ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
戦女神編
74話:サクヤの暗躍?




 闇業者が所有すると思わしき屋敷の地下に見つけた施設。

 キトの街に暗躍する監視者達。彼等を指揮する者が潜む司令部の地下施設、というダケならば、まだキトの政府との関連は繋ぎきれない。しかし、其処にヨールテスが居たとなれば話は変わってくる。彼はキトの代表として和平会談に出席していたのだ。

 その彼がキトを監視する者の施設に居て、尚且つ最高責任者の地位にいるとなれば、彼は間違いなくキトの関係者であり、ヨールテスがキトの代表として和平会談に送り出されたのは、キトの政府の意思であったという事だ。
 地下施設が政府の本拠地なのかどうかまでは分からないが、キトの政府施設である事はほぼ間違いない。朔耶はそう結論付けた。

「よし、それなら長居は無用だ。とっとと撤収した方がいいな」
「そうだね……、後でもう一度詳しく調べてから報告する事にするよ」
「……そうか」

 朔耶の『報告』する相手とは、フレグンスの王室関係者と帝国のバルティア達、ティルファのブラハミルト等の事を指しているのだが、ブラットは"サクヤ部隊"の上司に報告するのだろうなぁと納得していた。

 路地を出た朔耶とブラットはそのまま闇市を後にして酒場宿に戻ると、大部屋で休んでいた夜組を叩き起こして撤収する事を告げる。伝令にも昼組を呼び戻すよう伝えて街へ走らせた。


 夕暮、銀月の牙団が撤収準備を進める中、朔耶はブラットと連れ立ってもう一度、屋敷の概要を確かめる為に闇市へ向かう。
 闇市通りの出入り口付近では、開けた場所に数台の貴族用馬車が停まっていた。闇市では奴隷売買用のステージが開かれており、如何にも金持ちそうな格好をした豪商や貴族風の紳士等が、従者を引き連れてステージ前の広場に屯している。

 そんなステージ広場の脇を抜けて屋敷を探れる路地に入った朔耶は、ブラットを壁役に早速意識の糸を伸ばし、屋敷の部屋の位置、昇降機の位置などの把握に務めた。

 奴隷達が集められていた部屋は無人になっていた。恐らくは先程通り抜けたステージ広場の近くに建つ倉庫にでも移送されたのだろうと考えられる。

 護衛隊の部屋の付近で妙な気配に触れ、部屋の中に居る護衛兵士の表面思考を読んだ朔耶は慌てて糸を引っ込めた。

『…………』
サクヤニハ マダハヤイ コウイデアッタナ

 気を取り直して昇降機の部屋から地下へとエレベーターシャフトを辿り、意識の糸を伸ばしていく。そうして地下施設の辺りまで探って位置を確認した所で、探索を切り上げて集中を解いた。

「どうした? 顔が真っ赤だぞ?」
「何でもない」

 後は撤収するだけだと路地を出た朔耶は、ブラットと酒場宿に戻る道すがら奴隷売買の様子を目にする事になった。通りが見物人で溢れ返って前に進めないので見る羽目になったのだが、客はキトの豪商や貴族が殆どで、あまり売れていない様子だった。

 売れ行きが芳しくない業者の進行役は、声を張り上げて売り込みを掛けている。
 実は、キトの豪商や貴族達には一つの懸念があった。以前から奴隷制を認めていなかったフレグンスに続いて、帝国やティルファが立て続けに奴隷制の禁止を発令した事に関連し、キトでも何れそうなるのでは無いかという懸念。
 折角買っても直ぐに手放す事になりかねないとの危惧が、買い控えを引き起こしていたのだ。

「未開地アーサリム産でココまで健康な素材はそうは無いよー! 一体金貨百二十枚からでどうだー!」

 身売り業者の奴隷ならば値段はほぼ安定して金貨二百十五枚前後で取り引きされるが、闇業者の奴隷はピンきりで、投売りの金貨八十枚から高値では金貨三百枚にもなる。ちなみに、パル金貨百二十枚なら日本円にして約五百六十万円である。

 鎖で繋がれた年端も行かない子や熟年の女性が、大勢の人の前で裸に剥かれて値段の交渉で横を向かされたり後ろを向かされたり、口を開いて歯の並びを確かめられたりという光景が展開していく。

