帝国領内に発令された奴隷制禁止令は、発令から二十日間の猶予以って効力を持つと触れが出され、現在奴隷を所有している者は猶予期間の間に奴隷達の処遇を迫られる事となった。
以後、奴隷の所持及び売買を行った者は厳罰に処せられる。数日を置いて、帝国に続きティルファでも奴隷制禁止令の発令が公布された。
朔耶との会談でバルティアに泣きが入った後、焚き付けたアネットが間に入って交渉する事で、偏りの無い公平な条件を持って奴隷制禁止令の政策が帝国内に採用された。
キックボードや筒型モーター搭載スクーター等、帝国にはフレグンスやティルファにも公開されていないサクヤ式の技術を使った乗り物がある。
これらは皇帝に対して朔耶から個人的に贈られている事で、朔耶と帝国には他の二国とは違った独自の関係が築かれていると、各国の一部有識者からは見られている。
そこを利用し、奴隷制禁止令の受け入れと引き換えに、帝国内にのみ贈られる道具なり乗り物なりを新たに用意する事で、内外に対等でありながら優遇的なニュアンスを滲ませた政治的取り引きがあった事を知らしめるのだ。
丁度、朔耶にはこの取り引きに使えそうな手札があった。元の世界で近々完成しそうな『四石筒モーターエンジン』である。弟の先見の才に驚かされつつ、朔耶はアネットの提案に同意したのだった。
発令が公布されて数日、朔耶が自分の世界で学生生活を送っている間、帝都では複数の帝国貴族や豪商達が、城外の屋敷で囲っていた奴隷達を正式な使用人として雇用したり、路銀を持たせて街へ解放したりと対処していった。
そんな中、帝都の城外に屋敷を構える帝国貴族の中で最も多くの奴隷を囲っていた伯爵家では、静かになった屋敷の自室で当主が頭を抱えて座り込んでいた。
酒に溺れる程悲観してはいないが、この現状は彼を失意のどん底に叩き落すに十分であった。
フエルト・バルト・コースティン伯爵。かつてフレグンスの魔術士系門閥貴族として巨大な派閥を築き、その裏で帝国の協力者として暗躍していた、現在帝国貴族として籍を置く亡命貴族である。
戦乱の時代以後、帝国によるフレグンス内紛工作の協力者且つ先鋒として活動し、帝国に忠誠を誓う者としての証に賜った発掘品を使って宮廷魔術士長の座を勝ち取ってからは、それなりに由緒のあったコースティン家を一大派閥の頂点にまで押し上げた。
彼はフレグンスで魔術士系門閥貴族として台頭する以前から、仕来りに縛られたフレグンスの古い貴族体質を嫌っていた。
辺境の地で反乱分子狩りをしていた時も、再三『フレグンス貴族として崇高で在れ』と、当時の宮廷魔術士長であったアクレイア家当主ルィバンス伯に窘められていたが、彼にしてみれば敵国の人間は敵でしかなかった。
部下を使って反乱を煽るような流言を撒き、武装決起した集団を片端から討伐して回る。
流言でアッサリ決起するような者達は、結局は何れ歯向かって来る連中なのだから、下手に力を付ける前に叩いておく事が正しい戦後処理だと考えていたのだ。
やがて反乱を起こす集団もなりを潜めて辺境の統治が安定してくると、王都では派閥の諍いで足の引っ張り合いや巧名ある者を自陣へ引き込もうとする貴族間の駆引きが活発化し、加盟を断ればやっかみに晒される。
ルィバンス伯に度々窘められていた事を引き合いに出し、『不仲を取り持とうではないか』等と持ちかけてアクレイア家の派閥に誘う貴族が居た。
巧名あるコースティン家を派閥に加えさせる事で、ルィバンス伯からの覚えを良くして派閥内での発言力を高めようと考えたらしい。
戦乱の時代からアクレイア家と所縁のあるその貴族は、フエルト卿が宮廷魔術士長となって出来た派閥に幹部待遇で誘えば、あっさり寝返った。
