冬休みに入った朔耶は、庭に積み上げられた大荷物を見て軽く息を吐いた。山積みされているのは『衝撃の篭手T2』。今回ササの街に持って行く分である。
「三日で三十個生産とか、頑張り過ぎでしょ……」
朔耶は用意したミニリアカーに初期型の角ばった箱状の篭手と、量産型で流線形な筒状の篭手、計三十一個を積み込んだ。
後二十個ほど生産する予定だと言う弟と拓朗は、今日も朝から工場に出掛けている。物が物だけに重量的にも、変な所に出ると危ないので、朔耶は慎重に転移する場所を測る。
『ブラットさんの近くでも上に出ちゃダメよ? イザって時は建物壊してでも障壁で包んで浮かしてね?』
ウム マカセテオケ
朔耶はミニリヤカーのハンドルを持ち上げた体勢で、オルドリア大陸のアーサリム地方へ向けて転移した。
「わわっ」
「うお! なんだなんだっ!」
転移するなり灰色の布がバサリと覆い被さり、ブラットの慌てる声が響く。どうやらパーシバル傭兵団の陣地、ブラット団長のテントの中に出たらしく、テントの端っこの布壁をミニリアカーの車輪が踏んでしまっていた。
それにより、テントを支えていた紐がリアカーの重さに耐えられず千切れたらしい。
「ツヅキ……」
「ご、ごめんなさい」
早朝から寝床の破壊で叩き起こされて憮然とするブラットに、朔耶はてへっと笑って誤魔化しつつ謝るのだった。
「ほう、これが対魔物用の武器なのか」
「まだどれだけ使えるか分からないんだけどね、一応フレグンス先発隊の人達用のだけど。……使ってみる?」
「くれるのか?」
「貸すだけよ」
拡散防止の為という朔耶の説明に首を傾げながら、ブラットは流線形の筒型篭手を一つ手に取って造りを確かめている。此方には無い技術で組まれているので、裏返してみたり翳してみたりと、珍しそうにしていた。
そんなブラットと共にゴロゴロとミニリアカーを押してフレグンス先発隊の陣地へと向かう。このリアカーも此方のモノと比べると相当に良い造りをしているので、通りの商人達が鉄のフレームや特に車輪の構造に興味を示していた。
支援拠点となるフレグンス先発隊の陣地と並んで、帝国の陣地も隣に建てられている。
傭兵団の陣地と同じく野営テントが並ぶキャンプ風の先発隊陣地と比べると、帝国の陣地は持ってきた機材で砦のような造りの建物を築いている。投入している兵力の差が実に明確に示されていた。
帝国、フレグンス、アーサリムが共同利用出来る訓練場も開かれており、帝国とフレグンスの騎士達が地元部族の戦士から魔獣や魔物に関する知識、戦う際の注意事項などレクチャーを受けている。案山子も異形を象ったモノが用意されていた。
其処へ、リヤカーを引いてきた朔耶が対魔物武器の配布を伝えると、フレグンス先発隊の騎士に混じって帝国の騎士やアーサリムの部族戦士達も皆物珍しそうに集まって来た。
「盾と併用する事になってるけど、かなり接近しなきゃいけないから素早い人の方がいいと思うよ」
「ほほう、篭手に仕掛けが施されていると?」
今までサクヤ式で武具の類と言えば、エバンスの騎士が持つ『魔法障壁の盾』の事くらいしか噂に広まっておらず、『寸勁の篭手』を知る者は少ない。EBもあれがサクヤ式だと知っているのは一部の者だけだった。
「これで使っていいか?」
ブラットが異形の案山子の前で篭手を試そうとしていたので、朔耶は使い方を皆にも分かり易く説明した。
篭手の腕を入れる端の部分には魔力測定器の機構で作った魔力計が付いているので、魔力集積装置の魔力残量が一目で分かる。多少なりとも魔術を行使出来る者なら、自力で魔力を集めてやる事で、集積装置への蓄魔も早める事が出来るのだ。
「その針が右端にある時なら使える状態、真ん中より左だと威力が下がるから、回復するまで待つようにね」
「ふむふむ、この先端をぶつけりゃ良いんだな?」
そう言って魔獣型の異形案山子の前で構えたブラットは、その懐に飛び込むように低い態勢で踏み込むと案山子の顎に篭手をカチ上げた。所謂アッパーカットである。
