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戦女神編
79話:ササの部族会議




 放課後、冬休みを前に浮き立つクラスメイト達の姿をボンヤリと眺めていた朔耶は、藍香に声を掛けられて振り向いた。

「朔ちゃん、冬休みの予定どうする?」
「冬休みかー……」

 パーシバル傭兵団が王都に訪ねて来た翌日も工房で部品作りに勤しみ、城でレティレスティアと昼食を共にし、キトの統治と精霊石鉱山の事で忙しい官僚達を尻目に静かな時間を過ごした朔耶は、此方の世界に戻って来た後、改めて未開地の事を考えていた。

 『全ての列強国に奴隷制禁止令の発令を実現』という自ら起こした行動が、キトの制圧作戦から更に、アーサリムへの出兵という事態にまで発展した事を、割と重く受け止めているのだ。
 事の切っ掛けが自分にあるだけに、朔耶はこの平和な時間の中で、クラスメイト達のように浮かれる気分にはなれなかった。

「もう来週末には休みに入るしさ、今から何処に行くか決めとかないと!」
「何処か行くのは決定事項かいっ ……んー、でもあたし用事があるかも」
「朔耶ちゃん……例のアレ?」

 この前の昼休みに少し話した『オルドリア』に関係する事なのかを控えめに問う実穂に、朔耶は頷いて肯定した。詳細は話せないが、少々問題が発生している事を伝える。

「まあ、あたしが悩んでどうこう出来る問題でもないんだけどねー」
「朔ちゃん、相談出来る所まではあたし等にも相談してよ?」
「わたし達は朔耶ちゃんの味方だからね?」
「藍……、実穂……。うん、ありがと」

 教室の端で、何時ぞやの昼休み時のように三人で手を重ね合って見詰め合う朔耶達だったが、浮き立っているクラスメイト達も皆似た様な事をやっていたので、今回は特に注目を浴びる事はなかった。




 兄と弟、それに拓朗にも相談した朔耶は、皆から揃って『気にするな』と言われている。其々の国の方針なのだから、朔耶が動いた事で偶々色々と見つかったモノの中に鉱山の情報があったというだけの事。
 例えそれで三国が揉めたとしても、それは三国の問題であって朔耶が気にする事ではない、と。

「大体、魔族の本拠地ってのが見つかってなきゃ、もっと酷い事になってたかもしれないんだろ?」
「鉱山の権利を手に入れる決定を下したのは各国のトップだからな、国ってのは利益を求めて揉めるモンなんだよ」
「朔耶が動いた事でキトと魔族の関係が明るみになった訳だ、寧ろいい方向に進んでるじゃないか」
「そうなのかなぁ」

 『満場一致で気にするな』と言う皆の言葉を受け入れ、朔耶は気持ちを切り替える事にした。

「まあ、俺が前に言った『人々を導く女神にもなれれば、世界を破滅させる悪魔にもなれる』ってのが印象に残ってたから、そこまで気に病んだのかもな」
「なんだ、お兄ちゃんのせいか」
「ちょっ! 切り替え早っ」

 都築家の居間で、コタツで向かい合ってミカンを食べながらオルドリアの今後について話し合う朔耶達。未開地の魔物について話題が及ぶと、拓朗が『遂に武器を開発する時が来た!』と拳を振り上げて力説する。  コタツに入ったままで。

「武器ねぇ」
「要は、特定の人間にしか使えないシステムにすれば良いんだよ」

 武器の動力部分を分離、支給制にして武器(ほんたい)だけ手に入れても使えない仕様にした上で、特定の集団にだけ持たせるようにすれば、武器の拡散や犯罪利用は防げる筈だと拓朗は主張した。
 実は以前から『武器開発の解禁』を狙って考えていた理屈である。『兵器開発』では無い所に自重の跡が見られた。

「『精鋭』で通るプロの傭兵がヤバイって言うくらい危ない所なんだろ?」
「防具より武器の方が作り易いからなぁ。味方の生存率を上げるって意味でならいいかもな」

 今回は弟の孝文も拓朗の意見には肯定的だった。本当は危険な事には関わるなと言いたい弟だったが、どうせ聞きゃしないのだからと、少しでも安全を図れるようにとの考えだ。朔耶の周囲の人間を護る事で、朔耶が傷つかない様にするという打算もある。

