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Knight's & Magic  作者: 天酒之瓢
第8章 巨人戦争編
118/224

#118 答えの行方


 巨人族アストラガリの諸氏族が集いし諸氏族連合軍エクサーキトゥス・デ・バリィスゲノス。森を揺るがす足音は遠雷のごとく響き渡ってゆく。


「……諸氏族連合軍が、動いただと?」


 それは間をおかずしてルーベル氏族(ゲノス・デ・ルーベル)の知るところとなった。

 彼ら自身、諸氏族征伐のために西進している最中のことである。いずれ遭遇は必定であり、ただ少しばかり彼らのほうが耳が良かった。


 ルーベル氏族を統べる“五眼位の偽王”は、持ち込まれた報告を前にして考え込む。


「一瞬きの前まで、問いが啓かれる気配すらなかった。しかし今や諸氏族連合軍は成り、あまつさえすでに動き出しているだと。なぜだ、よもや我らの動きが見えていたというか?」


 彼は己の瞳のうち三つを閉じて思考に沈む。

 彼が知る諸氏族というものは、大局を見据えるような考えは持っていなかったはずである。目も悪く、少し離れた場所にあることは見通せない。ルーベル氏族に先んじて諸氏族が動き出すなど、今までになかったことである。


「奴らは、カエルレウスが瞳を閉じたことで震えあがっていたはずだ。何者が問いを啓いた?」


 そもそも諸氏族とは、穢れの獣(クレトヴァスティア)の存在を恐れて瞳を閉じた臆病者のはずであった。

 なかでも目障りであったカエルレウス氏族はつい先日滅ぼしたところである。小なりとはいえひとつ氏族が滅ぶさまを見て、代わる氏族がすぐ現れるとも思えない。


「諸氏族連合軍はこちらに向かってきていると」

「だとして、我らのやるべきことは変わりない。ただ小さな氏族を掃うだけではなくなったというだけのこと」

「真眼の乱の二度目だ。もはや目こぼしなどいらん、叩き潰してやればよい!」


 ルーベル氏族の巨人たちはそれぞれに沸き立ち、戦意を露わとしている。もとより戦うために動いていたのだ、その意味で予定に変わりはない。

 同胞の様子を横目に、偽王は考え続けていた。


「一度は、諸氏族連合を組むだけの理由は失われたはず。再び瞳開く理由は……我らの動きを見たとしか思えぬ。諸氏族など所詮は即席の集まりに過ぎない、ゆえに漏れ聞こえてくるものがあった。だが、我らは? ひとつ氏族なのだ、どの瞳が逸らされようか」


 巨人族にとって氏族の絆は絶対である、内部から情報が漏れることは極めて考えにくいものだ。そもそも己の氏族に害をなして得をする巨人などいない。

 だが現に、彼らの動きは察知されていた。だとすれば、疑わしき相手は自然と絞られてゆく。


「我らと共になき瞳……まさか、小鬼族ゴブリンどもか?」


 偽王は五つの瞳を険しくして空を見上げた。木々に切り取られた空は晴れ渡り、穏やかに広がっている。そこに、不吉な獣の姿はない。すでに百都メトロポリタンを出てよりそれなりの時間が経っているにもかかわらずだ。

 彼でなくとも、何らかの問題が進行していると確信を得るに足る。


「穢れの獣は未だ動かぬか。魔導師マーガめ、何をしているか。いや、それも小鬼族の仕業かもしれぬ……真の見えぬ者たちよ」


 偽王のもつ五つの瞳――巨人族でも最上位の力を示す証しだ――に、悪しきものの影が映りこむ。状況は、真眼の乱とはまったく違う形をとりつつあった。


 この問いにおいて、穢れの獣が戦力にならないのは確実である。だがそれがどうしたと、偽王は不敵な笑みを浮かべた。


「我が目だけでは見通せぬとて、歩みは止めぬ。たとえ穢れの獣がなかろうとも、我らはルーベル氏族。巨人族を統べるべき者である!! 我が手によって、問いに答えを出せばよいこと!!」