ドコンッという音が響いて案山子の頭の一部が吹っ飛んだ。貫通した衝撃が頭部を象る装甲の上部分を跳ね上げたのだ。案山子の顎には穴が空いていた。
打たれる為に作られた丈夫な案山子の装甲に一撃で穴を開ける篭手の威力を、撃ち放ったブラットは『こいつはすげえ』と実感していたが、貫通する衝撃は傍目には地味なので余り効果が無いように見える。
大した威力ではないのかと、幾分がっかりした様子を見せる騎士達。朔耶本人の手前、あからさまな態度には出せないが、俄かに失望感を感じさせる雰囲気が騎士達の間に流れる。
そんな中、部族戦士達に混じって対魔獣戦闘をレクチャーしていた大族長ブレブラバントは、『やはり精霊の乙女は敵を打ち倒す力よりも味方を護る力に秀でているようだ』と捉えた。
「なぁに、長くこの地で魔物共と戦って来た我々が付いている。硬くて丈夫な武器があれば大丈夫だ」
『精霊の乙女の加護を受けた武器』が期待外れだった事をフォローするように、ブレブラバントは愛用の鉄輪付き棍棒を一振りすると、身体の回転も加えながら弧を描かせて異形の案山子に叩きつけた。
ガコォンッという派手な打撃音と共に案山子の装甲が拉げる。単純且つ原始的な攻撃法だが、それだけに威力も迫力も十分だ。自慢げに胸を張るブレブラバントだったが、そんな彼にブラットが一言呟く。
「ふっ 所詮は蛮族か……」
「……なんだと?」
低い声で振り返ったブレブラバントがブラットを睨み付ける。他の部族戦士達も今のは何かの侮辱か? と戸惑いつつも、大族長に追随するように視線を鋭くした。辺りに不穏な空気が漂う。それを口の端で笑いながら受け流すブラットは更に――
「つーか、帝国と王国の騎士様達もだ。揃いも揃ってあんたらの目は節穴か?」
急に矛先を向けられた騎士達は何の事かと顔を見合わせる者や、傭兵風情に挑発されたと憤る者など様々な反応を見せる中、朔耶は『なんで皆に喧嘩売ってんのー!』とブラットの行動に困惑していた。
「いいか? 騎士様達はあんま知らないだろうが、魔獣は普通の奴でも大体この案山子くらいはデカイ」
そう言ってブラットは異形の案山子をぺしぺし叩きながら、先程吹っ飛んだ頭部の装甲を拾い上げる。革と厚布に丈夫な鉄糸が網目状に編み込まれ、伸ばした鉄板が重ね張られており、かなり丈夫で柔軟性にも優れた装甲だ。
「見ての通り、こいつは其処いらの甲冑よか余程丈夫な装甲に組まれてる」
「むん? 当然だ、魔獣や魔物を想定した案山子に使っているのだからな」
ブラットの言いたい事が解らず、ブレブラバントは眉間に皺を寄せながら訝しんだ。ブラットはその装甲を訓練場の打ち込み用の太い杭に括り付けると、魔獣との戦闘について話す。
「さっきのアンタの一撃だって、暴れ回る魔獣相手に簡単には決まらないだろう?」
少々の攻撃では剣で斬ろうと槍で突こうと大した傷を負わせられない魔獣を相手にする時は、仲間との連携で魔獣の動きを押さえつつ頭を狙って仕留めるのが常套になるのだが、それでも一撃で倒せる事など稀だ。
今し方ブレブラバントが見せたような一撃が入ったとしても、ダメージにこそなれど、それで倒せるほど甘い相手ではない。それこそ、岩を砕く程の強撃を叩き込んでその一発で頭を潰せるくらいでなくては、魔獣は倒せない。
「そんな事は知っている。それと今の貴様の発言とどう繋がる」
「こいつを一撃で砕くなり穿つなり出来るか?」
ブラットは杭の真ん中辺りに括り付けた案山子の装甲をコンコンと叩きながら問う。
「無理に決まっているだろう、魔術士の技でも簡単にはいくまい。……さっきから一体何が言いたいのだ?」
「ふっ 見てろ」
衝撃の篭手T2を再び構えたブラットは、杭に括り付けられた装甲に殴り掛かった。ドコンッという衝撃排出音と共に杭が振動し、装甲を括り付けてある部分の丁度反対側からパッと煙のように木片が舞う。
「む?」
