ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
若干性的な表現がありますので苦手な方はご注意下さい。
47・・・それぞれの二人
「優弥の事なんだけどさー・・・・・。」
 早坂は辺りをはばかりながら切り出した。
 放課後、早坂はカレンと共に学校に残り、誰もいない空き教室の窓際で両手を繋いで向き合っていた。三階からグランドを見下ろすと、日が延びた夕暮れの空をバックに、陸上部の部員がバトンパスに精を出しているのがすぐ下に見えた。
「あいつさ、何か変じゃねぇ?リオと別れて落ち込んでる風だったのは分かるけど、最近特に、何か顔色悪いってゆーか、やつれたっつーか・・・・・。」
 カレンは大きな垂れた目で早坂を見上げた。小さいカレンに比べると早坂との身長差は二十センチ近くになるので、これだけ近いとカレンは少々首が疲れる。カレンが分厚い唇を開いて言った。
「まだ別れて一ヶ月だもん、しょうがないんじゃない?リオだって全然食べれてなくて、この前ルイさんに測ってもらったらすごい痩せてたらしいから。お互いにまだ立ち直れてないんだよ。」
「そうか・・・・・。でもさ、何、リオってブラドのルイさんと出来ちゃってんの?」
「出来てないよっ。・・・・・多分。でも最近よく遊んでるみたい。よく分かんないけど。でもさ、リオは早く新しい恋でもして優弥を忘れるべきだよ。それがいいっ。」
「うん・・・・・。優弥も何か新しい女、出来たみたいだし。」
「えっ?!なにそれ。」
「晃が言ってた。LIVELAの晃ね。バイト先によく来てるらしいよ。」
「マジ?もしかして他の学校の子?」
「・・・・・多分。」
「・・・・・・・・・・。」

 言葉が途切れたところで、早坂はそっとカレンの唇にキスをした。そのままずずずとカレンの体を自分の体ごと押しやり、窓の無い壁まで移動する。そしてもう一度カレンの唇に、今度は濃厚なキスをする。
「ねえ、陸、ここじゃ危険だよ・・・・・。」
 早坂から顔を離し、状況を察したカレンが身を縮めるようにして小さな声で訴える。
「ちょっとだけ・・・・・。」
 そう言う早坂の声はすでに擦れていた。早坂の手はブラウスの上から、その豊満すぎるカレンの胸を擦るようにして円を描く。
「・・・・・こん中、何が入ってるの?」
 カレンの胸を両手で持ち上げながら、深い谷間に顔をうずめて早坂が尋ねる。
「血と肉・・・・・?」
 カレンは閉じそうになる目で早坂の頭を眺めながら答えた。
「・・・・・何かグロいね・・・・・、つか、エロい・・・・・?」
 早坂はうっとりと目を細めてカレンの胸の感触に酔いしれている。カレンはどうにかならないように必死で足を踏ん張る。
「・・・・・ヤバイ・・・・・、ヤリたくなっちゃった・・・・・。」
 早坂がカレンを見つめながら切ない声を上げた。
「そうじゃなくて、『したくなった』、でしょ。」
 カレンの方も擦れた声で呟く。
「うん・・・・・。『したくなった』。・・・・・ここじゃ、だめかな。」
「ムリ。」
「でも・・・・・、カレンもすぐしたいだろ?」
「えっ・・・・・。」
 早坂の手が、今度はカレンのスカートの中に伸びた。そのまま下着の中を探る。
「陸ぅっ・・・・・。」
 カレンが「ひぃん・・・」と苦しそうにする姿を、早坂は顔を貼り付けてじっと熱っぽい目で見守る。指の動きを休めずに早坂がカレンの耳元で囁く。
「カレン・・・・・、マジ惚れてる。」
「う、うんっ・・・・・。」
「カレンは・・・・・?」
「ほっ、・・・・・惚れてるっ。」 
「俺たちは、ずっと一緒にいような・・・・・。」
「うぅ、うん・・・・・。」
「カレン・・・・・。」