 朔耶も映画等でこういうシーンを観たことはあったが、実際に人が商品として扱われている様を目の当たりにするのはショックだった。知らず握り締めた手が小刻みに震える。

「暴れたら不味いかな?」
「やめとけ、アイツ等は『正当な商売』をしてるんだ」
「…………うん」

 更に値段が下がる様子を耳にしながら、王都に戻れば今売りに出されている奴隷達を全員購入出来るだけの資金は直ぐにでも用意出来ると考えた朔耶は、直ぐにその思考を振り払った。そんなやり方では何の解決にもならないと思い直す。

 元よりこういう場での取り引きは即金払いなので、どの道彼女達を買うことなど出来ないのだ。こんな事を悔しがるのは傲慢な考えだと思いながらも、朔耶は後ろ髪を引かれるような気持ちを残してこの場を立ち去った。


 酒場宿の前には既に出発準備を整え終えた銀月の牙団の団員達の姿。パーシバル傭兵団の印が入った傭兵団仕様の幌馬車が、宿の隣に横付けされている。

「さあ、ズラかるか」
「うん」

 夕暮れ過ぎ、銀月の牙団はキトの街を出る。朔耶は街に不法侵入しているので、幌馬車に乗せて貰って奥に身を隠していた。

『レティ〜』
――もぐ……サクヤ? 此方に来ているのですか?――
『うん、ちょっとキトの事探ってたんだけどね』
――キトを……? そうでしたか――

 朔耶は一旦、レティレスティアに連絡を入れてキトの政府の所在を掴んだ事を報告する。この後、ティルファと帝国にも報告に行くので、カイゼル王やアルサレナ王妃にも伝えておいて欲しいと頼んだ。食事中だったようなので手短に伝える。

――分かりました、伝えておきますわ――
『宜しくね〜』
――この事で少し騒がしくなるかもしれません。気をつけて下さいね、サクヤ――

 キトの政府の明確な所在が明らかになり、ヨールテスが其処の施設の最高責任者であると分かった以上、各国は先の和平会談での所業について、キトの政府にヨールテスの責任を問う事が出来る。
 それは、施設が特定された事によって物理的な行動を起こすという選択も視野に入った、という事だ。

『戦争みたいになるかも……』
カクゴハ デキテイルノデ アロウ?
『まさか自分の行動がこんな風に引き金になるとは思わなかったケドね』
キトト カッコクノ カンケイモ イママデ イロイロ アッタデアロウ カラナ

 コレまで自分から首を突っ込んで行った事も多かったとはいえ、どちらかと言えば事件に巻き込まれる形で様々な問題や出来事に関わって来た朔耶である。今回のように自ら国家間レベルの『事』を起こすのは初めての経験だった。

 此方の世界に深く関わっていく決心をした時に、何時かこういう事も起きるのではという覚悟はしていたモノの、朔耶の気持ちに不安は尽きない。




「ここでいいのか?」
「うん」

 街から離れた街道脇で馬車を降りた朔耶は、取り合えず報酬に手持ちの金貨百枚を渡して、残りはフレグンスまで取りに来て欲しいとブラットに告げた。ここからだと二週間ほどの道程になる。

「次の行き先はフレグンスかぁ」
「王都にゃあ久しく行ってなかったな」

 団員達は暫しの休暇になりそうだと談笑し合った。朔耶は馬車から一歩二歩と離れ、帰還の体勢に入る。

「ツヅキ」
「ん?」
「……またな」
「うん!」

 ブラットと短く別れの言葉を交わし、朔耶は銀月の牙団が見守る中、自分の世界へと帰還した。

「ほほー転移術か、鮮やかなもんだ」
「他のサクヤもツヅキみたいな子なんすかね?」
「どうだかなぁ、クルストスに現われた奴はかなりオッカナイ奴だったらしいぞ?」
「だが全員黒髪だって話だな、街で黒髪の女を見かけたら気ぃつけねえとな」

 わいわいと、朔耶が居た余韻で雑談を続ける団員達。ブラットは何気無く御守りを仕舞ってある胸元に手を当てる。次は何時、何処で彼女に会えるのか。そんな感傷にも似た感情を覚え、そんな自分に少し驚く。

