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戦女神編
80話:大族長の選択




 アーサリム地方に遠征するフレグンスの先発隊は、後続の物資を運ぶ竜籠を待ちながらエバンスで出発準備を整えていた。案内人役でもあるパーシバル傭兵団も、二頭立ての竜籠を丸々一台使用する。

 竜籠三台で王国騎士団二十人、パーシバル傭兵団二十人、それに食糧などの物資を積み込み、アーサリムの入り口の街、ササを目指す予定だった。先ずはササに拠点を置いて逐次(ちくじ)兵と物資を送り込み、徐々に戦力を整えてから鉱山を目指す。

 行く手を塞ぐであろう障害で問題となるのは魔獣や魔物の類である。他にも魔族組織の本拠地が鉱山付近にある以上、魔族の存在も脅威となる事が予想されていた。

 今の時点で、アーサリムに住む地元部族が対フレグンスで戦いの準備を始めているなど、思いも寄らない事であった。フレグンスを始めとする北部の列強国にとって、アーサリム地方は未開地であり、そこを支配する『国』は存在しないのだ。


 一方、帝国の遠征部隊もバーリ街道の第一中継地とバーリッカムの間にある中立地帯の宿場街に部隊を駐留させ、アーサリム地方までの中継地として竜を休ませていた。休憩が済み次第、ササの街に向けて出発する予定である。

 四頭立ての大型貨物竜籠二台に物資を満載し、二頭立て竜籠四台に帝国騎士団三十人、魔術団二十人、密偵部隊十人、工兵や使用人達も含めて、総勢八十人の先行部隊。場合によっては直接鉱山まで飛んで陣地を築く事も視野に入れた編成だった。




 ササの街を脱出したルティレイフィアとヴィンス傭兵騎士団一行は、ポルモーン渓谷の入り口に辿り着いていた。

「さて、此処からはお前達にとって初めての地となる訳だが、覚悟は出来ているな?」
「ハッ 我等一同、何処までもお供いたします」

 ヴィンス達の返答にルティレイフィアは頷いて応える。

「よし、では行くぞ。先ずは比較的安全な場所にあるポルモーンの街を目指す。街に着いたら馬車を処分して直ぐに発つ」

 ルティレイフィアは追っ手を振り切って暫らく身を隠す為に、ある場所を目指すとだけ説明して馬車を出発させた。この地を旅して数ある村落を回っている内に、身を隠して身体を休めるのに最適な場所を幾つか見つけてあるのだ。

「全員武器を構えて周囲の警戒を怠るな、馬車の速度は一定を保て、決して止まるなよ」

 風と水に削られて出来た背の高い、自然の石柱が幾つも立ち並ぶ迷宮のような渓谷を、傭兵団仕様の馬車が駆け抜けていく。ルティレイフィアも御者台から半身を乗り出し、周囲に危険が迫っていないか魔物の気配を警戒するのだった。






 一晩帝都城に泊まった朔耶は昨夜、密偵の報告に聞いたルティレイフィアの事が気になり、未開地へ行って見る事にした。
 オルドリア大陸北西部の端に位置している帝都クラティシカから、大陸南東部の端に位置するアーサリム地方まで飛んで行くには流石に距離があり過ぎるので、こういう時こそ裏技を使う時だと朔耶は一旦元の世界に戻った。
 休日の自宅庭で、次に何処へ転移しようかと考えてブラットの御守りを思い出す。

「ブラットさん達、アーサリムに向かってたよね。 近くに跳べる?」
ウム ヤッテミヨウ

 ブラットの御守りを追いかけて転移した朔耶は、ササに向けて移動中だった竜籠の近くに現われた。

「きゃあああああぁぁ」

 そしていきなり墜落していく。高度六百メートル程の高さから約六メートル落下した所で魔力障壁を展開して空中静止、漆黒の翼を開いて竜籠の後を追う。竜籠からブラットが叫んで声を掛けた。

