ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
戦女神編
60話:岐路




「ここは一時間以内に買い物して出れば、駐車代が只で済むからな」
「一時間か〜」

 バルティアにスクーターをプレゼントした日から数日、朔耶はその皇帝陛下に合いそうな上着を買う為にモデル代わりの兄を伴って街へ繰り出していた。主に黒いコートを探して売り場を物色する。

「んー、こんな感じかな〜」
「本革トレンチコートか、八千もするぞ?」
「よろしくね?」
「何故! 妹を狙う男へのプレゼントに何故!」

 ポケットから写真を取り出す朔耶。先日カースティアで撮影したモノで、子供達に囲まれて微笑む清貧少女な雰囲気を醸し出し捲っているアマレストの、孤児院での一枚だ。 

「レジ行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」

 兄は健気系の写真をゲットした。 八千円で。






「また何を作ってんのよ」
「いやぁ、何となく」

 買い物を終える頃、携帯に弟から迎えに来て欲しいとの連絡が入ったので、弟と拓朗を拾いに工場まで兄と車で乗り付けた朔耶は、拓朗が持っている物体に微妙な視線を向けた。

 長さ80センチ位の金属棒、その先端部分20センチ程が六角形で太くなっており、トゲ付きの鋼鉄で出来ている。反対側にはちゃんと握る部分があって、グリップも付いていた。

「メイスってやつか」
「筒型モーター弄っててさ、ギアボックスと筒型の一体化が出来ないかとかやってる内にノリで作ったんだ」

 拓朗がメイスのグリップ部分に付いているスイッチを入れると、棘付きの柄頭が高速回転を始めた。回転する棘付き柄頭は四つの部分に分かれていて、其々が隣接する部分とは逆方向に回っている。爆笑する兄。

「わはははははっ 何じゃそりゃっ! なんかドリルっぽいな!」
「いや、最初はドリルにしようか悩んだんだけどね」
「それって叩きつけて使う武器なんでしょ? そんなので使えるの?」

 鈍器の最も衝撃を受けるであろう部分に回転ヘッドのような仕掛けを施しても、直ぐに壊れてしまうんじゃないかと指摘する朔耶。ノリで作ったという物に実用性を問うのは、素なのか意地悪なのかは朔耶にしか分からない。

 しかし、弟も拓朗もその辺りは似たり寄ったりな所を持っており、朔耶の指摘にニヤリ笑いを見せると、工場の一角に置いてあるブロック塀を指す。

「柄部分は400キロくらいまで堪えられるし、ヘッド部分は掘削機にも使われる鋼鉄製だからな」

 拓朗はそう言ってメイスを振りかぶると、回転するヘッド部分をブロック塀に叩き付けた。ドコッという重い音がしてブロックの一部が砕ける。メイスのヘッドは異音も無くギリギリギリと回っていた。

「どうだ?」
「どうって言われても、よく中が壊れないわね」

 魔力石の補給はグリップの底にある摘みを回してロックを外し、中身をスライドさせると石を詰められる部分が出て来る仕組みで、柄部分も二重構造の筒になっていた。形の揃わない石が中でバラけてしまわないように、バネで押し上げる作りになっている。

「このくらいなら大丈夫だろ? どうせ向こうじゃ作れないだろうしな」

 結局最初の作品が武器になってしまったが誰か信用出来る相手にでも渡してくれと、拓朗は回転ヘッドメイスを朔耶に渡した。

「ちょっ 重っ!」
「三キロくらいあるからな」



 車の中でオルドリア大陸の現状や、朔耶の屋敷が建つ事などを話しているうち、弟と拓朗が現在共同で開発を進めているモノの話題になった。筒型モーターを複数搭載する事でさらにパワーアップさせた魔力石エンジンを作っているという。

「筒型を四つ並べる四気筒ならぬ四石筒モーターエンジンだな」
「そんなの作ってどーすんのよ」

 先日の話し合いで向こうの世界に一般的な馬車より早く走れそうな乗り物を持ち込む事は、自重しようと決めたばかりなのだ。そんなに強力な原動機を作っても使い所が無い。

「速度は時速25キロ程度までに抑えておけば良いんだよ、その分トルクに回して人や荷物を運べるような車にすればいい」

 数が限られる上、技術的にも向こうの世界の人間が易々と手を加えられるような造りにはしないので、馬など従来の乗り物や技術の発展力に影響は少ないと弟は主張した。

「それにさ、朔姉が今後向こうの世界とどういう付き合い方するにしても、こういう切り札は多くあった方がいい」
「それって……どういう事?」
「朔耶は自由で、異質過ぎるって事だな」

