ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第1章 転生、そして学園生活編
#2 魔法を使おう
 エルネスティの前世である“倉田翼”は、所謂ヲタクであった。
 ジャンルはメカもの。毎月ホ○ージャパンをチェックし、毎週ファ○通でメカゲーを探す、それがかつての彼の生き方だった。
 どちらかというとだらしない方に属する性格だったが、趣味に関しては情熱……というより執念を感じるほどのやる気を出す。
 それでもさすがに戦車にのるために自衛隊にいく、というほどアグレッシヴな生き方はしていなかったが、今生は物が違った。
 
 巨大ロボット――幻晶騎士シルエットナイトの存在。
 
 彼は最初、プラモデルもゲームもない世界での第二の人生に失望の色を隠せなかったが、その存在を知ってからはむしろこの世界に転生させてくれた何者かに感謝した。
 何せ冗談でもなんでもなく全高10mものサイズの人型兵器が存在するのである。
 メカヲタクを自認する彼にとって、幻晶騎士との邂逅は自身の天命を悟るに十分な衝撃を持っていた。
 
 僅か1歳にしてエルネスティは早速人生プランの構築に取り掛かった。
 巨大ロボット――幻晶騎士に乗るためには、騎士になることが必要であるらしい。
 騎士といえば地球のそれを思い出すが、この世界でもその在り方に大差はないようだ。
 
 ならばやることは一つ、自力英才教育である。
 それは他の人よりも先んじると言うよりは、彼自身が一刻も早く騎士……ひいては巨大ロボットに辿り着くための決意だった。
 それでもさすがに僅か1歳の幼児に出来る事などほとんどなく。
 逸る気持ちを抑えつつ、母親に絵本を読んでもらって文字を覚えたりしながらしばしの時を過ごす事になる。
 
 
 
「父様、少しよろしいでしょうか」
 
 自宅で休憩していたマティアス・エチェバルリアは息子に呼ばれ振り返った。
 彼の息子、エルネスティは今年で3歳になる。
 母親であるセレスティナ(ティナ)と同じ紫銀に輝く髪を顎の辺りで切りそろえて、母親譲りの容姿をもつその姿は非常に愛らしく、普段は鬼教官でならすマティアスも今ばかりは相好を崩している。
 
「どうしたんだい? エル」
「父様にお願いしたい事があるのです」
 
 エルネスティは年の割りに非常に明瞭に喋る。
 そもそも何故かはわからないが、1歳を過ぎるころにはそれなりに喋れるようになっていたのである。
 それを喜んだティナにより色々な会話の特訓を受けた結果、一時期言葉遣いが混乱していたが3歳となった今では丁寧な話し言葉に落ち着いていた。
 
「(十分に話せるようにもなったし、ええ頃合やろ)」
 
 しかしエルの内面は前世たる“倉田翼”から変わっていない。
 “地球”の言葉で思考しながら“この世界”の言葉で会話を行う。
 多少奇妙な状態だったが、異なる2つの世界に生まれついた彼にとっては自然なことであった。
 そして今もかつての世界の言葉で思考しながら、この世界の言葉で願いを口にする。
 
「父様、僕は騎士になりたいのです。僕に剣を教えてください」
 
 
 マティアスは困った。
 息子が騎士を目指すのは良い。本人にやる気があるのは素晴らしい事だ。
 だが如何せんその息子は3歳……剣を教えるにもまだ早い。
 もう少し体が出来上がってからでないと逆効果だ。
 その上息子は年々妻に似た可憐な面差しを見せてゆき、身長もやや小柄だった。
 我が子ながら十分に剣を振り回せるか、少し躊躇を感じるのも本音だった。
 それでも無下にする事はせず、焦らずにまずは体力作りから始める事、剣術以外にも魔法の知識が有効でありそちらを学ぶ事を勧めた。
 
「魔法……わかりました父様、そのうち剣も教えてくださいね」
 
 少し悩んだ風を見せた後、決意に眉をつりあげて言う息子に押され、マティアスは6歳になったら練習を始める事を約束したのだった。
 
 
 急いては事を仕損じる、エルは剣術を一旦保留にしてまずはできることから始めた。
 
 “魔法”
 
 前世にはなかったその技術に惹かれた事もある。
 メカものを専門にしていたエルではあるが、RPGもそれなりにプレイしていた事もあり、魔法も十分に魅力的な存在だった。
 エルの母親、セレスティナの父親はライヒアラ騎操士学校の現学長、ラウリ・エチェバルリアその人である。
 そのコネを最大限利用し、エルは母親に頼み込んで魔法についての教本をそろえたのだった。
 