 諸氏族連合軍が動いているとわかった今、なおさらルーベル氏族が下がるわけにはいかない。それは彼らの面子において許しがたいことなのだ。


 偽王は決断を下し、氏族を率いて前進を続けた。

 森に響く足音は、やがて双方に伝わるほどになる。互いにすでに理解している。衝突は目前であると。巨人たちの住まう森を揺るがす、戦いの幕が上がる。




 諸氏族連合軍が進む。

 その上空では、銀鳳騎士団率いる飛空船団がわずかに先行していた。空を行く飛空船レビテートシップと地を歩く巨人では、もともとの速度が違う。

 地を進む色とりどりの印を見失わないよう、彼らもできる限りゆっくりと前進していた。


「壮観というべきでしょうか」


 窓から下の様子を眺めて、エルネスティが呟く。

 森の緑に入り交じり巨人たちが歩いている。氏族ごとに特徴ある色合いをまとっているために地上は実に色鮮やかな様子になっていた。


「ふうむ。なかなか面白い景色だね」

「大軍勢での移動はクシェペルカを思い出します。色合いでは、あの時よりも派手ですけど」


 基本的に国、あるいは騎士団ごとに機種が統一されている幻晶騎士シルエットナイトに比べて、巨人族の氏族は数が多い。地上はまるで、鮮やかな布が翻っているようになっていた。


