翌朝、城の客間で目覚めた朔耶は、軽い朝食を用意して貰いに厨房のある階に下りてきた。厨房の朝は早く、まだ薄暗いうちから料理人達が働いていたので、直ぐにパンと薄肉が用意される。
厨房の料理人達は、王家に所縁のある偉人がこんな賄いモノのような食事でいいのかと途惑っていたが、朔耶は『いいのいいの』と軽く手を振り礼を言うと、袋詰めにして貰った朝食を持って自分の工房へと向かった。
「さーて、昨日考えてた分をやっときましょうかねー」
朔耶は昨晩寝る前にこれからの事や、神殿との係わり方と資金の使い方について考えていた。一度兄や弟達にも相談した方が良いと思いつつも、先ずは自分なりにやっておきたい事があったので、それを進めてみる。
サクヤ式送風機の部品を発注している馴染みの工房が開くまでの間、朔耶は魔力石ランプの部品を作っていた。既に数え切れない程作った部品なだけに、効率よく複数の石を並べて一遍に仕上げていく。
「そろそろ石の加工機械くらい出来るかな?」
今度ティルファでその辺りの事を調べてみようと思いつつ、作業の合間に朝食を摂る。行儀が悪いが、退屈な流れ作業には"ながら作業"が眠気対策にも有効なのだ。
サイキンノ ワカイモノハ……
『何、お年寄りみたいなこと言ってんのよ……』
開放区の各工房が稼働を始める頃、朔耶は荷物持ちに衛兵を連れて馴染みの工房を訪れた。もうすっかり衛兵を使う事にも慣れた朔耶だったが、相変わらず"命令"ではなく"お願い"口調だ。衛兵達はソレを朔耶の慎ましさと捉えて好印象を持っていた。
部品を受け取り、自分の工房に戻って来た朔耶は一人でせっせと箱詰めを行う。朔耶の工房は朔耶が活動を思い至った時に稼働する為、常時工房に勤めるような従業員を雇っていない。
街灯設置事業のような長期間に及ぶ作業が続く時は臨時に作業員を雇っていたのだが、朔耶は今回の神殿絡みで進めようと思っている計画が上手く行った場合に備えて、住み込みの職人や作業員の雇用も検討していた。
「サクヤ様はいらっしゃいますかな?」
送風機キットの箱詰めが一段落する頃、工房を訪ねて来る者がいた。朔耶に店の棚を貸しているモラントン家のサーバンスだ。彼は作業台の上に山積みとなった送風機キットの箱詰めを見ると、嬉々として売り上げの事を報告する。
「いやあ、それはもう、飛ぶように売れてしまって! 次回入荷はまだかとせっつかれている次第でして」
「そっかぁ、結構受けたみたいだね」
客層はティルファから掘り出し物目当てに訪れている研究者が偶々見つけて衝動買いし、その仲間が口コミでやって来ては買っていくというパターンだったが、銀貨八枚は決して安くは無い為、三人で資金を出し合って一つ購入、といった具合らしい。
他には研究者肌の息子を持つ貴族が土産にと買っていく場合もあるそうだ。初回販売分の二十個は瞬く間に売れてしまったと、サーバンスは興奮気味に語った。
何せ僅か数日で元手無しの取り分銅貨八百枚もの儲けだ。美味し過ぎると眼が語っている。ちなみに朔耶の儲けは銅貨三千六百枚と少し、金貨換算だと約十二枚になる。
朔耶は作業台上の送風機キットの箱詰めを見つめながら待ち切れなさそうにソワソワしているサーバンスに苦笑すると、次の出荷分として持っていく許可を出した。
「おなか空いた」
サーバンスが従者と共に送風機キットを運び出していった後、昼頃まで魔力石ランプの部品作りをしていた朔耶は今日の作業を終了させて昼食を摂りに工房を後にした。途中、馴染みの工房で送風機の部品も発注しておく。
一般区に下りた朔耶は、以前ルティレイフィアと食事をしたカフェテリア風の店で計画案を纏めながら昼食を済ませ、考えの纏まった神殿絡みの計画を実行に移すため王宮神殿へと向かう。
