1章-10 戦闘開始
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「ええい、うっとおしい森だ! 全く進めないではないか」
先ほどシーグやアイフェが通り抜けていった小道で、ガイスは駄々っ子のように杖を振り回している。青マント達は、ガイスからは見えない位置でいっせいにため息を合唱した。
最短距離を行くため、森の中を突っ切るとガイスが言い出したのが足止めの原因だ。森はどんどんと深くなり、木や茂みが密生し始めた。魔術でガイス浮かせても、体を横に倒しても枝葉が必ず引っかかる。見通しの良い湖の上を飛ばせば簡単だったが、それはガイスが怖がるために森を進む以外なかった。
青マント達だけなら、何の問題も無かった。無理に押し込めば、ガイスでも何とか通り抜けられる。だが、お気に入りの真紅のマントや装飾品が木の枝で傷ついたことで怒りだし、ガイスの感情が収まるのを青マント達は待っている。たぶん、何人かは八つ当たりされるだろうと覚悟しながら。
バサバサ……。
わずかに聞こえた鳥の羽音で、青マント達はガイスの周囲に集まった。
「暑苦しいぞ、寄るな」
耳掃除が嫌いなガイスはまだ気づいていない。
「ベクター導師」
「ああ、おそらく敵だ」
ベクターが小声で返事する。耳の遠いガイスに聞こえないよう、うつむきながら早口で。ベクターは水面ぎりぎりを、鳥の群れが向かってくるのを見つけた。
「水鳥が森に向かって飛ぶはずが無い。エンチャント(付与)で操られている可能性がある。各自、警戒を怠るなよ」
他の青マントはガイスからは見えないように、手のひらを上下させた。『分かった』の合図だ。バサバサと騒がしい羽音を立てて、水鳥の群れが通り過ぎてゆく。
すぐ近くに鳥の糞が落ちる。更に泥まみれの水草がマントをかすめるのを見て、ガイスは顔色を変えた。
「プロテクション(防護)を展開しろ。服が汚れてしまう」
「ですが、今は」
「黙れ! 反論するな」
ベクターを蹴りつけておいて、ガイスは杖を振り上げる。ベクターを含む青マント全員がそろって杖を振り上げた。赤色の壁が出現し、一瞬後には何も見えなくなる。飛んできた糞や水草が空中に張り付いて、ゆっくりと下に向かって垂れている。やがて鳥がすべて通り過ぎると、ガイスは杖をおろす。すると、壁が消えて張り付いていた糞や水草が一斉に地面に落ちた。
「上だ!」
ベクターの声と、真上にある木の中から黒髪の少年、シーグが現れたのは同時だった。シーグは落下しながらガイスの背中に剣を振り下ろす。誰もが驚き動けない中で、ベクターだけがシーグの動きに対応して杖を突き出した。
「べ、ベクター導師!」
誰かが驚きの声を出す。続いて、キン、という軽い金属音。剣は完全に弾かれたが、シーグは地面に着地すると、腰のナイフを引き抜き一挙動でガイスに投げつけた。身動きできないガイスに命中する寸前、ベクターがマントを投げ付けナイフからガイスを守った。
間髪おかずに、シーグはベクターに駆け寄って突きを放つ。ベクターは杖で受け流すと、そのままに杖を反転させシーグの足元をなぎ払う。シーグが小さく横に飛んでかわすと、目の間にはベクターの膝が迫っていた。とっさに、後ろに飛びながら両腕で顔をかばう。それでも、腕の骨が砕けると思えるような衝撃。たたらを踏んで後ずさるシーグに向かって、ベクターは腕を突き出して叫んだ。
「ヴォルド!」
その瞬間、背筋が凍りついたように痛み、シーグはそのまま後ろに倒れこんだ。すると、三本の小さな矢がシーグの首をかすめて木に突き刺さった。完全に体勢を崩したシーグに、ベクターは杖を向ける。
「うわっ」
背後の悲鳴にベクターが振り向く。すると、銀髪の少女が短剣を振り回し、悲鳴を上げた男のマントを1枚ズタズタに切り裂いていた。ベクターが後戻りすると、少女は「ベー」と舌を出して、木の陰に隠れる。ベクターが追いかけて、木の裏を覗き込むがそこには誰もなく、人のいた気配さえも無かった。イリュージョン(幻覚)でも見せられたのかと思ったが、マントはバラバラになっている。
シーグもすでに茂みの向こうに逃げ出した。
青マント達は呆然としていて、ガイスは未だに震え上がって動けない。「キャハハ」という楽しそうな少女の声が遠くから聞こえて来た。
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