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11・・・途中まで
 リオの部屋に入った優弥は、置いてあるものを一つ一つ物色し、机の棚の上に膨大に並んでいる雑誌「YOUNG GUITAR」 の背表紙を見て、「やっぱ、これか〜」と笑った。
 リオはキッチンでアイスティーをこしらえるとお盆にのせて自分の部屋に戻ってきた。バイト先で買ってきた色とりどりのフルーツが山のようにのったババロアケーキを皿にのせる。バイト中にリオが、「あれが食べたい」と言っていたのを帰りぎわに優弥が買ってくれたのだ。

「おいしい。」
「うん、うまい。」
 うれしそうにケーキをほおばるリオを、優弥はテーブルに頬杖ほおづえを付き、目を細めてながめていた。
 
「今日、リオのママは・・・?」
 リオが「ママ」というので、優弥も「リオのママ」という呼び方をする。この質問を優弥から受けたリオは、既にベッドの上に仰向けになっていた。
 ケーキを食べ終えた後に目が合った時、二人はどちらからともなく顔を寄せキスをした。そして、そのまま優弥はリオの体を抱き上げると、ベッドに運んでそこに押し倒したのだった。
 
 優弥はリオの顔の横にまっすぐ伸ばした両手をつき、上からじっとリオを見つめている。リオの胸の鼓動が、とたんにゆっくりの状態からアップテンポに切り替わった。毎日の生活の中で、リオの心臓が早く打つような状況は今までほとんど無かった。ライブでギターを弾いているときも授業中先生に指名されたときでも、興奮することはあっても緊張することは無かった。なのに、最近のリオの心臓は急に忙しくなってしまった。

(この状況で、その質問って・・・・・?)

 戸惑とまどいを隠せない目で優弥を見つめる。そして、言葉に詰まりながらも何とか口に出した。

「・・・どうして?」

「・・・・・・・・。」

 優弥は物憂げにリオを見つめたまま何も言わない。沈黙に耐え切れずに、勇気を出してリオは言ってしまった。

「今日は、帰ってこない日だよ・・・・・。」

(でも、だめだよ。まだ、怖いよ。)

 口に出せなかった。そのことに触れるのが恐ろしかった。何もしないかもしれない。リオの考えすぎかもしれない。でも・・・・・。

 優弥の顔がゆっくりと近づき、唇が重なった。はじめは優しく、だんだんと激しく、舌と唇を動かしていく。それと平行して、リオの体温も段々と上がっていった。
 静まり返った室内に、二人の唇が離れたり重なったりする音だけが控えめに聞こえ、その音が二人の気分を妙に高揚させた。いつもしている事なのに、ベッドで優弥と重なり合ってするキスは、いつになくリオの緊張を煽るものがあった。

 キスをしながら、優弥はリオの体を探っていく。硬くて大きな優弥の手が、リオの胸の肉をそっと(つか)み、次第に力を込めてほぐしていった。

(怖い・・・・・。)

 思わずリオが身をよじる。体の下のほうからは変な感覚がモアモアと立ちのぼり、それがリオの呼吸を乱していく。
 優弥のほうも、マラソンをしている時のような苦しげな息遣いに変わっていった。優弥の唇は、リオの首筋を伝って次第に下へ下へと移動していく。それと同時進行で、優弥の右手がさりげなくリオのTシャツのすそを捲くり上げた。

「優弥、恥ずかしいよっ・・・。」
 あわててリオが優弥の手首を掴む。優弥は、
「・・・大丈夫。」
 と言ってリオの手を簡単に振りほどいてしまう。

(何が?何が大丈夫?)

「リオ、汗かいてるもん。汚いもんっ。」
 自分のTシャツを掴み、じたばたともがきながらリオが必死で訴える。
「だから、大丈夫だってばっ。」
 そうこうしているうちに、リオは(すきを狙ってガバッとね起きてしまった。

 優弥に背を向け、両腕を抱えて下を向く。
 気まずい沈黙・・・・・。

「ごめん・・・。」
 先に優弥が口を開いた。
「・・・そんなにやだ?」
 優弥は少し寂しそうに肩を落として言う。
「リオがすっげーかわいいと思うから・・・・・、こういう事、したくなるんだよ・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
 リオは言葉が見つからない。リオだってもっと進みたい気もする。でも、進んだら恐ろしい気もする。
「いやじゃないよ。でも、心の準備が・・・。まだ勇気ないよ。」
 リオが小さくそう言うと、優弥は再び勢い良くリオをベッドに押し倒した。リオが目を大きくして固まっていると、

「じゃ、途中までなら、いい?」

 と、優弥はリオの鼻に自分の鼻を引っ付けて言った。リオは仰向あおむけでうなずけないので「うん」と恥ずかしそうに小さく答えた。

 そのあと二人は、また最初から「途中まで」を始めた。キスをしながら、優弥の手はリオの体を服の上からなぞっていく。再びリオの部屋に二人の熱っぽい息使いだけが響く。

 しばらくすると優弥は、ハァと大きく息を吐きながら、

「マジやばいっ。」

 一言そう叫ぶと勢い良く立ち上がり、一目散にリオの部屋を出て行ってしまった。
 ばたばたと廊下を走る音と、バタンとドアを閉める音が壁の向こうで響いた。

「途中まで」は、特に若い男の子にとってはこくだということをリオはカレンに貸してもらった雑誌で予習済みだった。たった今済んだ実習も、そのテキストどうりだった。優弥はおそらくトイレにでも行ったのだろう。

(ごめんね、優弥。でも、リオにはまだきついかも。)

 リオは一人心地良い余韻よいんひたりながら、ベットの上でいつまでもまどろんでいた。



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