 彼らが景色を楽しんでいると、伝声管からにわかに緊迫した叫びが飛び込んできた。


「偵察騎より、発光信号を確認!」


 すぐに船橋は緊張感に包まれた。続けて報告を待っていると、監視から詳細が届く。


「内容は……我……敵、発見す! 地上、巨人……多数!!」

「目視しました! 前方に!」


 飛空船の進む先には、地上を埋め尽くすような大軍勢があった。

 諸氏族連合とは異なり、ところどころから上がっている印は同じものである。つまりは、同じひとつの氏族であることを示していた。


巨人族アストラガリの最大氏族……ルーベル氏族。この方向から来る者たちは、他にはいませんからね」


 エルの呟きを耳に、ディートリヒは愉快げに笑う。


「君の言う通り、すでに迫ってきていたということだな。しかし周囲を見るに魔獣は居ないようだが、我々はどうする?」

「穢れの獣がいないとなれば、僕たちの動きも少し考えねばいけませんね。少し小魔導師パールのもとに向かいます」


 エルは言いながら身をひるがえす。


「わかった。船団は周囲を警戒しながら待機しておこう」


 エルは素早く船倉を駆け抜けると、カササギの操縦席に飛び乗った。

 カササギがイズモの船倉後部から投下され、そのまま虹色の円環を展開すると、地上へ向けて進んでゆく。


「ルーベル氏族が迫っていると! 奴らは確かに動いていたか」


 カエルレウス氏族の三眼位の勇者が唸る。居ても立ってもいられないと武器を引っ掴んで立ち上がった。


「ならばよし! いまこそ諸氏族とともに、真の問いを放つ時!!」

「少し落ち着いてください。問いの前に解決すべきことがあります」


 エルがなだめると、小魔導師も頷いた。


師匠マギステルの言うとおりだ。ルーベル氏族がここにあるなら、穢れの獣はどのように? 空には見えないようだが」

「僕たちの偵察でも見かけていません。よほど巧妙に隠しているのか、それとも小鬼族の皆様の頑張りが実を結んだのか、ですね」


 勇者はいったん座りなおした。得物は握ったままで、力が入っているのが見て取れる。


「穢れの獣はなく、か。であれば此度は我ら巨人族による正しき問いがおこなわれる。これすなわち百眼アルゴスが問いの決着をお望みということ!!」


 視線が動き、エルを捉える。勇者の三つの瞳は高揚し激しい熱を帯びていた。


「……小鬼族の勇者よ」

「わかっています。僕たちは空を見張りつつ、後ろのほうからついてゆくことにしましょう」


 巨人族は、あくまでも巨人族同士による決着を望んでいる。エルとしても、巻き込んだ銀鳳騎士団を矢面に立たせる気はなかった。

 彼はカササギとともに船に戻り、騎士団の動きについてを話し合う。


「地上に第二中隊を展開してください。後詰めとして諸氏族の穴を埋める形で動きましょう」

「我々であれば巨人くらい一蹴して見せるが、後ろでいいのかい?」

「何事もなければ少しくらいは暴れてもいいでしょう。ですが僕たちが警戒すべきは別のところにあります」

「穢れの獣とやらね。ここに居ないということは、彼らがよくやってくれたんじゃないのかい?」


 ディートリヒは、壁際に佇むザカライアに視線を送る。

 彼はあれからも時折、蟲を使った連絡を取り合っているようだった。この場に穢れの獣がいないということは、小王側の動きが功を奏していると考えていいだろう。


「彼らは約束を果たしました。次は僕たちの番です。人間の、小鬼族の力を見せつけるためにも美味しいところをかっさらうとしましょう」

「了解したよ、騎士団長」


 二人は頷きあうと、すぐに行動を起こした。

 飛空船団は諸氏族連合軍の上方、やや後ろに位置どる。全体の戦況を把握しつつ、飛翔騎士を周囲に飛ばして警戒を怠らない。

 第二中隊は単独で地上に降り、諸氏族に交じって戦闘に参加する。ついでに銀鳳騎士団の旗を掲げ、ここぞとばかりに存在を主張していた。


 諸氏族は戦いに臨む緊張と興奮を保ったまま前進を続け。やがて木々の切れ目へと辿りついた。

 連合軍は木の陰から、日の光の下へと進み出る。岩石が転々と転がっている開けた場所。対岸は木々ではない色に染まっていた。諸氏族が使っていない色、赤色へと。


 ルーベル氏族だ。ひとつ氏族で諸氏族連合に匹敵する規模がある。それこそが最大氏族の証しである。

 互いを確認したところで足を止め、荒れ地を挟んで両者が対峙した。


 ディートリヒは幻像投影機ホロモニターに映るルーベル氏族の様子を眺め、楽しげに口笛を吹く。


「ほほう。ルーベル氏族とやらは赤を使うのか、良い趣味だ。もしかしたら話があったかもしれないね、敵に回るとは残念だよ」

「隊長それ、色だけじゃわかんねーんじゃ?」

「とりあえず使ってるだけだし。もっと図柄にもこだわらないとな!」


 好き勝手に騒いでいる第二中隊をさておいて、巨人たちは動き出す。諸氏族連合、ルーベル氏族のそれぞれから数体が前に出た。


「我らは諸氏族連合軍なり! ルーベル氏族よ、真眼の乱における所業許し難し! 此度、正しく百眼に問う!」

「何度問おうとも答えは同じ。お前たちに真は見えぬ!」

「穢れの獣を使うなど、度し難く愚かなり! 百眼もお目を背けてしまわれよう! それでは答えを得たことにはならぬ!!」

「どうあがこうと、お前たちが真を得ることはない。もはや語る言葉もなし!!」


 互いに口上を述べあう、お決まりのやり取りである。彼らにとっての宣戦布告であり、問いが啓かれた時点で話し合いによる決着がついたことはなかった。


 互いに陣営の元に戻ると、空気が一変した。

 風にさざめく木の葉の揺れすら止まったかのごとく音は消えてゆき、代わりに緊張が張り詰めてゆく。互いに、直後の戦いに向けて力を溜めていた。


「問えよ、問えよ。賢人の問いである! 百眼よ、ご照覧あれ!!」


 両陣営で雄叫びが上がった。夥しい数の巨人の叫びは、世界そのものを揺るがす。今この時より、この場は百眼の加護が満ちる異界と化した。巨人たちは命を尽くし、問いへの答えを得るのだ。


