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 1・・・ギタリスト、リオ
 県立日の出台南高校の視聴覚室。リオ率いる女の子バンドチェリッシュは、新入生歓迎ライブに向けて放課後練習をしているところだった。
「今の曲さ、なんか途中から皆で走っちゃったからもう一回やろうよ。」
 とギターのリオの意見に、一同、「え〜・・・」と苦笑いのうんざり顔。
「もう続けて六回目だよ?飽きちゃうからさ〜とりあえず次の曲いかない?」
 ヴォーカルのカレンが笑いながらそう言うと、リオは、
「あま〜い!こんなんじゃ新しく入ってくる一年にばかにされちゃうよっ?」
 とメンバーをあおる。でも、それもここまで。リオがそれ以上言うと、「どうせあたしたちは下手ですよ、リオと違って」と言わんばかりにすぐにいじけて、メンバーのやる気を下げてしまうからだ。リオは仕方無しに、「あと一回だけだから、頑張ろうっ」と皆を励まして妥協する。

 リオはJポップのコピーをやるチェリッシュという女の子バンドでギターを担当している。今まで、同じ高校内の男子とセッションでロックバンドを組んだりもしたが、どれもリオを満足させることはなかった。
 どの子も本気が無い、とリオは思う。
 女子は特にそうだった。たまたま真面目でお利口さんばかりが集まったせいもあるのだろうが、チェリッシュのメンバーときたら試験前はバンドの練習を休むのが当然だと思っている。さらに、彼氏にやめろと言われたからという理由でバンドを抜けた子もいる。
 確かに、バンドをやっていない男子からすればバンドをやっている彼女などかわいくないのかもしれない。でも、やめてしまったという事実が結局かわいい子であったということだ。彼氏がいれば音楽が無くても満たされてしまうということだから。と、リオは考察する。
 さらに、女子という生き物は、どうしてどいつもこいつも皆ろくな演奏ができないのか、とリオは悩む。しかも周りの人間も、それが普通だと思っているのだ。
 リオは高校一年のとき、自分たちのバンドチェリッシュのライブが終わると、お気に入りの先輩に聞いてみたことがある。

れい先輩、私たちのライブどうだった?」
 その質問に対し、軽音楽部で三年生だった沢村怜は、キャラメル色の長い前髪をさらりとかき上げ、
「いいんだよ、ギャルバンはヘタクソでも。かわいけりゃ。」
 と身を屈めてリオの顔を覗き込み、フっと微笑んだ。リオは、夜の猫のように黒目勝ちな少し上がり気味の目をしばたかせながら、予想外の回答に言葉を詰まらせた。
(・・・・・ふざけんなよっ。)
 女をばかにしてんのか、こいつは・・・。そう思った事をリオは口にも顔にも出さなかったが、すぐに怜は、
「でも君のギターは別。やるじゃん。でも音が全然曲に合ってねえし、うるさすぎだし、違うだろっ。」
 と、付け加え、今度はアハハと声を出して笑った。笑うと垂れた目がさらに横に伸びて優しげに見える。怜は、大きな二重のためか少々虚ろな目をしており、それが何となく気だる気で、独特の色気をかもし出していた。

 そのホストのようなネーミングが似合う風貌の沢村怜は、骨格だけはしっかりしてるが、ロック系のギタリストによく見る肉が少なくヒョロリとした細長い体系。そんな彼のはじき出すギターサウンドは、リオの感じる音、燃える音だった。何よりも怜のプレイには卓越した技術があった。華麗なステージアクションも目を引いた。

(かっこよくなきゃロックじゃない)

 これがリオのロックと認める第一条件だ。かっこいいと思う対象が出す音であれ見た目であれ、それは理屈では無い。とにかくかっこいいと思わせる事がポイントなのだ。
 そしてリオは、そんなかっこいいロックミュージシャンに憧れていた。そのためには、男でなければと思っている。なってやると思っている。ようするに、リオは自分がかっこいいロック少年になりたいのだ。なぜなら、リオの尊敬するギタリストが皆たまたま男だったから。それが女であっては想像も付かない。だからリオは、無理だと思いつつもかっこいいロック野朗を目指している。そして、そんなリオの身近にいる理想のギターヒーローが先輩の怜なのだった。

 リオは、ポップスの曲をギターで弾くときでも、ちゃんと音で自己主張をする。曲自体をロック調にアレンジしてしまうか、曲に合っていなくてもギターだけディストーションの効いたやかましい音を出してしまう事もあった。それがリオの精一杯の反抗だった。そもそも、音のことでとやかく言うほど、人の音を聴いているメンバーはチェリッシュの中にはいなかった。
 でも、怜は気付いてくれた。だから、怜の失礼な言動も帳消しにしてあげることにした。正直、チェリッシュの演奏がひどかったというのは怜に聴くまでもないという事は、リオ自身が一番分かっていた。