 朔耶の問いに兄が答え、弟もウンウン頷いた。意味が分からない朔耶は首を傾げていた。




 帰宅した朔耶は本革のコートを持って庭に出る。車にガソリン補給をしようとカードを持って玄関に向かっていた兄が声を掛けた。

「今から行くのか?」
「うん、どうせ明日はまた一日工房に籠もる予定だからね」

 服を渡すダケなので都合のいい時間に行ってさっさと済ませてくるのだと答える朔耶。

「まさか、『早く彼に会いたいの!』とか、『彼の喜ぶ顔がみたくて……』とかではあるまじろ?」
「日本語おかしいわよ? そんなわけないっしょ」

 適当に兄をあしらった朔耶は目印の円に入ると、オルドリア大陸の帝都城へと転移した。


「あれ? 明かりがある」

 この前の夜に朔耶が訪れた際、帝都を目標に転移した場合は城の地下に現われるという事を聞いたバルティアが、地下にもランプを置くように指示したのだ。ご丁寧にエレベーターのある場所まで廊下の両端に点々と設置されている。

「気が利くというかマメというか……」

 エレベーターで城の一階に上がってきた朔耶は隠し部屋から通路に出た。まだ遅い時間ではなかったので、人通りの多い通路では行き交う人々の姿が大勢見える。朔耶は取り合えず上階層を目指す。

「この時間だとまだ仕事かなー」

 朔耶が三階の階段を上っている時、不意に声を掛ける者がいた。

「サクヤ様?」
「ん? あ、シーファだぁ リーファも久し振り」
「ご無沙汰しております、サクヤ様」

 以前、バルティアの毒殺未遂事件に巻き込まれた姉妹、姉のリーファ・クルネスと妹のシーファ・クルネス。今は二人揃って同じ職場で給仕をしているという。朔耶がいなくなった後も、バルティアはこの姉妹の事をちゃんと気に掛けていてくれたらしい。

「陛下をお探しなんですか?」
「うん、まだ執務室かな?」
「いえ……多分、防壁の方じゃないかと」

 帝都の城の二重防壁は内側が馬車や伝令の馬を走らせる造りになっている。ここ数日はスクーターで防壁を走っている皇帝陛下の姿がよく目撃されていた。やはり夜に城内で走らせるには少々騒音が酷かったようだ。

「防壁かぁ、一つ下の階だったね。行ってみるよ、ありがとねリーファ」

 揃ってお辞儀を返すクルネス姉妹と別れた朔耶は、二階の端を目指して廊下を歩く。途中、朔耶の姿を見た帝国士官やその家族達が驚いて足を止め、慌てて廊下の端に避けて頭を下げていく。『皇帝の黒后』という通り名と効果は未だ帝国内に健在だ。

 朔耶は彼等に対してどう対処していいのか分からず、会釈したりすると矢鱈滅多ら恐縮されるので適当に頷いたり手を軽く上げたりして応対していった。




 防壁と城内を繋ぐ出入り口から一歩外に踏み出すと、遠くまで伸びる防壁の通路は途中で暗闇に溶け込み、全貌を見通す事は出来ない。等間隔に配置された篝火が防壁の規模と形を浮かび上がらせていた。

 そんな防壁の上をそこそこの速度で移動するランプの灯火。独特の駆動音を響かせながら走る筒型魔力石モーター搭載スクーターを駆るバルティアであった。ハンドル部分にランプが備え付けられている。

「サクヤ……! サクヤでは無いか!」
「ちょっと、そのランプ病院から持ち出したでしょ!」

 防壁を一周して城内に入ろうとした所で、思い掛けず朔耶の姿を認めたバルティアは歓喜して叫ぶ。が、朔耶は目ざとくスクーターに取り付けられたランプをその光度と形から以前、病室の環境改善の過程で作った魔力石ランプである事を見抜いてつっ込んだ。

