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戦女神編
84話:王都の長いようで短い一日【前】




 早朝、王都の一般区郊外に散らばる廃墟の中に、ローブを纏った三人の人影があった。彼等は宿泊先の宿から人目を忍んでここに集い、今日実行される作戦について最終打ち合わせを行っている。
 三人はアーサリムから魔族組織の要請で派遣された人狩りであった。

「開始は学院の授業が始まる頃でいいか?」
「いや、ガキ共が中央塔のサロンに集まっている時がいい、それを合図に工房と屋敷にも襲撃を掛ける」
「なら学院に予備も入れて格闘種二体と飛行種で行くか、合図に飛行種を使おう」
「そうすると街には格闘種一体と、合図に使った飛行種も回すか?」

 王都に持ち込んで地下に隠してある魔物十体と予備一体のうち、今日と明日でほぼ半数ずつ、使い捨てに出来るので最初に命令を実行させれば、後は活動停止まで好きに暴れさせる予定で纏まった。

 学院には地下の遺跡跡から侵入し、工房と屋敷には其々馬車を使って運ぶ。朝靄に陽射しが射し込みはじめる頃、打ち合わせを終えた三人は王都一般区の街並みに消えていった。






「おはよー」
「おはよう御座います、サクヤ様」

 昨日にも増して悪意の圧迫感が増した事を感じながら目覚めた朔耶は、静かに朝食を摂りながら、ひしひしと伝わってくる予感に意識を集中させていた。

『なんか来そうな予感……』
ウム ハカイト トウソウノ ケハイガ チカイ

 朔耶の普段とは違う、何処か張り詰めた様な雰囲気に呑まれてか、屋敷の中では使用人達も少し緊張気味な様子で奉公に励んでいた。屋敷を警備する衛兵も増員されており、篭手を与えられた者を中心に周囲の警戒に当たっている。

『レティ』
――サクヤ? どうしました?――
『すっごく、なんか起きそうな予感がする』
――っ! 分かりました、今日は特に警戒するよう伝えます――

 レティレスティアに連絡を取り、朔耶は空から王都の警戒に当たる事を告げると、屋敷の庭に出て空を見上げた。






 学院に登校する為、ドーソンを伴って一階ホールに降りて来たエルディネイアは、玄関の所で従者と向かい合っている父ランバルト公の姿を見つけた。

「お父様?」
「ん? おお、ネイア。ドーソン君も一緒かね」
「おはよう御座います、公爵様」
「何かあったのですか?」

 ランバルト公の微妙な気配の違いに気付いたエルディネイアが訊ねると、城から『本日は特に警戒せよ』という内容の通達があったという。先日から続いている厳戒態勢により、ランバルト公は度々エルディネイアに自宅待機を勧めていた。

「精霊神官達が感じている災厄の気配がかなり強まっているそうだ。今日は学院を休んではどうか?」
「またその話ですの? サクヤの言う事ですから信用はしますけど、お父様は少し過敏ですわ」

 学院には日々訓練に励む生徒達や実力のある教師も多く在籍している。以前誘拐された時のような軽率な行動さえ取らなければ、少々の事が起きても危険は少ないと、エルディネイアは心配性な父を諌めた。

「例え魔物が現われようとも、返り討ちにしてみせますわ」

 その気性と勇ましさが心配なのだがと、ランバルト公は上品で細い見た目とは裏腹に豪傑な中身を持つ最愛の娘に、溜め息を吐いて憂いた。そして傍らに立つ若者、娘の従者として最近は屋敷にも馴染んで来た青年に眼を向ける。

 ランバルト公はこのドーソンという青年が娘の想い人である事を知っている。どういった経緯で知り合ったのかまでは分からなかったが、随分と昔からの知り合いだったようだ。

 通常であれば、フレグンスの由緒ある家格を持つ貴族の娘が平民の青年に恋慕するなど、あってはならない事だと叱責モノである。
 それも公爵家ともなれば、場合によってはその相手を不敬罪辺りで処刑してしまい兼ねない事態になる所だが、身分や肩書きで相手を判断しない所は、ランバルト公がカイゼル王と親友である所以でもあった。

 ブラフニール公爵家令嬢の婿候補として、ドーソンはそのエルディネイア個人(・・)に対する一途さにより、ランバルト公から一定の信頼を得ていた。勿論ただ一途であるというダケでは、公爵の"愛娘"の婿に迎える資格に届かない。

