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21・・・破格な優弥
 十一月、リオは優弥(ゆうやと一緒に文化祭でニルヴァーナのコピーバンドをやることになった。ヴォーカルが優弥、ギターがリオ、ドラムは早坂、ベースは、またHYENA のメンバーだと面白くないということで二年生にもう一つあるバンドの北村を誘った。
 リオのクラス二年B組は喫茶店をやるということだが、リオはもう普段バイトで似たようなことをやっているのでいまいちやる気が起こらなかった。どちらにしても、リオは軽音楽部のライブで忙しいのであまりクラスには顔を出せない。

 文化祭当日、れいが日の出台南高校の軽音楽部の部室に顔を出した。Bloody Dollsのベースの明人あきとも一緒だった。明人もこの高校の軽音楽部のOBだ。二人は後輩との会話の中で、リオがBloody Dollsに加入したことを話した。リオは三年の先輩には誰にも言っていなかったせいか皆驚きの声を上げた。リオの出世に「すげー」と言ってくれる人もあれば、嫉妬を露わにする三年の女の子バンドの先輩。でも彼女らはギタリストとしてのリオに嫉妬しているのではなく、女としてのリオに嫉妬しているのだ。怜は高校時代から後輩の女子に人気があった。彼女らの嫉妬は、リオにしてみればお門違いに他ならなかった。
 
 Bloody Dollsに入ることは優弥にはもうとっくに話していた。バンドの練習ももう始まっている。優弥はあまりいい顔はしなかった。男ばかりのバンドにリオが正式メンバーになるのが気に入らないのだろうとリオは思った。優弥は何せリオの男関係のことにはうるさく干渉する。お陰で男友達の方もリオに話しかけるのにやたらと優弥の目を気にするようになってしまった。だから用があっても最近は会話よりメールで済ませる事の方が多い。

 バンド活動が増えればまた二人の時間が減ってしまうし優弥には何もいいことが無い。それでもリオが乗り気なので優弥は黙っていた。リオが以前から自分のやりたい音楽ができない状況だったのは、優弥もよく分かっていたから。それに、リオほど弾けるギタリストがチェリッシュのような低レベルなバンドでプレイしているのは誰が見ても理不尽に思えた。

 三番目のバンドの演奏が終わって、優弥とのセッションバンドの出番が来た。リオが客席を見渡すと、LIVELAの晃と春斗の姿が見えた。晃にはバイトのときにリオが誘っておいたのだ。怜と明人の姿も前の方の席に確認できた。司会の係りになっている愛里がバンド紹介を終えると、演奏が始まった。

 『Smiles Like Teen Spirit』からはじまって四曲目の『Territorial Pissings』に入った。ノリのいいスピードで観客の反応はイイ感じ。優弥は大好きなカート・コバーンの真似をしてがなる様に歌いながら、リオの背後に回り顔を寄せて絡んで来る。リオはシールドに引っ張られながらも、優弥を振り切るようにしてステージの先端まで進み出た。でも、リオがステージの先端だと思ったところは先端のさらに先だった。リオの足は空を切り、一瞬にしてその姿はステージから消えた。バンドの音がリズム隊とヴォーカルだけになる。と、同時に不自然なノイズ。優弥が急いでマイクを置いてリオの姿を探す。キーンとハウリングしたので慌ててマイクの位置を変える。優弥がステージの下を覗くと、リオがギターを抱えたまま横たわっているのが見えた。シールドが抜けている。

「おいっ、リオ!大丈夫かっ。」

 すぐさま優弥がステージから飛び降りてリオの元に駆けつけた。他の最前列に座っていた軽音楽部のメンバーもざわざわとリオの周りに集まってきた。怜も傍にいたのですぐにその輪の中に混じった。

「痛い・・・・。」
 リオの表情が苦痛に歪んでいる。リオは足を変な向きで打ったらしく、しきりに足首を押さえて痛がっている。怜がリオの上半身を起こし、ギターを外してやる。そして、「立てるか?」とリオに確認すると、リオは顔をしかめて首を左右に振った。
「じゃーとりあえず、保健室だな。」
 怜がその場にいた年長者らしく指揮を執った。そしてリオの手を引っ張ろうとして手を伸ばすと、勢いよく優弥の腕に制止された。優弥はとがった目で怜を見ながら、
「俺が。」
 と一言言うと、慣れた動作で軽々とリオを抱き上げた。怜は「あ、そうか」と言う風にすぐに手を引いたが、自分を制した優弥の動きがあまりにも力強かったので面食らっていた。

