1章-8 戦う権利
「ねえ、アイフェ。これもかわいいと思うけど、スカートは嫌いなの?」
「ヒラヒラしたものを着ていたら動きにくいもん」
「また森の中に出かけるつもり?」
「シーグが3人でやるっていったから準備をしてきたんだよ」
「え? ――」
「ちなみに一緒に戦うって意味だからな」
会話が途切れた瞬間に、シーグが口を挟むと、サフィリアが目を吊り上げて振り向いた。
「それぐらい分かっています! あなたはアイフェまで戦わせるつもりですか」
「もちろん」
シーグが即答すると、サフィリアは再び慇懃さをまとい、目を細めて射るようにシーグを見る。
「あの子はまだ10歳ですよ」
「だけど強い。森の中なら俺よりもずっと戦いなれている」
「私は反対です」
「ガイスの野郎がアイフェを気に入っているんだろ。相手は商人で魔術師だ。逃げ切れるはずがない」
「私はアイフェを戦わせたくないのです」
「だったら絶対に勝って、アイフェを守り通す自信があるんだな?」
反論できずに、サフィリアは黙り込んだ。
「負けたら、アイフェに未来はない。だから、自分のために戦う権利がある。最も本人が嫌がるなら話は別だけどな」
「私は戦うよ」
アイフェは即答して、何度もうなずいた。だが、サフィリアと目が合うと、後ずさりしながらシーグの背中に隠れてしまった。
「本人はこう言っているようだが?」
不安になって肩を縮めているアイフェの頭をシーグは軽くなでてやった。サフィリアは難しい表情でシーグを睨みつける。
「……分かりました、アイフェにも協力してもらいます」
「やったー」
アイフェは満面の笑顔で両手を挙げて喜んでいる。
「ねえ、シーグ。ナイフを返してよ」
「戦いが始まる前には返す」
サフィリアは後悔するような表情を浮かべていたが、頭を振ってシーグを見据えた。
「だけど、相手はメティオスマッシャー(隕石の強撃)よ。200人の兵士のこもる城砦都市を7人で、しかもたった1日で陥落させたの」
「投石器の大岩さえも跳ね返し、城壁を木っ端微塵に砕く、だな」
「彼らがその気になったら、天空の水盤。この封土を丸ごと破壊できるの。そんな相手にどうやって戦うっていうの」
「今から考える。えっと、セパン……だっけか?」
「セブン・パワー・インテグレーションよ」
「その、なんとかネーションが最強で隙が無いのなら、俺は生きていないはずだ」
アイフェがシーグの背中から、サフィリアをちらちらと見ている。サフィリアは娘を取られた親のような目つきでシーグを睨みつけた。
「逃げただけじゃない」
「生き残る方法さえ心得ていれば、何度でも戦える。そして、最後に一度だけ勝てばいい」
「簡単に言うわね。具体的にはどうするつもりなの?」
アイフェが腰のナイフをチラチラ見ているのを警戒しながら、シーグは口を開いた。
「まず、ガイスは足が遅い。俺たちがのんきに日向ぼっこしていてもまだ到着しないんだからな。そして命令する奴が自信過剰の大バカ野郎。何よりも自分を無敵だって思い上がっている。仲間同士の結束力が無い。威力は強いが、的外れだ。それに、威力を高めるためにやたらと手間がかかっていた。土地全体を破壊するにはずいぶんと時間が必要なんじゃないか?」
シーグの言葉を聞くうちに、サフィリアの瞳から厳しさが消えていった。
「あなたの言うとおりね。他には?」
「ガイスが食事している間、青マント達はそわそわしていた。不意打ちが怖くて仕方が無いみたいだ」
「ディテクション(探知)が使えないから、目隠しされているようなものね。私の封土の中では、他にも水と風の関する魔術もほとんど使えないわ」
「地面をえぐったり、水を降らせたりする魔術だな」
「ええ、そうよ」
サフィリアは少し口を閉ざして考え込んだ。
「魔術の7系統で言うと、一番制限できるのはサモニング(召喚)ね」
「……」
シーグはゲッソリした表情でぼんやりと聞いている。アイフェは背中から抱きついてきて、シーグのナイフを狙って手を伸ばしている。
「イリュージョン(幻覚)を使ったとしても、こちらのディテクション(探知)で十分対処できるわ。だから、これは脅威にならない。むしろ、こちらに有利だわ」
「あのー、もしもし」
声をかけても、サフィリアは口元に手をやって考えに没頭している。シーグはアイフェの膝の後ろに肘を当てて、体勢を崩して遠ざけた。しかし、それは時間稼ぎにもならなかった。
「問題は、ブラスト(噴出)、プロテクション(防護)、エンチャント(付与)、エンハンス(向上)の4系統は影響を受けない。でも、冷静に考えれば、あなたの言うとおりに十分戦える」
サフィリアは、シーグに向かって笑顔を向けた。だが、シーグはナイフを付けねらうアイフェをあしらうのに手一杯で返事が出来なかった。
「アイフェ、じっとしていなさい!」
「はい!」
サフィリアに強く言われてると、アイフェはビクリと肩を震わせ、その場で正座をして微動だにしなくなった。
すごい威力だ、とシーグは感心した。
「それで、どんな作戦でいけばいいのかしら?」
「説明してくれてなんだが、あんたが何を言っているのか俺にはさっぱりだ」
サフィリアの表情が固まる。アイフェも固まったままだ。シーグはなんだか時間が止まったような気がした。
「……ひょっとして聞いてなかったの?」
「耳には入っていたぞ。だが、俺は魔術に関してはド素人だ。知らんことを聞かされても右から左に抜けるだけだ」
シーグが胸を張って言う。サフィリアの期待に満ちた視線は、呆れたように細められた。
「何処が分からなかったの?」
「ほとんど全部だ。だが、説明してくれたらわかるぞ。たぶん」
どうだか、とサフィリアは小さくつぶやいた。が、それでも気を取り直して口を開いた。
「魔術には7つの系統があるの。まずはディテクション(探知)、次に――」
「一度にたくさん言われても絶対に覚えられん。さっきの……セワンだっけ?」
「セブン・パワー・インテグレーション《七力統合陣》!」
サフィリアが声を張り上げるとアイフェは更にカチカチに固まり、シーグはうるさそうに耳を軽く押さえていた。
「ああ、そんなだった。名前を覚えるのが苦手なんだよ」
「……もう陣形でいいわよ」
「それなら覚えやすい。で、さっきあんたが言いかけたことを説明してくれ。簡単にな」
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