「これはこれは、ようこそ御出で下さいました、サクヤ様!」
王宮区まで一っ飛びして来た朔耶は、神殿に入るなりすっ飛んできた昨日の精霊神官幹部に出迎えられた。朔耶が経理の者を交えて打ち合わせしたい話がある事を伝えると、直ぐに神殿の一室が会議室として用意される。
朔耶が考えた計画とは。朔耶に入る重鎮四家からの送金、所謂"サクヤの神殿預かり資金"を各地に点在する神殿に広げ、神殿を中心に街へ貢献する為の活動資金として利用する計画。
フレグンス領内に建つ精霊神殿のうち、組織的な活動を行える人員を持つ神殿は、王都以外ではクリューゲルのカースティアとサムズのエバンスにある二箇所。
これらの神殿に数日おきの間隔で一定額の資金を送り、それを使って街の発展などに貢献させる。
神殿が独自にフレグンス領の街を発展させようとするような規模の活動を行う事になるが、その資金の出所と指示は"王室特別査察官"である朔耶によるモノなので、王室の権威が傷つく事も無い。
また、神殿に対する王権の介入は控えられている為、精霊神殿の象徴として称えられている朔耶が神殿に指示を出し、神殿側がそれに応じる事は、"神殿の意向"なので、朔耶は行動の一つ一つに王室から許可を得る必要が無く、比較的自由に動く事が出来る。
「なるほど、しかしこの計画を実行するとなると、現地での資金運営を管理する者をまた選定しなくてはなりませんね」
「特に、サムズでは汚職が懸念されますなぁ」
「あ、サムズの方は推したい人がいるから大丈夫」
カースティアもガリウス達がいるから大丈夫だろうと、朔耶は資金の流用についてはあまり心配していなかった。サムズの人材については王国騎士団に人事の申請をする必要がある。これに関しては、朔耶はここぞとばかりに『コネ』を使う事にした。
「うむ、許可しよう」
「ありがとうございま〜す」
「……少しは考えてから発言なさって下さい」
コネ全開で『王の間』にて直接人事の申請を行う朔耶に、二つ返事で許可を出すカイゼル王。特に反対する理由も無いがアッサリし過ぎだとアルサレナ王妃がツッコミを入れている。
「それで、『信頼の証』本証もあげたいんですけど」
「かまわん、許可しよう」
「あ・な・た」
「いや、別に無理に考える必要はないではないか。サクヤが信頼する相手で且つ、先の動乱でも活躍した者と聞くぞ?」
朔耶はレアなロイヤル夫婦漫才を堪能しながらアンバッスの紋章を記帳に探した。地方貴族の記帳の中に、ポツンと残る紋章が一つ。回りの紋章には全て横線が引かれている。これは戦死などでその紋章を継ぐ血筋が途絶えた事を意味していた。
『この辺りのページの紋章って、殆ど横線が入ってる……』
レキセンノ ツワモノトハ コドクナ ソンザイデモ アル
「アンバッスさん……」
熊の横顔と左右に並ぶ剣、それに花で構成された紋章は、アンバッスのイメージにぴったりだと感じさせるも、朔耶は周囲の線を引かれた紋章の中で、一つだけ取り残されたようなアンバッスのシンプルな紋章に寂しさを感じて、和む気持ちにはなれなかった。
関係各所への連絡は神殿の『水鏡』を使って行い、辺境騎士団人事の配置換えも各神殿の連絡網によって迅速に行われた。その間も、朔耶は特に気に掛けていた事柄に関して優先的に動くよう指示を出し、各神殿への送金について王宮神殿で話し合いを重ねる。
「あ、もう夕方……あたし帰らなきゃ」
「お疲れ様でした。後は我々にお任せ下さい」
「必ずサクヤ様のご意向に沿いますよ」
伝えるべき内容は殆ど伝え終えているので、後は彼等の働きに期待して良い結果が出るよう祈るだけだ。朔耶は頷いて王宮神殿を後にした。
「お?」
