ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
終わっちゃったのかと見せかけておいて思い出したように更新してます。

すいません・・・。

もっと時間がほしいです。( ̄  ̄)

他の作品も書きたいです。
109・・・別れ
「出ない・・・。」
 木村カレンは呟いて携帯電話をぱちんと閉じた。寄りかかっていた自分のベッドの上には早坂陸がうつ伏せに寝そべって漫画雑誌を広げていた。溜息をつくカレンのうなじを早坂は横目でちらりと見る。
「大丈夫だよ・・・。夜になれば普通に戻るんじゃね?」
 カレンは反応しない。うな垂れたまま握った携帯電話をじっと見つめている。ぶらさがっている携帯ストラップは掌と同じくらいの大きさのぬいぐるみでできた茶色いくまの顔だ。

「でも・・・、おばさんも心配してた。なんか様子が変だったって・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
 今朝早くカレンの携帯にリオからメールが入っていた。
『やっぱ今日パス ごめん』
 午前中から二人で洋服を見に行く約束をしていた。そのあとすぐにリオの携帯電話にかけたのだが、電源を落としているらしく繋がらなかった。自宅に直接かけてみると、電話口に出たリオの母は不安げにこう言った。
『ちょっと出掛けてくるって言ってふらっとどこかに行っちゃったのよ・・・。昨日も一日中ベッドに横になってたし、ご飯も全然食べてないの・・・。』
 
「ブラド、首になったんだろ?」
 早坂が少年ジャンプをバタンと閉じて身を起こした。
「そう。」
「ありえねぇよな~・・・。」 
「そうだよ・・・。ありえないよ・・・。怜先輩も明人先輩もなんなんだよ・・。」
 カレンはじっと携帯を見つめ、握った手に力を込めた。割れてしまいそうだ、と思いつつ早坂が言った。
「瑠偉さんとは・・・どうなるのかな。」
「・・・・・わかんない・・・・・何も聞いてない・・・・・。リオは落ち込むと全部一人で抱えちゃうから・・・・・。」
 カレンは窓の外に目を向けた。リオは今、どこで何をしているのだろう・・・。真紅のカーテンの向こうに夕日が丸く燃えていた。


 くうぅ・・・と音がしたのでリオは音の出た場所を掌で押えてみた。左右に出っ張った骨よりもへこんで見える腹部・・・。感覚は無かったが、腹が減っていたらしい。よく考えてみれば何となく何か口に入れたい気もする。でも、入れるとしても液体が限度だろう。ここ数日、一日一食分すら食べていない。胃袋は完全に活動休止中だ。
 何をどうやったのかは明白に思い出せないが、多分電車とバスを乗り継いでいつの間にかこの海岸に辿り着いていた。砂場に降りるための石段の途中に腰掛けて海を見ている。顔を上げ、遠くの水平線に浮かぶ小さな船を眺めた。日差しを浴びて水面がキラキラと点滅している。瑠偉と初めて来たのもこの海岸だった。真冬の夜中で、あの海はただ真黒に荒れる冷たい水でしかなかった。

 ふと、小さな鞄の中から何かの音がした。携帯電話の震える音だ。もう今日だけで何回鳴っただろう。全く反応する気になれなかった。興味も無い。こんなに空っぽで、こんなに絶望のどん底にいる自分とは関係なく、空は爽やかに澄み渡り、海は気持ちの良い音を立てて波打っている。波を避けようとして若い数人のグループが奇声を上げて楽しげな声をあげてはしゃいでいる。この世界でまるで自分だけが異次元空間にいるようだ。

 怜の顔が浮かんだ。忘れようとしてもずっと意識の中に居座って消えてくれない記憶だった。数日前、怜は突然一人で現れて、リオの住むマンションの公園に来るように電話で指示をした。怜はベンチに座り、隣に座ったリオに向かって言葉少なにそして簡潔に、要件を伝えた。HIROYAが出した条件とその理由、そしてメンバー全員でよく話し合ってそれで納得したという事実。
 はじめリオは話しが良く飲み込めなかった。しかし、把握できてからは何を言ったのかよく覚えていない。ただ本当にそれが事実なのかということを怜に何度か聞き直した気がする。怜が冷静に答えるのを見て、リオはこう訊いてみた。
瑠偉るいも、そうしたいって?」
 怜が一度何か飲み込んだように喉を鳴らしてから「ああ」と答えるのを聞いて、リオの脳内は空白になった。「どうして・・・」その言葉だけが繰り返し木霊していた。
「何で瑠偉は来ないの・・・。」
 どうしてそれを言うのが瑠偉じゃないの。どうしてメールが来ないの。どうして電話も出ないの・・・。
 怜は動揺を表面に出さずに何度か瞬きをしたが、何も答えてはくれなかった。疑問は今も解決しないまま、今尚リオの体内でうごめいている。