「でも、どんなモノ作る気なの?」
「最初は銃にしようと思ってたんだけど、ちゃんと使える武器で生産性とか使用制限を考えるなら近接武器の方がいいかなって」

 朔耶からキト制圧の話を聞いた拓朗は、魔術士の数と力を考慮して前衛の壁役に攻撃力を持たせた方が相性も良いと考えた。
 その場合、小回りが利いて混乱した状況でも同士討ちなどの事故を減らせるモノが望ましい。以前考案していた圧縮反発力によるレールガンでは大型過ぎて持ち運びも使い勝手も悪いのだ。

EB(エレメントブレード)は瞬間的な攻撃力が無いから牽制や鎮圧用に使うとして、前に朔耶が作ったって言う篭手を参考にしようと思う」
「アンバッスさんの拳骨かぁ」

 そのネーミングはどうなんだ? と、居間が微妙な沈黙に包まれた。空気を変えるように兄が話題を振る。

「そういや最近、親父も工場の仕事が終わった後で何かやってるな」
「ああ、なんか得たいの知れないモノ作ってるみたいだ」
「お父さんが? へぇ〜」
「小父さん、なに作ってるんだろうな?」

 居間のコタツ会議は籠のミカンが無くなるまで続くのだった。






「来週から冬休みか……」

 すっかり冷え込むようになったこの時期、薄暗い早朝から霜が降りる庭に出た朔耶は、とりあえず王都を目指して転移した。弟と拓朗による武器の開発はまだ始まったばかりなので、今日はレイスへのお土産以外は手ぶらだ。

 王都からアーサリムへ向けての出兵がなされて二日目。工房にやって来た朔耶は、衛兵から『ティルファより屋形船完成の報が届いている』と聞いて城に急いだ。
 今日は屋形船用の備品を持って事業を引継いだ若い官僚と共に、ティルファへ船の引き取りに向かおうと考えていたのだが――

「え、使えない?」
「ええ、アーサリムに兵と物資を運ぶので、暫らくは……」


 今現在、二頭立ての竜籠が先発隊としてサムズ経由でアーサリムに向かっている。残りの四頭も二頭立て竜籠にて物資と兵の輸送にフル稼働で使われる為、カースティアへの屋形船運搬は状況が落ち着くまで延期になった。

「そっかぁ……それじゃあ仕方ないよね」

 遠方への出兵で城中がピリピリとした緊張感と、忙しそうな空気に包まれている。申し訳無さそうにしている引継ぎの若い官僚を労った朔耶は、単独でティルファに飛んで暫らく船を運べない事をドマックに伝えに行く事にした。

「……レイスにコレだけ渡して行こっと」

 宮廷魔術士長の執務室にやって来た朔耶は、扉をノックしてノックして、もう一度ノックして待つこと暫らく。こそっと顔を出したフレイが入室を促してから執務室に入った。何となくフレイから拗ねたような気配を感じるが、朔耶は気にしない。

「おはよーレイス」
「やあ……おはよう御座います」

 なんだか『助かった』というような表情(かお)をしているレイスを、見なかった事にした朔耶はポシェットから荷物を取り出す。 

「今日はレイスにお土産もってきたよ」
「ほう……なんでしょう?」

 此方の世界には無い色鮮やかなラベルの付いた小瓶が執務机の上に並べられると、疲れた様子だったレイスが興味を引かれる表情を見せた。朔耶は服用上の注意を教えながらレイスに栄養ドリンクをプレゼントするのだった。そして徐にフレイを振り返る。

「いや〜、まさかフレイにこれをいう事になるとは」
「な、なんでしょう?」

 ぽんぽんと肩に手を置き、朔耶は以前レイスに投げ掛けた台詞をフレイに贈った。

「程々にしておかないと、レイスが倒れちゃうよ?」
「はうあう〜」






 フレイに自重を促して王都を飛び立った朔耶は、昼前にはティルファに到着。そのままドマックの造船所を訪ねると、船の引き取りが暫らく先になる事を説明する。

「未開地か、うちでも似たような状況じゃわい」

 ティルファの竜は二頭しか居ないので、二頭立て用の竜籠が予備を含めて二台しかない。その竜籠も最近はキトとの往復によく使われている。今の段階ではまだ、ティルファが直接アーサリムに関わる様子は無さそうだ。
 
 だが、いづれ何らかの形で関わって行く事になるだろうと、ドマックは髭を掻きながら中央研究塔に遠い目を向けた。ドマックと屋形船の中で軽くお茶など飲みながら船の出来栄えを確かめた朔耶は、保管と管理を頼んで今度は帝国へと翼を向けた。




