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夏休みの秘密
作:浅葉りな


 夏だ。
 夏といえば当然、夏休み! 夏休みといえばデート、そう相場が決まっている。高雄と恋人同士になったばかりの俺は、とにかく浮かれていた。
 だって恋人同士になってから、はじめての夏休みだ。海水浴とか夏祭りとかキャンプとか、イベントは目白押しなのだ。
 これが浮かれずにいられようか!?
 俺は断言する。これで落ち着いていられるやつは人間じゃあない!
「どうした、にやけて」
 高雄が相変わらずのクールさで俺に問う。俺は高雄の腕に自分の腕をからめて、でへへ、と笑った。
「だってさー夏休みだぞ夏休み」
「ただの長期休暇だろう」
「わかってないなー。俺は高雄といっぱい一緒にいられるのが嬉しくて仕方ないんだよ!」
 まったく、言わなきゃ分からないのかこの朴念仁。ああでもそういうとこも好きだ〜。
「――なにを考えてるかは知らんが、俺は夏休み中はずっと母方の祖母の家だぞ?」
 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 そんなのありかよー!
 高雄の母方の祖母の家、っていうのは、日に小さな連絡船が二度しか行かないような離島なのだ。そんなところに行かれたら、全然一緒にいられないじゃないか!
「しょうがないだろう。毎年恒例だ」
 そう言われてみれば、毎年、高雄、いなかったような。
 なんで忘れてたんだ俺!ああ〜間抜けだ〜。
「なんとかならないのかよ高雄〜」
「手伝いする、と言うんだったら連れて行ってやらないでもないが」
「やるやる! なんでもやる! で、俺なにしたらいいの?」
「力仕事」

 そんなわけで俺は、高雄と一緒に三時間連絡船に揺られて島に渡った。
 さすが田舎、空が本当に青い。水平線の辺りには入道雲があって、空も海もすごく青くて。
 太陽のせいでで皮膚がちりちりしたけど、そんなの全然気にならなかった。
 どうしてこんなに海って青いんだろう。水道の水はどれだけあっても透明なままなのに。
「そんなことも知らないのか?」
 どうも思っていたことが声に出ていたらしい。
「どーせ俺はおばかだよっ」
 ふくれてみせる。
 高雄は困ったような顔で、俺の頭をくしゃりとなでた。
「で、さあ。高雄のばーちゃん、どこにいるんだよ」
 あたりを見回してみるけど、誰もいない。降りたのだって俺たちふたりだけだった。
 他にはいろいろ入っているらしい段ボールがひとつ。それくらいだ。
「俺が案内してやるから安心しろ。優人は言われた通りにそれを運べばいい」
「着いた早々? まだ自分の荷物だって運んでないのに〜」
「おまえの荷物は持ってやるから。そういう約束だろう」
 そう言われると弱い。無理を言ってついてきたのは俺なのだ。
 でも、もうちょっとくらい優しくたっていいと思う。ぬいぐるみに盗聴機を仕掛けるくらい好きなんだったら、キスとかいろいろしてくれたってよさそうなものだけど、高雄は俺を抱き締めてくれたことすらないのだ。
 この夏、大人になってやるー! というのが俺の密かな目標だったりする。
 俺は仕方なく箱を抱えた。想像よりすこし重たくて、よろめく。なにも言わずに高雄が支えてくれた。
 愛なんだろーか、これって。ちょっとだけドキドキする。高雄と密着してるとこが熱い――のは夏だからか。
 でも高雄はすぐに俺から離れた。鞄をふたつ持って、先に立って歩き出した。
 俺はその後をひょこひょこついていく。
 思ったほどには遠くなくて、目的地にはすぐ着いた。
 そこはまるで、まんがに出てくる駄菓子屋だった。古びた木造の平屋で、店先には今はほとんど見掛けないような安価な駄菓子とか、それとは不釣り合いな生活雑貨が並べられている。
「おい、これはどーするんだよ!」
 俺を置いてすたすた上がり込む高雄に向かって叫ぶ。
「その辺に置いとけ」
 持っていかれたりしないのかなと思ったけど、置いていかれたくないから、日陰に箱を置いて高雄のあとを追いかける。