 とにもかくにも、「女の子バンドはヘタクソでいい」という怜の言葉を覆すがごとく猛練習をするよう、リオはチェリッシュのメンバーに力をこめて訴えた。
「あんなこといわれてくやしくない!?」
 それに対しキーボードの美羽は「ひど〜い」、ドラムの愛里は「ムカつく〜」とリオの意見に同調するのだが、結局、
「でも〜、カレンは可愛いから、このままでいいや!」
 というボーカルのカレンの一言で、キャハハと笑いが起こり、皆その意見に乗ってしまった。
(ダメだ、こりゃ・・。)
 リオはすんなりサジを投げた。結局彼女らは、音楽をやりたいというよりは、ただ皆で楽しく目立ったことができればそれでいいという段階でしかなかったのだ。だいたい男子にしたって、本気モードでバンドをやっている高校生などなかなか見つからない。皆そこまで音楽だけに没頭することはできなかった。他にも高校生の好奇心をそそる、やるべき何かとやらざるを得ない何かがあったのだ。

 リオは違った。中学二年のときに初めて Motley Crueを聴いた時の頭をガツーンと殴られたようなあの衝激。Guns N' Rosesを聴いた時の体中の血が沸き立つようなあの興奮。気付いた時にはもう、ママにエレキギターを買ってもらっていた。何を隠そう、リオにいらなくなったCDを渡してロックを伝授してしまったのはママなのだ。
 リオの頭の中には、真っ赤な髪の毛を逆立て真っ黒なロックファッションに身を包み、ステージの上でガガ〜ンとエレキギターをならしている自分の姿がすぐにイメージできた。それがなぜか男に見えるのだが・・・。

 こうしてリオの中学時代は、ひたすら音楽でいっぱいになった。学校で嫌なことがあっても、家に帰って大好きなCDを聴きギターをただがむしゃらに弾き続けることで毎日が満たされた。

 高校に入り、リオはすぐに軽音楽部に入る。その時点でリオはかなり弾けたのだが、かといって自分の望むバンドにすぐ入れるというわけではない。何と言ってもリオがやりたいのは、重くてうるさい音を出すハードロックというジャンルの音楽だ。

 しかし女子の中では、そういう音楽に興味を持つ子などまず見当たらなかった。男子の中には何人かはいたが、やはり男子は男子だけでバンドを組みたがった。皆友達同士で集まってバンドを組むという段取りが多く、ギターが弾けるからといってリオがいきなりその中に入っていくのは難しかった。ヴォーカルならまだしも、ギターだけ女というのは抵抗があるのか皆引いてしまう。しかも、パートの中でもギターを志願する人間が一番多いというのがバンド社会の常だ。

 結局リオは妥協し、「Jポップのコピーをやろう」と軽音楽部に入った女子をそそのかし、女の子バンド『チェリッシュ』を結成する。この条件なら軽音楽部の中でメンバーはすぐに集まった。リオとキーボードの子以外は、皆そのときから楽器を始めた子ばかりだ。
 そんなチェリッシュが下手なバンドであればあるほど、リオの存在は一際目立つようになった。
 リオは、慣れてくるとステージでもよく動くようになり、重いギターを抱えつつも軽々とアクションをキメた。手足の長い細身のリオはそういう意味でもステージ栄えした。
 そしてギターソロをやるようになると、決定的に周囲から注目されるようになった。軽音楽部の誰もが、リオのはじき出す凄まじい早弾きに唖然とした。リオはテクニックにこだわるつもりはなかったのだが、弾いているうちに高度な技もあっという間にマスターしてしまった。ハードロックというジャンルは特に、技術的にやりがいのある音楽なのだった。

 チェリッシュは精力的ではないにしても、それなりに定期的にライブをこなし、地元のライブハウスにも出演するようになった。そうこう活動しているうちに、対バンになった地元の高校生とも仲良くなり、次第に音楽仲間も増えていった。同じ高校の男子とも単発でバンドを組んだりもするようになった。
 こうしてギタリストリオのバンド生活は徐々に道が開いていくようになった。

 
 読んでいただきましてありがとうございます。

 第一話は音楽ネタばかりでしたが一応恋愛ものです。バンド活動と恋愛、そして高校生にありがちな悩み、問題などを織り交ぜてリアルに綴っていきたいと思います。

Motley Crue『Shout At The Devil '97』→

http://www.youtube.com/watch?v=x3CNZ7iod9s

Guns N' Roses 『 Welcome To The Jungle』→

http://www.youtube.com/watch?v=o1tj2zJ2Wvg

例えばメタルが好きな人でもガンズ、モトリーなんてクソと言う人もいますけど・・・他にも色々なアーティスト名が出てきます。
登場人物それぞれの趣味がありますので・・・。(⌒ ⌒;


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