 『この飄々とした青年は目的の為には手段を選ばないという選択を行える人間だ』と、ランバルト公は見抜いていた。そのドーソンを伴って学院に向かうエルディネイア達を乗せた馬車を、ランバルト公は目を細めて見送るのだった。

「フム……どうにも、戦場にいた頃のような予感を感じるな……」




 学院に到着したエルディネイアは先ず中央塔のサロンでチームメイト達と顔を合わせるのが日課だ。今日も何時ものテーブルの席で、仲間とのミーティングから学院での一日が始まる。 事件が起こったのは、そんな朝の一時(ひととき)だった。

 階段付近にある倉庫から飛び出してきた職員が『怪物が出た』と大騒ぎを始め、何事かと倉庫の様子を見に行った他の職員も慌てて倉庫から出て来ると、出入り口の封鎖を始めた。衛兵を呼ぶよう叫んでいる所に、封鎖した倉庫の扉が内側から激しく叩かれる。

「なにかしら?」
「……あの倉庫って、例の通路に繋がる仕掛けのあった倉庫じゃないかなぁ」


 倉庫の中には、人狩りに放たれた三体の魔物が蠢いていた。人狩り達にとっていきなりの誤算は、学院の地下通路に繋がる倉庫の仕掛けが封印されていた事だった。仕掛けが作動するか否かの確認までは取れていなかったのだ。

 本来ならば、何も知らない生徒達がサロンで談笑している真っ只中に襲撃を行う予定だったのだが、仕掛けが作動しなかった為に格闘種二体による壁の破壊で倉庫に侵入する羽目になり、思いの外丈夫な壁の破壊に手間取っている所を職員に目撃されてしまった。

 その為、奇襲は完全に失敗。学院側に迎撃態勢をとる間を与えた。一方、学院の職員達は先日から学院警備に派遣されている衛兵達を呼んで魔物に備えつつも、倉庫の扉は簡単に破壊されたので生徒達の避難までは間に合わなかった。

「魔物だーー!」

 倉庫の中から飛び出して来た異形を目にした誰かが叫んだ。細長い体躯に骨と皮だけで出来ているような翼を持つその魔物は、サロンに集まっている人々の頭上を飛び越えて学院の外へと飛び出すと、王都中にまで響きそうな程の音量で奇声を上げた。
 鳥とも獣とも付かない魔物の雄叫びに騒然としている所へ、身の丈二.五メートル程の人型をした魔物、格闘種二体が現われた。

「生徒達の避難を早く!」
「攻撃魔術を!」
「巡回中の騎士団を呼べっ!」

 衛兵二人が先程飛び出していった空を飛ぶ魔物に警戒しながら騎士団の応援を呼びに走り、教師達は外にも魔物がいるという事で、戦う術を持たない一般職員や生徒達を学び塔の中へと避難させた。
 そんな中、日頃から戦闘訓練を受けている一部の生徒達の中には、自主的に迎撃への参加を申し出る者もいた。

「君達は早く避難しなさい!」
「大丈夫ですっ 僕らも戦えます!」
「武器庫の真剣を使う許可を!」

 魔術を使う生徒達は既に教師達に混じって攻撃魔術を放っていた。しかし、幾ら戦闘訓練を受けているとはいえ生徒達に実戦の経験は無く、ましてや相手は魔物である。

 生徒をそんな危険にさらさせる訳にはいかない。とはいえ、大勢の生徒達を護るには人手不足である事も確かだった。教師達は逡巡の後、魔術による支援と他の生徒達が避難している塔の入り口を護る事を優先条件として迎撃への参加を許可した。

 魔物の前に立たせる訳には行かないが、塔の防衛くらいまでなら任せられるという所で妥協。衛兵と教師達で騎士団が到着するまで魔物の足止めを行い、生徒達の所までは行かせないよう踏ん張る覚悟を決める。

 二体の魔物が丸太の様な腕を一振りすると、槍で押さえ込もうとした衛兵達はあっさり蹴散らされた。朔耶から衝撃の篭手T2を渡されている衛兵も近付くに近づけず、またこの武器の性能を正確に理解していないので、中々魔物の懐に踏み込めずにいた。

「くそっ とにかく生徒達の所へは行かせるな!」
「応援が来るまでなんとしても耐え抜け!」






 学院から飛び出した魔物の奇声による合図で、他の場所に待機していた魔物も一斉に行動を開始した。サクヤ式工房とサクヤ邸の近くに停まっていた馬車から飛び出した格闘種は、予め命令されている建物を目指して突進していった。