「ツヅキか! 何事かと思ったぞ!」
「あはは! 脅かしてごめーん、ちょっと失敗!」

 三台の竜籠が三角形を描くように編隊を組んで飛行する中心に並び飛ぶ朔耶の姿に、騎士達や傭兵団員達はちょっとした大騒ぎになった。朔耶が飛行する姿をコレほど間近に見た者は、和平会談の日に襲撃された傭兵団以外では彼等が初めてだ。

 但し、騒いでいるのは竜達がはしゃいで籠が揺れ捲り、空に慣れて無い者が悲鳴を上げているのが実状である。酔うからやめさせてくれという抗議と懇願に、朔耶は竜達に大人しく飛ぶようにと諭すのだった。

「めっ」
「ピ……」
「キュー……」

 それから順調に飛行を続けて、昼頃にはサムズとクリューゲルを隔てる川を超えた先に、険しい岩山が連なるアーサリム地方が見え始めた。岩山の麓に細長く広がる森と、少し平地を開けて川が流れている。その間に、ササの街があった。

 いきなり街の中に降りる訳にもいかないので、三台の竜籠は街道脇の開けた場所に着陸した。街道には他にも商隊らしき集団の馬車が数台、同じように脇に寄せられて停車している姿がチラホラと見られる。
 未開地の街は意外に混んでいるのだろうかと、着陸前に竜籠に乗り込んでいた朔耶は籠を降りながら周囲を見渡した。

「なんだありゃ?」
「なんか封鎖してあるね」
「ここは何時もこうなのか?」
「いや、普段はもっとノンビリしてる。普通の田舎街みたいな所だぞ」

 ササの街の入り口と思わしき場所には何故か木枠を組んだ物々しいバリケードのような壁が立てられていた。王都にある強化防壁の劣化版のような印象を受けるその壁の向こうから、此方の様子を窺っている人々の気配が読み取れる。

 案内人であるパーシバル傭兵団の団員達が、普段とは違うササの様子に、何があったのかと近くの商人から話しを聞きに回っている。騎士団から数人の騎士がブラットと共に街のバリケードへと様子を見に近付いた。朔耶もちょこまか付いて行く。




 一方、バリケードの内側。ササの街でフレグンス先発隊を迎撃する為に街から北部の商人達を追い出し、バリケードを築いて精鋭の戦士で固めていた地元部族の族長達は、竜を従えて空から現われた騎士達に怯えていた。

 部族会議で紅獅子が忠告していた通りだったのだ。騎士達が装備している武具も、決して逆らってはイケないと言われている黒い馬車隊の護衛兵士達が身につけているような洗練されたモノである事は遠目にも理解出来た。

 更に、彼等騎士達の中には人間の少女の姿をした、何か得体の知れない存在が居る事を感じ取っていた。
 部族の戦士達はその殆どが微弱ながら独自のスタイルで精霊術を使う交感能力を宿しているので、何となく、朔耶に高位の精霊という存在を感じられるのだ。


「我々はフレグンス王国の者だ! この地を調査する為、ここに拠点を設けたい。街を開かれよ!」

 先発隊騎士団隊長の口上は、各部族長達に事実上の降服勧告と受け止められた。ブレブラバントは考える。
 ここで要求に従うならば、ブブ族は求心力を失い、これまで築き上げられて来た他部族間との繋がりも崩壊して、アーサリム西部の部族勢力も全て灰燼に帰してしまう。

 偉大な父が築き上げたアーサリムの部族勢力を、受け継いだ息子である自分が潰えさせる訳にはいかない。勇猛さで信を得るブブ族の族長が、一戦も交えず退く等という選択は出来ないのだ。

 ブレブラバントは覚悟を決めると、矢を放っての返答で攻撃の指示を出した。竜や得体の知れない存在は脅威だが、敵兵の数はそれ程多くは無い。勝てずとも引き分けくらいには持ち込める筈だと、愛用の鉄輪付き棍棒を握り締める。

「去れ! 我等の地を蹂躙せしめようとする侵略者め!」

 その警告を合図に無数の矢が上空に向けて放たれた。地形的に直接射る事は出来ないので、落下地点を計算しての一斉射。二射三射と続けて射ち上げられた大量の矢がバリケードの前に居た騎士達に降り注ぐ。

