ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。

性描写がありますので苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
43・・・優弥の暴走
「私が見てきますから。」
「そぉ?助かるわ・・・。私が行っても開けてくれないと思うのよ。お願いね、麻里江ちゃん。」
 優弥の部屋の外では、優弥の母親と麻里江とでこんなやり取りがされていた。
 先程ワインのビンを叩き割り、父に怒声を浴びせてから姿を消した優弥の後を、二人は部屋まで追いかけて来たところだった。
「優弥君・・・・・?」
 ドアをノックしてみても案の定反応は無し。でも、僅かに優弥の嗚咽する声が聞こえる。
「優弥君、開けて。麻里江だよ?」
 どうしても反応が無いので、麻里江は勝手にドアを開けてみた。すると、開いたドアのすぐ足元に、背中を丸め床に尻を付いて座り込んでいる優弥の姿を確認した。立てた膝の上に乗せた自分の腕に頭を預けている。長い髪で隠れて顔はよく見えない。だが、泣いているというのはすぐに分かった。
「優弥君・・・・・。入るね。」
 優弥は麻里江の存在に気付いていないかのように、全く動く気配を感じさせない。
 ドアを閉めると麻里江はさりげなく室内を見渡した。黒いインテリアで揃えられたシックな広々とした部屋。独特の匂い。初めて入る優弥の部屋に、麻里江はひそかに胸が昂るのを感じた。
「・・・優弥君、どうしたの?おじさんに何か言われたの?」
「・・・・・・・・・・。」
「ワイン割ったの優弥君でしょ?おばさんびっくりしてたよ。おじさんもだけど。放心状態だった。・・・・・何があったの?」
 相変わらず優弥には何の反応も見られない。涙は止まったのか、声を発する事も無く、ただずっと同じ体勢で身動き一つしない。
 ふとその時、優弥の手に握り締められた便箋が麻里江の目に留まった。
「それ、何・・・・・?」
 麻里江がその便箋に手を掛け少しひっぱってみると、それは簡単に優弥の手から抜き取れた。くしゃくしゃになった紙切れを広げて読んでみる。
「・・・・・・・・・・。」
 内容を呑み込むと、再び麻里江は優弥の姿に目を落とした。優弥からは、生のエネルギーが全く感じられない。それは、麻里江が初めて見る、あまりにも無防備で頼りなげな優弥の姿だった。
「・・・・・ごめん・・・・・なさい・・・・・。」
 そう言った麻里江の声は震えていた。麻里江の大きな丸い目に涙が溢れる。
「私・・・のせいで・・・・・ごめんなさい・・・・・。」
 そう言うと、麻里江は膝を付き、優弥の肩にそっと額を乗せた。麻里江にしてみれば、優弥とリオの中を引き裂いたのは自分だと思っている。優弥が聴覚室でリオにした事など麻里江は知るよしも無い。
「ごめんなさいっ・・・・・ごめんなさいっ・・・・・。」
 あの夜の事を自分が黙ってさえいれば、ここまで優弥を狂わせるような事にはならなかっただろう。全て自分がいけなかったのだ・・・・・。
 麻里江は泣きながらただひたすら謝り続けた。
「・・・・・麻里江。」
 突然そう呼ばれ、麻里江はハッと顔を上げた。優弥から自分の名を呼ばれたのは、麻里江の記憶ではまだ自分たちが幼児だった頃以来だ。
「別に・・・・・、お前のせいじゃねぇーから・・・・・。」
 そう言う優弥に、麻里江はさらに泣きながら言う。
「違うのっ・・・・・、私のせいなのっ・・・・・。優弥君との事、リオちゃんにわざわざ言いに行ったのっ。」
「お前さ・・・・・。」
 優弥は顔だけを麻里江の方に向けた。優弥の長い前髪の間から、涙で潤んだ瞳が鈍く光っていた。
「俺の事、好きだったって言ったよな。」
「・・・・・うんっ・・・・・。」
 麻里江は、虚ろに開かれた優弥の赤い目に吸い込まれそうになりながら答えた。
「俺なんか、やめとけや。」
「・・・・・・・・・・。」
 音を立てて鳴り始めた麻里江の心臓が、ふいに止まってしまったようだった。優弥が言葉をつらねる。
「お前みたいな従順な女、他に欲しいってヤツいっぱいいるだろ?こんな俺なんかやめとけ・・・・・。こんな最低なヤツ・・・・・。」
 優弥は麻里江から視線を外して無造作に体を起こすと、ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「やだっ。・・・・・やめないよっ。」
 麻里江は振り絞るようにして呻く。
「私は優弥君が好きなのっ。・・・・・優弥君じゃないとイヤなのっ。だから、愛人でいいって言ったじゃんっ。」
「・・・・・バッカじゃねぇーの。」
 フーっと白い気体を大量に吐き出し、煙たそうに目を細めながら優弥は言う。
「この年でそんなに自分を安売りしてどうすんの?お前ってそーゆー女?。バカとしか言いようがねぇー・・・・・。」
 優弥は、麻里江をあざけるようにしてそう吐き捨てた。麻里江の顔が悲しみと屈辱に染まった。
「ひどい・・・・・。安売りなんかしてないよっ。優弥君にしかこんな事言わないよっ。好きだからじゃん・・・・・。」
 そう言いながら、麻里江の顔は崩れ、涙にまみれる。バカと言われようが、安いと言われようが、優弥の事を好きな気持ちは変わらない。こうして優弥の存在を感じるだけで胸が高鳴る。体温が上がる。抱きしめられたいと思う・・・・・。

