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14・・・キケンな晃
 その日リオと優弥はまた朝からバイトに入った。バイトは他に、前からいる女子大生一人と若い主婦二人。そしてあの倉田あきらもいた。リオがバイトを始めてはや二週間がたち、新人もほとんど普通に仕事をこなせるようになっていた。暑いせいか今日も注文はアイスコーヒーばかりだ。客の出入りは激しく、忙しなく動いているうちに、あっと言う間に時間が過ぎた。

 午後三時半。バイトが終わり、着替えを済ませたリオと優弥は店を出て、駅に向かって歩いていた。
「あっ。忘れたっ。」
 ふとメールチェックをしようと思い、リオはバイト先のロッカーに携帯電話を置きっぱなしだったことを思い出した。仕方なく優弥と一緒にもと来た道を戻る。優弥には外で待っていてもらい、リオだけが裏口から中に入った。従業員用の通路を歩き更衣室に向かう。辺りは静かで、店でかかっているジャズの音楽だけが遠くで小さく流れていた。

 更衣室のドアは暑いので、いつも開けたままになっている。
 入ってすぐ右は壁で左側にいくつかのロッカーが背を向けて並んでおり、その内側で着替えるようになっていた。男性用と女性用でそれぞれ区切られていて入り口にのれんがかけてある。そのロッカーの固まりを通過すると、更衣室の奥に四畳ほどの空間があり、そこに従業員が休めるように小さなテーブルとソファーが置いてあった。

 リオは更衣室に入り女性用の入り口ののれんをくぐろうとした。とそのとき、ジャズの音楽に混じって聞こえる誰かの声を確認した。
(まだ誰かいるのかな・・?)
 すぐに奥のほうからくぐもったつやっぽい女の声が聞こえる。女の声は拒否を示す内容の言葉を発している。でもはっきりとせず中途半端な断りかただ。好奇心にかられ、リオはそっと足をしのばせながら声のする方へ進み、奥の休憩場所をのぞき込んだ。すると、
(ひぃ・・・!!)
 とたんに、リオの心臓がドクンっと鳴った。
 目の前のソファーの上で男と女が重なり合っている。男はリオのほうに背を向け女の上に覆いかぶさり、キスをしているような構図だ。男の左手は女の胸の位置で動き、右手は女の下半身をまさぐっている。そしてその時、女の手がゆっくりと男の背中に回された。

 リオは慌てて身を引っ込め、ささっとロッカーに戻ると、すぐそばにあったパイプ椅子の上に自分の携帯電話を見つけた。それをむんずと掴み、足早に更衣室を出た。音がしないように通路を小走りし裏口のドアを開けると、リオの帰りを待っていた優弥がこちらを見た。

「あった?」と聞く優弥に返事もせず、リオは優弥の腕を引っ張り、強引にドアの中に引き入れる。リオはドアを閉めると背伸びをして、優弥の首に両手を回しながら乱暴に唇を重ねた。
「・・・リオ?」
 ふさがれた口で優弥が不思議そうに問いかける。リオはかまわず優弥の唇に吸い付いたまま離れない。
 リオの頭の中は、さっき見た驚愕きょうがくの光景がぐるぐると回転していた。背後から見えた男の無造作に立ち上がった黒い髪の毛・・・・・、あれは紛れもなく倉田あきらだ。しかも、相手の女のほうに見えた長い茶髪の大きな巻き毛。あれはさっきまで一緒に働いていた女子大生ではないか。
 十日ほど前、晃があの女子大生に「宜しくお願いします」と挨拶していたのをリオは思い出した。

(会ったばっかりだし。しかも三つも年上だし。)

 リオは、再会した日に見た晃の不敵な笑みを思い返した。

(オソルベシ、クラタアキラ・・・。)

 長い長いキスを続け、誰もいない従業員用の通路に、リオと優弥の鼻で息をする音だけが小さく響いていた。腰に回された優弥の手がゆっくりと動き出し、リオの肉体をさ迷う。さっきリオが見てしまった晃の右手と同じように・・・・・。




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