アクレイア家の派閥に属してその恩恵に与っていた多くの貴族家が、大した工作を施さずとも『コースティン家の台頭、アクレイア家の斜陽』と見るや次々派閥に加わっていった。
フエルト卿の討伐法を非難し、ルィバンス伯の言に同調していた彼等が、だ。
フエルト卿はその頃から思っていた。『誇りに集るこの国は滅ぶ』と。だからこそ、力ある者が認められ、実力主義と謳われる帝国貴族になる事をより強く想うようになったのだ。
そんな折、王家の威光も翳りを見せ始めていよいよフレグンスの内部崩壊と帝国の取り込みが始まるかと思われた矢先、突如現われた異世界からの来訪者。
レティレスティア王女の拉致が朔耶の介入で失敗に終わってからフエルト卿の歯車が狂い始めた。
「何処まで私の邪魔をしようというのだ……」
帝国密偵からの要請を受け、朔耶の拉致に協力して帝国に亡命したまでは良かった。しかし、帝国民がこれほど忠義に拘る民族であった事は想定外だった。
到着初日の朔耶によって引き起こされた混乱は兎も角として、帝国に忠誠を誓い、帝国の為に尽力し、フレグンスで立場ある身分を棄てての亡命である。歓迎はされど冷遇されるとは思っても見なかったのだ。
主君と主義思想を違えての決別による亡命ではなく、一方的な主君への裏切りを働いた謀反者として、帝国内でのフエルト卿に向けられる視線は非常に冷やかなモノだった。
与えられた屋敷には、任務として遣わされた執事とメイド長、料理人と警備の衛兵六人(三人交代制)の九人が就いた。それ以外の人員は使用人として個々に雇う事になっているのだが、誰もコースティン家の雇用には応じなかった。
伯爵家の屋敷ともなると、清掃や庭の手入れ、痛んだ箇所のチェックと修理、料理人の補佐に食材や日用品の買出し、買い付け等々、少なくとも常時ニ十人は必要な規模となる。
しかし使用人候補が募集に応じない為、常に人手不足に悩まされた。
そこでフエルト卿は苦肉の策として、キトから買い付けた奴隷を使用人として使う事にした。
なるべく使えそうな人材をと大枚を叩いて買った十一人の奴隷達に、使用人としてメイド服を着せ、下男服を着せ、貴族の屋敷で働く者としての振る舞いを執事とメイド長に教育させて、ようやく様になってきたかと思っていた矢先に、奴隷制禁止令である。
奴隷達の殆どは未開地から人狩りによって攫われてきた者だったので、皆帰郷出来るならそうしたいと訴えた。身売りしたサムズ出身者も居たが、近頃のサムズの改革や発展ぶりを聞き、彼等もやはり故郷に帰りたいと話していた。
無理に留め置く事は出来ない為、路銀を渡して解放となる。そうして奴隷達を送り出したのが二日前。屋敷の中はガランとして人の気配が無く、まるで廃墟のように静まり返っているのである。
頭を抱えて座り込んだまま、これまでの事を振り返っていたフエルト卿は、誰に向けるでもなく呟く。
「……何がいけなかったのだ……」
その時、コンコンと自室の扉がノックされると、舌足らずな口調のノンビリした声が廊下から響いた。
「だんなサマー、おちゃをお持ちしましたー」
返事を待たずに扉を開いて入って来たのはメイド服を纏った十五~六歳の娘。髪質の硬そうな金髪の三つ編みを肩に掛け、意外に安定感のあるしっかりとした足取りでお茶を運んで来る様は、中々手馴れている事を感じさせる。
「だんなサマー? なんでそんなトコ座ってるんですか?」
「……お前か」
重く溜め息を吐いたフエルト卿は、のっそり立ち上がると椅子に腰掛けた。このメイドの名はリリー。現在、この屋敷にたった一人だけ残った元奴隷の使用人である。
