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最近登場人物が増えてきたので書き添えておきます。

増田リオ・・・・日の出台南高校のバンドチェリッシュのギター兼ヴィジュアル系バンドBloody dollsのギター。優弥の元カノ。
沢村 怜・・・・19歳。日の出台南高校のOB。Bloody Dollsのギターで大学生。スタジオでバイトをしている。
三上優弥・・・・日の出台南高校のバンドHYENAのヴォーカル。リオの元彼。
木村カレン・・・チェリッシュのヴォーカル。リオの親友。早坂の彼女。
早坂 陸・・・・HYENAのドラム。優弥の一応親友。カレンの彼氏。
倉田 晃・・・日の出台東高校のバンドLIVELAのベース。優弥と同じバイト。
中村春斗・・・・LIVELAのギター。リオと仲が良い。
星野麻里江・・・優弥のピアノの先生の娘。優弥の事が好き。
飯塚 咲・・・・LIVELAのファン。晃の事が好き。桜川女子高校。
53・・・スタジオで、その2
 その日、怜はスタジオのバイトに入っていた。 
 受付カウンターの中で煙草の煙を吐きながらライブビデオを見ていると、誰もいなかった店内に、私服姿の顔馴染みの高校生たちが楽器を背負ってぞろぞろと入ってきた。
「ちぃーっす。携帯から予約してあるんですけどー。」
 早坂はそう言いながら、HYENAのメンバーから会員証を集め、四人分をまとめてカウンターに提出した。怜がそれを受け取ってパソコンの画面を見ながら言う。
「・・・えっと、Aスタ二時間ね。そのあと予約入ってるから時間守れよ。」
「うっす。」

 思わず怜はさりげなく優弥のほうへ視線を向ける。優弥は、皮パンの後ろポケットに両手を引っ掛けて、早坂の斜め後ろにだらりと立っていた。他のメンバーの会話に参加せず、独り外れてぼんやりと眠たげな目をガラスウインドウの外に向けている。
 怜の視線に気付いたのか、突然優弥が怜のほうを見た。目が合うと、優弥の片目が不機嫌に一回細まるのが分かった。
 怜は何か声を掛けようとしたが、その言葉を探す間も無く優弥はすぐに顔を背けた。怜に対する、顔も見たくないという意思が露骨に伝わる。

 優弥にとって自分は、リオとの一件を思い出させてしまうのかもしれない、と怜は思う。二人の関係が壊れたのは、「Bloody Dollsをやめろ」と優弥がリオに言った事から始まる。もっと元を返せばルイの問題行動も原因なのだが・・・。
 どちらにしても、バンドに残るよう怜がリオに働き掛けたという事実は、言葉にしなくても優弥には推測できただろう。優弥から好かれていないだろうという事は、普段の優弥の態度から怜は十分に感じ取っていた。優弥が自分に嫉妬して、リオとの仲をわざと見せ付けていた事も分かっていた。

 リオと優弥の間に肉体関係があった事は、聞かなくても怜には分かってしまう。二人が一緒にいる時の雰囲気を見れば、そんな事は何となく伝わるものだ。
 あの時の怜は、それでも割り切って考える事ができた。面白くないながらもそれはそれとして片付けられたのだ。なのに、今はリオと別れた後の優弥の姿を見るだけで、気が重くなる。なのに、つい、怖いもの見たさで目で追ってしまう。今更、優弥に嫉妬したところで何になるのか・・・・・。

「中村でーす。五時から二時間でーす。」
 今度はLIVELAの春斗がいつもの天然スマイルを向けてカウンターにやって来た。入口付近では晃が髪の立ち具合を気にする風に、ガラスに向かってしきりに頭をいじっている。すると、地下に降りようとしていた優弥を見つけ、突然晃が叫んだ。

「あっ、三上っ。お前昨日もバイトサボっただろ。店長いい加減キレてたぞっ。連絡くらい入れねーとヤベーぞっ。」
 店内に響く晃の声に、HYENAのメンバーが優弥のほうを見る。が、当の優弥はそれに何の反応も無くそのまま階段を降りていってしまった。代わって関係の無い早坂が苦笑しながら晃に手を上げた。

「シカトかよ。」
 早坂に手を上げて応えながら、しょうがねえなというように晃がぼやく。その場にいたLIVELAのメンバーも何となく目で物を言っていた。HYENAのメンバーも誰も優弥に意見しない。言っても無駄だという事が分かっているから。

 最近の優弥は、周囲から腫れ物を触るように扱われている。「王様病」と影で命名されているが、元々多少キレ易かった優弥は、日を増すごとにそれが顕著に見られるようになった。変に関わるとすぐに襟首を掴まれてしまう。そして、何も無い時の優弥は、憂鬱そうな目をどこかに向けて一人瞑想にふけっている事が多かった。