 行き成りの侵略者呼ばわりに困惑していた騎士達は、その威嚇先制に対応が遅れた。ザアっという雨の様な音を響かせて降って来る矢に身を低くして盾を構える。だがバリケードに近い場所でこの態勢を取るのは非常に危険な行為だ。

 騎士達の予想通り、バリケードの一部が開いて部族衣装を纏った戦士達が突撃を狙っている。仲間の騎士や傭兵達はかなり後方にいるので援護は間に合いそうにない。
 魔獣や魔物との戦闘を中心に考えていた騎士達にとって、これは想定外の攻撃だった。

「なっ!」

 それはどちら側の人間による驚愕の叫びだったのか。降り注ぐ大量の矢が騎士達を飲み込もうとしたその時、突如発現したドーム状の光の壁が、矢を全て弾き返した。

 更にタイミングを合わせて飛び出していた部族戦士達も、光の壁に阻まれて立ち往生している。低い体勢を取っていた騎士や剣で弾けるだけ弾こうと構えていたブラットが、思わず朔耶を振り返る。

「ねえ、なんか誤解があるんじゃないの?」

 当の朔耶は、両手を軽く広げたポーズで魔法障壁のドームを維持しながら飄々と、双方に向かってそんな言葉を投げ掛けた。




 『精霊の乙女』――朔耶はブレブラバント達ササに集う部族からそう呼ばれた。
 フレグンスの騎士達と共に現われ、ブレブラバント達の放った矢を弾いて騎士達を護りはしたが、騎士達に反撃させる事も無く、部族戦士達に精霊の裁きを下す事も無く、双方話し合えという朔耶に、ブレブラバント達は公平な精霊の審判が示されたモノと受け取り、騎士達は王室特別査察官殿、もしくはフレグンスの戦女神殿に何か考えが御ありなのだろうと捉えた。

 『また通り名が追加されたか!』などと内心で名前の数を数えている朔耶を間に挟んでの話し合いが持たれる事になり、部族代表のブレブラバントと、フレグンス代表の騎士団先発隊の隊長が、街のバリケード前に仮設されたテント内で向かい合う。


 先発隊の隊長が、先ずは謂れの無い侵略者呼ばわりと、不躾な先制攻撃に対する謝罪と説明を求めた事に対し、ブレブラバントは咄嗟にルティレイフィアの示した策を使って反論した。
 即ち、此処は我々の『領土』であり、他国の兵が無断で国内に入ろうとした事への当然の自衛であるという主張。

 それを聞いた先発隊の騎士達は、未開地に多数の部族が暮らしている事は知っていたが、国家が形成されているとは初耳だと一様に顔を見合わせてざわめいた。同様に、部族側の族長達もブレブラバントの執った主張について囁きあう。

『あれは紅獅子の勧めた案では無いか?』
『もしや大族長はフレグンスと結託しているのではあるまいな……』
『しっ…… 滅多な事を言うものではない』
『しかしな、何故今更あのような……』

 ブレブラバントは族長達が反撥する事を予想しながらも、この交渉は自分達にとって最後のチャンスだと理解しており、アーサリムに国家が形成されている事をフレグンス側に認めさせようと、必死でルティレイフィアの示した策の概要を思い出す。

 魔物や魔獣が跋扈していて国内の安全が確保しきれていないので明確な首都は決まっていないが、アーサリムは我々部族が集まって形成された国家であるとの主張。色々穴はあるが、建国間もない新国家であるとするならば何とか通じる内容だ。

 先発隊の隊長は、それならば改めて国交を持った上で交渉をしたいと話し、魔族組織を追っている事も付け加える。もし、魔族組織がアーサリムの国に属してるならば、全面戦争になるとも付け加えた事で族長達がいきり立った。

「それはどういう意味か!」
「言葉通りである。貴殿等に魔族組織との繋がりがあると分かれば、我々は全力を持ってそれを征伐する」

 族長達を始めブレブラバントも魔族組織については何となく見当が付いていた。決して逆らってはいけないと先代からも釘を刺されていた黒い馬車隊。ササの街が絶対中立を謳っているのは、彼等からの口添えもあっての事なのだ。