「優弥、おんぶでもいいよ・・?」
 抱き上げられるときリオがそう言ったが、「いいよ」と優弥は断った。
 周囲の注目を浴びながら、リオを抱きかかえた優弥が体育館の出口に向かってさっそうと歩いていく。その様子をじっと見守っていた生徒たちから「きゃ〜・・」という声が控えめに聞こえた。絵になる二人。軽音楽部三年の佐々木が、「さすがだなアイツは」と漏らすと、他からも「マジでハンパじゃねぇ・・」と言う声が聞こえた。

 ステージでリオに告白して以来、優弥はリオとのことではほとんど「恥じ」という観念が無くなったらしい。同級生の前だろうが先輩の前だろうが平気でべたべたと体を寄せてくる優弥は、リオから見ても目に余るところがあった。教師からも、「あまりひっつくな」と廊下でよく注意された。 

 保健室に行っても養護の教諭が不在で、リオと優弥はとりあえずベッドに腰掛けていた。
「お前さー、エキサイトしすぎなんだよ。」
 優弥がリオの膝を掴みながら言った。痛む場所がどこか確認している。
「あの曲、好きなんだよ。」
 そう言ってリオは顔をしかめつつ、ギターを弾くまねをして少し歌ってみせる。その顔を見て優弥が、
「ここ、痛いの?」
 と問うと、リオは黙ってうなずいた。
「手は?」
 今度は首をぶんぶんと振り、「大丈夫」とリオは答える。手が無事だったのは不幸中の幸いだった。でも、とりあえず足首は強くねじってしまったようだ。あと、膝も強く打ったらしく少し痛む。

 廊下のほうで人の話し声が聞こえてきた。段々とその声が大きく近づいてくる。
「怜かな?」
 とたんにリオの顔が明るくなった。
 保健室の外の廊下には怜と明人、早坂にチェリッシュのメンバーもいた。コンコンとノックしてから先頭にいた怜が保健室の扉を開けた。

「リオ、大丈夫かー?」
 その言葉と同時に、中の光景を見て言葉を失う。保健室の中では、ベッドの上でリオの体に覆いかぶさる優弥の姿。濃厚なキスをしているのが優弥の揺れる髪の動きからうかがわれた。最前列にいた怜と明人、それに早坂だけがその状況を確認してしまった。

「・・・・・・・・・・・。」
 すぐに優弥が起き上がって怜のほうを見た。優弥は自分の唇をぺろっと一回舌で舐めると、ゆっくりと手の甲で口元を拭う仕草をした。そして、
「すいません。今取り込み中で・・・。」
 怜を見据えて言うと、口だけでニヤっと笑った。
「取り込み中じゃないよ!!」
 そう叫んで慌てて勢い良く起き上がるリオ。そんなリオに優弥はもう一度体を重ねると、手首を押さえつけてベッドに強引に押し倒した。
 そこまで見ると、怜は黙って保健室の扉を静かに閉めた。

 廊下から、「なになに?」というカレンや愛里の声が聞こえる。その声は段々と遠ざかっていった。
 歩きながら、「困ったやつらだな」と明人が苦笑して言った。早坂は黙って上履きを見ながら歩いている。怜も黙って口元に笑いを浮かべることで、明人の意見に同調の意志を示した。カレンたちは状況が把握できていなかったが、何となく雰囲気で察したようだった。

 皆の声が聞こえなくなり、やっと優弥がリオから顔を離した。
「ねえっ、何考えてんの?!恥ずかしいじゃん!それに心配してきてくれたのに悪いよっ!」
 リオが吼える。優弥は聞いてるんだかそっぽを向き、ぶんと頭を振ってじゃまな自分の前髪をどけた。そして、
威嚇いかくしたんだよ。」
 すましてそう言う。
「はぁ?意味分かんないっ。」
「・・・・・だからー、お前が俺の女だって事を分からせてやったのっ。」
「そんな必要無いよっ。」

 今日ばかりは優弥をきちんと教育しなくてはと思い、リオはさんざんしつこく文句を言い続けたのだが、本人はまるで聞く気がない。挙句の果てに、「ここでやろうぜ」と言い出す始末。
「冗談じゃないよっ。他に誰か入って来たら困るよっ。」
 と叫ぶリオに、
「スリルがあって燃えそうじゃん。」
 いたずらを計画する子供のように優弥は言い放つ。そして思い出したように言った。