ふと見ると、街灯が点され始めた城の庭園を並んで歩くレティレスティアとイーリスの姿。二人とも穏かな雰囲気で何かを話しているようだった。
『よっしゃよっしゃ、いいよいいよー』
サクヤヨ…… ソノシュクシカタハ ドウカト オモウ
中年のおっさんオーラに似た空気を纏う朔耶に、神社の精霊はある筈も無い我が身の額に手を当てる気分で、朔耶と共に元の世界へと帰還した。
「たっだいまー」
何時ものように自宅庭に帰還した朔耶は、縁側から電気の点いている家内に上がった。居間にいた弟と拓朗が朔耶の帰宅を迎え、兄が二階から駆け下りてくる。
「お帰り、朔姉」
「朔耶お帰りー」
「マイシスター! 写真プリーーズ!」
ほらよ、と審判の間で撮った決定的瞬間の衝撃写真を渡す朔耶。それは椅子を破壊された貴族達が一斉に尻から落ちて転がった時の写真で、全員が綺麗に揃って足を天井に向けて床に寝そべっているというシュールな光景だった。壇上の王と王妃が普通にしているので余計に奇妙だ。
「……なんの儀式だこれは」
「実はねー――」
貴族達の床上シンクロナイズ写真で素に戻った兄に、朔耶は査問会の事を説明するのだった。
「そんな事があったのか……」
「そういう時はちゃんと俺達に相談しろよ」
「う……だって直ぐ始まっちゃったんだもん」
一人で考えるなと行動の軽率を窘める弟に気圧されながら、朔耶は途中で居なくなる訳にはいかなかったと、状況が帰還を許さなかった事を説明した。ちなみに拓朗は夕飯の時間だったので帰宅している。(帰らないと母親が泣く)
「その後の計画もだよ、信仰の力って本当はすげえ厄介なんだぞ?」
「そうなの?」
「人を簡単に纏め易いけどな、反面、人を簡単に争わせ易いんだ」
信仰心は時に、善良で気弱な人間だった者を無慈悲な殺戮者に仕立て上げる。信仰が日々の生活をより良く過ごす為の心得となっている場合はまだ良い。心の拠り所となった場合は特に危険だと弟は語る。
「人間の罪の意識に対する究極の言い訳なんだ、良心さえ欺く程のな」
「うーん、でも神殿の人達にも向こうの街の人達にも、そんなガチガチの信仰心みたいなのは感じなかったけどなぁ」
「まあ、変な戒律とか異教徒に排他主義みたいな政策はとって無いみたいだから、そこはまだ安心だけど」
今後は朔耶の計画の効果次第で、神殿に属する者とそうでない者との間に何らかの軋轢が起きる可能性もあると指摘する弟。
「フレグンスの宗教や民族対立に対する政策って、ある種平等感覚で進められてただろ?」
「え、どうなんだろう? あたしはよくわかんないんだけど」
「朔姉から聞いた話から分析すると、フレグンスが謂わば国教にしてる精霊神殿もソレほど力を持ってた訳じゃなかったろ?」
領地の各首都に建てられた精霊神殿も、特に大きな活動を行うでもなく、王都と遠方の領地とを繋ぐ情報伝達の役割が大きかった。朔耶の計画によって活発化した神殿の影響力が広まれば、精霊神殿以外の土着の信仰を持つ各地の領民に不安や不満が生まれる事にもなるかもしれない。
「どうしても優越感持ちたがる奴ってのはいるからな」
「うう……でもぉ」
「まあまあ、そこまで心配する事はないだろう」
弟の理屈責めにタジタジしている朔耶を庇うように兄が横槍を入れてきた。資金を得た神殿の活動で勢力の差こそ明確になるであろうものの、元々フレグンスの領地では国教である精霊神殿が信仰対象として最も力を持っていた筈なのだ。
「コレまで神殿側とそれ以外の信者に、信仰上の理由でのトラブルってのが無かったんなら問題無いんじゃないか?」
精霊神殿以外の土着信仰を排除するような動きさえ無ければ、今後も両者は対立する理由がない。朔耶が進めようとした計画は街の発展に貢献する事であり、信者を増やす事ではないのだからと兄は反論してみせた。
