#94 戦の前触れ
「……よくぞ、参った」
広い天幕の奥まった場所、暗がりから声が届く。
この天幕の主である、四眼位の魔導師は、その皺にうずもれた瞳を開いて来客をとらえていた。
巨人族、カエルレウス氏族の集落にある天幕の中でもひときわ大きく立派なそれが、氏族の長たる彼女の住まいだ。
そんな、巨人の大きさからしても広めに作られた入口に、ぽつんと立つ小さな小さな二つの影。
巨人族にいわく“小鬼族”である、エルネスティとアデルトルートであった。
「本日は、ご用があるとのことで伺いました」
「よくぞ来た。こちらに」
巨人の老婆が、小さな客人を手招きする。
客へのもてなしとしてだろう、茶(のようなもの)が注がれた巨大な石椀が、二人の目前に出された。巨人用だけあって、石椀の大きさだけでエルの身長を軽く越えている。
しかし彼らも慣れたもので、しれっと持参の容器を取り出すと茶を汲んでいた。
一息ついた二人に、巨人の老婆は重々しく口を開く。
「用とは、ほかでもない。この地にある小鬼族は、普くルーベル氏族に飼われている。しかるにお前たちは、かの氏族の下にあったものではないと。その真を、聞かせてほしい」
「なるほど。少し長い話になりますが、構わないでしょうか?」
「無論。なに、魔導師は見知るがその務め。存分に話すがいい」
自身も茶をすすりながら、魔導師は頷く。
「わかりました。それでは、そうですね。まず僕たちがどこから来たのかを……」
そうして、エルネスティ・エチェバルリアは語り始めた。
巨人たちが暮らす森。その遥か西に、人間たちが暮らす場所がある。彼らは多くの国々を形作り、それぞれに暮らしており――。
しばし黙って耳を傾けていた老婆は、皺と見分けがつかなくなりそうな瞳をゆっくりと開いた。
「数多の小鬼族が暮らす国……。巨人おらぬ、小鬼族だけの国か」
「僕たちからすれば、こうして森に迷い込んで初めて、あなたがたのような巨人がいることを知ったのです」
「西には、それほど多くの小鬼族がおるというか。なればお前たちは皆、西から来た者たちか?」
「わかりませんね。そもそも、こちらでいう小鬼族が本当に僕たちと同じ種族なのか。それもはっきりとはしませんから」
長い話は退屈だとエルによっかかったまま、うとうととし始めたアディを他所に、エルと老婆は話し込む。
「僕たちは、そのうちフレメヴィーラ王国という国からやってきました。目的は、この森の探索。そのために……」
エルの話は続く。
巨人族に匹敵する巨人兵器、幻晶騎士のこと。そして天翔ける船、飛空船を用いて、森へと乗り出したこと。
さすがに、飛空船のあたりで老婆ははっきりとわかるほど目を見開いていた。
「……真なるか。西なる小鬼族、侮りがたいものだ。しかしそのようなものがありながら、お前たちは何故、二人だけでここにおろう」
「旅の途中で、穢れの獣と、戦ったのですよ」
それだけで、老婆はすぐに事情を察したようだった。
「襲いかかってきた蟲どもにも、それなりの痛撃は与えました。しかし相打ちに僕の巨人は倒れ、このアディと二人、こうして森を彷徨っているわけです」
「お前も、幻獣を操ると。……いや、だとすれば。もしや勇者が見つけた骸とは、お前たちが倒した穢れの獣か?」
エルの頷きを見て、老婆は溜息をもらす。
「さようであったか。まこと、驚くばかりであるな。本来ならば、とても眼映らぬことであったやもしれぬ。しかし我らが勇者を打ち倒した、その武勇はまことなり。百眼もしかとお目にされておろう。……実り多き時であった、よもや百眼に瞳をお返しする矢先にて、斯様な真を知ろうとは」
再び、老婆の瞳が皺にうずもれてゆく。そうすると、今度はエルが口を開いた。
「少し、僕たちからお聞きしても?」
「かまわぬ。我が見知ることなれば、なんなりと答えよう」