他の奴隷達が其々の故郷へと帰って行く中、彼女は自分には帰る場所がないからと言って屋敷に留まり、そのまま雇用された。
「今日はしずかですねー」
「……態と言っているのかそれは」
カップを口に運びつつ顔を顰めるフエルト卿。このメイドが皮肉や冗談で言っているのでは無い事は、キトで買い付けてから今日まで彼女の言動を見てきた事でよく分かっている。何処か抜けているのだ。
それが生まれ付きによるモノなのか、身の上に起きた出来事の経験からそうなってしまったのかは分からない。何せ購入して最初に放った言葉が『今度のごしゅじんサマはいつ死にますか?』だった。
ある日、魔物の集団に村が襲われた。目の前で両親を魔物に喰われ、村を逃げ出した先で人狩りに攫われた。未開地から攫われて来た奴隷達にはよくある話だった。村から人を燻り出す為に、魔物を使う人狩り達も少なくない。
最初の主人は幼い少女ばかりを好んで買っては、自らの欲望の捌け口に使う老紳士だったが、リリーにハマってしまい、昼夜を問わず彼女を求め続けた。
老いた身体に負担が過ぎたのか、数日後のある晩、老紳士は情事の最中に逝ってしまった。所謂、腹上死というやつである。リリーは老紳士の妻であった若い婦人に売り飛ばされて、再び闇市へ。
二人目の主人はキトの豪商だったが、買われて数日後、その豪商は自分の息子の顔をした"何者か"に暗殺されて、財産は奴隷共々親族で分けられた。この時も情事の最中だった。
豪商親族の姉による強固な主張により、余ったリリーは三度闇市へ。
短い期間に二度も主人が死ぬという曰く付きの奴隷となってしまったリリーは、通常の値段では売れない為、格安で売られていた所を、粗方買い終えて帰途に付いていたフエルト卿がそれと知らずに、余った資金で『ついでに』と買ったのだ。
「今日のご予定は?」
「何もない」
「そーですかぁ」
亡命を果たした当初のフエルト卿は積極的に他の帝国貴族の元へ出向き、人脈作りに精を出していたのだが、どの家からも冷やかな視線を向けられるばかりで、会う事すら拒否する家もあった。
使用人を雇えず奴隷を使うようになると、蔑視の中に嘲りの視線も混じるようになり、流石にそんな彼等に頭を下げてまで交流を持とうは思わなくなったのだ。
あの眼はフレグンス貴族の派閥争いの中で散々見てきた『嫌な眼』だ、と。
何かの役職に就くでもなく、する事が無くなったフエルト卿は日がな一日屋敷の自室に閉じ籠もるようになった。
普段は魔術の本を読むなり魔力を高める瞑想をするなりしていたフエルト卿だが、今までの事を振り返って気持ちが落ち込むと、何もする気が起きない。
偶には怠惰に過ごすかと、お茶を口にしながらベッドにボンヤリ視線を向ける。
「あ、しますか?」
「ぶふっ」
いそいそとメイド服に手を掛けて脱ぎ始めるリリーを、フエルト卿は噴出したお茶で咽ながら止めた。
「止めんかっ 私は娼婦を買った覚えは無い」
「だんなサマ、勃たないんですか?」
「ちがうわっ!」
こんなやり取りも今に始まった事ではない。リリーは愛玩用として売買されて来たので、そういうモノだと思っている。だがフエルト卿は使用人として使う為に彼、彼女等を買ったのであり、断じて自分の享楽の為に買ったのでは無いと常々語っていた。
一度フエルト卿の従者がリリーに手を出し掛けたが、『だんなサマに許可をもらわないとー』と困っている所を他のメイド達がフエルト卿に知らせて、従者がフエルト卿に張り倒されていた。
そんな事もあってか、他の奴隷達もこの屋敷を出る事には随分悩んだようであったが、やはり望郷の念の方が勝ったのだ。
「あ、そういえば料理人さんから言伝です」
「それが元々の用事か……、なんだ?」