 そのまま二人は壁を伝って床に崩れ落ちた。恋する二人はもう我慢の限界だった。
 リオと優弥が別れた直後、カレンと早坂はやっとの事で結ばれていた。初めての経験で訴えたい事はたくさんあるのに、リオにも優弥にもそんな話は出来なくなってしまった。別れてしまった二人をよそに、カレンと早坂は今、幸せの絶頂。春の訪れと共にすっかり桜色に染まっていた。



 飯塚咲は、うっすら汗ばんだ額を晃の硬い胸板にしなやかに乗せた。その頭を晃が無造作に撫でる。ぐりぐりに巻いたパーマヘアの感触を晃の人差し指がくるくると弄ぶ。
「晃、すごいよかった・・・・・。またしよーね。」
「・・・・・あぁ。」
 飯塚咲は晃の所属するバンド、LIVELAのファンクラブに入っている。咲と晃は夏のライブの打ち上げの後に始めて体の関係を持った。その後、晃はそれっきり咲からのメールをほとんど無視していたが、つい一月ひとつきほど前、咲は突然晃のバイト先に現れ、それ以来頻繁に顔を出しては晃を誘うようになった。
「お前・・・・・、なんでいつもそんなに金持ってんの?ウリでもやってんの?」
 乱れた息を整えながら、いささか訝しげな響きを持って晃が問う。
「失礼だねっ。そんな事しないよ。あたしはね。」
 咲は少し怒った振りをして笑いながら言う。

 今、二人がいるのはラブホテルの一室だった。ここは、学校のある最寄り駅の二つとなりの駅近くに位置する場所で、徒歩で行けるラブホテルとしては彼らの地元付近では一番近い所だった。そこに行こうと晃が咲に誘われたのはここ最近これで三度目。「お金ならあるから」という咲の申し出があったからだ。晃が今まで咲とセックスをした場所といえば、大抵誰もいない咲の家か夜の公園というのがお決まりのパターンだった。なのに、最近の咲は妙に金回りがいい。  

 咲は媚びた笑みを浮かべながら晃を見上げて言った。
「ねえ、今日このまま泊まれない?」
「・・・・・今日は兄貴がいる日だからムリ。」
「じゃあ、今度お兄さんがいない日に泊まろう?週末は?それで、これやろうよっ。」
 咲は小さなポーチの中からお菓子のラムネの入れ物を取り出した。
「やろうって・・・・・?」
 何もそそらないラムネのケースをガラガラと目の前で振られて、晃は首を傾げる。咲が軽快に答える。
「薬だよ薬。ぶっ飛ぶ薬ーっ。これ飲んでヤるとチョー気持ちイイからぁっ。」
 それを聞いたとたん、晃の顔色が激しく変化した。
「薬って・・・・・?まさか、ヤバい薬・・・・・?」
「そーそーっ。」
 楽しげに返事する咲をよそに、晃は突然目の前のそれを蝿でもはらうかのように勢い良く叩たき落した。音を立てて床を転がるラムネの入れ物を目で追いつつ、咲が「えっ」と困惑した顔を見せた。うんざりしたように晃が言う。
「信じらんねぇー・・・・・。お前そんなもんやってんの?どうしようもねぇーな。」
「えっ・・・・・。でもたまにだよ。晃も試してみなよ。すっごくイイから。きっと病みつきになるって・・・・・。」
「ふざけんなっ!」
 晃の有無を言わせないあまりの迫力に咲はびくっと体を震わせた。そうでなくても晃はいつも少し近寄りがたい怖さがある。そこが咲にとっての晃の魅力の一つでもあるのだが・・・。
「そういう事したいんだったら、そういうヤツとヤれよ。俺はそんなもん無くたってエクスタシー感じられっからっ。俺はやんねー。もうお前ともヤらねぇー。関わりたくねぇー。バイバイっ。」
「えっ・・・・・。」
 晃は足元に落ちた服を拾い、手早く身に纏い始めた。咲は晃のシャツの裾を掴んで叫ぶ。
「あたし、やらないからっ。もうやめるからっ。だからそんな事言わないで?!」
 晃は咲を無視して着々と支度を整えて行く。咲は晃の目の前に向き合い必死で懇願する。
「ねえ、あたし晃が好きなの。ホントなのっ。何でも言う事きくからっ。お願いっ。・・・・・ねえ、もう一回しよ?・・・ね?」
「・・・・・もう、腰いてぇー。疲れたー。何回ヤりゃぁ気が済むの?・・・俺を殺す気か?」
「じゃ、じゃあ、あたしにさせて・・・・・?」
 そう言って咲は急いで晃の足元に膝間づいた。晃の黒い下着を手早く引き下ろすと、下を向いた晃のそれを果物でも食べるように頬張った。
「・・・・・・・・・・。」
 咲は、すがる対象がまるでそれであるかのように夢中で愛撫する。晃が咲を『好き』と言える部分を探すなら、肉付きの悪い体形と、年齢に相応しくないこの淫乱さだろうか。無心に自分のものを貪る女を冷ややかに見下ろしながら、晃はさっきの咲の言葉を考える。
(『晃が好き』だぁ?他の男と薬やってぶっ飛んでるくせに・・・・・。)
 それをやったのがどの男かは知らないが、晃には咲の言う『好き』の定義がよく分からない。

