19・・・悪魔の優弥
「え?アイツと二人でサボったの?!」
昼休み、リオが優弥に一時間目の体育を松本と一緒にいた話をすると、優弥はいきなり大きな声を出した。その声に驚いてリオは意外そうに優弥を見上げた。二人は進路指導室にいた。ここは昼休み誰もいないことが多い。リオがきょとんとしていると、
「何で男と二人っきりでサボんだよっ。」
優弥は目を細めて眉を吊り上げた。右手はリオの二の腕を強く掴んでいる。始めて見る優弥の怒った顔。普段優弥はあまり表情を変えない。リオには優弥が何を怒っているのか理解できなかった。
「・・・だって、たまたまサボりたかったのが松本だったから。話してたらそういう展開になったから・・。」
リオがそういい終わらないうちにパシっと音がしてリオの左頬に痛みが走った。優弥が平手でリオを叩いたのだ。リオは自分の置かれた状況が把握できないまま、でもそのときリオの胸の下辺りがぎゅっと縮んだのが分かった。そしてそれはそのまま固まったままになった。
優弥はリオの顎を乱暴に掴むと自分の顔を引っ付けて、
「お前、俺の女だろ?」
腹からむりやり押し出しているかのような低いかすれ声でそう言った。そこで、リオは眉毛を吊り上げた。
「あたしは誰のものでもないよっ。」
強い口調で言ってから勢いよく椅子から立ち上がると、両手を伸ばして思い切り優弥を突き飛ばした。優弥がよろけて床に尻を着いた。一瞬間が空いて二人は睨み合った。すると、優弥はすぐに立ち上がりリオの肩を掴んで後ろ向きにさせると、羽交い絞めのような恰好でそばにあった職員用の机の上にねじ伏せた。
「やだっ!何すんの、放してよっ!」
うつ伏せにされて体の自由を奪われたリオが、怒りと屈辱の入り混じった声で叫んだ。優弥は上から体重をかけて押さえつけたまま制服のスカートを捲くり上げ、リオの下着の中に手を滑り込ませた。すかさずリオの急所を捕らえた指が攻撃を仕掛けてくる。唇がリオの耳たぶを挟む。
「やだっ!こんなのやだっ!」
リオが抵抗しても優弥は無視して同じ動きを繰り返す。
「やだっ・・・・・。」
語尾がため息混じりになった。だんだんとリオの体が力を失っていく。心では拒んでいるつもりなのに、体の方は言う事を聞いてくれない。まるで麻酔が効いていく様に、リオの体がだらしなく机の上に伸びていった。もう優弥がリオを押さえつける必要は無い。
優弥の右手の指先から、口を開けてガムを噛んだような音がした。その音は小刻みな指の動きに応じていつまでも止むことを知らない。そのとき優弥が鼻で小さく笑ったのを、リオはしっかりと背中で感じ取った。
滑りの良くなった優弥の指は、流れるようにそのまま奥地に入りこんだ。それが行き来するたびに、リオは唇を噛み締め、必死で拷問に耐えた。
「ほら・・・・、体のほうは俺を欲しがってるぜ・・・・・・?」
軽蔑とも満悦ともとれるような響きを持って、優弥がリオの耳元でそう囁いた。同時にわざと耳に熱い息を吹きかける。
優弥はリオの穿いていたショーツの脇の紐を片側だけ手早く引き解くと、自分もベルトを外し、制服のズボンを腿まで下ろした。そして、猛り狂った自分のモノを取り出すと、重なり合った丸い肉を両手で割って乱暴に突き刺した。
「やだっ・・・・・。」
一呼吸ほど置いてから、リオの潰れたような呻き声が進路指導室の外の廊下に漏れた。いくら止めようとしても、意に反して口からこぼれ出てしまう。優弥は急いでリオのポケットからハンドタオルを抜き取ると、リオの口に強引に押し込んだ。いつもそうする。とたんに、「ぐうっっ・・・・」と声が苦しげにくぐもった。リオの胸を開きながら、再び優弥が勢いよく動き出した。
(何でこうなるの?意味わかんない・・・。)
リオの目にくやし涙が滲んだ。火山が噴火しているかのようにリオの体の奥の方から何度も何度も熱いマグマが吹き上げる。優弥の掴んだリオのか細い腰がひくひくと痙攣した。リオは、こんなひどい仕打ちをされても快感に打ち震えてしまっている自分に嫌気が差した。
遠くで誰かの笑い声が聞こえる。
もうすぐ午後の授業がはじまってしまう。
ここにもいつ人が入ってくるか分からない。
(ひどいよ、こんなの・・・。)
ガクガクと振動するリオの視界は、そのうち涙で霞んで見えなくなった。
しばらくして、音質の悪い電子音の始業のチャイムが進路指導室に空しく響いた。
授業が始まって三十分ほどしてからリオは遅れて教室に入った。優弥の方はその十分ほど前に進路指導室を出ていた。シンとした教室の中にリオは一人で入っていき、教壇の前に来るように言われ教師から注意されたので余計に周囲の目を引いた。リオは目を真っ赤にして不自然なほど下を向いていた。かろうじて制服の乱れは直してきた。教室にいる生徒たちが、皆様子のおかしいリオを興味深げに見ている。リオは席に着いても教科書すら出す気になれず、ずっとただ鼻をすすっていた。
どうして授業をさぼったことくらいで優弥はあんなに怒るのか、なぜ頬まで叩かれなければならないのか、リオには到底理解できなかった。
今まで人に陰口を叩かれても睨まれても気にしないリオだった。なのに、優弥に冷たくされるとどうしてこんなに傷つくのか・・・。どうしてこんなに悲しいのか・・・。