「一人?」
 頭上から声がした。見ると、知らない顔の男が微笑を浮かべて見下ろしていた。学生には見えない年、けれどまともな大人でないようなだらしなさを感じる危うい笑顔。リオは海岸に視線を戻し、すっとたちあがった。道路に向って元来た石段を上がった。
「ねえ、ちょっと待ってよ・・・。」
 男の指先が二の腕に触れたので一瞬おののき歩く速度を増した。すると男のほうも何か言いながら大股で追いかけてくる。たまたますぐそばに誰もいない。男の手が腕を掴んだ。慌ててそれを振りほどき、走り出した。下を向いたまま、がむしゃらに走った。大して距離は無かっただろう。だが、とてつもなく長い時間に感じた。気がつけば、コンビニの外に設置されたごみ箱に片手を置いて息を荒くしていた。振り返って辺りを見ると、もう男の姿はなかった。とたんに気が緩み、涙が溢れた。

「どうして・・・。」
 どうして瑠偉はここにいないの。どうして助けにきてくれないの。どうしてリオは一人でいるの・・・。
「ふぇぇぇ・・・・・。」
 リオは一人膝を着き、その場に泣き崩れた。せきを切ったようにとめど無く涙が噴き出した。見知らぬ土地の海辺のコンビニでゴミ箱の横に小さく丸まったリオは、目の前に駐車された車の陰に隠れて、誰の目に留まらずにただの置物と化した。アルバイトの店員が気付いて入口のガラス越しに気にはしていたが、別に問題は無いと判断して声をかけることもなかった。日も暮れかかって店員が三度目にそこを見たときには、もう元の何も無い景色に戻っていた。

 ずっと下を向いて歩いていた。だから、自宅マンションの前の公園に瑠偉の車が横付けされていることに気付いたのは、だいぶ傍まで近づいてからのことだった。正確にいえば、足元に瑠偉の赤いスニーカーの先が見えた瞬間だった。すぐに顔を上げた。瑠偉が黙って見下ろしていた。胃の中に何か消化の悪いものでも入っているような顔をして。

「どこ、行ってたの?」
 無気力に瑠偉が言った。リオはじっと瑠偉を見つめた。言葉は出ない。死人にでも遭遇したような顔だった。
「乗れよ。」
 瑠偉が自分の車を顎で指し、自分も乗り込もうとして動いた。立ち止まり、リオを振り返る。リオは相変わらず固まったまま微動だにしない。再び見つめ合った。車に乗る意志が無いのを把握すると、「そっか」と瑠偉は寂しそうに笑った。

「怜の言ったことは本当なの・・・?」
 しばらくの沈黙の後、リオが言った。瑠偉は一瞬傷付いたような顔になり、しかしすぐに元に戻って答えた。
「ああ。・・・そうだよ。」
 それを飲み込み、溜息をついてからリオは低い声を出した。
「ありえない・・・。怜も瑠偉も、みんなも。」
 吐き捨てるように言ってから目の前を通り過ぎて行こうとしたリオを、「待って」と瑠偉が腕を掴んだ。
「待ってリオ、オレたち、どうなる・・・?」
 瑠偉の声はかすれ声だった。
「終わりだね。当然でしょ。」
 リオが下を向いたまま答えると、瑠偉は掴んでいた腕を引き寄せてリオを抱きしめた。とたんにリオは抵抗してもがいた。
「放してっ。」
「リオ・・・。」
 二人で縺れ合いながらも瑠偉はリオの襟足を掴み、無理矢理に唇を重ねた。
「・・・やだっ。」