「さあ、次はフレグンスだ! 残りの報酬を貰いに行くぞ」

 ブラットの鼓舞に応える団員達。銀月の牙団の馬車は、一路フレグンスを目指して夜の街道を進んで行くのであった。




「さあ、次はティルファね」

 一方の朔耶は別れの感傷など欠片も感じている暇も無いほどに慌しく、自宅の庭に帰還して直ぐティルファに向けて転移する。時間と距離を大いに短縮する裏技発動である。


「……唐突な方ですな。中々興味深い転移術をお使いになるようだ」
「こ、こんばんわー」

 転移した先は、中央研究塔にある五階の一室。ブラハミルトの私室だった。研究室でもある私室で反発力ユニットの研究をしていたブラハミルトは、突然部屋に現われた朔耶に驚きながらも、普段のペースを崩す事無く応対して見せた。


 朔耶とブラハミルトは、以前交渉し合ったソファーで向かい合う。

「なるほど、ようやくあの髭オヤジに借りを返せそうですね」

 キトの政府とヨールテスの事を聞いたブラハミルトは、そう言って目を細める。これから帝国に行くという朔耶に、後日ティルファ、フレグンス、グラントゥルモスの三国で極秘会議を行う事を提案した。

「わかりました、伝えておきますね」

 用件を済ませた朔耶は挨拶もそこそこにテラスに出ると、元の世界へと帰還する。通常の転移術に見られる空間の揺らぎも無く消え去る朔耶に、ブラハミルトは『もしやこれが世界移動なのか?』と目の前でさらりと行われた非常に稀な現象に関心を持った。

「まったく……、研究対象としても観察対象としても興味の尽きない方だ……」

 ブラハミルトはテーブルに残された口の付けられていないお茶を飲み干し、反発力ユニットの研究に戻るのだった。




「おお、帰ったのか朔耶」
「ごめん、急いでるから」

 自宅の庭に帰還した朔耶は、ビールを持って居間に向かっていた縁側の父にそう言うと、今度は帝都城に向けて転移した。
 最近あまり娘に構って貰えなくなった父は、ちょっと寂しそうに背中を丸める。そしてふと、下の息子と仙蔵(拓朗の父)の(せがれ)の事を思い出す。この頃二人でよく朔耶の為に工場の機械を使って色々作っているようである。

「俺も何か作ってやろうかな……」

 町工場に勤める都築家の、大黒柱が動き出す。主に娘の関心を惹く為に。




 帝都城の地下に転移した朔耶は、マメなバルティアによって用意されたランタンの明かりに迎えられる。そのお蔭で、転移直後に襲って来た嘔吐感に少し足元がふら付くも、バランスを崩して倒れる事態にはならずに済んだ。

「う、なんか気持ち悪くなってきた」
テンイヨイ カモ シレヌ
「ナニそれ、そんなのあるの?」
コウモヒンパンニ セカイヲワタレバ セイシントニクタイニ ショウジタズレガ オオキクナル

 転移はほぼ一瞬の事だが、その一瞬には肉体と精神が一度離れている。その為、離れた精神がしっかり肉体に馴染む前に再び離れる事を繰り返せば、普段の定着した位置から徐々にズレてしまうのだという。
 それはヤバいわと、朔耶は裏技の乱用はなるべく控えるよう気をつける事にした。


 執務の終わったバルティアは中庭沿いの工房で職人達に混じってサクヤ式自動四輪の製作に勤しんでいた。

「やっぱりここにいたか」
「うぉ?! サクヤではないか!」

 朔耶は予想通りの場所で予想通りの事をしているバルティアを見つけて苦笑すると、とりあえず執務室まで引っ張っていく事にした。扇情的な格好の朔耶に、ちょっと眼つきが危ないバルティアだったが、朔耶は転移酔いでそれ所ではなかった。
 人払いをした皇帝の執務室でアネットも交えてキトの事を話し、ブラハミルトの提案もそのまま伝える。

「凄いわね〜、キトの組織を探り出すなんて」
「ふっ 奴等に和平会談での借りを返す時が来たか」
「なんか大事(おおごと)になりそうだけど、基本は奴隷制禁止令の受け入れ要求の方を推すの、宜しくね」
「任せておけ、奴等は受け入れる事になるだろう。 ……それはそうとサクヤ、さっきから顔色が優れないようだが?」 

 細かい事は三国の極秘会議で詰めて行く事になるだろうと話し合った所で、バルティアが朔耶の体調を気にする。

「ちょっと転移酔いでね、嘔吐感が抜けないのよ……」
「無理せず休め、部屋を用意させる。 アネット」
「ハイハイ、準備させておきますねー」


 皇帝の執務室より一つ下の階。帝都城の五階に並ぶ客間の一室を用意された朔耶は、お言葉に甘えて泊まって行く事にした。ベッドで横になりながらレティレスティアに交感を繋ぐ。