「こちらの……ルーベル氏族の下にいる小鬼族というのは、どのような者たちなのでしょうか。本当に、僕たちに似ているのですか?」
そこで、途中からエルの膝を枕に眠っていたアディがむくりと起き上がった。彼女にとっても小鬼族の正体は気になるところである。
「我の知るところ、姿かたちは同じもの。大きさは我らの膝ほどもなく、皆そろって二眼位であるのも。しかし我とて多くは目にせぬ、耳に聞くのみ。あれらは、ルーベル氏族のもとにしかおらぬゆえな」
老婆が、エルたちに顔を近づけながら言う。その巨大な瞳を見つめ返しながら、エルは小首をかしげた。
「その小鬼族とは、ずっとこの地にいたのですか?」
「それも、しかとはわからぬ。だが、我が瞳を授かるより先よりいたのは、確かなことよ」
巨人の一世代よりは以前からこの地に住まう、人間に似た種族。
二つ瞳で揃っているところからも、やはり巨人たちの近縁ではなく、人間に近いものたちであろうと考えられる。
「……だとすれば、味方に付けられないかな? いえ、わかりました。では、あと一つだけ……穢れの獣についてです。あれは、魔獣ではないのですか? それが何故、ルーベル氏族のもとにあるのか」
「知らぬな! あれはそも、全氏族に共通の敵であった!」
答えは、目の前の魔導師とはまったく別のところから、轟くように返ってきた。
エルたちが振り向くと、天幕の入り口に立つ勇者と目が合う。
「話は聞かせてもらった、見事である。小鬼族なれど、百眼もお認めになった勇者よ。かの穢れを掃ったのは、お前の幻獣であったか」
勇者は頷きつつ、特に遠慮もなく入ってくる。
魔導師も咎めることなく、茶を差し出した。受け取ったそれをすすりながら、勇者はエルたちの横にどっかりと座りこむ。
「信じられますか、その話を」
「約定もあることだ、疑いはせぬ」
ニィっと、歯をむき出しに笑う。それから、何かを思い出すように目を細めた。
「穢れの獣であったな。あれは空を翔け穢れ撒き散らす、我らが大敵であった。そも、あれが狙うは我らばかりにあらず、森に生きる尽くが、その獲物であった」
自在に空を飛び、有毒・溶解性を有する体液を武器とする巨大な蟲型魔獣。
それがこの森にあっていかに猛威を振るっていたかは、容易く想像できることである。
「我らが祖から、幾たびも抗ってきた。あれを倒すことこそ、勇者の務めの一つと言えよう。……だが、あろうことか! 次に目にしたとき、あれらはルーベル氏族に従っていたのだ! それこそが、全ての誤りであった」
「その口ぶりでは、なんだか最近のことのように聞こえるのですけれど」
「左様。まだ百眼も巡っておらぬ、先の“真眼の乱”のことよ」
エルとアディは顔を見合わせた。
「真眼の乱?」
「ルーベル氏族めが! あろうことか、百眼の選定を晦ましおった! 奴らは、我らが王位を穢したのだ!!」
「王位を?」
「然り! 王を名乗れるのは、ただ“六眼位”のみ。眼満ち足りぬ者は、決して値せぬというのに!」
話しているうちに、勇者の鼻息が荒くなってゆく。いくらか時は経てど、その怒りは未だ鮮やかであるようだ。
それよりも、エルは別の点に疑問を抱く。
「もしかして、目の数が多いと王に選ばれるのですか? それは、当人の能力は考慮しないと」
「そのようなこと、気にするまでもない。六眼位は、最も百眼神に近い存在。王に戴くば、百眼はより多くの眼を開きて我らのおこないを見てくださろう」
彼らにとっての王権とは、エルたちが知るそれとは大きく異なっていた。
完全な神授形式に依存し、王というよりはどちらかといえば神との仲立ちとしての性質が強い。さらに人間のそれとは異なり、明確な身体的特徴を要求するものなのだ。
「そのようになっているのですね。だとすると、六眼位がいない時はどのようにしているのですか?」
「眼満ち足りぬ時は、我らのおこないは百眼まで届かぬ。ゆえに氏族で賢人議会をもち、新たなる六眼位の誕生までを耐え忍ぶのだ」