「そんなに俺とヤリたい?」
 再び優弥が麻里江を見た。明らかに侮蔑的な色を帯びた目で。
 麻里江は言葉に詰まった。
 本当はそんな事、麻里江にはよく分からない。ただ、普通に楽しく優弥と一緒にすごす時間が欲しいだけだ。手を繋いで一緒に歩き、学校帰りに待ち合わせをしてマックに寄って・・・。別れ際に軽くキスでもしてくれればいいのだ。それで十分なのだ。と、いうよりそれが麻里江の理想だった。でも、そんな選択肢は今の麻里江には無い。どんな方法でもいいから優弥と繋がっていたい。
 麻里江は黙って頷いた。それを見て、優弥はおもしろそうに口元を歪める。
「おもちゃにしちゃうよー・・・・・?」
 優弥の一言一言がいちいち麻里江の胸に突き刺さる。でも、それでも麻里江は負けない。
「いいよ。おもちゃでも何でも・・・・・、好きにして。」
 麻里江の気迫のこもった真剣な眼差しに、優弥の下卑た笑いも姿を消した。
「そう・・・・・。じゃ、ヤろうか。」
「・・・・・・・・・・えっ?」
 優弥は背中を丸めたままもっそりと立ち上がると、ドアノブにまっすぐ手を伸ばしてガチャっと音をたてて鍵をかけた。咥えていた煙草を掴み灰皿に押し付ける。麻里江の体に緊張が走った。
「でもさ、訂正。」
 そう言いながら優弥は麻里江の手を引きベッドに誘導する。
「愛人じゃなくて、ヤリ友な、俺たち。愛なんてねぇーからさ・・・・・。」
 ドンっと背中を押されてベッドに突き飛ばされる。
「・・・乱暴しないでっ。」
 麻里江は振り返り、優弥を軽く睨んだ。
 何で自分はこんなヤツが好きなのだろうと思う。なぜ、これほど冷酷な態度を取られてまで関係を持とうとするのか。優弥の言うように、自分は本当にバカだと思う。

「おもちゃにしてもいいって言ったじゃん。おもちゃは自己主張しねぇーぞ。」

 ベッドに倒れた込んだ麻里江を見下ろして、優弥は気だるげに首を傾けながら、皮パンのボタンに手を掛けた。

 優弥に優しくされたいと思う。温かな笑顔で自分を見つめて欲しいと願う。でも、今自分を見下ろす優弥の凍るような瞳が、毒でも盛られたように麻里江の体を痺れさせる。優弥から発せられる妖しい空気が、いとも簡単に麻里江を服従させる。