 巻き込まれた第二中隊の悲鳴は簡単にかき消されてゆく。

 目を白黒させる彼らを尻目に、巨人たちが駆けだした。真正面からの突撃だ。決闘級の存在である巨人同士の戦いに、戦術などというものは存在しない。


 やや出遅れながらも、第二中隊も前進する。


「まだ耳の調子が悪い。ひどいめにあった、少し油断していたよ」

「まったくだ。しかし巨人ども、突っ込むだけかよ」

「そりゃあいつら剣も持ってなくて棍棒だけだもの。殴り合う以外の文化ないんじゃないかなぁ」

「あ、でもあの一角だけ様子おかしくない?」


 彼らは戦場の様子を確認し、殴り合い以外の戦いを見つけていた。

 そこにいるのは、鮮やかな青色の飾りをつけた氏族――カエルレウス氏族だ。彼らは一直線に突撃はせず、一塊になって距離を空けていた。

 その戦い方には見覚えがある。幻晶騎士にとって馴染みのある戦術だからだ。


魔法マギアを!」


 勇者の号令に応じ、巨人たちは手に手に魔導兵装シルエットアームズを構えた。間に合わせの急造品だが、こと巨人の戦いの中にあっては異質な輝きを放つ。


 淡い発光を残し、次々に法撃が放たれてゆく。

 “炎の槍(カルバリン)”と同じ爆炎の術式が、ルーベル氏族を襲った。真正面から向かっていた巨人たちは、予想外の攻撃を受けて混乱する。打撃音と足音に満ちた戦場の中でわきおこる爆発音は、ひどく異彩を放っている。


 間に合わせゆえ威力は高くないが、集中すれば巨人をも打倒しうる。

 それ以前にルーベル氏族は対処に困り、ひどく無様な動きを見せていた。


「なんだ!? あれはカエルレウス氏族ではないのか! あの返しぞこないどもに、なぜこれほどの魔術師マーガがある!!」

「こちらにも魔導師を! このままでは近よれん!」


 次々に浴びせかけられる法弾に、ルーベル氏族は動きを封じられている。

 しかし遠距離戦が始まった場所などごくごく少数派だ。たいていのところでは直接の殴り合いが始まっている。

 そのうちに戦況は明確になっていった。


「ぐぬっ! ルーベル氏族め、なんと堅い!!」


 諸氏族は、徐々に劣勢に陥っていた。理由は明白、ルーベル氏族のほうが装備が良いからだ。

 魔獣の素材を用いた武器防具を使う諸氏族に対して、ルーベル氏族は金属を加えてある。小鬼族が受け継いできた、幻晶騎士由来の高度な技術によって作られた武器防具は強力であり、氏族全体の力を一段階引き上げているのだ。


 単純な殴り合いにおいて、その差は絶大であった。諸氏族は一体、また一体と斃れ後退を余儀なくされている。

 ついにひとつの氏族が突破を許し、空いた穴へとルーベル氏族の巨人が殺到してきた。


「このままいけば諸氏族軍が各個撃破をくらう。そろそろ私たちの出番だね!」


 諸氏族連合軍を蹴散らしたルーベル氏族の巨人が、雄たけびを上げる。直後、彼の目前に紅の颶風が飛び込んできた。


「ぬぅっ!? 我ら以外に、赤をつかうな……っ!?」


 疑問は完全な言葉にはならなかった。放たれた真空の刃が巨人を殴りつけ、姿勢が崩れる。続いて振るわれた白刃の煌めきが彼の手から得物を奪い、残る一振りが命を奪う。


 血を噴き斃れる巨人を置き去りに、幻晶騎士たちが躍りこんでくる。

 ルーベル氏族は見慣れぬ巨人に立ち向かい、そして蹴散らされていた。


 強力な法撃はそれだけで巨人を倒しえる。刃や槍はたやすく巨人の鎧を穿ってゆく。彼らの戦闘能力は、諸氏族連合軍の巨人たちとは明らかに隔絶していた。

 長い時をかけて練り上げられ、さらにエルが手塩にかけた銀鳳騎士団の幻晶騎士たちは、およそ決闘級規模としてはあり得ないほどに強力である。ただ少し良い武器防具を用いているだけの巨人にとっては、荷が勝つ相手だった。