「それはなかなか、独特な方式ですね。それで今は、六眼位の王がいないはずと」
エルの問いかけを耳にした瞬間、勇者はカッと目を見開くと興奮のあまり立ち上がった。
「そうだ! ルーベル氏族の五眼位めが!! 眼の足りぬ分際で、浅ましくも王を名乗りおった!! なんと醜いことか! これでは百眼が眼を閉じてしまわれる!!」
それまでは黙って勇者にまかせていた老婆が、そこで再び口を開く。
「そも、ルーベル氏族とは全氏族の中でも大きく、眼にも恵まれていた。これまでにも、何眼もの王を戴いてきたというのに」
「そういうことですか。最大勢力であった彼らはついに、眼の数を無視し始めたと」
「そのとおりだ! 王を僭称するなど、祖からの伝えにもなき愚劣の極み。なお浅ましきことに、ルーベル氏族はこぞってこれを認めたのだ! 本来ならば、まず氏族にて汚名を雪ぐべきであろうに!!」
そこで、少し勇者の調子が落ちた。彼は、強く握りしめた拳を振るわせる。
「……この愚行に立ち向かわぬ氏族はいない。いや、いなかった! だが……!!」
「その誤りを支えていたのが、氏族の武力であり……穢れの獣であったと」
「そうだ。あろうことか、全氏族の宿敵であった穢れの獣を、ルーベル氏族は従えてみせた。真眼の乱では奴らの穢れを受け、多くの勇者が倒れた!!」
そこで、ようやく勇者が座り直した。
先ほどまでの怒りは多少和らいだようだ。しかし代わりに、彼は強い後悔の表情を浮かべている。
「我らは、止められなかった。しかし……六眼位がおらずして、逆に良かったのかも知れんな。このようなおこないを、百眼のお眼に入れるわけにはゆかぬ」
意気消沈する勇者を横目に、エルは腕を組む。
「……穢れの獣に、小鬼族? ふぅむ。話を聞いていると、そのルーベル氏族だけがずいぶんと変わっているのですね」
そこに、彼は一体何を見出したのか。考え始めた横で、勇者が拳を打ち付ける。
「だがしかし! 小鬼族の勇者よ。お前たちが、かの穢れの獣を倒したと。これすなわち、百眼がお示しになったことに違いない。過ちは正し、汚名は雪がねばならぬ!」
「つまりルーベル氏族へと戦いを挑む、というのですか。確かに穢れの獣を減らしたと言っても、それでなくともルーベル氏族は最大の氏族なのでしょう?」
勇者はエルをじっと見下ろすと、重々しく頷いた。
「承知の上よ。だが、これは我らが真の問い、違えたままにするわけにはゆかぬ。彼奴らをただすには、より多くの眼を開く必要がある。故にこそ、諸氏族を集めて賢人の問いを啓くのだ」
「もしかして忙しく狩りをしていたのって、その準備ですか……」
エルは、状況を知って困惑していた。
彼らの旅と出会いは、この地の巨人たちに大きな影響を与えていたようだ。さらには幻晶騎士を失った状態で争いの只中にあろうとしている。
「それは、のんびりともしていられませんね」
その時、横にいたアディがエルの服のすそを引っ張った。
「巨人さんたち戦争する気っぽいけど、どうする? 手伝うの?」
「思いがけず僕たちが原因になっちゃってる気もしますけど。とはいえ別に、ルーベル氏族と敵対したわけではないのですよね。それに、幻晶騎士のない戦いなんてイヤですし」
「やっぱそこ……?」
二人の相談をじっと見下ろしていた勇者が、そこで口を挟んだ。
「小鬼族の勇者よ。お前たちは、我が氏族の新たなる同胞となった。だからといって、戦いにまで加われとは言わぬ。これは、我らが百眼に示さねばならぬこと」
「左様。穢れの獣を倒したと、その勇にて満ち足りておる」
魔導師も頷く。
エルはすっと姿勢を正すと、二体の巨人を見上げた。
「……僕たちは、できることならば故郷に帰りたいと思っています。そのための準備をしたい」
「なるほどな。小鬼族の勇者よ、旅人よ。我らカエルレウスの民は、同胞への助けは惜しまぬ。お前が願い求めるならば、必ずやその力となるだろう」