 ワンピースだった麻里江は、優弥の手によって瞬く間に素肌を剥き出しにされた。
 仰向けにさせた麻里江の裸体を、優弥は両生類のような血の通わない目でじっと観察する。麻里江は優弥から顔を背け、堅く目を閉じている。ガチガチに緊張しているのが手に取るように分かる。
 初めてというわけではないのだから、もう少しリラックスできないのだろうか。やはり酒が入っていないと違うのか。それとも、自分の乱暴な態度が麻里江をそうさせているのか・・・・・。優弥は何ともなしに考える。
 麻里江の自分への思いはおそらく本気なのだろう、と優弥は思う。ただ、その気持ちの向け方があまりにも愚かだとも思う。
 優弥もかつては長い間、リオに思いを告げられず傍で見ているしか出来なかった。その思いはただ純粋で、友達でいられるだけで幸せだった。そんな時もあった。なのに、欲望は次々と増殖して行き、最後にはリオの全てが欲しくなった。自分の事だけを考えて生きて欲しいと思うようになった。手の内に入れて安心したかった。
 それは、あくまで優弥のエゴでしか無い。自分の欲求だけを満たして満足する、自己愛の塊・・・・・。

「・・・・・何だ、もう入れられるじゃん。」

 自分は最低な男だ。そして、そんな自分をリオは見捨てた。リオ自身が伸び伸びと生きられる安住の地を選んだのだ。それは当然の事だろう。冷静に考えても、自分はどこかおかしい・・・・・、何かが壊れてる・・・・・。ここまで来たら、狂ってしまってもいいだろう。もう、何も守るべきものも無い。いや、元々自分はリオを守ってなどいなかったのかもしれない・・・・・。

「ほら、足開けよ。それとも最初はバックがいいかぁ・・・・・?」

 リオよりも二周ふたまわりも小さい胸、子供のように小さな体、黒い髪。リオとは全く違う肉体・・・・・。何の愛情も感じない。それでも優弥は麻里江を抱く。愛が無くても抱けるのだ。そんな自分を汚いと思う。歪んでいると思う。でも、もうどうでもいい・・・・・。

 震えながら行動に移せない麻里江の足を、優弥は両手を使って強引にこじ開けた。「キャッ」と声を上げる麻里江を無視して自分のものを乱暴に挿し入れる。思いのほか抵抗を感じるその肉壁を、突き破るようにしてぐっと奥まで貫く。
「やっと入ったー。」
 優弥が無感動な声を発した。明らかに苦痛だけの反応を示している麻里江をよそに、優弥は間髪入れずに激しい動きで攻め立てる。「ぐぅぅぅっ」という麻里江の呻きが止まらない。
「まだ痛い・・・・・?」
 始めの頃はリオも何度か痛がる事があったのを優弥は思い出した。でも、麻里江のそれはかなりきつそうだ。もっとゆっくり動いてやれば違うかもしれない。でも、そんな優しさは今の優弥には無い。あるくらいなら麻里江を抱いたりはしないだろう。
 自分は今、麻里江というおもちゃで遊んでいるのだ。麻里江もそれでいいと言った。戸惑う必要がどこにある・・・・・?

 体位を変えようとして、優弥は麻里江をうつ伏せにさせた。すると、突如目に飛び込んできた刺激の強いくれないに優弥は目を奪われた。
「・・・・・・・・・・。」
 赤い・・・・・。余りにも多い出血。体質にもよるというが、リオの体しか知らない優弥でさえ、仮に初めてだとしてもこの量は尋常で無い気がする。
「お前、まさか・・・・・。」
 麻里江の体がビクンと脈打った。優弥に目を合わせられない。
「まさか・・・・・、今が、初めて・・・・・?」
 四つん這いで下を向いていた麻里江は両手を付いたままゆっくりと振り返った。そして、愕然としている優弥を無表情な顔で仰ぎ見た。優弥は唱えるように言葉を続ける。
「だましたのか・・・・・?」
 すると、麻里江はフッと視線を逸らして疲れきったように答えた。
「・・・・・そう・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから、おもちゃになるのに相応ふさわしいでしょう?私・・・・・。」
 そう言って麻里江は、長いまつげを伏せて寂しく笑った。そして、下を向いて静かに語り始めた。
「あの時、優弥君だいぶ酔っ払っちゃって、リオちゃんとの事を私に愚痴り始めたの。『いつも周りが男ばっかで落ち着かない』とか、『俺よりもバンドの方が大事なのかも』とか・・・・・。それで何となく私が優弥君にキスしたら、優弥君慌てて顔を背けた。それで抱きついたら、今度は私を突き飛ばして言ったの。『やめろ』って。『お前じゃだめだ』って。それで・・・・・。」

