23・・・プレゼント
クリスマスイブ。リオは友達を集めてクリスマスパーティーを企画した。厳密に言えば企画したのはカレンだった。はじめはまたカップルだけでやろうという話だったが、「それじゃあ人数がショボイ」というカレンの意見で、軽音楽部の二年生のメンバーを全員呼んだ。欠席者もいたので、十三人中チェリッシュのメンバー五人とHYENAからは優弥と早坂の二人、あと文化祭で一緒に組んだベースの北村とその仲間のヴォーカルの西井の二人。それになんと美羽が松本と一緒に手を繋いで現れた。合計十人だった。
「男五人の女五人。何かこのメンバー、合コンみたいじゃねぇ?!」
いささか興奮気味で早坂が言った。
「でも、すでに出来あがってるカップルが三つもあるしー。」
と愛里。そこで、松本と美羽に皆で注目して意味ありげな笑いを浮かべた。
「・・・前に松本と一緒に授業サボったとき、美羽とのこと相談されたんだよ。」
リオは優弥にだけ聞こえるように小声で言った。そのときの一件で優弥は怒り狂い、リオにひどい仕打ちをしたのだ。優弥はリオを一度見ると、少し気まずそうな顔をして俯いた。そんな優弥を見て、リオは「かわいい」と思いつつ微笑んだ。
(ぶたれたときはショックだったけど、優弥はリオのこと好きすぎて嫉妬しちゃっただけ・・・。)
愛は盲目。このときのリオにぴったりな言葉だった。
パーティー会場はリオのママ不在の自宅マンションの十二畳のリビングだった。
苺のショートケーキ、タコス、パエリア・・・。テーブルの上にチェリッシュのメンバーの手作りの料理が次々と並べられる。愛里だけは、「どうやってもなにもできない」と言って、リオ行きつけの近所のスーパーでオードブルのセットを買ってきた。リオはといえば自分の家なので、その場でポテトや鳥の唐揚げを作って出した。
その他、菓子類やつまみを買い込み宅配ピザも注文した。酒は早坂が、「兄貴と一緒に買ってきた」というビールとバーボンを持ってきた。
早坂があえてバーボンを選んだ理由は、「これが一番ロックしてるから」ということだった。でも、「イエ〜」と言いながら乾杯をして全員で一口バーボンを飲んだとたん、皆すぐに下を向いてしまった。「う〜」というような唸り声も聞こえる。ビールや甘いチューハイにしか慣れていない高校生の彼らには、バーボンは少し高いハードルだったようだ。
パーティーのリクレーションは、リオと優弥と西井が順番にギターでイントロクイズをやった。でも、基本的に洋楽にうといチェリッシュのメンバーはさっぱり回答できない。そこでリオは「チェリッシュ向け」と言って、浜崎あゆみやバンプの曲のなどのイントロを弾いたりした。
クイズが正解すると、そのままギターに合わせてその曲を皆で合唱した。よく隣から苦情が出なかったというくらい、十人の歌声は喧しいものだった。
夜十一時を回る頃には、皆酔い潰れて静かになっていた。リビングには十人の高校生が雑魚寝状態で転がっている。どうして皆が皆同じようにここまで飲んでしまうのか。疑問を感じながらリオはモソっと一人起き上がった。皆を跨ぎながらよろよろとキッチンに向かっていくと、ふいに誰かが足首をぐっと掴んだ。転びそうになるのを何とか持ちこたえて下を見ると、優弥がうつ伏せのまま手だけをリオに向けて伸ばしていた。優弥はゆっくりと顔を上げ、リオを仰ぐと薄く笑った。
優弥はリオの足首を解き放すと体を起こし、「俺も行く」と言ってゆらりと立ち上がった。一体どこに行くのか。いずれにしてもリオは、酔った優弥は正直苦手だった。いくら皆が寝ていると言っても、こんな環境でまた襲われたらたまったものではない。そう思い、さりげなく優弥から離れて機敏な動作でキッチンに向かった。振り返ると、すぐに優弥はリオの背後に追いついていた。
「気持ち悪いの?」
リオが警戒しつつ優弥の顔を覗き込んで言うと、金髪のメッシュを細かく入れた黒髪が控えめに左右に揺れた。
「べつに・・・?」
酔いで細まった目でリオを見下ろし、微かに笑う。視線が絡みあ合うと、二人はどちらとも無く唇を合わせた。
柔らかいキスをしながら、優弥は自分の着ていた黒いジャケットのポケットから何かを掴んで取り出した。そして、手探りでさりげなくリオの首にそれを取り付けた。
何だろう・・・。優弥から顔を離し、リオが下を向いて確認すると、自分の首から銀色のペンダントがぶら下がって光っていた。
「これ・・・・・。」