 出鼻をくじかれたことにより、ルーベル氏族の動きに淀みが生じた。

 もとより明確な戦術性によって戦っているわけではない。進むにも下がるにも困っている巨人たちへと、第二中隊が襲い掛かり痛撃を与える。


「小鬼族が、なんという戦いぶりか!」

「背を見るなど、百眼にお見せできぬ! 氏族よ、我らが勇をみせよ!!」


 第二中隊の奮戦を目にした、諸氏族が戦意を高める。

 戦況はひどく混沌としていた。いまだに総戦力ではルーベル氏族が優越する、しかし諸氏族は意気高く粘り強く戦っていた。


「このままもう少し、暴れておこう。周りへの圧力が下がったところで、いったん機体を休め……」


 中隊に指示を下す、途中でグゥエラリンデが大きく飛び退った。

 直前まで彼がいた場所に、巨大な炎の塊が飛来する。地面を穿ち、激しい炎を噴き上げた。


「法撃……いや、巨人の魔法だな。慌てて狙ってきたかな」


 ルーベル氏族の巨人たちが下がり、第二中隊の前に道が開く。真ん中を進み、ひときわ大きな躯体をもつ巨人が現れた。


「その姿、小鬼族の紛い物か。穢れの獣が現れぬばかりか、我らの目に逆らう。百眼の眼を惑わそうなどと大それたことを!」

「……まぁ、訂正の必要はないね」


 五眼位の偽王は、五つ瞳持つ顔を憎々しげに歪めていた。後ろに連れた四眼位の魔導師たちが広がる。


「この問いが終われば、お前たちは残らず踏みつぶしてやろうぞ。瞳を返さぬ者たちよ、ただ潰れて死ね!」


 偽王の両手に巨大な炎が渦巻きだす。五眼位の扱う魔法は、巨人族の中でも飛びぬけて強力だ。威力だけでいえば、イカルガの銃装剣を凌ぐ。

 偽王につづいて、四眼位の魔導師たちも一斉に魔法を紡ぎ出した。

 戦場の一角が、赤々と炎に照らされる。


「第二中隊、対法撃戦じゅん……」


 ディートリヒの叫びに先んじて、横合いから法弾が飛来した。

 水ならぬ炎を差された偽王たちは忌ま忌まし気に魔法を中断し、爆発をかわす。


「なにものか」


 問いかけに答える前に、ルーベル氏族と第二中隊の間に青い印を掲げた巨人が現れた。

 先頭に立った三つ目の巨人が、炎の燃える瞳でもって偽王を睨む。


「我が名は……カエルレウス氏族が三眼位の勇者(フォルティッシモス・ターシャスオキュリス・デ・カエルレウス)なり!」

「返しぞこないが。それほどまでに百眼の御許へ急ぎたいか!」


 偽王が圧倒的な体躯でもって、勇者を睨みつける。勇者は怯まず、三つの瞳もて受けて立った。


「ルーベル氏族の偽王よ! 我らが氏族より瞳奪いし借り、いまこそ返さん!!」

「眼下が……!! たかが三眼位が、我に逆らうなど愚かしき限りだ。魔導師よ、こいつらを掃え……」

「おや、巨人族は勇猛果敢なものたちではなかったのかな。正面から挑まれて逃げるとは、とんだお笑い草だ」


 片手を上げかけたところで、偽王の動きが止まる。瞳が動き、紅の騎士を捉える。


「小鬼族。先にお前たちから滅びたいようだな」

「それはできないな。私たちが戦ってしまうと、お前を倒してしまう。それでは彼が納得しなさそうだ」


 偽王の顔が、誰にでもわかるほどの憤怒の色に染まる。周囲の魔導師たちがなだめようとするも、彼はそれを振り払った。


「どいつもこいつも、目障りな! なぜわからぬ。最大氏族であり穢れの獣を従える、我こそが巨人族に輝かしき繁栄を与えるのだ! お前たちはただ我に従っているだけでよい!!」

「巨人族の繁栄だと。それを決めるのは、お前ではない!」


 三眼位の勇者が、一人前に出る。戦場の中心で、勇者と偽王が相対した。

 第二中隊はこっそりと位置を変えて、周囲の戦いからこの場所を切り離している。これで、一対一となった。


「もはや言葉はいらぬ。お前の瞳は返すことも許さん!!」

「我の言葉だ! ゆくぞぉっ!!」


 三眼位の勇者と五眼位の偽王は、同時に動き出したのであった。



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