「病院の備品持ち出しちゃダメでしょー?」
「許可は余が出してある。 ふふ……、相変わらず掴ませぬな」

 朔耶と相対すれば色々仕掛けたくとも大抵の場合その奔放な行動で先にイニシアチブを取られてしまう。偶に見せる隙を突付いても先日のような報復が来るので、朔耶を落とすには隙を見せた瞬間から一気に畳み掛けるように行かなくてはならず、それは中々容易な事ではない。

「……なんか不穏な事考えてる気配がするんだけど」
「くくく……気にするな。 所でその包みはなんだ?」

 ん、と包みを突き出す朔耶。受け取ったバルティアは中身を見て目を輝かせた。さっそく取り出して広げてみる。

「ほう、革製のコートか。 装飾は皆無だが、かなり良い作りをしているな」
「最初はカシミアのコートにしようかと思ったんだけどね、光沢のある本革の方がバルの銀髪に合いそうかなって思ったから」

 バルティアは"カシミア"が何かは分からないが、朔耶がちゃんと自分に似合いそうなモノを選んで来てくれた事に喜んだ。ホクホク顔で帝衣の上からトレンチコートを着込む。

「どうだ?」
「って、襟が中に入ってるじゃないの」

 急いで着たせいか首元の襟が中に折り込まれてしまっている。朔耶は苦笑しながらバルティアの襟首に手を伸ばすと、指を通してきちんと揃えてやった。その様子は傍から見れば、若き皇帝の身嗜みを整える后という二人の仲睦まじい光景に見えなくもない。

 そんな状態であるが故に、朔耶に襟を整えられているバルティアも胸元にトントンと当たる朔耶の手の感触や目の前で揺れる艶やかな黒髪から目が離せず、距離の近さを実感して今が抱き締めるチャンス! と思う一方、もう少しこの一時(ひととき)を味わっていたいと感じる心との葛藤に揺れていた。

「ん、これでよし」
「……あ」

 整え終えた朔耶はひょいっと後ろに下がって適度な距離を取る。バルティアは何となく機を逃してしまった気がして追う事が出来なかった。あまりガツガツして見せるのも印象を悪くするだろう等と自分に言い訳しつつ、昂り掛けた気持ちを落ち着かせる。


「それじゃあね」
「もう、帰るのか?」
「服届けに来ただけだもん」

 短い別れの挨拶で朔耶が世界を渡ろうとしている事を理解したバルティアは、声を掛けつつ引きとめる理由を探したが咄嗟には浮かんでこない。 

「そうか……、また何時でも来るが良い」

 笑みを返してもう一歩下がる朔耶。結局静かに見送る事にしたバルティアは、朔耶が消える瞬間までその姿を見詰めていた。






 翌日――
 何時ものように早朝から庭に出た朔耶は、回転ヘッドメイスを持って目印の円に入った。

「いってきまーす」
「いてらー、今度はクール系美人の写真よろしくなー」

 兄に見送られてオルドリア大陸に転移した朔耶は、王宮区画の一角に出た事を確認すると城の訓練場を目指してまだ薄暗い城の敷地を歩き出す。

『こっちに来る時はもうお城の近くに出るのが確定かな』
サクヤヨ アクイニ チカシイケハイガ コチラヲムイテオル チュウイセヨ
『悪意に近い気配?』

 訝しむ朔耶に、良く知った気配が触れる。王族を守護する精霊の接触に、朔耶は早速交感を繋いだ。

『ヤホー、久し振り。 何かあったの?』
ヤホーサクヤ アノコガ カナシンデイル ソバニイテアゲテホシイ
『レティが? 一体どうしたってのよ?』
トリヒキノキモチ ウラヤムキモチ フアンナキモチガ サクヤヲムイテイル アノコハ ソレヲカナシム

 今ひとつ要領を得ない説明だったが、神社の精霊の警告もあり、朔耶は何か起きているらしい事は理解した。交感を終えると、フレグンスの精霊は城の方へ移動する気配を残して消え去った。