 優弥は、瞬きもせずに麻里江の暗い顔を穴が空くほど凝視していたが、ふいに口の端を吊り上げると、しゃっくりでもするようにくっという笑い声を漏らした。そして、そのまま首を仰け反らせ、目を閉じたまま何かに取り付かれたように甲高い声を上げて笑い出した。

 優弥の奇怪な反応に、麻里江は訝しげな目を向けた。優弥は腹を押さえて、くっくと笑いをこらえながら言う。
「やるじゃん、麻里江っ。女優だなっ。」
 散々麻里江をバカ呼ばわりしたが、結局、もっとバカだったのは自分の方だと優弥は痛感した。
 麻里江のウソのお陰で、大切なリオを裏切ったと思い、死ぬほど悩んだ。リオの泣き顔を何度も思い浮かべては悶え苦しんだ。でも、今となってはそんな事、二人の仲を引き裂く要因の一部にしかすぎない。結局のところ、決定的な打撃を与えたのは麻里江ではなくこの自分なのだと優弥は思う。全てが己の罪、自分自身が招いた結果なのだと。

「・・・・・怒らないの?」
 いつもまでも笑いが止まらない優弥に麻里江が恐る恐る尋ねる。
「別に・・・・・、いいよ、もう・・・・・。お前のせいじゃないし・・・・・。あー笑えた・・・・・。」
 言い終えると、とたんに優弥の顔から笑いが引き、力が抜けたように虚ろな眼差しに戻った。そして優弥は、思い出したように麻里江の体を伏せさせると、再び腹に手を回して抱え込んだ。
「ケツ上げろ。」
 素直に命令に従う麻里江の腰を引き寄せると、優弥は中断していた作業を再開した。
 再び、麻里江の苦しげな呻き声がフローリングに響き渡る。泣き声にも聞こえる。そんな音をBGMのように聞き流し、優弥は虚ろな目で宙を仰ぎながら無感情に腰を振る。今、優弥を突き動かしているのは、ただの動物としての本能だけだった。どんどん激しくなる優弥の動きに、肌と肌の弾ける音が空気に振動する。
 しばらくすると優弥は、ブルっと一瞬体を震わせてから、短い溜息と共に欲望の元を麻里江の白い肌に吐き出した。

 ハァハァと呼吸を整えながら、再び優弥は遠い目で宙を仰いだ。すると、漠然と開かれた優弥の空虚な瞳に水が溢れ出し、頬を伝ってつーっと下に流れ落ちた。麻里江の体に生温かい雨が降る。
「優弥君・・・・・?」
 麻里江が後ろを振り返ると、見上げた先には涙を流してはかなげに立ち尽くす優弥の姿があった。その体は抜け殻のようで、心は死んでしまっているかのように見えた。
「優弥君っ・・・・・。」
 麻里江は起き上がって優弥をきつく抱きしめた。
「私がいるからっ。私が優弥君を守るからっ・・・・・。」
 麻里江はベッドの上に膝立ちした状態で、小さな体でぶら下がるようにして優弥の頭を必死に包み込んだ。
「だからっ・・・・・、泣かないでぇっ・・・・・。」
 そのまま麻里江もこらえきれず声を出して泣き出した。優弥は麻里江に引っ張られるように背中を丸めながら、だた生きる屍のように麻里江の抱擁に身を任せた。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。