 ササ近辺の集落からは人狩りをしないという取り決めによって同族同胞を護る。時折、資金も撒いて行くのでササを護る部族は餓える事も資金不足に苛まれる事も無い。その代わり、ポルモーン渓谷の周辺部族達は犠牲になっているが……。

『どうする……。打ち明けるべきか』

 ブレブラバントは迷った。ここで打ち明けてフレグンスと手を組み、アーサリムを国家として建てて行く事が出来るのか、あの勇猛果敢な先代にさえも『逆らうな』と言わしめる魔族組織に、果たして対抗でき得るのか。

「大族長! こやつ等の言う事に平伏すおつもりではあるまいな!」
「おい、やめんかっ 客人との会談中だぞ!」
「何が客人か! 大体、永きに亘って我々を支援してくれているヨー――」

「黙れっ!」

 ブレブラバントが一喝する。決して人前で口にしてはイケない名を口にしかけた族長を睨みつけ、大族長権限で他の族長達にも発言を禁じると、ブレブラバントは改めてフレグンス先発隊の隊長騎士と向かい合った。 

 国家の重鎮と呼ぶには余りにお粗末な醜態を晒した族長達に怒りと羞恥の念を懐きながらも、ブレブラバントは黒い馬車隊の事を話す決心をした。
 子供の頃から気に入らなかったのだ。黒い馬車隊の彼等が人を道具のように扱う姿や、物を見るような眼の事が。

「貴方方の言う組織には心当たりがある。だが、危険な相手故、我等も長く手を出しあぐねている相手だ」

 族長達がぎょっとした表情をブレブラバントに向ける。何を言い出すのだというような彼等の視線を無視して、ブレブラバントは更に突っ込んだ内容を口にした。

「実の所、我々は先代、先々代も前からその連中との間に密約が交わされいるのだ」
「大族長! それは……っ」

 立ち上がって抗議しかけた族長にヴンッと唸らせた鉄輪付きの棍棒を向けて黙らせる。

「我々が国家を制定する上で最も厄介な存在がその連中であり、奴等を追い出せない限りこの国は安定しない」

 北部の列強国を始めとする国々へ、アーサリム建国の報が出せなかった理由も其処にあると説明する。
 そして、連中の排除に協力してくれるなら、スンカ山鉱山の採掘権を大幅に譲渡しても構わないという条件を出した。何れも、部族会議の前にルティレイフィアから個人的に示された策であった。

 先発隊の隊長は、思い掛けず大きな話の展開に、流石に現場で判断をするには事と内容が重大すぎると返答を保留した。そこへ、それまで静かに座って話し合いを聞いていた朔耶が徐に告げる。

「フレグンスはアーサリム国家の魔族組織討伐に協力し、鉱山の採掘権を要求します」
「サ、サクヤ殿?」
「って、アルサレナさんからの伝言。 伝えたからね?」

 朔耶は会談が始まった時からレティレスティアに交感を繋ぎ、彼女を介してアルサレナにリアルタイムで会談の様子を伝えていたのだ。

 アルサレナは、アーサリムが国家を形成していると主張している話を聞いた時、それが(ルティレイフィア)の入れ知恵である事を直ぐに見抜いていた。以前から偶に帰国したルティレイフィアによく、アーサリムでの部族国家の実現の方策を聞かされていたのだから。

 だが、それも良いと認めた。未開地を新たな領土として組み込むに際して、カイゼル王と宰相達も交えて話し合った結果、フレグンス一国でアーサリム地方を平定して治めるには、少々荷が重いという結論が出ていた。

 アーサリム地方で国家が形成されて国交を結び、交易が出来るならその方が楽なのだ。更に鉱山の採掘権を独自に得られるとなれば、これはかなり美味しいのである。魔族組織の討伐と、魔獣や魔物の掃討に協力する事で、深い恩を売る事も出来る。


 フレグンス側としては最善に近い交渉結果を得られた事になるのだが、納得出来ないのは各部族の族長達だった。幾ら大族長が決めた事とはいえ、自分達に相談も無く、余りに勝手に事を進め過ぎでは無いかと不満があがる。