「お久し振りです」
 きっちり直角に頭を下げる高雄の背中にぶつかって、俺はうめいた。
 脇からのぞくと、しわくちゃで、でも背筋のしゃんとした和服姿のおばあさんが、レジの前でざぶとんに正座していた。
「よく来たの。荷物は持ってきたかい」
 話し方もきちんとしている。俺はぶんぶん首を振った。
「そこに置いてきました。他にやることはありますか?」
「とりあえず部屋に案内しよう。ついといで」
 高雄のばあちゃんは言って、立ち上がった。
 店に人がいなくなっちゃうけどいいのかな、と思ったけど、気にしないことにする。きっと平気なんだろう。
 レジのうしろの引き戸をくぐると、たぶん居間なんだろう部屋に出た。小さなテーブルがあって、その上には小さい蚊帳みたいなカバーが置いてある。中にあるのはたぶん、おにぎりだろう。
 天井からは黄色い紙がびらびらぶらさがっていて、部屋の端には白い煙をたなびかせる蚊取り線香があった。
 教科書とかまんがでしか見ないような、典型的な日本の家だった。
 四方にあるふすまのうち、右手のふすまを開けて高雄のばーちゃんは歩いていく。
 ふすまの向こうにあったのは歩くといやな音を立てる板張りの廊下だった。高雄のばーちゃんは短い廊下のつきあたりにある引き戸を開けた。
「ふたり一緒でよかったかい」
 振り向いて、高雄のばーちゃんが言う。
 部屋はそんなに広くないけど、かえってそれが好都合だ。高雄とべたべたする口実になる。
「あたしの部屋から近いと気を遣うだろうからね、そうするとここしか部屋がないんだよ」
「十分です。お世話になります」
 高雄はまた、深々と頭を下げた。
 呆然としている俺の脇腹に、高雄の肘が入った。
「でっ」
 うめきつつも、俺はお世話になりますと頭を下げた。
「じゃ、早速働いてもらおうかね」
 はやっ。
 そうは思ったけど、口に出すとなにを言われるかわからないので、黙っておいた。
「畑の草取りの時期でね。助かるよ」
 高雄のばーちゃんはそうして、出ていった。
「ああ〜海水浴〜」
 うめいた俺の額を、高雄がぴしゃりと打つ。
「こんな時間に行ったら、日焼けでひどいことになるぞ」
「わかってるけどさー、そこを押してやるのがいいんだよ」
「草取りが終わったらいくらでもつきあってやる」
「ほんとだな? 約束だからなー!」
 そうとなったらとっとと片付けて海だ海!

 気合いを入れて行った畑は、拍子抜けするくらい小さかった。
 これのどこが力仕事なんだろう。家庭菜園とそう変わらない、いやむしろそれより小さいかもしれないくらいの畑なのに。
「腰が悪いんだ」
 ぽつりと高雄が言った。
 なんだか、すごく優しい顔してて、不覚にもほろっときてしまった。
 変人だし変態だしあんまり優しくないけど、やっぱ好きだぜ高雄ー!
 そうとなったらいいとこ見せてやらなきゃだ。俺は腕まくりした。
 見ると、高雄は黙々と草取りをはじめている。俺もその横にしゃがんだ。
 土にしっかり根っこをはってる雑草を、できるだけ根っこを残さないように抜く。雑草は持たされたバケツにいれた。こうしないと、地面にまた根付いちゃうんだそうだ。
 でも、単純な作業ではあるけど、意外とつらい。太陽はじりじり照りつけるし、潮気を含んだ風が皮膚にまとわりついてくる。無理な体勢だから、腿も痛くなってくる。
 高雄を見ると、全然なんでもないみたいに、俺の倍くらいの面積を片付けてた。
「疲れたんなら日陰で休め」
 小さく高雄が言った。「いいよ。これくらいどーってことないから」
「気分悪くなったりしたらすぐ言えよ」
「おう」

 そうしてひとしきり草を取り終えた頃には俺はすっかり筋肉痛になっていた。
 高雄にふとんを敷いてもらって横になったけど、体の節々がギシギシ痛んだ。
「海水浴に行くんじゃなかったのか?」
「高雄の意地悪〜行けるわけないだろ〜」
 うらみがましく高雄をにらむ。高雄は涼しい顔をしている。
 俺がむくれると、高雄が俺の頭をなでてくれた。
 そうしてうっとり目を閉じたところに、唐突にふとんをめくられた。
 うわーそんな大胆な!