 拒否されても瑠偉は力ずくでリオを押さえつけ、やめようとはしなかった。リオは具合悪く重なる唇の間から不満気な唸り声を漏らしていたが、そのうち観念したのか急に力が抜けたようにおとなしくなった。応えてくるリオの舌の感触を確かめると瑠偉もほっとしたように拘束を解き、口を放して今度はリオの丸い頬に柔らかくキスをした。塩辛い味を感じて瑠偉は目を開けた。目の前に、閉じた目からいく筋もの涙を流して悲しみに歪む顔があった。
「リオ・・・・・。」
 瑠偉は目を閉じたままのリオの頬を両手で包み、間近に見つめて言った。
「リオ、オレ、リオが好きだ。それじゃ、ダメか・・・?」
 目を閉じたまま反応しないリオにもう一度問い詰める。
「ダメか?」
 するとリオの目がゆっくりと開き、小さく口が動いた。
「・・・・・ダメだよ・・・・・。」

 愕然としてる暇は無かった。突然リオの両手が胸を思い切り押しやり、瑠偉はよろける様に一歩後ずさった。体勢を整えながら戸惑いの目を向ける瑠偉にリオは目を見開いて叫んだ。
「一緒に、夢見ようって、言ったっ!!」
 リオの声はマンションのコンクリの壁に何の抵抗も無く響いた。と同時に瑠偉の胃の辺りが鈍い痛みを訴えた。
「瑠偉のうそつきっ。最低っ。」
 背を向けて行こうとするリオを瑠偉はすがりつくように背後から抱きしめた。
「放してよ!」
 再びリオが身を解こうと暴れる。瑠偉は放さない。
「オレを・・・。」
 耳の横で聞こえる瑠偉の声は涙混じりだった。
「オレを、捨てるのか・・・?」
 愕然としてリオは動きを止めた。瑠偉はしゃくり上げながら泣き声で繰り返す。
「オレを捨てるのかよぉ・・・。」
「何、言ってんの・・・。」
 怒気のこもった声で言うと、リオは乱暴に身を揺さぶり再び瑠偉を自分の身から剥がした。
「何で、そんなに勝手なのっ・・・・・。」
 振り返り、真っ直ぐ瑠偉を見据える。 
「捨てられたのはリオだよ・・・。」

 冷たく言い捨てるとリオはすぐに瑠偉をから身を放して駆け出した。その後姿はあっという間にエントランスの中に吸い込まれて消えた。瑠偉は動けずに脱力し、がくりと地べたに膝を着いた。追いかける気力も無かった。何度も行き来したこの見慣れた空間は、もう自分が足を踏み入れる権利など無いような気がした。
 誰もいないマンションのエントランスが暗がりに浮き上がり、むやみやたらと白く光っていた。まるでそこが神聖な場所であるかのように。堕ちてしまった自分を拒絶し、威嚇するかのように。  

 首を上げて夜空を仰いだ。色白で面長の男の顔が浮かんだ。大好きなマリリンマンソンが真っ赤な衣装に身を包み、星屑の光るステージに立ちマイクスタンドの前で見下ろしていた。両手を広げ、瑠偉を迎え入れるかのようにゆったりと不気味に微笑んでいる。真紅の唇にぎらぎらと光る銀歯を覗かせて・・・。
「マンソン・・・・・。」
 それは次第に水の中でぼやけるように揺らめいて、最後には交じり合うただの色の塊となって消えた。
 元に戻った暗い夜空を見上げたまま、瑠偉は擦れた声で言った。
「オレは、マンソンになるんだ・・・・。」
 片膝を立て、ゆらりと立ち上がる。手の甲で濡れた頬をしごき、黒いカーゴパンツのポケットから煙草を取り出した。一本咥え火を点けると、今度はリオの住む九階の部屋を見上げながら煙をくゆらせた。ベランダ側のリビングは閉めたカーテンの隙間から黄色い灯が漏れていた。リオはもう部屋に着いただろうか。今頃自室に篭って泣いているのだろうか。
 早々に吸い終えた煙草をアスファルトに吐き出し、スニーカーの裏ですりつぶした。もう一度九階を見上げる。そしてすぐに踵を返し、手を伸ばして運転席のドアを開けた。




Marilin Manson-mOBCENE

http://www.youtube.com/watch?v=mdwZV4Y95Nw&feature=related



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。