 体力作りについては、最初は全く体力がなかったため家の周りをマラソンし、いくらか腹筋腕立てを行っていた。
 それと並行して魔法についての学習をすすめる。
 エルはまだ3歳ではあるが、その中身の精神は30年以上を経た大人のそれである。
 文字さえ理解できれば、内容を読むのは全く苦ではなかった。
 むしろ物が物だけに単なる“勉強”より楽しめ、ある種の遊びの感覚だったと言うのも大きな理由である。
 子供特有の柔軟な学習能力と併せて、恐るべき速度で内容を理解してゆく。
 
 
 この世界で魔法と呼ばれているのは、魔力マナを現象へと転換する技術である。
 大気中に存在する“エーテル”を体内に取り込み、精製する事で魔力マナとしてその身に貯める事ができる。
 これは、この世界の意思ある生物なら全て可能な機能である。
 
 そして、魔力マナを燃料として、魔法術式スクリプトにより現象の内容を決定し、触媒を介す事により世界に現象として発現させる。
 これが魔法の基本的なプロセスであり、この触媒の有無によって魔法が使える生物と使えない生物が分かれる。
 魔法が使える生物(この世界では魔物、魔獣などと呼ばれる)は、体内にこの触媒にあたる結晶を持っている。
 それにより、例えばドラゴンは魔法でブレスを吐くのである。
 
 元々この世界の人間は体内に触媒をもたない、魔法の使えない種族であった。
 それを、知恵により魔法術式を解き明かし、触媒を外部に用意する事で魔法を使用可能となったのだった。
 
 それがこの世界では弱小の位置に甘んじていた人間が一定の勢力を得るきっかけであり、遥かな研鑚の末に魔法の力で動く巨大兵器……幻晶騎士シルエットナイトを作り上げるに至って、有力な種族としてのし上がった。
 幻晶騎士の力で大陸全てを制覇できないのかとも思ったが、結局は一時領土を広げてもそこを維持できない事が原因のようだ。
 幻晶騎士であれば勝つことは出来ても生身の人間の手には余る魔獣も多く、突出した後ろが危険にさらされることもしばしばだったと言う。
 また、幻晶騎士はその製造、維持にかなりのコストが必要な戦略兵器の一種であり、大陸全てを平定するだけの兵力を集めるのは事実上不可能であった。
 徐々に領土を広げた結果が今の半分までであり、この状態で数百年は膠着状態となっているようだった。
 
 
 話を魔法に戻す。
 さて、魔法術式の構築は、脳内にある魔術演算領域マギウス・サーキットに式を展開する事により行われる。
 魔術演算領域はこの世界の意思ある生物なら備えている機能だ。
 元地球人であるエルにはこれがスムーズに使えるのか不安もあったが、今の体は問題無くこの世界の生き物であり、その感覚に馴染むのにさほどの手間は必要なかった。
 魔法術式には基本的な現象を発現する基礎式アーキテクトと、それらをつなげて使用するための制御式が存在する。
 それぞれは特定の図形のイメージで記され、それぞれを合わせて一個の魔法と成すと、丁度魔方陣に近い図形を構成する形となる。
 
 本来、初めて魔法を学ぶ人間が躓く事が多いのが魔法術式の構成である。
 基礎式の使用程度ならすぐに実行できるが、魔法の規模を大きくするために魔法術式を拡大しようとすると、その理解に慣れが必要になる。
 元々人間は魔法を使えないため高度な術式の構築には経験が必要であり、個人の資質が問われる部分であった。
 
 しかし、ここでエルの理解を助けたのが前世の職業であるプログラマーの経験だった。
 エルにとっては魔術演算領域は脳内に仮想的にパソコンがあるようなものであり、魔法術式はそのものプログラム言語と理解していた。
 文法を飲み込んだ後は教本から“読み込んだ”基礎式、制御式を思考上のエディタで編集する。
 さすがに経験者であっても余りに規模のでかいソースを思考だけで組み上げる事は出来ないが、魔術演算領域というPCがあるため、エルは特に疑問に思うでもなく次々に術式を構築しソースを組み上げてゆく。
 エルはこの世界の人間がどれくらい魔法を使えるか、そういった知識、常識を持たないが故に気付かなかった。
 極めて複雑な構文を構築し、制御しうる自分の演算能力が如何に異常かを。
 
 
 
 パシュッ
 
 軽い音をたててエルが手にもった石から火線が飛び、標的のど真ん中に焦げ目を残した。
 
「まぁ、基礎式とはいえこんなにすぐに魔法を使えるなんて。エルはすごいわ」
「母様、本には基礎式は基礎中の基礎と書かれていましたが」
「そうね。でも、今みたいに的の真ん中へ真っ直ぐ飛ばすには練習が必要なのよ」
「(ほんまか? プログラム的には“Hello,World”並にベタやねんけど)」
 