 目を開けたら高雄が俺にまたがろうとしていた。
「うつぶせになれ」
「いや俺、最初は顔が見えたほうが!」
「なにを考えてる。ただのマッサージだ」
」ああ〜」
 むしょうに情けない。反省。
 うつぶせになると、高雄が遠慮なしに乗ってきた。背中に感触が〜。もう、妄想スパイラルだ。
 肩とか腰とか背中とか、遠慮なしにぐいぐいもまれる。痛いんだけどちょっと気持ちイイ。
「ん〜キク〜」
 ああ我ながらジジくさい。
 でも、高雄の手が気持ちイイのは否定できない事実で。
「どうしてこんなにうまいんだよー。うますぎ」
「毎年やってるからな」
「なに、高雄ってば毎年違う恋人がいてただれた交際を!?」
 叫んだところにでこぴんをくらう。
「何年片想いしてたと思ってるんだ」
 むぎゅ。
 高雄がたれぱんだみたいに、俺に重なってくる。
 こういうのはすごくどきどきする。
 普段からよくふざけあってて、スキンシップの多い俺たちだけど、なんでもないのにこういうことになるとどきどきが止まらなくなる。
 メカマニアの変人で、言葉遣いも変で男前なのに女の子に全然モテなくて、友達らしい友達なんて俺くらいしかいなくって。
 そんな高雄だから、艶っぽいことと結びつかなくて、余計にそんなことを思うのかもしれない。
「夕飯ができたよ」
 ムードにひたっているときに、急に声が降ってきた。顔を上げると、高雄のばーちゃんが立っていた。
 俺はなんとなく、どぎまぎしてしまう。
 なにか言われるかと思ったけど、そんなこともなく、高雄のばーちゃんは行ってしまった。
「変に思わなかったのかな?」
「寝技にしか見えないだろう、これは」
「でもふとんの上でくんずほぐれつ…いやらしい」
「いやらしいのはおまえの頭だ」
 あう。あんまり叩かれたら馬鹿になる〜。
「でもさー、毎年って、誰にだよ」
「祖母」
「あ、そっか」
「ああ。だからあとで実験台になるように」
「な、なんのだよう」
 また怪しいメカを作ったんだろうか。
 高雄のメカは性能はいいけど、いかんせん使い方がエキセントリックだ。
 俺へのプレゼントに仕掛けるための盗聴機とか、居場所を見失わないための発信機とか。
 今日の場合はマッサージ機? いやもしかしたら妖しいものかも…なにせ高雄だ。
 なにをされるんだろう。どきどきしながら食べた夕食は味がなかった――なんてことはなく、普段よりずっとおいしかった。
 亀の甲より年の功?

 部屋に戻ると高雄は正座していた。なんか本気オーラがひしひしと…
「そこに座れ」
「は、はい」
 命じられると逆らえない。俺はふらふら、ふとんの上で正座した。
 高雄が俺の背後にまわる。ああ、なにされるんだろう。どきどきする。
 とん、と肩を叩かれた。リズミカルに、両肩を叩かれる。
 俺の肩なんか叩いてどうするんだろ。首を傾げていると高雄が俺の前に座った。それなのに肩は叩かれ続けてる。なんで?
「どうだ?」
「え…うん、気持ちいいかなー」
 反射的に答える。高雄は満足げにうなずいた。
 首だけ曲げてうしろを見ると、間延びしたけん玉のけんみたいなものが立っていて、その両端についたロボットアームみたいなものが俺の肩を叩いていた。
「なんなんだ、これ」
「肩叩き機だ」
「そりゃ見ればわかるって。そーじゃなくてさー、別にこんなの使わなくても、直に叩けばいいじゃん」
「俺がいなくちゃならないんじゃ意味がないんだ」
「なんで?」
「この島から出たくないらしい」
 優しい目をして高雄が言った。でも高雄の目は俺を見てない。
 たぶん、高雄の視線の先にいるのは高雄のばーちゃんだ。
 ちょっと悔しい。高雄が優しいのは自慢に思えるけど、たとえ肉親相手だってそんな目するなよって思う。
「高雄〜」
 膝でずりずり歩いて高雄に抱き付く。そのとき間違って背後の肩叩き機に足をひっかけたけど、気にしない。
「暑苦しい」
 言いながらも高雄はにまにましている。えーい、このオヤジめ。
 でもまあそんなところも好きだ。思いっきりオヤジな感じに俺を翻弄してくれーい!
「ん…?」
 でも高雄の口からこぼれたのは俺が期待してたみたいな言葉じゃなくって。
 視線の先は俺の背後――肩叩き機に注がれてる。
 見ると、肩叩き機は怪しげな煙を上げてスパークしていた。
 これは。
 もしかして、あの、例のパターン?
 ぼす、とロボットアームがふとんにめり込んだ。どう見ても畳にまで貫通してるんだけど。これで叩かれたらすごいことになりそうなんですけどー!
