挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。

昔物語集(童話)

鬼の面(昔物語1)

作者:かとうけい
 その昔。
 体は大きいが、肝っ玉のちっぽけな男がいた。
 この男、あろうことか盗みをなりわいとしている。

 ある月のない夜。
 男は一軒の屋敷に忍びこんだ。
 窓からほんのり灯りがもれ、トントンとなにやらたたく音が聞こえる。

――おっ!
 窓からのぞいた男は、腰をぬかさんばかりにおどろいた。
 鬼の顔がずらりと並んでいたからだ。

 ところが……。
 鬼たちはピクリとも動かない。
 男が目をこすり、あらためて見直すと、それらは壁にかけられた鬼の面ではないか。

――びっくりさせやがって……。

 男は家人に気づかれぬよう、音のしている部屋に押し入った。

 そこでは老人がノミを手に、一心不乱に木ヅチを振りおろしていた。
 見るに、鬼の面を彫っている。

 男は、老人の背後から忍び寄った。

「だれだ、オマエは!」
 老人が男に気づいてふり返る。

「金を出すんだ。でなきゃあ、痛い目にあうことになるぞ」
 男は、せいいっぱいすごんでみせた。

「金なんぞねえ」
 老人はそばにあった鬼の面をつかむと、あわてて小脇にかかえこむようにした。

「じゃあ、そいつをよこすんだ。売ればちっとは金になるだろうからな」
「ほかの面なら、どれでもくれてやる。だが、これだけはならん」

 それを聞いた男、その面がよほど値打ちがあるものにちがいないと思った。

「すぐによこすんだ。さもねえと命はねえぞ」
 男が刀を抜く。

「いや、ぜったいにわたせん」
 老人が面を抱きしめる。

 それは手本となる鬼の面。代々、この家に受け継がれてきた、何よりも大切なものだったのだ。

 刀をつきつけ、面をつかみとろうとする男。
 うばわれまいと面を抱きかかえ、あらがう老人。
 二人は、その場ではげしくもみあった。

「うわっ!」
 老人の悲鳴があがる。

 老人の首のあたりから血がふき出し、鬼の面を真っ赤にそめてゆく。男の刀が、はずみで首筋を切ってしまったのだ。

 男は老人の腕から面をうばいとると、一目散にその場を逃げ出した。


 かくれ家に逃げ帰った男は、血のついた鬼の面を水できれいに洗った。

 見れば見るほど、みごとな面である。
 とはいえ……。
 今さら売って、金にかえることもできない。老人を殺した者が、面から己だと足がついてしまうのだ。

 その夜。
 男は、どうしたものかと思案した。

――そうだ! 面をつければ顔が見られずにすむ。それにだれもが、怖れるにちがいないぞ。
 ためしに面を顔にあてがってみると、うまいぐあいに顔にぴったりとあった。

 次の日の夜。
 鬼の面をふところに忍ばせ、男はいつものように盗みに出た。

 金がたんまりありそうな屋敷の前で、さっそく面をとり出し顔につけた。顔がかくれ相手に見えないと思うと、いつになく気が大きくなる。

 男は屋敷に押し入った。

 家人は男を見るなり腰をぬかし、ブルブルふるえるばかりである。
 本物の鬼と思いこんだようだ。

 盗みは、だれにもじゃまされずに終わった。
 ことのほかうまくいったので、男は自分でもおどろいた。

 次の晩も、また次の晩も……。
 男は盗みに出かけた。
 鬼にあらがう者など、だれ一人としていない。
 すべて思うがままであった。

 鬼の面をとれば、男の顔は元にもどる。
 白昼どうどう町の中を歩くことができた。
 いつしか……。
 男は度胸がついていた。
 人を殺すことさえいとわなくなっていたのだった。

 ある晩。
 盗んだ金を数えているときのこと。
 つい男は、鬼の面を顔につけたまま寝入ってしまう。

 そして翌朝。
 目をさまして、やっと気がついた。
 面をとり忘れていたことに……。

 男は、すぐに面をはずそうとした。
 ところがどうやってもとれない。
 面の内側が肌にはりつき、一分のすきまもなくなっていたのだ。

――なんとしても、とらなきゃあ……。
 男は、必死になって面をとろうとした。
 だが、とろうとすればするほど……まるで顔の皮をはぐように痛いだけであった。

 その日。
 日が暮れるまで、男は考えつくあらゆることをやってみた。けれど、すべて徒労に終わる。

 男は泣いた。泣くうちに、涙が鬼の面の目からこぼれ出る。
 顔をさわってみた。
 かたかった面が、いつのまにかやわらかくなっている。
 さらにぬくもりまである。

 男は鏡をのぞいてみた。
 鬼のままだ。

――あー、なんということだ……。

 涙を流せば面の目が動く。
 息をすれば面の鼻が動く。
 声を出せば面の口が動く。
 顔の肌と面の境がなくなっていた。
 すっかり鬼の顔となっていたのだ。

 翌朝。
 小判の山にうもれるように、男は息絶えていた。
 そして……。
 男の顔のそばには、鬼の面が落ちていた。
 口と鼻の穴のふさがった鬼の面が……。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