「はいー、たべものがもう無いので買出しが必要だそうです」
「何っ! ……いや、そうか。 路銀と共に持たせたのだったな」
フエルト卿は二日前に送り出した元奴隷の使用人達に路銀と食料を持たせた事を思い出した。
五日分の食料を十人分である。食糧庫が空になっていてもおかしくはない。使用人がいなくなったのだから、買出しを行う者がいなければ補充も出来ない。
衛兵は屋敷の警備以外で働くつもりは無い様だし、屋敷の管理に忙しい老齢の執事やメイド長に行かせる訳にも行かない。料理人は補佐がいないので厨房の整理に忙しい。
フレグンスから連れてきた従者は庭の手入れを一人で行っている為、手が空かない。
「当主自ら食糧の買出しに行かねばならんとは……」
ますます重くなる身体を億劫そうに起して出かける準備を始めるフエルト卿に、ささっとコートを用意するリリー。帰りは荷車で運ばせるので供はいらないのだが、伯爵が一人で市場に買い付けに行くというのも様にならないので連れて行く事にする。
「お出掛けで御座いますか」
「街へ食糧の買出しだ」
「それは……」
「留守を任せる」
玄関で執事と短く言葉を交わすと、フエルト卿はリリーを伴って屋敷を出た。お辞儀で送り出す執事は、内心複雑な想いを抱いていた。執事とメイド長、彼等は任務で遣わされた使用人且つ監視人である。
他国、ましてや当時敵対国であったフレグンスの中枢に近い位置に居た亡命貴族をそのまま受け入れる筈も無く、フエルト卿の行動は逐一帝国の上層へと報告されている。
フレグンスでの経歴と謀反者である事を念頭に、どんな人でなしかと思って監視を続けていたが、少し策士の空気を纏った何処にでもいる普通の貴族にしか見えなかった。
使用人達への対応も決して居丈高ではなく、高貴な者たらんとする姿勢も窺える。
『そろそろ雇用制限を解いて貰う進言を出すべきか……』
執事は年輪を重ねた皺の多い穏やかな表情の裏で、元密偵隊長の冷徹な分析力を持って次の報告で上層に挙げる内容を纏めた。
「走るなリリー」
「だってー、こんなに積もってますよー」
何故雪が積もっている事が走る理由になるのだと、フエルト卿は溜め息を吐きながら街の市場へと歩いていた。城塞都市とも言える帝都の城は、相応の抱えた人口を賄う為、常に大量の食糧を備蓄している。
それらの食糧は竜籠で麓の街から一気に城へと運ばれるのだが、一般民や城外の屋敷に住む貴族達は一つ坂を下りた先にある帝都の下街市場に麓から運び込まれたモノを買う。
この辺りは坂が急なので馬車は使えない。代わりに乗用犬など山道に強い動物を荷物運びに使ったりもするが、大抵は人力の荷車で運ぶ方が手っ取り早く、確実だ。
市場に着くと早速、彼方此方回って買い付けを始め、新鮮な肉や野菜を市場で雇った運搬人の荷車に積み込んでいく。一度に運べる量では一週間も持てば良い方だが、日に何度も寒い坂道を往復する気にはなれない。
「どうせ、する事も無いのだしな……」
フエルト卿は週一で買出しに来るのも良いかと考えた。そうしてふと辺りを見渡すと、リリーの姿が見えない。
「旦那、旦那。お連れの使用人の嬢ちゃん、さっきそこの路地に入って行きやしたぜ?」
またか、とフエルト卿は頭を振って路地に向かう。リリーは街などに降りてくると、時折こうして居なくなる時がある。大抵は犬や猫を追い掛けて行く内に迷子になるのだ。
「リリー、何処にいる」
「だ、だんなサマっ 来ちゃダメで……んんっ!」
路地に付いた足跡を追って角を曲がろうとした所で、切羽詰ったようなリリーの声が響く。フエルト卿は何事かと角を曲がり、路地の先で数人の男に押さえつけられているリリーの姿を見つけた。
