲気をかなり打ち消している。
「うれしくって涙が出るでしょ?でも、美羽(みうと別れちゃったね。」
「・・・あいつは短大狙いだからな。」

 クラスは進路別に分けられている。カレンは専門学校を希望しているのでF組。他のチェリッシュのメンバー、さつきは美羽と同じ短大でG組。愛里はリオと同じ進学クラスのA組だ。女子の知り合いがいてこれでリオも一安心。自分のクラスを確認すると、リオは真っ先に優弥の名前を探した。早坂と同じC組の用紙に優弥の名前を見つけると、リオはふうと安堵の息を漏らした。今の優弥が全く新しい仲間の中に独りで放り出されたら、孤立するのは間違いない。早坂が傍にいれば安心だ。優弥も四年制大学を受けるらしい。

 リオと松本のところに愛里が加わり、三人で友達の噂話で盛り上がっていると、廊下のほうから数人の荒々しい声がした。問題行動を起こしている生徒を、教師が注意しているという状況らしい。リオのクラスの生徒たちも数人がぱらぱらと立ち上がり、扉から顔を出して廊下の様子を伺っている。その生徒たちが、なぜかリオのほうをちらちらと見だした。
(もしかして・・・・・。)
 リオは膝をついて、足元にある換気用の小さな扉を一つ開けた。案の定、数メートル離れたクラスの前では、もがく優弥を取り押さえようとしている二人の男の姿があった。一人は体育教師の村山。もう一人は見たことがない体格のいい男だ。身長は優弥と同じくらいある。
 優弥が自分の体を掴む村山を突き飛ばし、村山が床に尻をついた。もう一人の男に何か言われた優弥が身構えた。リオが見ると、男の背中の向こうに、面と向かって立っている優弥の姿が目に入った。男を見つめる優弥の目を見てリオは察知した。優弥はあの男を殴る・・・・・。
(どうしよう・・・・・。)
 もし、教師を殴って怪我でもさせたら大ごとになる。停学になるかもしれない。そんなことはさせたくない。

 リオが意を決して止めに入ろうと、小さな扉から廊下に出ようとしたそのとき、優弥の拳が男の顔目がけて飛んだ。と、ほぼ同時に、その手首を男は自分の顔の前でしっかりと取り押さえた。掴まれた優弥の手首がぐぐっと震える。優弥と男が至近距離でしばし睨み合う。すると、すぐに男は優弥の背後に回り、掴んだ手首をそのまま下にねじ曲げた。優弥が仰け反って、「うぁっ」という痛みに喘ぐような声を発した。見ていたリオも他の生徒も村山も、皆唖然としてその光景を見守っていた。聞き分けの無い猛獣を見事にしとめた謎の男・・・・・強い。

 優弥は腕を引っ張られながら教室に連行された。どうやら優弥は、教室を抜け出したところを教師に見咎められ、注意を無視して行こうとしたので捕まったらしい。
 リオが呆然と立ち尽くしていると、さっきの教師らしき男がすぐにC組の教室から出てきて、廊下に一人でいるリオに気付いた。
「何してる?早く教室に入りなさい。」
 その言葉でリオは我に返ったように、慌てて小さな扉から四つん這いで教室の中に戻った。他の生徒は皆教室に戻っていた。

 自分の席に着くと、リオの視界にさきほどの男が教室に入ってくる姿が映った。男はすぐに黒板にチョークで「倉田翔平」と縦に大きく書くと、教卓に両手をついて生徒のほうに向き直った。
「僕が今年この三年A組を受け持つことになった倉田翔平です。担当は英語。このクラスでも英語全般を受け持ちます。よろしく。」
 女子が一斉に喜びを隠せない小さな悲鳴を上げた。倉田は好青年という言葉がぴったりの、体育会系の雰囲気のバランスの良い体形をした男だった。浅黒く焼けた顔は男らしく知的に整い、その笑顔は健康的で爽やかだ。
「先生、何歳ですかー。」
「二十五です。」
「おお〜」と大勢の低い声が上がる。一体その反応の意味は何なのか。

 倉田は今春日の出台南高校に赴任してきた教師だった。赴任早々いきなり三年の担任になるのは異例の事だった。
 リオが頬杖をついて物珍しそうに倉田を眺めていると、突然目が合った。座席表を一度見て、もう一度リオを見る。
「増田。・・・それと松本。放課後職員室の僕のところに来るように。」
 明らかに呼び出しだ。早くも何かしただろうか、と二人は顔を見合わせる。