『どう思う?』
ウム オウジョガ カナシムヨウナ アクイヲ サクヤニムケルモノガイル トイウトコロカ

 精霊と相談してレティレスティアとは会う前に予め交感で話をしておいた方が良さそうだと結論を出しながら、朔耶は聖騎士団が早朝の訓練に励む訓練場までやって来た。今日は近衛騎士団との合同訓練は行われていないようだ。

 訓練場の入り口を潜ると、比較的手前で打ち込みをやっていた聖騎士が朔耶に気付いて手が止まる。朔耶は軽く手を振りながら聖騎士団長フューリの所へ向かった。

「おっはよう」
「え? あ! さ、サクヤ様……」

 訓練に集中している所に声を掛けられて少し驚いた表情を見せるフューリだったが、朔耶はその反応の中に若干の気まずさを感じ取った。それが今レティレスティアの回りで起きているらしい何らかの出来事に関連しているモノかは分からない。

「あの、私に何か?」

 じーっと観察する朔耶の視線に、居心地悪そうでいて何かもどかしそうな雰囲気を感じさせるフューリの対応に、朔耶は何か勘に引っ掛かるものがあった。だが敢えて今ここでそれを確かめる事はやめておく。

「これ、使える?」

 朔耶はそう言ってメイスの包みを渡した。朔耶の持っていた包みが何となく気になっていたフューリは、自分に差し出された事を途惑いながらも受け取って包みを解く。

「こ、これは……」

 包みを解いてフューリが手にしたモノはメイス。彼女達のような聖騎士団が使っているメイスと比べて随分大人しいデザインの、訓練用にも似たメイスだった。手頃な長さのソレを観察するフューリが片手で軽々扱う様には、朔耶も流石本職と感心する。

 他の団員達は朔耶が団長に贈り物をしたのかと、少し緊張気味に様子を窺っている。朔耶はその気配にも先程の勘の引っ掛かりに通じるモノを感じながら、フューリにこのメイスの使い方を説明した。

「実際何処まで使えるか分からないけどね、先ずここを捻って引っぱると――」

 柄に仕込まれた魔力石を装填する仕掛けに軽く驚き、グリップの上に付いた突起を押す事で柄頭が回転し始めると、フューリのみならず様子を窺っていた団員達も驚嘆の声を上げた。やっぱり珍しいようだ。

 強度テストは済ませてあるが、所詮素人が行った検査なので本職が実際に使って試してみた方が良いという朔耶の勧めを受け、フューリは訓練場の案山子に試してみる事にした。

「っ――せぇい!」

 部下達の注目を浴びつつ、回転ヘッドメイスを構えたフューリが革と襤褸切(ぼろき)れで鎧を模った案山子の肩口を打ち付けると。案山子の半身を粉砕して杭の部分にまでめり込むに至った。

 通常、実戦用のメイスでも案山子の打ち付けられた部分が少し拉げる程度なので、この回転ヘッドメイスの破壊力がどれ程のモノか、遠巻きに見詰めていた団員達やそれを行った当のフィーリさえも驚愕して固まった。

「大丈夫そうだね」
「!……なぜ、私にこれを」

 鋼鉄の柄頭がちゃんと回転しているのを確認した朔耶の言葉で我に返ったフューリは、何故自分にこれ程のモノを与えるのかを問う。

「あなたなら、間違えないかなって思って」

 朔耶が答えると、フューリは何か衝撃を受けたように眼を瞠った。朔耶はそんなフューリの心中に、先程の勘に引っ掛かったモノとの関連を感じたが、特に言及する事はしなかった。ちょっと頬が上気しているようにも見えるが気にしない。

「それじゃまたね〜」

 軽く手を振って訓練場を後にする朔耶に、フューリは騎士の礼で見送った。他の団員達もそれに倣う。


『なーんか、変だよね。アレは絶対何かあったに違いないわ』
アノモノタチカラハ ウシロメタサナル カンジョウガ カンジラレタ
『後ろめたさねぇ……、そういえば前にもレティからそういう感情が流れて来た事があったなぁ』

 城と訓練場の中間辺りを歩いていた朔耶は、そろそろ起床する頃合かと意識の糸を伸ばす。

『おはようレティ〜、起きてる〜?』
――サクヤ? 今何処に居るのですか?――
『お は よ う〜、お城の敷地内のどっかだよ』
――お、おはよう御座います。 城に来ているのですね?――

