「これ、やる。優人に似合うだろ」
そう言って幼馴染みの高雄がくれた、大きなテディ・ベア。
一抱えもあるそれを見たとき、オレはなんの冗談だ、と思った。
オレはもう高2だ。しかも男だ。テディ・ベアを喜ぶようなガラじゃない。
たしかに女の子みたいだとか、中学生に見えるとか、さんざん言われるのは認めるけど……。
高雄にまでそう思われてたのは正直、ショックだった。
でも誕生日を律儀に覚えててくれたことが嬉しくて、わざわざ買ってきてくれたことが嬉しくて、オレは恥ずかしい思いをしながらテディ・ベアを持ち帰ったのだった。
やっぱり、男の部屋にはテディ・ベアは似合わない。ベッドに置いたテディ・ベアを見つめながら思う。
「……やっぱ、しまっとこうかな」
口に出してから、ぶんぶん首を振る。
いや、そんなことはできない。
だってこれは高雄が、オレにくれたものだ。
多少似合わなかろうとなんだろうと、好きな相手からもらったものはなんだって嬉しいし、いつも見えるところに飾っておきたい。
そう、オレは高雄に恋をしている。
ずっとなにをするにも一緒だった幼馴染み、しかも男に恋をするなんて! と自分でも思う。
でも仕方ない。だってオレは高雄が好きなんだ。
オレは目を閉じて、テディ・ベアをぎゅっと抱きしめた。
「おまえが高雄だったらいいのに」
くだらない仮定。なんて健気なオレ、なんて思いながら、テディ・ベアの鼻先にキスをする。毛が口の中に入って変な感じがした。
「好きだよ、高雄」
今まで一度もプレゼントなんかくれたことがなかったおまえが、こうしてテディ・ベアをくれたってだけで、オレの想いはあふれ出しそうだ。いっそう腕に力をこめる。
「好きだ。好きなんだ。オレだけのものになってよ、高尾」
言葉があふれてくる。
閉じたまぶたの裏に高雄が浮かぶ。
高雄はオレと違って頭がいい。ばりばり理系って感じの、めがねがよく似合ういい男だ。白衣を着るととんでもなくサマになる。
機械いじりが趣味なんていうちょっと暗そうな趣味でさえ、高雄の趣味だと聞くと納得がいく。それくらい高雄はかっこいい。
だから高雄はクラスの女の子にもモテる。オレも何度かラブレターの配達人をやらされた。そんな高雄だから、オレには望みなんてカケラもないのだ。
「……でも言えるわけないよなぁ……」
もしも言ったら、幼馴染みって地位まで失うハメになるだろう。
オレはため息をついた。
高雄への愛しさはあふれそうだっていうのに、オレはそれを本人に伝えることさえできない。せいぜいが、高雄の身代わりにテディ・ベアに向かって告白する程度だ。
――そのとき、携帯の電子音が鳴り響いた。
ディスプレイには高雄、と表示が出てる。
「もしもし?」
いぶかしく思いながら携帯に出た。
「ああ、優人」
携帯電話越しに聞こえてくる、抑揚に乏しい高雄の声。それだけで頭がくらくらする。
「実は今から懺悔がしたい。聞いてくれないか」
懺悔?
なんだろう。そう思いながらうなずいてから、電話越しだったことを思い出していいよ、と言った。
「今から言うことを聞いても、決して怒らないし軽蔑もしないと約束して欲しい」
「聞く前から約束なんかできないって」
「いいから、約束して欲しい」
言い募る高雄の迫力に圧されてしまう。結局、いいよと答えるほかなかった。
「実は今日プレゼントしたテディ・ベアには仕掛けがしてある」
「……へえ。しゃべるとか?」
「そんなくだらないことはしない」
「じゃあ、なんだよ」
「盗聴器が仕掛けてある」
「ああ、盗聴器ね、そりゃすごい……って盗聴器!?」
思わず声が裏返った。
盗聴器って……つまり、あの、音声を盗み聞きする道具だよな?
それってことは、つまり――
「もうわかってると思うが、おまえのセリフは全部聞かせてもらった」
宣告された瞬間、顔が真っ赤になったのがわかった。
「どうしてそんなことしたんだよ! 試作品の性能を試したかったんだとしたら最低だ!」
「性能実験なら充分やってある。それは成功した第1号だ。軽量化・小型化を行って、ターゲットにより気づかれにくくすることに成功した」
「オレが聞きたいのはそんなことじゃない。どうしてそんなことしたんだ、って聞いてるんだ」
「……おまえのことをすべて把握していたかった」
「は?」
まるでストーカーのセリフだ。
高雄じゃない人間が言ったんだとしたら、間違いなく殴っているところだ。高雄が言ったにしたって、こんなに腹が立つんだから!
「愛している。優人」
「ああオレもだよ……ってえぇっ!?」
さっきから声を裏返してばかりいる。なんだか微妙に情けない。
「えっとそれはつまり……おまえもオレを好き、ってこと?」
「ああそうだ。できれば交際を申し込みたいと思っている」
交際、だって。なんて古臭い……いやそんなことはどうでもいい。今つまりオレは高雄に愛の告白をされてるわけで、つきあってくれといわれてるわけで!
「――返事は?」
「待ってろ。すぐ行く」
宣言してオレは電話を切った。
こんな大事なこと、電話越しになんか言えるもんか。
顔を見ていわなかったら感動も半減だ。
オレは脱いだばかりのコートをまた着込んで、部屋を飛び出した。 |