「でもダメか・・・。リオ、声でかいし、始まったら他に何も聞こえなくなっちゃうし・・・。」
 その通りだった。優弥がそんなことを言うので、思わずリオは変な想像をしてしまった。心臓が弾むように大きな音を立て始める。複雑な表情になり、リオの頬は淡く染まっていく。
 そんなリオを見て、優弥は薄く笑いながらゆっくりとリオに体を寄せて行った。嫌な予感が走りリオが身をかわそうとした瞬間、ガッと優弥の硬い腕に体を捕らえられた。

「はなしてっ・・・。」
 目をぎゅっとつむってリオが優弥の腕の中でもがく。
「リオ、ヤりたくなった?」
 優弥はリオにぴったりと頬を貼り付けて問い詰める。リオは激しく左右に頭を振った。優弥の手が、背後から胸の膨らみをなぞり始めた。リオはその行為に飲まれないように、目を閉じたまま硬く唇を噛み締める。

「思い出してヤりたくなったんだろ?お前、すげー分かり易いよ・・・。エッチな女ー・・・。」
 耳元にわざと熱い息を吹きかけ、甘くそして妖しげににささやくので、リオはまたしても負けてしまう。優弥に顔を背けたまま、リオが肩で小さく息をし始めた。

「大丈夫・・・。すぐ済ませるてやる・・・。」
 ベッドに腰掛けたリオの前にひざまづくと、優弥は手早くリオの下半身から下着を剥ぎ取った。そしてリオの膝こぞうに手を置き両足を割って開くと、その核心を見据えながら吸い寄せられるように頭を沈めていった。
 撫でるような優弥の舌が痙攣するような動きに変わるころには、リオはもうすっかり優弥の手の内でとろとろに溶かされていた。

「すっげー、リオ。ここじゃシーツ汚しちゃうな・・・・・。」
 満足そうな笑みを浮かべ、優弥がリオを見上げた。虚脱したリオは、切なげな困った顔で見返すしかない。優弥が自分のベルトを外そうとする金属音がリオの鼓膜におぼろげに届いた。
 優弥は正面からリオを抱きかかえると、そのまま奥へと運び、行き着いた壁にその体を貼り付けた。そして、虚ろに開いたリオの目を見つめ、囁いた。

「もっと、気持ち良くしてやる・・・・・・・・・・。ほら・・・。」

 静かに優弥が入ってきた。探るように奥地に移動しながら、優弥が目を閉じて喉奥から小さな喘ぎ声を漏らした。
 最初の快感がじわりとリオの中心を走り抜けると、こらえきれず倒れた頭が背後の壁を鈍く打った。だがその痛みの感覚は、今リオを支配している別の強烈な感覚によって見事にかき消された。爪先を伸ばしたリオの脚が宙に浮き、時計の振り子のように揺れる。緩やかに、また時には激烈な勢いで・・・・・。
 リオは必死に優弥の首にすがり付き、絡めた指に無意識に力を込めた。

「・・・・・優弥、好きっ・・・、好きぃぃ・・・・・。」

 苦しげにのどを鳴らしながらそう繰り返す。いつの間にか流れた涙が頬を伝う。
 ・・・・・もう、どうなってもいい・・・・・。
 額から汗の水滴を滴らせ、息を切らして揺れ動きながら優弥がこたえる。

「俺も・・・・・、すげぇ、リオが、・・・・・好きだっ・・・。」

「優弥ぁ・・・・・・・・・・。」

(どうしよう、優弥・・・。リオ、もう病みつきなの。おかしいの。・・・こんなリオを何とかして・・・。)

 軽音楽部の演奏が、一つの音の塊となって遠くでうねる様に轟いていた。他方では、たくさんの出店の店員になりきった生徒たちの客引きの声がにぎやかに飛び交っている。
 皆が一年に一度の文化祭を盛り上げようと、若いエネルギーを惜しみなく発散していた。でも今、そんな外の喧騒は優弥とリオの耳には届かない。

 身も心も一つになった二人は、誰も知らない禁断の楽園で甘美な思いに酔いしれながら、互いをむさぼるようにいつまでも(たわむれ続けた。


Nirvana 『Smells Like Teen Spirit』→ 
http://www.youtube.com/watch?v=fbsQKd9ELf4&feature=related


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