 何処か落ち着きの無い様子に、これは相当な事が起きているようだと判断した朔耶は、まずレティレスティアから詳しい事情を聞きだす事にした。近くにベンチがあったのでそこに腰掛ける。

『で、何があったの? こっちに来るなりフレグンスの精霊からレティが哀しんでるって言われるし』
――っ! そうですか、精霊が…… 実は、サクヤの立場に関して少し困った事になっていまして――

 レティレスティアから交感を通じて感じる焦りの感情と共に伝えられた内容は、フレグンスの国家運営を支える古株の重鎮達に朔耶を糾弾しようとする動きが出ていて、それに呼応する門閥家などから朔耶を査問会に掛けるよう上申書を提出されたという事だった。

 それと言うのも、王室特別査察官という立場にありながら王に相談せず個人で帝国皇帝に贈り物をした事、それもかなりの希少品であるサクヤ式で、フレグンスにも出回っていないようなモノを贈った事が問題になっているという。

 一部の過激な意見には、朔耶を軟禁してフレグンスの為に道具を作らせろという声も上がっているとか。何れも朔耶の働きや真なる立場を詳しく知らない者達である事は明白なのだが、詳しく知った上でフレグンスの中枢から排除しようと画策する者もいるらしい。

 朔耶が客人として迎えられた時から、平民の異国人が王室に近付く事を快く思っていない古い体質を持つフレグンスの旧家からは、度々カイゼル王に朔耶の扱いに関して進言する勢力があったのだが、カイゼル王は尽くそれを躱して問題を先送りにして来た。

 また、カイゼル王が問題を先送りにして来たのは身分に拘り過ぎるフレグンス旧来の貴族体質を改善しようと政策を行い、それによって何れは自然消滅する問題だと踏んでいたからだが、今回の事はその政策による弊害とも言える。

 カイゼル王の政策とフエルト卿の暗躍によって王室の権威は一時期かなり軽んじられる所まで堕ち掛けていたのだが、朔耶の『信頼の証』の一件で持ち直して権威は保たれたモノの、王が一度決めた事に口出しするなど旧来のフレグンスではあり得なかった事が起きるようになったのだ。

 重鎮達の中には王家の権威が傾いた時期に経験した、相対的な権力の上昇に味をしめた者も居る。王の力が弱まれば、それを支える者に多くの力が与えられる。

 責任は王家に、実は我等にで大いに潤った懐にて贅沢の限りを尽くした享楽が忘れられないのだ。

『なるほどねー、さっき聖騎士団の人達の様子がおかしかったのって……』
――神殿に多くの寄付をしているのも、古くから深い所縁を持つ方達ですから……――
『ま、事情は大体分かったわ。 面倒事はちゃっちゃと済ませましょ、出来るだけ穏便に』
――……ごめんなさい、サクヤ。 貴方はこんなに私達を助けてくれているのに――

 レティレスティアの嘆きが交感を通じて伝わって来る。なので朔耶も、励ます意味で交感を通して自分の気持ちを送り込んだ。

『あたしはレティ達の味方だから、安心して』
――サクヤ…… サクヤ……――
『あーあー泣かない泣かない』
――うう…… すみません――

 訓練場と城を結ぶ順路脇のベンチで交感を続ける朔耶を、城壁を越えた朝日の光が照らし出す。そろそろレティレスティアもモーニングティーの後に祈りの儀式へ赴く時間だろうと、朔耶は交感を解いた。

「ううーーーん」

 眩しい光に眼を細めながら、朔耶は『さーてどうすっべぇ?』等と思いながら伸びをした。そこに若草と石畳を踏む複数の足音が近付いて来る。朔耶が顔を上げると、近衛騎士団を率いたイーリスが難しい顔を向けて見詰めていた。彼等の後ろにはさらに王国騎士団も並んでいる。

「ん? どうしたの?」
「……サクヤ殿、貴女を国家叛逆罪容疑で拘束します。我々と来て頂きたい」

 そう言い放つイーリスの表情は苦渋に満ちていた。


「ふむ」

 朔耶は静かにベンチから立ち上がった。







+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。