「巨人の力が借りれるのならば心強い。お願いしますね」
笑顔で喜ぶエルを見ながら、アディはたぶん力の意味が違うんだろうなぁと、微妙な表情で考えていたのだった。
そんな会話があり、それからしばらく経った頃。集落はにわかに賑わいを増していた。
ほうぼうへと遣いにだしていた者たちが、各地に暮らす氏族からの答えを携えて戻ってきたのだ。
「賢人の問いに臨んで、数多くの氏族が応じ参加すると」
「やはり、ルーベル氏族のおこないは許されぬ。百眼は過ちをお見過ごしにはならぬのだ」
カエルレウス氏族から送られた、賢者の問いを啓く報せに対し、各氏族からはそれぞれに応じる旨が返ってきていた。
ここで遣いをだしたのは、各地に点在する中小規模の氏族に対してである。つまり彼らは、大規模な氏族であるルーベル氏族を相手に、氏族連合を組んで対抗しようとしているのだ。
「さよう。いずれにせよ、ルーベル氏族を野放しにはできぬ。穢れの獣がなき今こそ、得がたき機会である。皆、それをよくわかっておるということだ」
集落の中央にある広場に集まった巨人たちも魔導師の言葉に頷き、手足を打ち鳴らしてはやし立てた。
彼らの心は一つ、この時のために日々準備を積み重ねてきたのである。
「問いには、氏族より我らが向かおう。留守の間は任せた」
賢人の問いとは、要するに戦に先立つ会議のことである。まさか氏族丸ごと参加するものではなく、魔導師と勇者が代表として向かうものであった。
そこで勇者は、巨人たちの盛り上がりをぼけっと眺めていたエルたちのもとへとやってくる。
「見たとおりだ。我らは賢者の問いを啓きにゆく。お前たちはどのようにするか」
「僕たちは、やらねばならぬことがありますから。ここで皆さんと留守をあずかっておきます」
「承知した。従者に言付けておこう。用あらば、遠慮なくいうがよい」
「はい、ありがとうございます」
こうして氏族とエルたちの見送りを受けながら、魔導師と勇者は賢人の問いを啓くために出立していったのであった。
二体が旅立った後も、集落に残った巨人たちは変わらぬ生活を送っていた。
ひとつ変わったことといえば、抑え切れない高揚感のようなものが含まれるようになったことか。
「……いったいこれは、なんの遊びなのだ」
そんな中にあって、深い困惑を懐く巨人が一体。一眼位の従者は、その大ぶりな一つ目を瞬かせながら、足元を見下ろした。
そこでは彼の膝ほどもない小さな人影と、鎧を着てもう少し大きめになった人影が、何やら忙しなく動き回っている。
その小さなほう、エルは腕を組みうんうんと唸りつつも、頭上からの質問に顔を上げた。
「研究です」
「……ううむ? 小鬼族にとっては、骨並べが生業になるのか?」
エルたちが何をやっているかといえば。
捨てられた魔獣の骨を拾い集めては何やら人間の形に並べ、ああでもないこうでもないと言いあっているのであった。
巨人たちが狩り集めた魔獣は、甲殻や革は鎧の素材へ、肉は食用に用いられる。
骨も鎧の素材ではあるのだが、使い道のない部分が多くあり、それらは集落のはずれにまとめて捨てられる。
それをエルたちは、わざわざ拾い集めてきたのだ。
「エル君、これなら?」
「あ、ちょうどよさそうですね。長くて頑丈ですから、脚に使いましょう」
降下甲冑を纏ったアディが、背丈よりも大きな骨を持ち運び、地面に置く。
一つ目の巨人は、説明を受けてもまだ困惑を隠せないでいた。
彼は、もとは勇者の付き人のような役目を負っていた。そのため従者の号を持つ。
その勇者が賢人の問いへと赴くにあたり、小鬼族の勇者に便宜を図るよう命じられていた。
この小鬼族といえば、身なりは小なれど彼の主ともいえる勇者を打ち倒した、剛の者である。それを支えるにやぶさかではなかったのだが、肝心の行動が良くわからない。
巨人たちにとって、魔獣の骨を使ったパズルというのは、子供の遊びとして親しまれている。