 夕方頃には帝都上空に到着し、そのまま城の竜籠発着場に降り立った朔耶は、普段と様子の違う発着場の雰囲気を訝しんだ。
 作業をしている人が多い割りに、何故だか閑散としている。そうして、やけに視界が広く感じるのは、何時もなら発着場の壁際に沢山並んでいる竜籠が殆ど見当たらないからだと気付いた。

「ねえ、竜籠は?」
「ハッ 予定していた竜籠は昼までに全て出発済みであります!」

 近くにいた衛兵に聞くとそんな答えがキビキビ返ってきた。朔耶は以前の経験からバルティアに自分が来訪しても衛兵たちが大騒ぎしないようにと取り計らって貰っていたので、多少質問と返答にズレはあったもののスムーズ対話が交された。

 帝国でもキトとの往復とアーサリム地方への兵や物資の輸送に竜籠はフル稼働状態。朔耶は『帝国も出兵が決まったのかー』と、微妙な心境を表情に表す。夕闇の迫る帝国領の山脈を一度振り返った朔耶は、城内から中庭工房へと移動した。


「バ〜ル〜」
「おおっ ……サクヤではないか」

 中庭工房で随分と形になってきたサクヤ式自動四輪を弄っているバルティアに声を掛けた朔耶は、その反応に何時と比べて遠慮が混じっている事を感じ取った。朔耶は何となく『らしくない』と思ってしまう。

「何よ、元気ないわね」
「む? そうか? 余は何時も通りのつもりだが……」
「何時もならここらで、がばーっと抱き締めに来たりするじゃない」
「余はそこまでがっついては無かったと思うが、……サクヤがそう望むのであれば!」

 がばーっと抱き締めに来たバルティアをひらりと躱して、自動四輪の出来栄えを確かめる朔耶。前のめりにすっ転ぶ(おとこ)バルティア。朔耶は『お約束、お約束』等と呟きながら、古い映画に出て来るクラシックカーの様なデザインに関心を示す。

「では、これもお約束か?」

 瞬間復活したバルティアが背後から朔耶を抱き締める。しっかりと両腕を回して捕まえると、よく手入れされた滑らかな黒髪に顔を埋めるようにして首筋の体温を唇で感じ取り、同時に電撃に備えて身構えた。

「……」
「……?」

 電撃なり肘打ちなりが来ると構えていたバルティアは、朔耶から反応が無い事を訝しむ。思わず不安になって手を離すと、その細い肩を掴んで振り向かせた。じっと朔耶の顔を覗き込もうとして――

「ほらね? 何時もの反応が無いと不安になるでしょ?」

 カアアァン

 身構えて無い所に不意打ちで時間差の電撃が来た。

「……この扱いは、何気に酷くは無いか?」
「お約束、お約束」




 帝都城中庭の訓練場に敷いた走行コースを、サクヤ式自動四輪に乗って軽くドライブする。
 出せる速度は自転車の立ち漕ぎ程度だが、それでも一般の馬車並み。パワーに特化させてある四石筒魔力石モーターエンジンは、朔耶とバルティアを乗せた自動四輪の車体を土のコース上でもしっかりとした足回りで走らせていた。

「やっぱりサスペンションが無いと振動が酷いね、これじゃあ直ぐにガタが来そう」
「バネは取り寄せている最中なのでな、工房に届き次第組み込むつもりだ」

 夜の訓練場コースをぐるりと回り、中庭工房の前に自動四輪を停めたバルティアは、ハンドルを握ってコースの先を見詰めたまま、何かを決意するように言葉を紡いだ。

「……フレグンスと衝突するような事にはならんだろう」
「うん?」

 帝国の懐事情は相変わらず良いとは言えず、アーサリムの鉱山は一部でも確保したい。その為、今回バルティアが決定した出兵はそこそこ大規模なモノとなっている。例え飛び地の領土になっても、精霊石鉱山の確保を絶対条件にしてあるという。

 バルティアの立場からすれば、朔耶は異世界出身のフレグンス人である。
 アーサリムと領土を接するフレグンスが動いている所へ事前交渉も通告も無く鉱山確保に介入するのだから、最初に同盟を持ち掛けた側としては、裏切り行為のような後ろめたさがあるのだ。この辺り、まだ皇帝として(まつりごと)を担うには若さが目立つ。
 国益を考える上で、外交の誠実さが必ずしも良い結果ばかりを齎せる訳ではない。

「なーんだ、そんなコト気にしてたのかぁ」
「そんな事と言える程、軽い問題では無いと思うのだが……」
「大丈夫だよ、カイゼルさん達も帝国とは半々で採掘になるだろうって考えてたから。それに――」

