04話:アマガの村
ゆっくりと意識が浮上する。
暖かい陽射しが風と共に頬を撫で、心地良いまどろみの中でシーツの肌触りを全身で感じながら……
「……ん? 全身?」
はたと目を覚ます朔耶。 首を動かして自分の現状を確認する。
お日様の匂いがするシーツに包まり、ベッドに横たわっているようだ。 全裸で。
『もしかして本当に夢オチか』と思ったのも束の間、知らない天井と壁と窓とベッドと床と机と椅子と……要するに知らない部屋で目覚めたという事だ。 全裸で。
とりあえずムクリと身体を起こすと左肩にチクリと痛みが走った。見ると包帯が巻いてある。誰かが手当てしてくれたらしい。
「そっか…… あたし刺されて川に落ちたんだっけ……」
あの時は色々あって気も昂っていた為、兎に角ビックリしたのと『あのイケメン殴る!』とか思っていたが。今更ながら、槍で刺されるなどという非日常的な体験に背筋が冷たくなった。下手をしたら死んでいたかもしれない。
「非日常的なのは未だに続いてるんだけどね……」
包帯の巻かれた肩をそっと擦りながら部屋を見渡して見る。木の匂いに満ちた素朴な感じの、山小屋のような雰囲気の部屋。窓の部分にはガラス等も無く、木の蓋をつっかえ棒で支えている。
そこから見える景色をぼ〜っと眺めながら心地良い風と暖かい陽射しを浴びていると。扉の開くような木の軋む音がして、木製の床を歩く足音が近付いてきた。
そしてこの部屋の扉が開くと、そこには手に籠を持った青年が立っていた。栗色の髪に純朴な雰囲気の顔立ちで、布と毛皮を組み合わせて巻きつけたような格好をしている彼は、ベッドで身を起こしている朔耶に気付いて、驚いたように動きを止めた。
「……」
「……」
見詰め合う事しばらく。
「や、やぁ」
「ど……どうも」
青年は軽く手を上げて挨拶をし、朔耶は首を窄めるように会釈して応えた。はらりと朔耶の黒髪が揺れる。
「あーえっと……、気が付いたんだね 大丈夫? どっか痛いとことか無い?」
「あ、はい、大丈夫です。 肩がちょっと痛いだけで……」
「そっか、良かった……。そのくらいの傷なら直ぐに治るよ、綺麗な傷口だったから痕も残らないと思う」
青年はそう言って笑うと、手に持っていた籠をテーブルの上に置いた。中にはパンらしき物体と果物にみえる実のようなモノが入っている。
「俺はクィス、この村で猟師をやってる 君は?」
「あたしは朔耶……。 ね、クィスが助けてくれたの?」
「う、うん 驚いたよ、水汲みに行ったら川岸に君が倒れててさ 最初死んでるのかと思ったよ」
朔耶に名前で呼ばれたクィスは少し頬を赤らめながら答えた。
「そっか ありがとね」
素っ裸でシーツ一枚に包まりながら、見ず知らずの男と一つ屋根の下で会話するという状況に、朔耶は実は内心かなりハラハラしていた。人の良さそうな青年とはいえ、こっちはケガを負ったか弱い乙女で身一つ。
最初の見詰め合いの時など『貞操の危機ですか?』等と、誰にともなしに心の中で呟いていた。しかし、少し話してみてクィスの人となりを感じとった朔耶は肩の力を抜いた。 彼は信頼出来る、と。
「……所で、あたしの服は? ……なんで、裸にされてるの?」
シーツを口元まで上げて顔を隠すような仕草をしながら、そうすると上に引っ張られた分、素足がシーツから出てしまい、うるうるした瞳で上目遣いに睨むが、ちっとも怖くないばかりか寧ろ可愛いと思ってしまえる拗ねたような仕草……
というのを試してみた。
以前、萌えとやらを追求し始めた上の兄がちょっとやってみてくれと具体的に事細かく指示したポーズだったりする。
「あ、いやその! ずぶ濡れだったし、それに怪我してたから! 運んだのは俺だけど脱がしたのはデイジーだからっ! あっと、デイジーってのは幼馴染の女の子で……。 だ、だから大丈夫だよっ! えっと君の服は、い、今は外に干してあるよ」
面白いくらいうろたえてくれたので朔耶は思わず噴き出してしまった。
キョトンとするクィスにからかった事を謝りながらこの場所について話を聞きくと、ここはフレグンス王国の王都から二つ程小国を跨いだ街外れにある狩猟村の一つで、アマガという村だそうだ。村の近くを流れる川をもう少し下れば海に出るらしい。
『どんだけ流されたんだ、あたしは……』
クィスが用意してくれた食事を済ませた頃、乾いた服を持ってきてくれたので早速下着とシャツだけでも身につける。上着のポケットの中身は入れておいたハンカチとか飴がそのままになっていた。
「他の荷物は……落ちて無かったよね?」
「俺がサクヤを見つけた時は回りには何もなかったよ?」
「そっか」『やっぱあのままかなぁ レティが預かってくれてればいいけど』
流石にまだ身体がだるくてベッドから降りられそうになかったので、クィスに勧められるまま休ませて貰う事にした。
「怪我が治って元気になるまでゆっくり身体を休めると良いよ」
「有難うクィス、暫らくお世話になるね」