 この危険なアーサリムの地で、今まで高位部族としての地位で平穏に暮らせて来たのは、黒い馬車隊の力添えあっての事だと、彼等の庇護下から出る事を拒むような発言で詰め寄る族長達。

 ブレブラバントは内心舌打ちしながら後で説明すると言って下がるように促した。族長達の抗議が騎士達の耳に入れば、折角対等な立場として纏まった取り決めも、侮りから足元を見られてしまう。
 幸いな事に、騎士達は朔耶からアルサレナの伝言を受けてササの街に支援拠点を築く為、竜籠の所に集まっていた。

「大族長! 今からでも遅くは無い、連中を急襲して追い返すんじゃ」
「たったアレだけの人数だ、奴等の武具も奪えば次の攻撃にも十分備えられる!」

「馬鹿な事を言うな、彼等とは対等な国家として付き合う事が決まったのだ」
「大族長の言う通りだ、決め事を此方から破るような卑怯な真似が出来るか」

「決め事というなら、奴等のいう魔族組織との決め事が先では無いか!」
「そんなモノは知らん! オレ達は親父達から『連中には逆らうな』と言われていただけだ!」

 戦っても勝てなかったか、或いは始めから何らかの目的による交渉によって取り決めがなされたのか。黒い馬車隊の組織はササの街に金を落としながら、ポルモーン方面から人々を攫っていく。

 かなり昔にはこの辺りの部族とポルモーンの部族とが対立していた時期もあったらしい事から、もしかしたらその辺りの事情も関係しているのかも知れないと、ブレブラバントは考えた事があった。だが、どちらにしても気に入らないのである。

「要するに、今までのオレ達はポルモーンの部族を生贄に差し出して奴等の庇護下に置かれていたようなモノだろうが!」

 そんな在り方の何が高位の部族か、何が部族の誇りかと、ブレブラバントは子供の頃から疑問に思い、溜め込んでいた胸の内の不満をぶちまけた。そこを指摘されると、黙らざるを得ない交戦派の族長達。彼等も後ろめたさは感じていた。
 ぶっちゃけた所、黒い馬車隊の組織と、北部の列強国であるフレグンス、どちらが怖いのかという話だったのだ。

「……本当に、フレグンスとの同盟を選んで大丈夫なのだろうな……?」
「分からんさ……だが、フレグンスには『精霊の乙女』がいる。あの娘の力を感じただろう?」

 族長達は竜籠の傍で竜達と戯れている黒髪の小さな乙女に目を向けた。確かに彼女は強力な『精霊の護り』で矢を弾いて見せた、だが、先代の大族長ですら戦う事を避けた黒い馬車隊の組織を相手に、対抗出来るような存在なのかと疑心も残る。

 そんな疑心暗鬼漂う彼等を、更なる混乱に陥れる出来事が起きた。

「なんだあれは! 何かくるぞ!」
「竜だ! また竜が籠を運んでくるぞ!」

 周囲を警戒していた部族戦士達が空を指して叫ぶ。それは帝国から飛来した遠征部隊の一団だった。

 籠を運ぶ竜だけでもその数十六頭、空を覆わんばかりの威圧感。巨大な四頭立て大型貨物竜籠二台が、地響きを立てて着陸する。四台の二頭立て竜籠に乗って来た騎士団や魔術団、密偵部隊など、戦闘員は合わせて六十人にも及ぶ。

 族長達は一斉に青褪めた。もし、フレグンスの先発隊と戦っていれば、次は彼等と遣り合う事になっていたのだ。しかも、フレグンスを含めて彼等は先行部隊であり、斥候に過ぎないのである。

 完全に色を失った各部族の族長と部族戦士達は、大族長ブレブラバントの判断が正しかったと認めた。
 同時に、ブレブラバントは重要な事を思い出して大慌てでこっそりと、部下にルティレイフィアの追跡隊を退かせるよう命令を出す。命令を受けた部下も真っ青になった。もし、これでルティレイフィアの身に何かあったなら自分達の破滅だ、と。

 部下は大慌てで、やはりこっそりと街に戻って行き、精鋭の戦士を引き連れてポルモーン方面へと向かうのだった。







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