「暴走してる?」
「ああ、してるな」
「してるなじゃなーい!」
 冷静にしてる場合かよぅ。
 そうして俺がわたわたしてる間にも、肩叩き機はふとんを攻撃し続けている。
「な、なんとかしろー!」
 高雄はふむ、とうなずいて、俺を下がらせた。
 危なげもなく肩叩き機の背後にまわって、伸びているコードを引っ張る。ぶつ、と音がして、肩叩き機の動きが止まる。
 まさか有線だったとは…。
「まだ改良の余地ありだな」
「こんな危ないモン使ってられるかよー」
「そうか…」
 なんて、高雄が本当に落ち込んだ顔なんかするから、悪くもないのにどぎまぎする。
「一年分叩いてやったらいーじゃん、夏の間に」
「本当なら、いつも一緒にいてやれればいいんだけどな」
「しょーがないじゃん。それに俺、高雄がいなかったら寂しいって」
「そうか」
「そーだよ。気がおかしくなりそうなくらい寂しいって」
 高雄がむぎゅっと抱きついてくる。
 どうせだったら、ここで、ドラマみたいにキスでもしてくれればっ。そうすれば、こんなにどきどきしないですむのに。
「元気になった?」
 照れ隠しにたずねると、高雄は俺のでこに軽くちゅ、と口づけた。
 ああっ、ファーストキスがでこちゅーなんてっ。浮かばれなさすぎる。
 俺が望んでたのはもっと大人の! こんな子供だましとは断じて違うのに〜!
 でも、まあ、いいかなとも思う。高雄はなんだか幸せそうだし。それで俺は満足だ。
「よし高雄、肩叩き券つくろう!」
「肩叩き券、って…」
「いーじゃん孫っぽくて。ついでにマッサージ券もつくろーぜー」
 高雄、あれだけマッサージうまいんだし。絶対喜ばれる、と思う。
 俺が肩に手を置くと、高雄ははにかみながら笑った。
 いつもの尊大な高雄もいいけど、こういう高雄もいいと思う。
 ああ、やっぱり全部好きだー!
 愛があふれちゃった俺は高雄にいっそう強く抱き付いた。
 にまにましている高雄の一部がオヤジっぽい反応をしていたのは、まあ、気付かなかったことにしといてやった。
 とりあえず、そうやって作った肩叩き券を渡すと、高雄のばーちゃんはふん、と鼻を鳴らした。まあ嬉しかったんだろうと思っておくことにした。
 そのときについでってことでお手伝い券も渡したんだけど、それはすぐに後悔することになった。畑仕事から品出しから布団の上げ下ろしから、とにかく力を使う仕事を任されるようになったのだ。おかげで高雄といちゃつく暇もなく――ちくちく不満がたまりはじめていた。
 でもそんなある日、高雄のばーちゃんは朝になって、昼になっても起き出してこなかった。
 最初は俺も高雄も気付かなかったんだけど、前の晩に言いつけられた仕事を全部こなしたあとで、他になにかやることはないか聞きにいってはじめて気付いた。
「…具合でも悪い?」
 聞いても答えない。
 でも、別に苦しそうな様子もなくて――
 最悪の想像が頭をかすめる。頭を振って、すぐにそれを追い出す。
「どうした?」
 俺がいつまでも戻ってこないのを不審に思ったらしい高雄が、引き戸のかげから顔を出した。
 高雄の顔を見たら泣けてきて仕方なくて、俺はただえぐえぐと不明瞭につぶやいた。
 高雄はあわてたふうもなく、ばーちゃんをやさしく揺さぶる。
 しばらくすると、まるで魔法が解けたみたいに、ばちっと目を開けた。
「だ、だいじょぶ?」
思わず声が裏返る。
「ああ」
 高雄のばーちゃんは短く言って、猫を追っ払うみたいに手を振る。
 なんだそりゃ、と思ったけど、口には出さない。おとなしく高雄と一緒に部屋を出る。
「悪い」
「なんで高雄が謝るんだよー」
「俺の祖母だろ」
「したら、俺は高雄の恋人じゃん。つまり高雄のばーちゃんは俺のばーちゃんも同然だって」
「変な理屈だな」
「高雄の理屈のほうが変だって。俺ちっともわかんないし」
「それはお前が馬鹿なんだ」
「ひどいー!」
 高雄をぽかぽか叩く。高雄は苦笑しつつも俺の好きにさせてくれる。
「悪いな。年なんだよ。でも認めたくないんだ」
 高雄はぽつりと言ったけど、俺は無視して叩き続けた。
 別にそんなの、どうでもいい。
 だって俺はなんにもできないし。だったらせめて見なかった振りしてやるのがやさしさなんじゃないのかな。
 少なくとも俺なら、へたに気を遣われたりするよりもほっといてほしい。
 認めたくないって、そういうことじゃん?