 座学だけでは机上の空論、エルはティナに用意してもらった触媒を使って魔法の実技を行っていた。
 エルは色々な基礎式を試し、実際に魔法を使う感覚を養っていた。
 幾らかの魔法を放ったところで、エルは全身に疲労感を感じ始めた。
 体力の消耗とは違う感覚に戸惑ったが、これが魔力マナを消耗したと言う事なのだろう。
 周囲のエーテルを吸入し、魔力を少しでも補おうと、呼吸が荒くなる。
 
「(……こないに疲れるもんなんか。こらごっつい魔法使うのなん何時になるんかわからんなぁ)」
 
 その様子を見たティナは優しく微笑みながら息子の頭をなでる。
 
「……情けないです。少し使っただけで疲れてしまって」
「そんなことはないわ。エルはまだ小さいもの、魔力だって少なくて当然なのよ?」
「体が大きくなれば、魔力も増えますか?」
「うーん、そうね。体力と同じようなものと思えばいいわ」
「わかりました。だったらこれから魔力トレーニングも始めます!」
 
 意気込むエルにティナはやや苦笑しながら彼の頭を撫で続けていた。
 
「まぁ、エルは本当に頑張りやさんね。でもあんまり焦っては駄目よ。無理は良いものではないのだから。」
 
 エルも確かに3歳児の思考としては異常極まるなと思い、同時にあまり母を心配させる物ではないかと反省する。
 
「はい、できるところから少しずつ進めていきます、母様」
 
 
 
 先々を考えて、まずは体力と魔力の底上げを重点的に行うこととした。
 術式の構築に関してはPC相当の存在がある以上、前世のスキルに物を言わせばなんとかなる。
 後はそれを扱う自分自身のキャパの問題になる。
 
「(つまり目指せガン○ムファイターな生き方な訳やな)」
 
 そこでエルが目をつけたのが身体強化フィジカルブーストの魔法であった。
 身体強化は、その名の通り使用者に筋力の強化、耐久性の向上、動作速度の向上の効果を与える魔法である。
 普段の体力づくりにこの身体強化を併用することで魔力を消費し、それぞれを効果的に鍛えようと思い至ったのだ。
 
 しかし、この身体強化という魔法は上級魔法――それも魔法、身体能力共に相当な修練を積んだ末に使用可能となる奥義のような代物であり、簡単に使えるものではなかった。
 何故かと言えば、それは魔法を発動させる手順に由来する。
 魔法の効果を決めるのは魔法術式の構成である。
 それは、基礎式に近い単純なものほど制御が容易で、制御する対象が増え変数が多くなればなるほどその構築・制御が困難となり上級の魔法となる。
 一口に身体強化と言ってもその内容は筋肉の一つ一つ(・・・・・・・)の性能強化、反動に耐えるための骨格への強化、同じく表皮の耐久性向上を含む高度な複合魔法であり、その構成は複雑極まりないものとなる。
 さらには自身の体の動作状態により刻一刻と変化する制御対象、その上効果を発揮するためには継続して魔法術式を維持・発動させ続けねばならない。
 止めに戦闘中に使用するためには戦いながらそれだけの制御を行わなければならないのだ。
 如何に大規模でも一発放てば終わる遠距離系の魔法に比べ、この手の制御系の魔法が上級といわれる所以である。
 
 しかしエルはそれをあっさりと解決する能力を持っていた。
 身体強化の術式構成を見直し、関数化や隠蔽により構成を圧縮。
 可能な限り制御対象の変数を減らし、その上で自身の状態をなかば自動的に取得するサブ関数を作成、構成さえ組めばあとは勝手に制御を行えるようにし、負担を軽減する。
 
「(ほんまにこれ上級魔法なんか?なんかロジックに無駄が多くて扱いにくいだけなんちゃうか?これまで誰も改良せんかったんかなぁ)」
 
 そんな器用なことはそうそう誰にも出来ないのだが、そんなことは露知らずさくっと魔法の改良…それも恐ろしいほど劇的な改良を行う。
 それでもまだまだ制御の難しい魔法のはずだが、彼の異様とも言える高い演算能力はそれを全く苦にしなかった。
 
 触媒を片手に満を持して身体強化を発動しいざ往かん日課のマラソンを、と意気込んだエルを直後に悲劇が襲った。
 強化された肉体の強烈な手ごたえに感動する暇も有らばこそ、ほんの数百メートルを走ったところで魔力不足を起こして倒れ伏すはめになったのだ。
 さすがは上級魔法、必要魔力コストも上級だった。
 そんな基本的なところをすっぱり見落としたエルは落胆を隠せぬまま、しばらくは基礎魔術の使用で鍛錬を行うのだった。
 
 
 
 弛まぬ努力により彼が身体強化をそれなりの時間発動させれるようになるまで、それから2年の時間が必要となる。
 そんなこんなでエルは子供の憧れで済ますには異常なほどの熱意を持って日々目的に向かって邁進するのだった。
Web拍手


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。