そのとき携帯がブルブルいった。松本と早坂、そして美羽が、『どうしたの?』『何かあったの?』というような探りを入れるメールを入れてきた。他に同じクラスのよく話をする女子二人もやはり同じようなメールを入れてきた。皆マメだ。リオは返信する元気も無かった。こんなこと、誰にも詳細に説明することなんてできない。
その日の放課後リオはバイトを終えると、怜の働くスタジオに向かっていた。怜がいるかどうかは分からない。でも、リオはメールで確認することもなく漠然と向かった。いなければいないでそれでいい。リオはあまり予定を立てて行動しない。そのルーズさがロックしてる気がしてた。
バイト先ではリオなりに努めて明るく接客したせいか、何となく元気が出た気がした。でも一人になればすぐに元に戻ってしまう。今日優弥がバイトに入っていなかったのが救いだった。もう口も利きたくない。周りの友達には『優弥とケンカした』とメールを入れただけだ。とにかく無気力だった。
リオがスタジオに到着すると、店のカウンターに怜はいなかった。がっかりしていると他の金髪の男の店員と目が合った。おそらく怜と同じバイトだろう。
「あの、今日沢村さんは・・。」
リオが力なく問うと、
「ああ今ね、自分のバンドでスタジオ入ってる。」
店員はそう言って感じよく下を指差した。リオは急いで階段を降りて地下にあるスタジオの扉を開けた。さらに個々の三つの扉があり、どれも使用中だった。背伸びをして扉に付いた小窓を一つ一つ覗いていく。すると、BスタジオにBloody Dollsらしきメンバーの姿を見付けた。左の奥を見ると、咥え煙草の怜がヴォーカルのルイと何か話をしている。スタジオは禁煙なのに。
怜の頭はいつの間にか茶色から薄いベージュになっていた。リオがボーっとその姿を見ていると、ヴォーカルがリオに気付いたようだ。すぐに怜に何か言ってリオのほうを指差した。怜が扉のほうに歩いてくる。
「何だ、妹。これからスタジオ?」
扉を開けると怜はリオを見て優しげに目を細めて言った。
「ううん。通りかかったから見てただけ。」
リオは無理に笑顔を作ってうそを言った。
「・・・リオ、お前ちょっと弾いてみろよ。」
唐突に怜がそう言った。練習中なのに、とリオが意外そうにしていると、他のメンバーも「弾いて弾いて」と盛り上げる。場の雰囲気にのせられてリオはスタジオに入った。
「オレのギターでいいだろ。お前のと弦高もそう変わらないはず。」
と言って怜のストラトを手渡された。
リオは今日の鬱憤を晴らすがごとく、腕を大きく振り上げて頭を揺らしながら、思い切り感情をぶつけてスタジオに爆音を轟かせた。
(・・・ああ、この音っ。やっぱギターってサイコーに気持ちいいじゃん?)
Bloody Dollsのメンバーから「おお〜」という感嘆の声があがる。そして怜が、「オッケー?」と他のメンバーに向かって言う。「おお、決まりでしょ」という返事やうなずく姿があった。リオが不思議そうに怜を見ると、
「リオ、お前Bloody Dollsでギター弾かないか?オレとツインで。ギターをもう一人考えてたんだ。オレは最初っからお前しかいないと思ってた。うちだったらお前のレベルに合ってるし、お前のやりたい音楽に近いだろ?」
少し熱っぽく怜がそう言うと、ヴォーカルのルイがよく通る声で、「一緒にやろうよ」と笑いかけた。首の幅ほどしかない小さな細面の顔をしたルイは、ヴィジュアル系バンドのヴォーカルらしく、その印象は「綺麗」の一言だ。ルイの不必要に多く放つフェロモンを浴びせられて、赤面しそうになったリオは思わず目を逸らした。
リオは突然の要請に戸惑いながらも、すぐに、
「うん、やる。」
と目を輝かせて返事をし、「よろしく」と付け加えた。
そのあとリオは、Bloody Dollsのメンバーと一緒にスタジオの近くにあるラーメン屋で夕飯のタンメンを食べた。「今日はおごり」と怜が言った。やはりマックでないところが十九歳と高校生の違いだろうか、とリオは何となく思った。
他のメンバーとはラーメン屋の前で別れ、帰り道、怜とリオは二人で並んで歩いていた。怜はリオと高校が一緒だっただけに、メンバーの中で一番リオの近くに住んでいた。会話が途切れたときに怜が言った。
「今日、何かあったの?」
リオが驚いて怜を見ると、「泣いたあとみたいだったから」と怜が真顔で言った。意気揚々としていたリオの元気が急に萎む。言葉が見つからない。
「彼氏とケンカ、というか怒られた。」
かろうじてそう答えた。まさか優弥にむりやり犯されたなんて言えない。
そんな生々しいことを怜に話したくなかった。知られたくなかった。でもリオはこの悲しみを何とかして訴えたかった。
「顔、ひっぱたかれた。」
そう言ってリオは怜のほうに顔を上げた。怜は少し眉をひそめると、黙ってリオの左の頬に手を添えた。怜の手の温もりが、じんわりと頬に染み込んでいく。とたんにリオの目から涙が溢れ、堰を切ったように流れ出した。リオの顔がくしゃくしゃに崩れていく。
怜は少し目を細めてリオの頬から手を離すと、その手で柔らかくリオを抱き寄せた。一瞬どきりとしたが、リオはそのまま怜の胸に真っ直ぐ立ったまま抱かれた。リオの頬が怜の硬い胸に当たり、涙が怜のシャツを濡らした。リオと怜の周りを通行人がじろじろ見ながら通り過ぎていく。怜はリオが泣き止むまでずっとそうしてくれていた。
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