「寧ろ街が発展して人々の暮らしが楽になれば、信仰に縋る程の窮状に陥る人間も減るだろうしな」
豊かな暮らしと、ささやかな信仰は、人々の心を寛容にする。宗教的な対立や民族的な対立に関しては特に気を使っているというフレグンスの統治方針なら、大丈夫だろうと持論を展開する兄。
「…………」
「…………」
「ん? どうした?」
朔耶と弟はポカンと呆けた表情で兄を見上げていた。
「偽物だーー!」
「お兄ちゃんを何処へやった!」
「なにぃ!」
途端に兄弟姉妹でギャーギャーと大騒ぎを始める。これが、三人で何かを議論した時の結論法。だれも気まずくならないように、気に病まないようにと編み出された『騒いで流す察し法』である。
「兄ちゃんはな! 兄ちゃんはな! 兄ちゃんなんだぞーー!」
「ぅぁ…………古」
「あ、あたし夕飯の前にお風呂入ってこよっと」
これが、兄の恥ずかしいやっちまった体質が現われた『外して滑る察し法』である。
「ヒドイ……」
次の週末までの間、朔耶は夢の中で精霊の視点を使ってフレグンス各地の状況を見て回った。カースティアの釣り船観光は順調に客も増えている様子で、ティルファのドマック・ボルトン造船所では二号艇、三号艇の完成も近付いている。
優先的に働き掛けるよう指示しておいたカースティアの孤児院に対する援助も問題なく行われているようだ。銀貨一枚あればアマレストを含めた孤児院の子達を三日は食べさせられるのだ。
毎日金貨一枚の支援なら服を買ったり机や椅子、ベッドなどの購入も出来るだろう。
さらにカースティアでは教師を募って神殿が経営する学校も開かせた。此方は開校まで四日程掛かったが、街の住人はほぼ無料で授業が受けられる。教師の給料は十分な額が払われるので、ティルファから学者が自身の売り込みに来るほどだ。
サムズのクルストスでは動乱以降、止まっていた水道事業の工事が再開された。近くエバンスでも水道事業の工事が行われる事になっている。二つの街は同じ川沿いの街で環境も似ている為、クルストスでの作業経験がそのままエバンスで使える。
水道橋の建設には少々区画整理も必要だったが、神殿出資の仮設区画に一時住民を預かる形で水道事業計画は問題なく進んでいた。なにせ先の動乱では建物が軒並み破壊されていたので、どのみち多くの家に建て替えの必要があったのだ。
エバンスにも学校の建設が進められ、次いでカースティアも含めて街灯設置事業の準備も進められていた。
動乱後の混乱が治まった後、サムズでは一般の民達が『これでフレグンスから見限られるのでは無いか』と不安を抱えていたのだが、そこへ神殿から怒涛の勢いで街への発展事業と開発援助である。
街の人々は安堵と共にフレグンスへの帰属意識を深めた。特に、神殿のサクヤ派に対する信仰的な忠誠心を強めていった。
後は王都からクルストスまでの街道整備。此方はまだ手を付けられていないが、朔耶は弟と拓朗が作っている魔力石エンジン搭載車を走らせる下地に、長い街道を石畳で繋ぐ計画を上げていた。その街道にも何れは街灯を、と考えている。
街道全てに石畳を敷くという構想を聞かされた精霊神官と経理官は、あまりに壮大な発想に唖然としたものだった。
そうして週末がやって来る。
「三連休か〜。向こうで特に何も無かったら、祝日は家でノンビリ過ごそうかな」
薄暗い自宅庭に出た朔耶は、何時かの赤い光沢のあるジャケットを羽織っている。此方の月も十一月に入り、気温も涼しくなって来たのでポケットも深くて向こうにも馴染み深いこのジャケットを着ていく事にしたのだ。
『それじゃあ、サムズのエバンスに跳べる?』
ヤッテミヨウ