 一般区では市場付近で準備中の布を被せてあった露店のテントから飛び出した格闘種が、近くの露店の屋根を吹き飛ばし、開放区方面から飛来する異形を見て騒いでいた街民達は、突然市場に現われた怪物を見て一斉に逃げ出した。


 ゴガアアァンという鈍い音が響いて、サクヤ邸の門が拉げる。門の外を護っていた衛兵は突進してきた魔物を槍で突いて迎え撃つも、突いた槍ごと弾き飛ばされて鉄柵に身体を打ちつけた。まさに()ねられたと表現していい。

 衛兵を撥ね飛ばした魔物はそのまま門に体当たりして、門を拉げさせたのだ。屋敷の敷地を警備していた衛兵達が直ちに集結すると、侵入してくる魔物に備えて防御陣形の隊列を組んだ。やがて門が破られ、敷地内を屋敷に向かって猛進する格闘種。

 屋敷の扉を背に決死の覚悟で槍を構える衛兵達。そこへ、乾いた轟音と共に稲妻が閃いた。青白い雷撃が二発三発と連続して魔物の頭を直撃する。流石に効いたらしく、身体を(かし)がせた魔物は足をもつれさせて豪快に転倒した。

「今よ! 篭手持ってる人!」

 上空から響く朔耶の呼びかけに、衝撃の篭手T2を渡されていた衛兵が弾かれたように飛び出して、のそのそと起き上がろうとしている魔物の頭を目掛けて殴りつけた。ドコンッドコンッという衝撃排出音が連続する。
 魔物は起き上がろうとした体勢のまま顔から突っ伏して動かなくなった。篭手の衝撃波が頭部を貫通して、魔物を仕留めたのだ。

「や、やったのか……?」
「こんな……簡単に魔物を……」

 仕留めた衛兵は頭部に穴の空いた魔物の死体を呆然と見詰め、自分達の右腕に装備された篭手に畏怖の視線を向けた。歴戦の腕を持つ騎士や魔術士達でも魔物や魔獣を相手取るのは大変だと聞き及び、それは周知の事実である。
 にも拘らず、騎士団に所属出来る程の腕も無い一般兵の自分達が、いとも簡単に魔物を退けられたのだ。

 二人の衛兵は、大物を仕留めたにも拘らず、興奮も昂揚も湧かなかった。心中に去来するのは只々、朔耶に対する畏怖の念『やはりあの方は、自分達とは根本的に違う存在なのだ』という想い。
 そんな衛兵達が見上げた空を、漆黒の翼が軌跡を描いて飛び去って行った。


 朔耶は屋敷前で魔物が倒された後、屋敷に掛かっていた悪意の圧迫感が急速に薄れて行くのを感じ、もうここに危険は無いと判断して工房へと急いでいた。あの圧迫感が魔物の襲撃地点を指していたのであれば、工房にも魔物が現われている筈だ、と。

『さっき聞えた鳴き声みたいなのも気になるよね』
ナニカノ アイズデアッタノカモ シレヌ

 やがて工房上空に辿り着くと、そこには予想通りの光景。先程サクヤ邸に現われた魔物と同じ姿をした魔物が暴れていた。此方は巡回中だった騎士団が応援に駆けつけており、盾を構えて包囲しつつ全方位からチクチクと攻撃を繰り出していた。

 通常の槍での攻撃は余り効果が出ていないようではあったが、時折隙を突いて接近しては篭手で一撃入れて離脱する方法で確実にダメージを与えている。魔物の身体からは夥しい量の体液が流れ出た跡があった。

 使い捨ての駒として、有るだけの魔力を全て出し切っている魔物は、傷を負ってもその魔力で直ぐに身体を再生して修復してしまう。従って、本来であればそう簡単に深い傷を負わせられる事など無いのだが、衝撃の篭手T2は一瞬で身体に穴を穿つ。

「いいぞ! この調子で仕留めるんだ!」
「こっちの間合いに入れるなっ 篭手持ちは外から背後に回りこめ!」

 ぐるりと魔物を取り囲んだ騎士団。その包囲陣の外側を、衝撃の篭手T2を持った衛兵が魔物の隙を窺って走り回る。
 魔物が包囲陣の一角に攻撃を仕掛ければ、攻撃を受けた騎士達は槍と盾で魔物の気を惹きつけながら耐え、その隙に背後から駆け寄った衛兵が篭手で一撃入れて離脱。頭部には手が届かないので腕や背中、腰、脇腹等に攻撃が集中している。