 自動四輪を降りながら、朔耶は笑って言った。

帝国(コッチ)に居る時のあたしは只の朔耶だよ」

 この前のように大使として来る時は親書でも用意するよと、冗談めかしたウインクで優しい笑みを向ける朔耶。ふわりと舞う艶のある黒髪に、バルティアは堪らなくなった。もう一度捕まえようと懲りずに一歩踏み出した所で、密偵が報告にやって来た。

「……アーサリムの報告か、聞こう」
「ハッ しかし……」

 フレグンス高官の存在を気にする密偵に、朔耶は席を外そうとするが、バルティアが引き止めた。

「構わぬ、話せ」
「ハッ では――」

 密偵の報告はアーサリムのササに滞在しているフレグンス第二王女ルティレイフィアに、不穏な動きが見られるとの内容だった。






 ササの街に建てられた大集会場。大型テントを補強したような造りだが、五十人近く収容できる部族会議の場でもある。ササの街周辺の土地一帯には、約八十の部族が散らばって各集落を形成している。

 その多くは四人〜八人の家族単位で一つの部族を名乗っている場合も多く、数ある部族の中でも多数勢力として大勢の部族民を持つ部族が二十程。それら多種多様な部族を束ねている部族が、ブレブラバントを族長に持つ『ブブ族』である。

 前族長でブレブラバントの父、『バンガラバンダ・アッサム』が、それまで互いに多少のイザコザを持ちつつ吸収、分離、合併を繰り返しながら共存していたアーサリム西部一帯の部族を纏め上げたのだ。

「やはり余所者はこの地に入れぬ方が良かったのだ!」
「何を今更……。そんな話は五十年も前に語り尽くされている」
「左様。今はこの問題を如何するかを話し合う時じゃ」

 彼等は大きな問題が持ち上がると、ササの大集会場に三十の族長が集まって部族会議を開く。発言権を持つのはブブ族の族長を大族長として他九部族の族長達。腰嵩程の円柱に布袋を乗せた椅子が並び、族長達は其処に胡坐で座る。

 残りのうちの十部族はそれぞれの部族の後ろ盾として野次係り。更に残りの十部族は会議で決まった事を自分の部族や各関係部族(家族単位で分離して"部族"を名乗っている相手)に伝える為に参加を許されている。彼等は地べたに布を敷いて座っている。

「大体その女は、その国の王の娘だと聞くぞ」
「だから何じゃ? 我等が話し合わねばならない事は、その者の齎した知らせに対すべき方法じゃ」
「侵略者の言う事など信用できんと言うておるのだ!」
「止めんかっ! 大勢の兵が向かって来ておるのは事実だ! もはや信用するしないの話ではない!」

 会議は紛糾していた。円陣を描くように座る彼等の中心に、ブブ族の族長ブレブラバントが座り。向かい合う形で客人として呼ばれているルティレイフィアが立っている。

 ルティレイフィアは祖国からアーサリムへの出兵を聞いた後、直ぐにフレグンス領内で情報を集め、アーサリム奥地の鉱山を目的に帝国も乗り出してくる事を突き止めた。

 その土地の攻略や制圧を目的に派兵される王国騎士団は精鋭ぞろいだ。魔獣や魔物相手には慣れない分、多少梃子摺るであろうが、対人戦闘においてアーサリムの部族戦士では先ず、太刀打ち出来ない。

 ササの街に戻ったルティレイフィアはブレブラバントにその趣を伝えると、代表部族を集めてアーサリムの国家を主張する事で、フレグンスや帝国と国交を開き、鉱山の採掘権を挙げて同盟交渉をするよう勧めた。

 上手くすれば、フレグンスと帝国の戦力を借りてポルモーンからアーレクラワ、スンカ山まで、アーサリム地方に棲む魔獣、魔物の類を一掃する事が出来ると考えた。しかし――

『彼等はまだ、国としての体裁を保てるまでは成熟していなかったか……』

 部族会議の中で、各族長達は部族単位での視点でモノを見、考え、発言していた。部族の掟、部族の誇り、そういったモノを前面に出しての対応策は、その場限りの対処案。戦って追い返せば良いという意見が広まっていく。

「貴殿等に忠告しておくが、今回の出兵は斥候も兼ねた少数の先発隊だ。例え追い払えても、次は遠征軍本隊が来るぞ?」

 先発隊と一度刃を交えてしまえば、次は討伐目的で編成された騎士団が派遣される。『制圧』ではなく『討伐』だ。
 そうなれば、アーサリムが部族国家として建つ事は絶望的になる。フレグンスと帝国にそれぞれの領土として分割統治されるだろうと、ルティレイフィアは族長達に説いた。