ふっと景色が切り替わり、さらに視界が暗くなって一瞬の浮遊感にバランスが崩れる。覚えのあるその感覚に、あっと思った時はもう身体が宙を泳いでいた。べちっと、やけに弾力のある感触の上に落下する。
「あいったぁ…… また墜落かい」
スマヌ ドウモモクヒョウチテンガ ブレタヨウダ
今度は何処に落ちたんだと身体を起そうとして手を踏ん張り、そこでやっと自分の落下を受け止めたやけに弾力のある物体の正体に気付いた。モジャモジャの毛の奥に幾筋もの傷痕が走り、その奥にある鍛え上げられた胸筋が生命のサイクルである呼吸運動を営む。
「あ、アンバッスさん……」
「……お前は、本当に突拍子がないな」
自室で寝ている所に突然降って来られたアンバッスは、寝起きの呆れ顔で自分の上に覆いかぶさっている朔耶を見詰めた。現状を理解した朔耶は慌てて飛び退くと、アンバッスのベッドから降りた。
上半身裸のアンバッスは身体を起すと、やれやれといった具合に欠伸をしながら窓の外を確かめる。そしてまだ日も昇っていない事を確認すると、『せめて太陽が昇るまでは寝かせろよ』とぶつぶつ言いながら脇腹をボリボリ掻いていた。
「で、どうした?」
「え? ああ、えっとコレ!」
朔耶は予め作製して自分の世界に持ち帰っていた紋章入りライターをポケットから出した。アンバッスはそれを受け取ると、『ふん……』と何時もの呟きを漏らす。
「本証か。 それにしてもサクヤ、お前だろう、俺をエバンスに移動させたのは」
「う、うん……、神殿の資金の流用とか監視しておいて欲しかったしね」
サムズ方面で信頼出来る人が他に思い浮かばなかったから等と説明しながら、朔耶は先程から別の事に気を取られていて、それを顔に出すまいと必死だった。
アンバッスの身体に触れた感触、体温、体臭、無数の傷痕等からつい、思い出してしまった二ヶ月前の出来事。夜明け前、クルストスの街角で心肺停止状態のアンバッスに施した精霊の癒しと救急蘇生処置の組み合わせ。
『……あ、あれは人口呼吸なのよ』
血の味がしたアンバッスの無骨な唇の感触――
『だからっ! 人口呼吸なんだってばっ!』
此処で急に部屋を出るのも不自然だと思って留まっているが、どうしても顔が熱くなってくる事が止められず焦り始める朔耶。
部屋が暗くて助かったと思いつつも、まともにアンバッスの顔を見られない。そんな何処か様子のおかしい朔耶に気付いたアンバッスは、壁際でそわそわしている目線の定まらない朔耶の顔を覗き込む。
「っ!」
「どうした? 具合でも悪いのか?」
アンバッスはこういう時、普段のぶっきら棒な喋り方ではなく相手を気遣う優しい声色で囁くので、今のテンパってしまっている朔耶としては非常に困るのだった。
「んななっ 何でもない! そ、それじゃね」
「お、おい」
朔耶は頭の中で数瞬の会議の後、戦術的撤退を選んで速やかにアンバッスの自室から退出した。
『あーもーびっくりした……アンバッスさん、一度死んでフラグブレイカー体質が引っ繰り返ったんじゃないかしら』
アルジドノハ ウブデアルナ
『やかましわっ よくもやってくれたわね!』
ユルセ ワザトデハナイ
朔耶が神社の精霊と口論しながら辺境騎士団本部宿舎の廊下を去った後、亡霊のような足取りでその場を立ち去る若い騎士の姿があった。彼は偶々明け方前の廊下を歩いていて、アンバッスの部屋から顔を赤らめた朔耶が出て来る所を目撃してしまったのだ。
「やっぱ抜け駆けだったんだ……やっぱ抜け駆けだったんだ……やっぱ抜け駆けだったんだ……やっぱ――」
部屋で騎士の装備に着替えながら謎の悪寒を感じて首を傾げるアンバッスなのであった。
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