「何をしている!」
「ちっ ……おい」
男の一人が合図を送ると、リリーの足を押さえつけていたズングリした男が腰紐に提げていた手斧を振り翳し、そのままフエルト卿を目掛けて投げ付けた。咄嗟に壁際に躱すフエルト卿。更に別の男が短剣を片手に突進してくる。
「――風は集い荒れ狂う渦となりて――」
フエルト卿が翳す掌から撃ち出された風の塊りが短剣の男を弾き飛ばす。『魔術士か!』と一瞬怯んだ男達に対し、フエルト卿は更に詠唱を始める。
「――風は集い雪は舞う雪塵の壁となりて――」
風に巻き上げられた雪が吹雪のように空中に舞い、路地の空間を覆う。
「――風は集い我が身を運ぶ衣となりて――風は集い彼の者を纏う兜となりて――」
連続した詠唱でフエルト卿は風の衣を纏って身を軽くすると、吹雪の壁に途惑っている男達に向かってその吹雪を生き物のように纏わり付かせた。これは眠りの香との組み合わせで朔耶を拉致した時に使った術である。
ちなみに学院でエルディネイアを誘拐した従者は此処まで繊細なコントロールが出来ない為、風の膜で大まかに包み込んだ結果、香の効き目が薄くなって予定より早く目覚めさせてしまったのだ。
顔面を吹雪に覆われて右往左往する男達に、フエルト卿は幾分軽くなった身体で素早く肉薄すると、至近距離から風の塊りを撃ち出してリリーの救出に邪魔な者を弾き飛ばした。
吹雪の目眩まし効果が切れる前にリリーを助け起こして直ぐにその場から距離を取る。相手の油断で逆不意を突けたものの、魔術士一人で数人を相手取るには無理がある。
急いで路地を飛び出し、付近の者に知らせようとしたフエルト卿は、下街の入り口方面から押し寄せる武装した集団を見て目を瞠る。アレは帝国領に出没する山賊だ。
「ばかな! 帝都城の膝元だぞ!?」
城を見上げる直ぐ近場の街を襲撃するなど有り得ないと思いつつも、フエルト卿はリリーを連れて近くの宿に駆け込んだ。恐らく市場から手持ちで持てるだけ略奪した後は直ぐに立ち去る筈だと予測する。
城に近いこの街は、近い故に襲撃など起こり得ないと考えられ、他の街と比べて警備が薄く物資は豊富だ。
「確かに獲物は多いだろうが……連中、逃げ切れると思っているのか?」
フエルト卿と同じように建物の中に避難した街の住人や、宿の客達が不安そうにホールの一角に身を寄せ合っている。彼等の輪に加わりながら、フエルト卿はリリーの状態を確かめた。
「怪我は無いな」
「はいー……」
「? どうした、何処か痛むのか?」
「いえ、ありがとうです。だんなサマ」
何時もと様子が違うなと思ったフエルト卿だったが、このような非常事態ともなれば普段と違っていても別段おかしくはないかと思いなおす。よくよく考えてみれば、ついさっき路地裏で襲われたばかりなのだ。
「そういえば、さっきの連中…… 山賊共の仲間だったのか?」
あれ程の数の集団が街を目指して移動すれば、誰かが気付いても良い筈だ。予め街に潜んで襲撃のタイミングを計っていたのかもしれない。フエルト卿はそう結論付けた。
その時、宿の扉が激しく叩かれ、一塊になっている避難民達から小さくざわめきが上がった。逃げ遅れた民か、はたまた山賊かと息を殺して観察する。扉付近まで確かめに行こうとする者はいない。
ダンッダンッと激しく叩かれて軋みを上げる扉の中央部分に、斧の刃らしき銀色の金属が生えた。どうやら山賊だったらしい。避難民達から恐怖の悲鳴があがった。
フエルト卿は宿内の人々を見渡して声を掛ける。
「この中で戦える者はいるか」
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