「なんか、この城からレティに繋ぐのって久し振りな感じ」

『レティー、起きてるー?』
――さ、サクヤ? はい、起きてますよ――

 何やら慌て気味な気配をレティレスティアから感じ取った朔耶だったが、伝わって来る感情の中に『イーリス』のイメージを感じたので『お邪魔だったかな〜〜?』等と思いながら、ブラハミルトが提案した極秘会議の事を伝えた。

『バルにはもう伝えてあるから、日程とかは上の人達で決めちゃってって感じで』
――そうでしたか……。分かりました、直ぐに伝えておきますね――
『なんかお邪魔しちゃって御免ね〜、アルサレナさんに直接繋いだほうが良かったっぽいけど、ここからだと難しくて』
――い、いいえ! そんな事はないです! 私、サクヤと繋がることが出来て嬉しいですからっ――

 久し振りに席一つ分距離を取りたくなる様な事を口走るレティレスティアに、朔耶は返って懐かしさで和んだ。

『やっぱりレティは可愛いね』
――そ、そんなこと……もぅ、サクヤったら――

 レティレスティアとイーリスの関係進展を推し進めながら、自分で思いっきりブレーキを掛けさせている事に気付かない、転移酔い中でグダグダな朔耶なのであった。


 交感を終えて部屋のランプの明かりを落とし、シーツの中に潜り込む。

「じゃ、バルが来たら宜しくね」
ウム

 朔耶は絶対安心防犯警備を神社の精霊に頼んで眠りについた。約三時間後、部屋から強風に叩き出されたバルティアが、部屋の前でアネットと『精霊の防壁を如何に突破するか』で相談している姿が見受けられた。

「あー、そりゃもう無理ですね。力ずくって選択はこれで不可能になりました、と」
「むう……唯一の攻略法であった勢いで押すのも、アレでは……」
「駄目でしょうねぇ……」
「何とか気を惹けないモノか……」

 あーでもないこーでもないと、難しい戦局を乗り越える戦略を練る皇帝陛下とその補佐官の姿に、巡回中に通りかかった城内警備の衛兵達は『流石はグラントゥルモスの皇帝陛下』と、日夜戦略戦術の研磨に励む姿に感動するのだった。




 翌日――
 
 極秘会議の日程と方法についての話し合いが三国間で持たれた。フレグンスは王宮神殿、帝国は帝都神殿、ティルファは中央研究塔から、其々水鏡を利用しての遠隔会議となる。

 情報は一切漏らさず、出来る限り内密に、兎に角迅速に、キトに対する三国間の足並みを揃えた政策を話し合う。本格的な会議は明日以降となるので、朔耶は今日一日帝国の中庭工房で自動四輪の製作に付き合って過ごす事にした。

 既に城の中庭には気の早いバルティアによって自動四輪用の走行コースまで作られている。出力を上げれば自動二輪でも中庭のオフロードコースを走れそうなので、ちょっとしたレースが出来るかもしれない。

 賞金を設ける等してレーサーを育成すれば、ギャンブル場にもなりそうだ。朔耶がそんな構想を工房の職人達と話ながら自動四輪の製作を進めている所に、様子を見に来たバルティアがアイデアを聞きつけて随分と乗り気になっていた。自分で走る気満々である。

「ティルファに技術指導をしたと聞いた。サクヤが作る程の物は無理でも、競技に使える程度のモノは出来るかもしれん」

 帝国領の麓にある街辺りに競技場を造り、そこをバーリッカムやカースティアのような観光地となる街にしようと考えるバルティア。位置的にもティルファに近いので、部品や車体の納入に都合が良い。

 ようやく内政も整いつつある『バルティア皇帝の帝国』も決して懐事情が良い訳ではないので、景気対策の一環としても使えると話すバルティアに、朔耶は『やっぱりちゃんと国の事も考えているんだなぁ』と感心してみせた。

 この日、朔耶は帝都城の中庭工房で自動四輪の車台に魔力石エンジンを搭載する所まで作業を進めた後、夕方頃には帝都城市場で補充用の魔力石を袋で買って帰宅の途についた。

「試運転はどうせバルが乗り倒すだろうから、来週には完成してるだろうなぁ」

 そして来週、朔耶の来訪に合わせてキトの政府に対する三国の行動が開始される。


「あんまり、戦闘とかにならないといいけど……」



パル金貨一枚=約46500円前後です。




+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。