小さく呟いて、リオが輝く目を優弥に向けた。それは、以前二人でネットを見ていたときに、「これカッコイイ」とリオが言っていたものだった。ゴシック調の、シャンデリアを思わせる複雑な装飾を施したデザインで、真ん中に小さなオニキスが一つぶら下がっている。動くたびにチャリチャリと音を立てて細かく揺れる、小さいながらもエッジの効いた自己主張の強いネックレスだった。
「お前、欲しがってたから。」
優弥はそう言うと、黒い皮パンのポケットに手を突っ込んで顔を不自然に背けた。
「ありがとう・・・。」
恥らいと喜びの混じった顔でそう言ってから、かかとを上げて優弥の首に巻きついた。優弥からプレゼントをもらうのはこれが初めてのことだった。優弥の腕がリオの腰に緩く回され、腰が密着する。
額を寄せ合ってしばらく見つめ合うと、互いの目の奥に潜む欲望を確認し合った。そして二人は手を繋いで短い廊下を歩き、友達をリビングに残したままリオの部屋に消えてしまった。
「ただいま〜・・・・・。」
翌日の午後、帰宅したママに「お帰りなさい」と言ってから、すぐにリオは自分の部屋に逃げた。
今朝、というより皆が帰ったあとの昼すぎに、めちゃくちゃになったリビングはキレイに掃除したから問題は無いはず。今日はバイトも無かったので、リオはママのために夕食として、カニ玉と春雨サラダ、それに中華スープというリオにしては見事な中華定食を作ってテーブルの上に並べておいた。横にはさっきまで見ていた料理本が置いたままだ。
リオがママを出迎える用意としては、完璧な準備だった。でもママは、「リオ、ちょっと」とリオを呼びとめ、「成績表は?」と目尻を吊り上げながら大事なことを忘れずに言った。
「はい・・・・・・・・・・。」
リオは萎れた顔で、ママに仰々しく両手で通知表を手渡した。期末テストの結果が分かっているので、結果はもう分かりきっていた。でもそれを担任から受け取った以上、ママに見せないわけにはいかないし、お説教も聞かねばならない。それで済むならまだしも、決定的な罰則が与えられる可能性もある。それを一番恐れていた。今のリオからギターとバンド活動を取ってしまったら何も残らない。
Bloody Dollsに入ってから、リオはさらに勉強しなくなっていた。バンド活動に打ち込めば打ち込むほど、勉強なんていうものが自分にとって何の意味も持たないものに思えてくる。リオはただ、ママのご機嫌を損なわないように勉強していただけで、それが将来どんな意味をなすのかも考えたこともないし、興味も無かった。リオにとって勉強すること自体、全然ロックじゃないのだ。バカなのがロック、ルーズなのがロック、不健康なのがロックなのだ。「セックス・ドラック・ロックンロール」、そんな言葉を盾にして、リオは現実社会の用意した己の義務から逃げている。
「リオ、とりあえずバイトはやめなさい。そんなことしてる場合じゃないでしょ。学校でも禁止されてるんだし。お小遣いだってちゃんとあげてるでしょ?」
通知表をテーブルに置きながらママは言うと、「それから」とリオの方を見ながら厳粛な雰囲気を作った。
「リオ、あなた付き合ってる男の子がいるの?」
「・・・はいっ!?」
ママからそんな質問をされるのは、初めてのことだった。リオはミルクティーの入ったマグカップを持ったまま固まった。ママは間髪入れずに「いるのね?」と責め立てる。
「・・・何でそんなこと分かるの?」
「女のカンよ。」
おどおどと問うリオの疑問をママはさらっと流した。そして最後に、
「男の子と遊んでばかりで浮かれてちゃだめよ?」
と、釘を刺すように言った。
ママから言われると、母親というよりは一人の女として言われているようで、リオには尚更気味悪く取れた。さらにママは、リオにとっては問題外な発言をする。
「へんな薬なんかやってないわよね?」
「・・・・・ほ?」
リオは、「信じられない」という風にママを見た。
「やってないよ!!」
「・・・本当に?」
「あたりまえじゃんっ。リオ、ロックだからクラブと行くわけじゃないし、真面目なバンドマンだよ!」
自分でも何が言いたいのか分からなかったが、とりあえず強い口調でそう言い切った。
ママは少し憮然とした面持ちでリオを見ている。リオのことを疑っているんだか、信じているんだか、どうやってもリオには解読不可能だった。
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