今、一瞬何が起きたのかと全員が目を凝らした。ブラットが杭を指差す。其処には多重圧縮反発力の衝撃波に撃ち抜かれて穴の空いた装甲と、諸共穿たれた打ち込み用の杭。舞った木片は衝撃波が杭を貫通した時のモノだった。
目を瞠ったブレブラバントは大股で杭に近寄ると、括り付けられた装甲を手に取り、確かに穴が空いている事を確かめた。信じられないといった表情でブラットの右手に装着された篭手に目を向ける。
「つまり、コイツは特別な力を持たない『普通の戦士』が、魔獣と一対一で遣り合う為の武器なんだ」
遣り合えるというダケで、実際に戦う時は従来通り人数を揃えて連携しながらになるだろうという、補足も入れながらのブラットの『節穴発言』の説明に、騎士達は挑発は遺憾だが納得出来ると腑に落とした。
大した威力ではない所か、騎士の甲冑をも簡単に撃ち抜いてしまう程の力を持つ近接片手武器(両手に装備も可)。今まで見た事も聞いた事もない、途轍もなく強力な武器だったのだ。ブラットの実演を兼ねた篭手の説明に、朔耶が感心の声を上げた。
「すごーい」
「って、おいおいっ」
その凄い武器を持ってきた本人の感心っぷりにズッコケるブラット。朔耶も実際に戦闘経験のある人物から具体的な用法と効果が語られるまで、その実用性や威力に付いては実感がなかったのだから仕方がないのである。
ともあれ、武器の効果も実証されたという事で早速フレグンス先発隊の騎士達に配られる衝撃の篭手T2。傭兵団にもブラットに預けた分を含めて十個、今回の仕事が終わるまでは貸し出される。
羨ましそうな視線を向ける帝国遠征部隊の中で、帝国魔術団が特に興味深そうにしているのが朔耶から見て印象的だった。
『ティルファの人達だったらもっと食いついてきそうだよねー』
アヤツラ コウキシンノ カタマリデ アルカラナ
量産型衝撃の篭手T2三十個を配布し終え、余った初期型をどうしようかと考えていた朔耶は、なんとなく指を咥えて見ているような雰囲気を醸し出しているブレブラバントに貸してあげようかと思いつく。
「使ってみます?」
「えっ! お、オレがですか?」
思わず敬語になりながら上擦った声を上げるブレブラバントは、余り物でよければと貸し出す朔耶に恐縮しつつ、初期型衝撃の篭手T2を受け取った。
角張ったデザインの初期型は、何となく特別製のように思えて内心で喜びの踊りを踊っていたブレブラバントであったが、朔耶の次の一言で凍り付く。
「そういえばルティがこっちに居る筈なんだけど、知りませんか?」
ポルモーン渓谷へ向かった追跡隊も、それを追った部下からも、ルティレイフィア達を見つけられなかったという報告が上がっている。ポルモーンの街で馬車を処分した事までは判明しているが、以降の足取りが全くの不明。
「さ、サクヤ殿は、紅獅子殿とは親しい間柄で?」
「ほんとに紅獅子って呼ばれてるんだ? 一緒にご飯食べたり、内緒話しあったりする仲ですよ」
ブレブラバントは『内緒話』を『機密事項』と捉えた。つまり、『非常に親しい関係』にあるという事だ。
ダラダラと汗を流しつつ、ブレブラバントは如何答えるべきかと悩んでいたのだが、その悩みはブラットがやって来た事でアッサリ終わりを告げる。
ブラット達は日頃の習慣で、街などに入れば先ず情報収集を行う。情報源は情報屋のような特別な商売をする相手から、一般の露店商人まで様々だ。
そして、これまで絶対中立を謳って特別大きなトラブルも無く過ごして来たブレブラバント達には、何かあった際に街の住人を含めて街で活動する外部の者も対象にした緘口令を敷くという発想が無かった。
「ルティレイフィア第二王女様ならポルモーン方面に逃走中だって聞いたぜ?」
「き、貴様っ何故それを!」
「あぁん? 其処彼処の連中から聞いた話なんだが……、もしかして秘密にしときたかったのか?」
「なにソレ? ……どういう事?」