 しかし、それだけのダメージを受け続けているにも拘らず、魔物の攻撃も熾烈なものだった。騎士団の盾は一つして無事なモノは無く、もはや原型を留めていない盾としての効果を失った鉄屑(ガラクタ)が其処ら中に打ち棄てられている。

 何人か戦闘から脱落した者が工房の塀の横まで運ばれ、そこで折り重なるように倒れていた。朔耶は包囲されている魔物の頭に六発ほど雷撃をぶつけると、倒れている騎士や衛兵の傍に降りて癒しの光で包み込む。

 拉げた甲冑の一部が身体にめり込むなど、重傷を負っている者が殆どだが、幸いにも死者は出ていなかった。例え虫の息でも、生きてさえいれば強力な精霊の癒しで治癒する事が出来る。そうして朔耶が負傷者を全員回復させる頃、背後で歓声が上がった。

「やった! 魔物を仕留めたぞ!」
「凄い武器だぞこれは、流石はサクヤ様だ」
「サクヤ殿! 我等にも治癒をお願いします!」

 此方の衛兵や騎士達はサクヤ邸の衛兵と違い、全員で協力しあって苦労しながら魔物を倒したからか、強力な武器に対する畏怖よりも魔物を仕留められた事に士気を上げている。
 朔耶の能力と武器に頼り切った勝ち方では無かった事が、彼等の思考をポジティブな方向に働かせていた。

 全員を精霊の癒しで治癒した朔耶は、この一帯からも悪意の圧迫感が消えて行くのを感じ、次の場所を目指して空へと舞い上がる。丁度その視界の先に、一般区の建物ギリギリの高度を飛び回る異形の姿を見つけた。
 時折、矢や氷塊が異形を目掛けて地上から射ち上げられているが、何れも躱されているようだ。

『あれって、魔物だよね?』
モウイッタイ チカクニイルゾ

 朔耶は一般区の市場を目指して飛んだ。




 一般区の市場では、出動して来た聖騎士団によって負傷者の治癒と街民の避難誘導が行われていた。
 多少の混乱はあったモノの、皆ここ最近の厳戒態勢と例の噂によってある程度の心構えが出来ていたせいか、避難は比較的スムーズに進んでいた。市場で暴れる格闘種の魔物は、聖騎士達が目眩ましの光弾を浴びせ続ける事で足止めしている。

 上空を飛び回って時折風の刃を放ってくる飛行種には、攻撃魔術と弓で牽制。此方は巡回中だった騎士団二個小隊が駆けつけてくれたので、聖騎士団の負担はかなり軽減されていた。騎士団に同行していた魔術士が活躍している。


 街民を強化防壁で囲んだ避難場所へ誘導し終えると、次は魔物の討伐に動く。一般区と開放区の区画門を護っている衛兵や巡回の騎士達の中で、朔耶から衝撃の篭手T2を借り受けている者が集まって急遽部隊を編成した。

「他に巡回中の騎士団は?」
「学院にも魔物が出ているらしく、半数が其方に向かうようです!」
「これ以上の増援は期待できないか……仕方が無い、聖騎士団と連携して我々だけでどうにかするぞ」

 上空を飛び回る魔物対策に魔術士隊の援護も欲しい所であったが、彼等は近衛達と王宮区画や上流区の警備に回っている。現状は巡回の騎士団にレイス宮廷魔術士長が就けてくれた魔術士隊の二人で何とか牽制して凌いでいた。
 
 地上にいる魔物は聖騎士団が放つ光弾の目眩ましが効いているので、空の魔物と連携されない内に倒してしまおうと、王国騎士団と衛兵の混合部隊を指揮する小隊長は考えた。
 彼等の視線の先では、視界を奪われて盲滅法(めくらめっぽう)に腕を振り回し、辺りの建物や露店を破壊している魔物の姿があった。


 混合部隊から援護を要請された聖騎士団は、フューリ団長が魔物の足止めを行う為のメンバーを選抜していた。なるべく戦闘能力の高い者を選び、他は後方で避難した街民の警護と負傷者の治癒に回す。

 一般区の神殿で待機し、騒ぎが起きてから直ぐに駆けつけたので避難も順調に進んだが、もし厳戒態勢を布いていなかったならば、街民にどれ程の犠牲が出ていたかと考えて、ぞっとするフューリ。

「二人、上空の魔物を牽制する魔術士隊を補佐しろ! 残りは私に続け」

 選抜したメンバーを率いて混合部隊と合流するフューリは、市場で暴れる魔物を取り囲むように団員を配置し、常に魔物の眼を狙って光弾を放つよう指示を出した。そうして同じ様に周囲を取り囲んだ混合部隊が隙を見ては近付き、一撃離脱を繰り返すのだ。