 放課後、といってもその日は始業式なのでまだ昼前だが、リオが「呼び出されてる」旨をカレンに伝えると、「俺もなんだ」と隣にいた早坂が言った。四人でぞろぞろと職員室に向かう。どうやら優弥にも声が掛かっていたようだが、優弥は一人で先に帰ってしまったという。
 職員室の倉田の前に四人で並ぶと、おまけでついて来たカレンを見て、倉田は「丁度良かった」と言った。そして急に爽やだった表情を一変させて、目を吊り上げて声高にがんがんまくし立てた。

「お前ら、何だ?その鬱陶しい頭は。染髪は禁止のはずだぞ。男のくせに髪が長すぎるし、ズボンも落ちてる。それにお前っ。」
 と言ってリオの胸を指差した。
「なぜネクタイをしないっ。それに、なぜそんなにたくさんボタンを外す?そんなに胸見せびらかしたいのかっ。」
 横に並んでいた男子二人が手を叩いてげらげらと笑った。それを横目で見ながら、リオが慌てて開いた胸を両手で隠す。リオとしては、蝶ネクタイをしたくなかったのと、男子の真似をして恰好をつけたかっただけだ。松本も早坂も胸を大きくはだけてチョーカーをつけていた。この日リオがつけていたチョーカーは、黒いレザーに尖った鋲のついたパンク風のオーソドックスなものだったが、「ブルドックの首輪」という失礼極まりない倉田の表現にリオはムッとして閉口した。

 それから、カレンの爪に貼りついた付け爪やら、メイクのことやら、彼らの耳にたくさん付いたピアスの事などをくどくどと説教され、最後に倉田は言った。

「今年はおれが軽音楽部の顧問だから。」
 
 周囲にいた他の教諭たちも、にこやかな笑顔で黙ってこの会合を見守っていた。

 長い説教を聞き終えて下校した四人は、校門を跨ぎながら下を向いて苦情を撒き散らしていた。
「マジうぜーっ。アイツ、ヤバくね?今時なんだよアレっ。アイツが顧問じゃライブんときの恰好にまで文句つけそうじゃね?」
 今年度、新しく軽音楽部の部長になった早坂がぼやく。すると、カレンも口を尖らせて便乗する。
「あたしのピアス、返せっつーのっ。」
 カレンのお気に入りの小花がじゃらじゃら付いたのれんのようなピアスは、その場で外されて倉田に没収された。それに、リオの耳についていた五つのシルバーのピアスとリング、その他もろもろもだ。
 彼らの高校は身だしなみに厳しく、あまり校則違反をする生徒はいなかった。せいぜい皆、髪を茶髪にしてピアスを一、二個しているくらいだ。それだけに、中でも派手な軽音楽部の面々は余計に目立つ存在となってしまう。彼らにしてみれば、自分たちは他の生徒よりほんの少し派手さが過剰なだけにしか思えない。特にリオは、今が一番地味な髪の色のつもりだ。

「うちらの天敵じゃん、アイツ。なんてったってあの優弥がやられちゃうんじゃ・・・。」
 松本が優弥の名前を出してから、リオがいる事を思い出して途中で口を噤んだ。
 確かに、それが彼らを言い負かしてしまった理由だったのかもしれない。優弥をねじ伏せた教師を見たのは初めてのことだった。優弥はいつも、教師を妥協させてしまう押しの強さがあった。

「ま、適当にかわすしかないね。ピアス・・・、どうしよう。穴が寂しいから買おうかな。お金無いから百均でいいや。」
 リオが溜息をつきながら言った。穴が五つもあるので、普通に買うと一つ五百円だとしても出費は痛い。スタジオ代に衣装代、打ち上げ代、その他雑費・・・。バンドマンは何かとお金が掛かる。
 カレンがどんよりと応える。
「あたしも行くワ、ダイソー。お金無いし・・・・・。今日はマック無しね。」
「むなっ・・・・・。あぁ、俺のお気にのチョーカー・・・・・。」
 早坂も呟く。
「とにかくさ、今度アイツに会ったら、そっこー走って逃げんべ。」
 松本の意見に皆で頷く。が、「授業のとき言われたらどうする?」という意見に、一同「う〜ん」と唸る。そもそも、A組の二人にとっては倉田は担任なのだから嫌でも毎日顔を合わせる。

 突然現れた強敵に、成すすべも無く屈服するしかない無力な四人は、横一列に並んでとぼとぼと駅までの道を寂しく歩いた。 
 

次回、リオとルイの関係に変化が・・・・・。


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