「高雄を大事にしてやっとくれ」
 そろそろ帰るって頃になって、荷造りをしてる俺のとこに来て、唐突に高雄のばーちゃんが言った。
 最初はなにを言われたのかわからなかった。
 大事にって。
 言われなくても大事にしてます。ていうか大事にされてます。
 いや問題はそんなとこにはなくって!
「お迎えがきたら、高雄がひとりになるだろ?」
「そんな」
 高雄は全然ひとりじゃないのに。
 ていうか、どうして俺にそんなこと言うんだろう。
 自分が死んだら、なんて。
 俺にはそんな仮定はできない。
 だって自分が死んだらどうなるのかなんて、死んだことないからわかんないし。
「高雄は大事にするけど。でもそれ、言われなくてもだから」
 俺にはそう返すのが精一杯。
 だってほんとに、ぜんぜんわかんない。
「高雄には秘密にしとくから。もうそういうこと言わないで」
 高雄のばーちゃんはにやりと笑って、満足げにうなずいた。
 よくわからないけど、俺の答えが気にいったらしい。
 よくわからないばーちゃんだ。
 でもまあいいやって、俺も笑った。
 たまにはそういうこともあるさってことで。
 ――高雄のばーちゃんが行ってから、そーいやなんで知ってるんだって気付いた。
 俺も高雄もばーちゃんに見えるとこじゃなんもしてないのに!
 うーん、ばーちゃんのカンおそるべし。
 入れ違いに高雄が戻ってきて、俺を見て変な顔をした。
 ひどいなー、俺はただ、高雄のことを考えてただけなのにっ。
 抗議の意を込めて見つめていると、なんとなく、高雄は大事な人がいなくなっちゃったらどうするんだろ、と思った。
 俺だったら、きっと、泣いて泣いて泣きまくって、涙が枯れるまで泣いちゃうに違いないけど。
 高雄が泣いてるとこなんか想像がつかない。まだなじったりしてるって方がしっくりくる。
 高雄は、もしもばーちゃんが死んだらどうするのかな。
 俺が死んだらどうするのかな。
「どうした」
「ぐるぐるしてる」
「変なやつだな」
 ぎゅむ、と高雄は抱き締めてくれる。
 俺が不安なのわかったのかな。
 俺がどうしたらいいのかわからないでいるの、わかったのかな。
 だとしたらちょっと嬉しい。ちょっと怖い。
「また、来年もきたいな」
「そんなにこき使われたいのか」
 違うよ、と内心思う。
 高雄は気付くのかな。俺が違うって思ってること。
 俺がまた来たいって思ったのは、高雄のことはこんなに大事にしてるんだぜーって高雄のばーちゃんに見せたいからだ。
 ふたりだけの秘密の成果を見せてやりたいからだ。
 高雄のばーちゃんはきっと、すごく高雄のことが大事なんじゃないのかな。
 でも俺も負けてないんだぞー、って言いたい。すごく言いたい。
 自分が死んだら、なんてこと、言ってる暇がないくらい、見せつけてやるっ。
「いいとこじゃん、だって」
 海水浴なんか全然できなかったし、毎日魚ばっかで少し飽きたけど。
 潮風がべたべたしてかなり気持ち悪かったけど。
 でも、すごくいいとこだ。
「そうか」
 高雄は目を細める。
 今だ、隙ありっ。
 高雄の口に思い切りキスする。
「んむっ」
 高雄は目を白黒させる。
 ふっふっふ、大成功。
 思いっきりディープなのは無理でも、これくらいはいただいてやる。
「唐突なやつだな」
「やだったのかよー」
「まさか。もう少し大胆だともっと嬉しい」
「正直すぎ」
「にしても、どうした」
「秘密」
 俺とばーちゃんの秘密だから、簡単には教えてやらない。
 第一、高雄を思いっきり幸せにするんだなんて教えたら、きっと笑われる。
 だから絶対、教えてやらない。
 夏休みには、秘密がいっぱいあるほうがいい。その方が断然、思い出に残る。
 きつく抱きつくと高雄はいつもみたいににまにまして、俺の頭をなでてきた。
 暑苦しい。
 でも幸せってきっと、暑苦しいものなんじゃないかなと思う。
 なにしろ俺は今、幸せいっぱいだからして。














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