「黙れ! お主に発言は許可されておらん」
「じゃが、この者の言う事も一理あるぞ?」
「そもそも女が戦いに口出しするような国の戦士が、どれ程のモノだというのだ?」

「ふっ 掟だけでは国は立ち行かないぞ」

 侮りの発言を口にした族長に、鋭い視線を籠めた笑みを向けながら諭すような口調で答えるルティレイフィア。それを挑発と取った族長が『我等を愚弄するか!』と円柱台から立ち上がる。

「各々方! 彼女はその国の王女である。客人として呼ばれているのだ、貴女も慎まれよ」

 ブレブラバントが取り仕切ってルティレイフィアの忠告による紛糾は一旦収束したかのように見えた。だが、族長の一人が放った一言が会議の場に思わぬ波及を齎せる。

「王女が此方の手にあるなら、向こうは手出し出来ないのではないのか?」

 族長達は皆、口では強気な発言をしていた者も含めて内心では不安に苛まれていた。北部からやってくる傭兵や商人達の持つ洗練された武器や防具、織物や陶器。立派な馬車など、自分達とは違う遥かに進んだ文明圏に住む人々。

 そんな彼等が兵を率いてやって来る。ポルモーン方面で狩られた人々が北部へと連れ去られて行く姿を散々見てきているのだ。遂に自分達の番が来たのではないか? そんな不安に押されるように対抗と交戦を口にしていた族長達は、安全策に飛びついた。

「そうだ! その王女を捕らえて盾とすれば良いのだ!」
「バカな事を! そんな事をすれば、怒り狂った連中に皆殺しにされるぞ!」
「だが、交渉は出来る筈だ! 我等に有利な交渉が出来るなら、或いは」
「うーむ……確かに時間稼ぎにはなる。相手は遠路遥々やって来るのだから、時間が経てば経つほど程オレ達が有利になるか?」

 ルティレイフィアは頭を振る。陸路を延々何日も掛けての遠征ならば兎も角、今は竜籠があるのだ。時間を掛ければ掛ける程戦力が整い、街を封鎖されて乾上らされてしまうだろう。
 しかし、そんなルティレイフィアの説明も彼等には聞き入れる余裕も知識も無かった。

「貴女を王女として扱い、それなりの待遇は保障する」
「ブラバント……やはりお前は」
「紅獅子殿を拘束せよ、丁重にな」

 ササの部族戦士達がルティレイフィアを拘束しようと動いたその時――

「うわっ 煙が!」
「何事だ!」

 突然、大集会場に投げ込まれた香炉から煙が噴き出し、会場に充満して視界を覆う。混乱する場内に飛び込んで来たヴィンス傭兵騎士団は、同士討ちを恐れて右往左往している部族戦士達を蹴り倒してルティレイフィアの傍まで駆け寄った。

「ルティレイフィア様! 御無事でしたか」
「今のところはな」
「お手を失礼します」

 そう言ってルティレイフィアの手を取ったヴィンスは、視界が利かない中、仲間の声の誘導に従って出口に向かう。

「出立準備は出来ております」
「そうか、ではポルモーン渓谷に向かう。覚悟を決めておけ」
「ハッ」

 紅獅子と傭兵騎士団一行は混乱する大集会場脇から改造馬車で一気にササの街を脱出すると、危険地帯であるポルモーン渓谷方面へと出立した。

「こうなっては仕方が無い、少しでも双方の犠牲が僅かで済むよう精霊に祈ろう」




 ようやく混乱の治まった大集会場では、迫り来る列強国の兵を迎撃すべく各族長達が其々の部族の中から部族戦士の精鋭を募り、同時にルティレイフィアの追跡隊も組織する。

「王女は此方側にいるのだ、精鋭の戦士達が侵略者共を迎え撃っている間に見つけ出せ!」
「ポルモーンの街にも使いの者を出そう。発見次第拘束してササに連行するように、くれぐれも丁重にだぞ」

 興奮してか、大族長であるブレブラバントを差し置いて指示を出す好戦的な族長に鼻白み、それを諌める供の者に同情的な視線を向けながら、ブレブラバントは会議の前にルティレイフィアが言った方法が正しい気がしてならなかった。

「だが、もう動き出してしまった」

 ブレブラバントは自分達の部族からも精鋭の戦士を募る為に、ブブ族の集落に向かってササの街を後にした。







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