ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
1章-18 師弟の戦法
     *

 ワイバーンが残った方のカギ爪を振り下ろすと、3体のシーグが巻き込まれて霧に返った。
「俺はあんなヘマな戦い方はしないぞ」
 自分が消されるのを見て、シーグは不機嫌につぶやいた。あちこちで動く幻影は明らかに不自然だった。動きがやけに固く、構えが隙だらけに見える。何より、盛り上がった土や草に透ける足が貫通している事もあるし、ひどい時には2人が重なっている。それに、ぬれた地面を歩いているのに、足跡が残らない。何よりも、目が合ったときにあまりにも無反応である。濃い霧でごまかしても、すぐに気づかれるだろう。
 シーグは、幻影と同じく不自然な動きになる事を心がけてゆっくりと移動した。少し歩くと霧の向こうに7人の人影が見えた。1番前にはベクターがいる。ナイフを投げれば届きそうな距離だが、相手は防護の壁を張っているはずだ。
 シーグは目を中空に浮かせて、横目でベクターを確認しながら移動した。一度ベクターが周囲に視線を送って、目が合った気がしたがシーグは無表情で通した。
 ベクターの目が届くところにいるのは落ち着かない。岩場を選んで、シーグはゆっくりとの背後に回っていった。ベクターはワイバーンを操って、あちこちから現れる幻影を攻撃している。完全に背後へ回りこんでズボンのポケットから黒い球を取り出した。同時に、ベクターが背後を振り返って杖をピタリとシーグに突きつけた。シーグが横に跳びのくと、一瞬後に地面が爆発して黒い水を巻き上げる。
「なんで、分かったんだ?」
「君の背中の血は流れ続けていた。幻影とはすぐに見分けがつく」
 ベクターの声がワイバーンから聞こえてきたので、シーグはぎょっとした。
「足はもう墨まみれで、一目で本物と分かる。降伏するんだ」
「師弟そろってやる事が同じだな。次はワイバーンの糞でも飛ばすつもりか?」
 霧の向こうに逃げようとすると、ワイバーンは翼を羽ばたかせて飛び上がった。風圧に負けて霧が吹き飛び、幻影が次々と消えてゆく。更に、ベクターがシーグの足元を杖で指すと、地面から岩がせりあがってきてシーグの足元をすくい上げる。
 岩を小さくしていた魔術を、解除したに違いない。
「君が私の背中に回りこむことも分かっていた。だから、退路には罠を仕掛けている。次は、君の命を奪える罠を発動させる」
 ワイバーンはベクターの真上に滞空している。
「やるならさっさとやれよ。あんたのヘタレた罠なんざ全部かわしてやる」
 そして、ワイバーンが襲い掛かってくる前に罠を全部使い切ってくれたらうれしいぞ。と、シーグは心の中で付け足す。
「降伏する意思があるなら、杖を捨てて膝をつけ。5つ数える間だけ待つ」
「だから、降伏しないと言ってるだろ」
「1つ!」
「人の話を聞け、お前はガイスか!」
 ベクターは返事もせずに、数を数え始めた。
「2つ!」
 声が聞こえていない。風も雷も跳ね返す壁なのだから、音をさえぎっても不思議ではない。
「3つ!」
 だから、わざわざワイバーンから声が出るように仕掛けをしている。向こうの声も外まで届かないからだ。
 そこに付け込む隙はないか? 何が出来る? どう戦えばいい? 
 シーグは必死に考えをめぐらせて、閃くものがあった。
「4つ!」
 シーグは膝を降り、杖を地面にゆっくりと置いた。5つ目を数えるはずの、ベクターの声が止まる。
 その瞬間、低くなった体勢から下手投げで黒い球を投げ付けた。ベクタが杖を横に払うと、十本近い矢弾が地面から飛んできて、黒い球を打ち落とす。しかし、黒球は爆発すると周囲に墨をぶちまけた。
 ベクター達の閉じこもっている防護壁が真っ黒に染まって輪郭を浮き上がらせる。半球形で身長の倍程度の高さ、広さは10歩に満たない。
「視界を奪っただけでは無駄だ。ワイバーンは自動的に君を襲うぞ。支配の魔術は解除され、もう手加減が出来ない。降伏するのなら、地面に向かって杖の魔術を解き放て」
「目も見えなくて、耳も聞こえないくせに何でも知ったような口をきくなよ」
 シーグはなんだか、腹が立ってきた。
 ワイバーンは空気を震わせるような咆哮をして、翼を大きくはためかせる。足を踏ん張らないと、風に体を持っていかれそうになる。圧倒的な存在感にシーグは体中の毛が逆立つ思いだった。
「空の死神だかなんだか知らないが、俺の知っている死神の方がもっと恐ろしいぞ」
 返事の代わりにワイバーンは真っ赤な目を細めて、シーグを見ていた。
神速果断のシャープネス 〜外伝〜 へのリンク
イリーガル・ブレイド 〜血色の報復者〜 へのリンク
長編小説ランキングに投票
ネット小説の人気投票HPです。投票していただけると励みになります。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。