 魔物はぶつかる感触の無い光弾がどの方向から飛んで来るのか判らない事と、周囲の人の気配も多過ぎて攻撃対象が定まらず、只管自身の回りを攻撃していた。何かにぶつかればそれを攻撃、とにかく手当たり次第であった。

 それだけ暴れ回っていてもまったく疲れた様子を見せない魔物に、このまま放って置いては市場が壊滅してしまうと此方から攻める決断した混合部隊長の指示により、衝撃の篭手T2を装備した衛兵と騎士達が背後からそっと近付いて行く。

 そこへ、上空の魔物が奇声を上げた。それに反応するように、格闘種の魔物は背後に振り向いて腕を振り回しながらの突貫を敢行する。突然の事に反応しきれず次々と撥ね飛ばされる混合部隊の衛兵や騎士達。

 混合部隊は撥ね飛ばされながらも何人かが篭手で反撃を試みた。その結果、魔物の片腕の拳を破壊、身体に幾つかの傷を負わせる事が出来た。身体の傷は直ぐに再生してしまったが、拳の骨の再生までは時間が掛かるらしく、魔物の攻撃範囲が半減した。
 魔物の拳と正面から篭手で打ち合って砕いた騎士は腕を骨折してしまった為、直ちに後方へ下がって治癒を受ける羽目になった。

「むっ いかん、奴等連携を始めたぞ!」
「魔術士は空の奴の足止めを!」
「ダメだ、動きが速過ぎて当たらんのだ」

 上空の魔物は牽制役だった魔術士隊の氷塊と聖騎士の光弾をひらりひらりと躱しながら無視を決め込み、格闘種の頭上で旋回しつつ奇声で誘導、目眩ましの光弾を浴びせていた聖騎士団に風の刃を放って隊列を崩すと同時に格闘種を突進させる。

 まともに体当たりを受けた数人が戦線から離脱した。フューリはとにかく目眩ましの光弾を切らさないよう放ち続けるよう指示を出すと、回転ヘッドメイスを構えてスイッチを入れた。

 このメイス独特の駆動音に釣られた魔物が、自分の方へと向く瞬間を狙って光弾を放たせる。メイスの駆動音を目指して突進して来る魔物の体当たりを避け、すれ違い様に一撃、足元へ叩き込んだ。

 巨大な鉄塊にでも叩き付けたかのように弾き返されたが、それなりに効果はあったらしく、魔物は片足を掬われたように転倒した。その隙を狙って篭手の一撃をくれてやろうと混合部隊が駆け寄るも、上空から降り注ぐ風の刃に阻止される。

「ちぃっ ええい! 上の奴を何とかせねば――」

 カアアァアン

 混合部隊の騎士が苦々しげに空見上げると、彼等を嘲笑うように旋回していた魔物がいきなり雷撃に打たれた。

「稲妻落としーー!」

 カアアァン カアアァン カカアアァン

 二発三発と雷撃が突き刺さり、空を舞っていた魔物は地上へと墜落する。帯電させた漆黒の翼を紫色に輝かせ、難敵だった飛行種の魔物を稲妻で叩き落してくれた『フレグンスの戦女神』の登場に、地上の騎士達が湧き立つ。

 地面に叩きつけられた魔物は背中と翼部分から白煙を上げながら起き上がろうと蠢くも、気付いたフューリがメイスでトドメを刺した。残った格闘種も攻撃魔術と光弾、それに朔耶の雷撃で動きを封じ、混合部隊の一斉攻撃で仕留める事が出来た。


「市場は滅茶苦茶になってしまったが、人的被害は最小限に抑えられたな……」

 まるで竜巻でも通り過ぎたかのような有り様となった市場の惨状を見渡しながら、フューリは街民に魔物の犠牲者が出なかった事を喜んだ。騎士団や衛兵の負傷者は、朔耶の強力な癒しによって重傷を負っていた者も一命を取り留めている。

 手の施しようがない状態で即死した者も居て、朔耶は悲しげに俯いていたが、皆から『寧ろこの程度で済んだのは幸運だった』と慰められていた。その後すぐ、飛行種が学院から飛び出して来た事を聞いた朔耶は、学院に向かうと言って飛んで行った。

 朔耶が飛んで行った方向を一度見遣ったフューリは、部下達に周囲の警戒と市場を片付ける準備を指示する。

「学院か……、生徒達が皆無事であれば良いが」







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