「やっほーっ。おつかれーっ。」
 練習時間も半ばに差し掛かったころ、喫煙所で休憩していたHYENAのメンバーの前に差し入れをげたカレンが現れた。カレンの髪の色は生活指導の手に掛かり、キャラメル色からキャラメルソース色に更生させられていた。

「今日はクレープ作ってきたよーん。」
 カレンがテーブルの上にピンクの豹柄のクロスを開くと、柄物のラップとリボンで一つ一つ包まれたクレープがごろっと転がった。
「おー、今日もなんか凝ってんなー」
 と松本が感嘆の声を上げる。
「これとこれがハム&チーズね、それでこれがツナと野菜、こっちがチョコバナナ・・・。」
 そこまで説明し終えたところでドンっと何かが背中にぶつかり、カレンの体が前のめりによろめいた。

「・・・あっ、ごっめーん。」
 その女はカレンを見もしないで、全く反省の意が感じられない響きで高い声を発した。
 大して狭いというスペースでもないその場所でぶつかるという事は、よっぽど注意力が散漫か周囲に気を使わない人間なのだとカレンは思う。怪訝そうな表情を隠せずにカレンはその声の主を顧みた。HYENAのメンバーたちも自動的に声のしたほうに注目した。

 その少女は、しっかりかかっている長いパーマヘアをわさわさと腰まで垂らし、透ける素材の緩やかなラインの短いワンピースから、細い竹のような足を真っ直ぐに生やしていた。その豪快な髪型と派手なメイクがかなりの目を引く。

 飯塚咲は優弥のほうにちらっと目を合わせると、媚びた笑みを一瞬見せてからスタジオに続く扉に入って行った。
 思わずそこにいた全員が優弥を見る。
「今の子、知ってんの?」
 早坂が尋ねる。
「桜川高校のバカ女。LIVELA の晃の女。」
 優弥はどうでも良さそうに言うと、オイルの匂いを漂わせながらマルボロに火を点けた。

「晃の女ー?アイツ派手に遊んでるって聞いたけど、女なんていたんだ。」
 ベースの竹野が意外そうに言うと、
「・・・だから、その中の一人。」
 と、煙にまみれながら優弥が補足した。すると、「ああ・・・」と皆で妙に納得する。

 再び階段を降りてくる足音がして一同が見上げると、今度は真っ白なワンピース姿の異常に小柄な少女が立っていた。
「来ちゃった。」
 かわいらしく微笑みながら、麻里江が優弥に向かって言った。またしても全員が優弥を見る。
「これ、俺の女。」
 優弥の一言に、四人が石のように固まる。麻里江はにっこりと笑いながら、
「星野麻里江です。聖エレナ女学院、今度三年ですっ。」
 適度に快活に、そう愛らしく挨拶した。
「・・・・・へー、かわいいじゃん。」
 竹野が気を利かせてそう言った。なぜなら、自分以外の誰も、顔を引きつらせたまま何も反応しそうに無かったからだ。

「・・・おいで。」
 口元に微かに笑みを浮かべながら、優弥が麻里江に手招きした。麻里江が子犬のように優弥に駆け寄る。それを一同が目で追う。
 優弥は麻里江の腕を自分のほうへ引っ張ると、一回横に煙を吐いてから、身を屈めて麻里江にキスをした。

「げっ」と声を上げそうになるのを抑えて四人がそれから目を逸らす。これは、お披露目のつもりなのだろうか・・・。
 カレンのこめかみに怒りの刻印が浮き上がった。
「あたし、帰るっ。」
 カレンはバッグを掴むと、ピンヒールの足音も高々に階段を駆上がった。すぐに早坂がその後を追う。優弥と麻里江の二人は、まるで何も耳に入らないかのように二人だけの世界に入っていた。

「何か知らないけど、ムカつくーっ!」
 一階に上がり店の外に出ると、カレンは背後に立っている早坂に向けてそう漏らした。
 早坂は困ったような顔をしてカレンの背中に答える。
「・・・・・しょうがねぇんじゃね?リオだってさー、いつまでも優弥が自分の事思ってたらかえって困んじゃね?」
 早坂の意見にカレンは俯いて黙り込む。確かに早坂の言う通りかもしれない。だが、カレンとしては、優弥にはしばらく自粛してもらいたいという気持ちがある。浮気をした上にリオに暴力まで振るったのだから、リオより先に幸せになるのはカレンの理屈に合わないのだ。

「あたし、これからリオたちと遊びに行くから。」
 カレンは周りに誰もいないのを確認すると、背伸びをして素早く早坂に口付けた。
 一瞬の出来事に、早坂が夢から覚めたようにうっすら目を開けると、カレンが手を振りながら駅に向かって歩いて行く後ろ姿が見えた。


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