その場合は正しく獣の形に組み戻せれば成功という決まりなのだが、小鬼族たちは様々な骨をてんでバラバラに集めていた。
さらにそれを、まるで巨人のごとき形に並べているとなれば、もはや不気味とすら言える。
「我では眼が足りぬのか。小鬼族の考えることは、さっぱりわからぬ」
一つ目の従者は気味悪げに、しかし律儀にエルを手伝っていた。
とはいえ実をいうと、当のエルにしても同じようなところがあり。
「ううむ。こうして魔獣の骨をいじくりまわしていると、なんだかこう、禍々しいことをしているような気分になりますね」
「いまさら気付いたんだ……」
そこには、世が世なれば死霊術師とでも呼ばれかねない雰囲気があった。
当然、エルは大胆な転職をはかったわけではない。
「やはり、魔獣の骨では形の合いが良くない。大きさも均質ではないし、欲しい形があるとも限らない……これで設計するのは、それこそ骨が折れますね」
彼が求めているものは常に不変。巨人兵器、幻晶騎士だ。
魔獣の骨を用いた代替幻晶騎士製造計画の、これは一歩目であった。
「難しいよねー。この骨、強化魔法がかかっていないと金属内格より脆いし」
「出力の無駄が多くなってしまうのですよね」
金属を加工する際のノウハウは、十分に持っている。しかし魔獣の骨を使った幻晶騎士の製造など、彼らは経験したことがない。
そのために下調べが必要であった。
エルは、用意した樹皮にメモを書き込んでゆく。
「形が取れないところは、小さな骨を組み合わせて、強化魔法で結合させましょう。それをしても、精度があまくなるのは逃れ得ない。いくらか力づくになるのは仕方ないのでしょうね……」
幸いにも、イカルガのもつ大型魔力転換炉“皇之心臓”は、出力だけは潤沢にある。
そもそもイカルガ自体、高出力の強化魔法によって支えられた機体だ。
「皇之心臓を使うのは絶対。それが収まるように配置して、あとは……」
知識の整理が終われば、次は設計である。
強度の問題を別にすれば、その要領自体はこれまでの幻晶騎士設計と変わりない。
イカルガも心臓部周りは無事であるし、ある程度の流用は利く。
「魔獣の骨を使うとなると、かなり損失が多い。それでも普通の幻晶騎士程度の能力は確保できるでしょう」
「本当に作れたらねー」
エルは、並べられた骨をゆっくりと見回した。
まるで巨人の白骨死体が現れたような有様になっている。当然、それは死の沈黙の中にあった。
「このまま並べたところで意味はない。動かす……やはり問題は結晶筋肉ですね」
「エル君。巨人さんたちが戦争になるならイカルガとかシーちゃん、はやく回収しないとまずくない?」
その時、アディがはたと手を打った。
先日の魔導師、勇者との話からすると、巨人たちは間もなく戦争状態に入る。
そのただなかで、のんびりと幻晶騎士を作るのは、いかにも困難であった。
「そうなのですけど……運ぶこと自体は巨人にお願いできるとして。いったいどこに運べば戦いに巻き込まれずに済むのでしょうね」
「それもそっか。じゃあ幻晶騎士作らないと動けないのに、作るためには安全な場所まで運ばないといけないんだ。あれ? 何かおかしくない?」
堂々巡りに陥り、アディが首をひねる。
「僕たちだけでどこかに運べればいいのですけどね。本当に、これが動いてさえくれれば、いくらでも運ぶものを」
材料はなんにせよ、巨人兵器として動くのであれば、エルは嬉々として運搬に従事するだろう。
実際には順番が逆になるところが、問題なのではあるが。
「できないことを悩んでも仕方がありません。なるべく急いで、結晶筋肉の代わりになるものを探しましょう」
「うーん。想像つかない」
「はい、僕もです」
その後、一つ目の従者は「魔法現象によって伸び縮みして加工がしやすい魔獣の素材はないか」などという無茶な質問を浴びて、目を白黒させる羽目になるのであった。