 おそらく、誰にでも簡単に体を許す女なのだ。いつも通っている渋谷でもそういう相手を見つけて来るのだろう。まともに考える方が可笑しい、と晃は自嘲する。
 咲の通う桜川女子高校は、下校時間になると校門近くにたくさんの車が駐車する。『彼氏のお迎え』というのは表向きで、そのほとんどがナンパ目的の車だ。この学校に通う生徒は声をかければ簡単についてくる、というのは地元では有名な話だった。勿論、すべての生徒がそうというわけではない。だが、咲がその例に漏れていないというのは晃には簡単に推測できた。そして、LIVELAのファンクラブはこの学校の生徒で成り立っている。晃が声を掛ければ喜んでついてくる女の子はまだ他にもいる。だが、そんな事をしているのはバンドの中でも晃だけだった。

「おい・・・・・。もっとちゃんと舌使えよ。」
「・・・・・ふぁーい・・・・・。」
 とろけたような眼差しで自分を見上げる咲を眺めながら、晃はさっきバイト先で見た優弥の目を思い出した。どこを見ているのか定まらない虚ろな瞳。無気力な動き。晃が冗談を言って話しかけても、微かに笑みを返すだけで今一つ反応が悪い。
(アイツ、大丈夫かぁ・・・・・?)

 しばらく経つと、晃の思考とは裏腹に、下半身の方は快感の極みを迎えていた。
「は・・・・・、イクっ・・・・・。」
 思い出したように晃は呟く。それを聞いた咲は口を離して目を瞑ると、あえてそれを自分の顔で受け止めた。
「・・・・・・・・・・。」
 口もとに垂れた白い粘液を、咲は長い舌をべろりと伸ばして味見してみる。どろどろになったどうしようもない咲の顔を、放心したように見ながら晃が言った。
「・・・・・マックシェイク、飲みたくねぇ?」
 連想したのは勿論バニラだ。咲はにかーっと満面の笑顔を浮かべ、
「飲みたーいっ。」
 と甲高い声を上げた。笑うと咲の顔はもっと凄まじいものになった。
 シャワーを浴び、支度を終えた二人はマックに行くためにさっさとホテルを後にした。だが、晃は全く気付いていなかった。部屋を出る時、咲が晃の目を盗んでラムネのケースを拾っていた事を。