朔耶の纏う空気が変わった事で、観念したブレブラバントは一連の騒ぎを白状した。朔耶は特に言葉に怒気を孕ませたり、嫌疑を掛けたりした訳ではなかったのだが、テンパっている者にとっては最悪の展開を想像してしまうモノなのだ。
「行くのか?」
「うん、後の事は宜しくね」
ルティレイフィア達を探しに行く事にした朔耶は、ポルモーン渓谷方面に向かう門の所に来ていた。ブラットから大凡の地理を教えて貰うと、漆黒の翼を出して空へ舞い上がる。
初めてそれを目にしたササの街の住人や部族戦士達は皆一様に驚いて釘付けになり、ブレブラバントも飛び去っていく『精霊の乙女』の姿を大口を開けたまま呆然と見送るのだった。
「わー、本当に柱がいっぱいある」
テレビのドキュメント番組等で観た事があるような不思議な地形が眼下に広がる。
石柱の中には天辺に僅かながら草花が生えているモノもあった。航空写真を撮りながら飛び続けること暫らく、石柱が疎らになった辺りにササと同じ位の大きさの街が見えた。
鼠返しのような構造の高い塀に囲まれたポルモーンの街。ここから更に東へ向かって馬車で二日程の位置にアーレクラワの街があるという。遠くの景色は靄が掛かっていてよく見えなかった。
『うーん、何処から探そうか』
トリアエズ ゼンイキヲ ミワタシテ ミルカ
神社の精霊と相談しながら、朔耶は地表が見えるギリギリまで高度を上げた。あまり高い所まで上昇すると、靄で石柱の頭しか見えなくなってしまうのだ。そうして街の周辺をグルリと見渡す。
『ねえ、あの岩山の辺りって所々開けてる場所があるね?』
ウム ナカナカ ソウカンデ アルナ
森の中の一角を開拓したような開け方をした、石柱群の中にある開けた一角。
黄土色の地表が広がるアーサリムの土地の中で、其処だけ緑が広がっている光景は非常に特徴的だった。そんな不思議な地形の中に、朔耶は何となく不自然に感じる箇所を見つけた。
『アソコだけやけに靄が濃くない? なんか流れてないような……』
全体的にゆったりと流れている靄が見える中で、一箇所だけ流れが無くその場で漂っているような違和感を感じる光景。
『まさか魔族組織の基地があったりして……?』
イヤ ソレハ コウザンノチカク ナノデアロウ?
『あ、そっか。この辺りからはまだ遠いんだよね』
シカシ シゼンノナカニアル フシゼンハ ヒトノテニ ヨルモノノ バアイモアル
何が原因なのか一応調べておこうと、朔耶はその靄の掛かった場所へと飛んだ。
『もしかしたら、バーリッカムみたいに温泉が湧いてるのかも』
ヒトウトイウ カノウセイカ
メリルー導師の指導の下、ヴィンス達が魔術の修行をしている隠れ里。ルティレイフィアは一人離れた場所で剣を振るっていた。EBとの連携技も鍛錬の内容に加えて置きたい所だが、この辺りでは魔力石の入手が困難なので使用を控えている。
「レイフィアや」
「? メリルー導師、如何なさいました?」
「何か強大な存在が結界を越えて来ておるようじゃ」
導師の珍しく真剣な様子に、ルティレイフィアは顔を強張らせた。メリルー導師の結界は魔術と精霊術を組み合わせた、或る種紛いモノではあるが、不可侵の力はルティレイフィアの母、アルサレナの使う精霊の結界と遜色無い効果がある。
それを超えてくる存在として考えられるのは、楽観的に思うならば朔耶の存在が挙げられる。
だが、ササの街で拗れているであろうフレグンスの先発隊とブレブラバント達地元部族との衝突の事を考えると、朔耶が今の時期にこの辺りに現われるとは思い難い。
となれば、三国連合がキトの制圧によって得た情報にあるアーサリムに潜む魔族組織。スンカ山付近に在るという魔族組織の本拠地より飛来する『何か』が、この里の結界の存在に気付いて偵察に来たとも考えられる。
十数日前にアーレクラワからポルモーンへ戻る際、途中の集落で『空を飛ぶ魔物』の存在を耳にした事もあった。
魔物は魔物自身の纏う魔力により、軟な結界なら侵蝕する事で喰い破る力を持つ。強力な結界を喰い破る程の力を持つとなれば、相応に力の強い魔物である事が予想された。
