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2章-44 探求と殺戮
「分かる人にしか分からない事を小難しく考える『賢者』より、正しい結果を見据える『見者』のほうが重要なのは当然よね」
 リーザはそう締めくくって、部屋の隅にある螺旋階段を上ってゆく。シーグは指先の光を掲げて後ろに続いた。
「話を戻すけど、ワラに油を染み込ませて、完全にガラスで密閉するの。火打石を手で打ち付けて着火するのは無理になったけど、魔術でなら火をつけられるわ。どうなると思う」
「ガラスが熱くなる?」
 シーグはろくに考えもせずに答えた。
「違うわ。完全に周囲をふさいで、燃焼させると爆発するの。規模を変えれば、周囲にガラスの破片を飛び散らせることが出来るわ」
「……怪我人が出るな」
「更にガラスの変わりに、魔術の壁を展開する。そして、中身をワラの変わりに燃える気体で満たすの」
「『きたい』ってなんだ?」
「簡単に言うと空気みたいな物のことね。厳密に言うと違うけど」
 シーグは耳をふさぎたくなった。魔術師が『厳密』と『簡単』を同時に口にするときにはたいていややこしい話が始まるに決まっている。
「とにかく、更に燃える物を中に入れて密閉する。あとは爆発力を増して火をつける。これが火球の魔術なわけ。火をつけるに向いたもの、何が一番燃えるかを知っていて、有効に使えるほどに威力は増すわ」
 リーザは一旦足を止めて、考え込んだ。
「火打石は、片方が鋼、片方がフリント(すい石)なのが一般的なの。だけど、肥料の中に混じっている物と、灰色がかった銀白色の金属ならもっと理想的ね。これを見つけるのは地質学が必要かしら」
「土と金属でどうやって火花を出すんだ?」
「それが無理だから、土や石の中から金属を抽出して、精製する。必要になるのは冶金術ね」
「錬金術と何が違うんだ」
「説明して欲しい?」
「……いや、やめておく」
「よかった。実は私もよく分かってないの」
 リーザは口元を押さえてクスクスと笑っている。
「ところで、ガイスの火球は変な音を立てていたでしょ?」
「ああ」
「キチンと火をつけられていないからよ。それと、嫌な匂いがしなかった?」
「いや、そこまでは分からなかった」
「彼はね、臭い水を火球の触媒に使っていたわ。火はつきやすいんだけど、爆発が小さくて悪臭が漂うの」
「魔術の結果を見ただけで、実力が分かるわけか」
 シンシアが防護魔術の色について話していたことをシーグは思い出す。
「だからガイスは陰で『歩く恥知らず』って呼ばれていたわ。魔術は惨めだし、服装は悪趣味だからね。基本がまるで出来ていないのを宣伝しているようなものだったの」
 リーザは難しい表情になった。
「さて、火球を作るために火竜の鱗と、セブンパワーインテグレーション(七力統合陣)を加えるとどうなると思う?」
「メティオスマッシャーの出来上がりってわけか」
 太陽のような炎の塊を思い出して、シーグは肩をすくめた。
「あれだって、最高の状態なら理論的に隕石が落ちて来るくらいの威力を出せるはずなの。ガイスが妨害していたから威力が落ちたのね。幸いなのか、災難なのか分からないけど」
「隕石の威力ってどのくらいなんだ?」
「理論上だけなら軽く見積もっても、王都全体をすり鉢状のクレーターに変えられるはずよ」
 言葉を失って黙っていると、リーザは淡々と続ける。
「星のめぐりとか、魔術師の人員とか、陣形を有効に使える地形とかのせいで、いつでも何処でもってわけにはいかないけどね」
「なんだってそんなものを作ったんだ?」
 思いもよらず、シーグは責める様な強い声が出てしまった。
「可能だったからしょう、ね」
「どうして」
 リーザの問いに納得できず、シーグは再び問う。
「シャープネスも同じよ。何処まで鋭く、軽く出来るか。それを追求したのよ」
 リーザの心情を示すように、階段を昇る歩みはどんどんと遅くなっていく。 
「より強大で小さく。更に速くに遠くに。魔術の分野でそう願って、探求し続けてたどり着いたのが。セブンパワーインテグネーション(七力統合陣)。そして、メティオスマッシャーだったの」
 リーザは胸元を掴んで、苦しそうに言葉を続ける。その態度から、セブンパワーインテグネーション(七力統合陣)はリーザにも関わりがあるとシーグは直感した。そういえば、シンシアにリーザは凄腕のプルーフだと聞いた。また、余計なことを言ってしまったとシーグは後悔する。
「私達魔術師の、プルーフのたどり行く末は、結局は破壊と殺戮の手段なのよ」
「違う」
 あまりに悲観的な言葉に、ろくに考えもせずにシーグは答えた。勢いよくリーザが振り向く。シーグは悔やむ一方で、頭を総動員していうべき事を考えた。
「ええと、そうだ包丁!」
 シーグは真っ先に思いついたことを口にして、考えを整理する。
「同じ技術は包丁にだって使えるだろ。力の弱くなった老人や、腕の力が弱い人々とかのためにさ。フィーが欲しがるくらいだから、よっぽど凄い切れ味なんだろ?」
「そうだけど、包丁はお父さんが作ったから、魔術は関係ないわよ」
「ぐぅ……」
 またやってしまった、とシーグは悔やむ。しかし一度はじめたからには口を閉ざすわけにはいかない。
「フィーの台所はどうなんだ? 熱くなるポットとか、水の出る壁とかあったぞ。あれは便利だと思うし、みんな欲しがる。そうだ、煙が出ないわけだから、城塞都市の町並みがススまみれにならなくて、みんな喜ぶ……んじゃないかな?」
 勢いだけでしゃべり続けるのも限界が来て、シーグの言葉は勢いを失っていった。自分でも何を言っているやら分からない。破壊や殺戮の事を悔やんでいたのに、お湯やススの話をするなんてどうにかしている。
 だけど、リーザは楽しそうに笑い始めた。理由は分からないが、とにかく機嫌を損ねたわけではない。シーグはホッとした。
「残念、あれは天空の水盤のような封土だからできるの。普通の土地では出来ないわ」
「え?」
「それに、魔術は手間がかかるわ。かまどや火打石の方がずっと便利なのよね。魔術師が料理のときに使うのはいいけど、料理人がそのために魔術を習うのはどうなのかなー?」
「……」
 すっかり機嫌が直っているのは声を聞けば分かる。シーグの仏頂面をみて、リーザは小さく笑った。
「でも、みんなが当たり前のように、簡単に使えるようになれば素敵よね」
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