「ヴィンス達の術は使えますか?」
「まだ無理じゃな。集中力を費やす分、返って危険じゃよ」
侵入者の正体を見極めるまで彼等と共に避難しておいた方が良さそうだと判断したルティレイフィアは、メリルー導師と連れ立ってヴィンス達の修行している場へと急いだ。
「むっ! イカン、真上じゃ」
「っ!」
立ち止まって空を仰ぐメリルー導師に釣られてルティレイフィアも空を見上げた。其処に漆黒の翼を広げた黒髪の少女を認め、思わず緊張が解ける。ルティレイフィアの変化から危険な存在ではない事を感じ取ったメリルー導師も警戒を解いた。
「ふぇっふぇっふぇっ あー驚いたわい……お友達かえ?」
「はい」
丘の上の小屋でテーブルを挟んで向かい合いながら、朔耶はルティレイフィアとお茶を飲みながら雑談に興じていた。
メリルー導師は暫らくホォホォと朔耶の『状態』を視て『本物の重なる者を見るとは長生きはするものじゃ』と感心するなど、精霊と重なっている事を一目で見抜いて朔耶を驚かせた。
「ふぇっふぇっ、……ゆっくりして行くとええ」
メリルー導師はそう言ってヴィンス達の指導に戻って行った。
ササの街での一連の出来事と顛末を聞いたルティレイフィアは、朔耶が上手く取り成してくれたお陰で双方に無益な犠牲を出さずに済んだと感謝するのだった。
「あ、そうそう。ルティにあげたエレメントブレード、新型が出来たから回収して交換するよ」
「ほぅ、新型とな?」
朔耶は自分が作った試作EBを回収して魔力集積装置を内蔵した新型EBをプレゼントした。フル充填状態であれば従来のモノより持続時間が三倍以上、魔力計が付いているので魔力の残量も一目で分かる。
「魔力を集めれば自動的に力を充填出来るのか……相変わらず凄いモノを作るのだな」
「そのEBはもう殆どあたしの設計じゃないけどね」
兄弟と幼馴染と父親の共同開発だと聞き、ルティレイフィアは『朔耶は発明賢者の家系なのか』と改めて感心した。使い込まれた試作EBは柄が木製なので強度に不安があったが、新型はステンレスとスチールを使っている。
滑らかで鏡のように磨かれたEBの柄に魅せられいるルティレイフィアに、朔耶は一つ思い出して話題に乗せた。
「あーそれと……アルサレナさん、嘆いてたよ?」
「う……」
以前からアーサリムに部族国家の建国を謳っていたルティレイフィアの構想と、フレグンスの現状の国力。
昔サムズを組み込んだ時の事を鑑みるに、無理にアーサリム地方をフレグンス領に組み込むよりも、未成熟な新興国家と早期に国交を結び、僅かな出兵で美味しい鉱山の採掘権を手にする方が余程都合が良いという事でそのまま交渉を始めたが――
「魔族組織の本拠地を叩く時は攻撃隊に協力しなさい、だってさ」
「そ、そうか。まあ、それなら別に構わない」
オルドリア大陸中に暗躍している魔族の組織を潰す事になんら異存は無い。今現在、私兵を鍛えている最中なので、その時が来たら呼んでくれと、ルティレイフィアは乗り気だった。御小言を貰うより遥かにマシなのだそうだ。
「サクヤとも縁のある者達だそうだな、クルストスで騎士をやっていた」
「……ヴィンスさん達か〜」
「会って行くか?」
「ん〜〜、ん?…………止めとく」
神社の精霊が『まだ会わない方が良い』とアドバイスを出したので、朔耶はそれに従う事にした。精霊から何か隠し事の雰囲気を感じ取ったが、特に追求はしない。
朔耶自身、アンバッスの事があるので、彼等とどう接すれば良いのか分からないという気持ちもあるのだ。顔を合わせる時は、アンバッスと一緒に会う方が良いかもしれないと、朔耶はボンヤリ思う。
「……そうか」
ルティレイフィアもクルストス支部での事は聞いていたので、深く追求する事はしなかった。
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