アクレイア家がフレグンスの大貴族としての地位を築き上げたのは戦乱の時代、その類稀なる攻撃魔術の力によって常勝をもたらした武勲によるモノだ。
一方コースティン家が台頭し始めたのは戦乱の時代が終わり、各国が復興に向けて進み始めた頃、各地で頻発する反乱等を治めた功績によるモノである。
「僕の父は反乱の気配がある地域や決起しそうな集団と会談を設けて話し合い、反乱や暴動を未然に防ぐ方法を取って治安の維持に努めていました」
だが、コースティン家は反乱が起きそうな地域でそれを煽るような流言を行い、暴動を起こさせてから反乱分子やその予備軍とされる人物を根こそぎ討伐するという方法を取っていた。その為、平穏な暮らしを求める善良な民にも少なからず犠牲者を出していたのだ。
コースティン家のやり方はフレグンスに反撥を持つ人間を増やし、それがまた反乱の種となる悪循環を生むとして、レイスの父ルィバンスは自らの宮廷魔術士長の権威を持ってコースティン家の討伐法に自重を促していたのだが、実際に武装決起した者を放置するわけにも行かない為、ルィバンスの目の届かない所で行われた工作によって火種を抱えた地域では反乱が頻発していた。
それを尽く討伐して回り、その功績によって地位を伸し上げて行ったのが今のコースティン家である。
「なるほど、マッチポンプってやつね」
「マッチポンプとは?」
「自分で火ぃ付けて火が出たーって騒いで、自分で消して頑張って自分が消しましたって誇ろうとする行為?」
「ああ……まさにその通りです。『マッチポンプ』ですよ」
ある種の自作自演とも言える反乱とその討伐。コースティン家はこの手の謀がお家芸なのだ。
「ふむ……、それで今回の事件はフエルト卿が怪しいと……?」
「ええ、例えばランバルト公がフエルト卿暗殺の為にナイフを向けたとします。もし、フエルト卿がナイフに仕込まれた術を発現させる触媒を持っていたなら?」
皆がその後の展開に思い至って息を呑む。自分に暗殺用ナイフを向けた相手に、フエルト卿は正当防衛として躊躇無く攻撃魔術を撃ち込む事が出来る。束縛の術で動けない相手に、だ。
「ランバルト公を殺害した後、公には帝国と繋がりあったと適当な証拠をでっち上げれば……」
ランバルト公と繋がりのある門閥家は全て疑われる事になり、フレグンス上層は大混乱に陥る。さらにそのランバルト公に『信頼の証』を与えた朔耶や、朔耶繋がりでレティレスティア王女、アルサレナ王妃までもが信頼までは失くさずとも政務に対する発言力や権威がかなり損なわれる事になるだろう。
代わりにコースティン家の派閥に属する門閥家が上層を独占する為、フエルト卿の発言力は強大なモノとなり、権威は王に次ぐ程までに補強される。
レイスの順序立てた策略の説明と推理を理解した皆は、その予想以上の被害の大きさと影響力に愕然とする。
「……もしさ、そうなってたら ルディはどうなってたのかな?」
「公の暗殺が成功した時点で、帝国の間諜との連絡係だった……という証拠を捏造し、自害に見せかけて殺害されるか、もしくは……」
今回のように救出が間に合った場合、濡れ衣は着せられなくとも家は取り潰しになるので何処かの家の侍女に迎えられるか、街の娼館に高級娼婦として身を堕とすか。
「或いは、公爵家の血筋を迎えるという意味でフエルト卿が娶るか……まあ、そうした場合は寛容さもアピール出来るでしょうしね」
「なんか……ムカつくね、それ」
あくまでも可能性、まだフエルト卿が事件の黒幕と決まった訳でもなく、それを示す証拠がある訳でもないので、短慮な思い込みは危険だとしてこの話は此処までに留められた。この事件の裏には帝国が絡んでいないとも限らないのだ。
暫らくして近衛騎士から捕らえた者達についての取り調べ結果が報告として上がってきた。
「四人とも食い詰めた傭兵崩れで、街の酒場に屯している所を黒いローブの魔術士に誘われて身代金目的で犯行に加担したとの事です。帝国との繋がりは不明ですが、関係は無いと見て間違い無いと思われます」
「つまり、手掛かり無し……という事か」
イーリスが眉間に皺を寄せて溜め息混じりに呟いた。
『まったく、一体なんだと言うのだ』
王女を帝国に拉致させる手引きを引き受け、成功間違い無しだった筈の計画が失敗してからがケチの付き始めか、ここ最近は工作も謀も失敗続きだ。その事に苛立つように彼は書き損じた書類を乱暴に丸めると屑籠に放り込んだ。今回の計画の破綻もあの異国の娘が係わっている。
『本当に……何だというのだ、あの娘は』
あの娘が現れてからというモノ、細かい工作から今回のような大きな計画まで尽く邪魔が入ったり不測の事態で破綻したりと、兎に角ロクな事にならない。先日の『信頼の証』の一件でも此方の地盤を揺るがしかねない出来事があった。
しかもあの道具のせいで各中流貴族の取り込みや門閥家の袖を引く交渉がやり辛くなったのだ。折角翳りを帯びて来ていた王家の威光も、あの道具一つで盛り返してしまった。今までの苦労が水の泡だ。
『下手に手を出すと薮蛇かと放って措いたが、やはり早めに処分したほうが良いか……』
意図せず立ち塞がる存在というモノは時代の流れの中に必ず一人や二人は現れるモノだ。ここまで順調に来ていただけに、反動として現れたのかもしれない。もしくはこの地に住まうという古の精霊による加護の成せる業か。
『ふん……所詮精霊も魔術の触媒、この国の滅亡に贖う事は出来んさ』
今頃はまんまと令嬢を取り返された間抜けな部下が屋敷に逃げ帰っている頃だろう。丁度良いので帝国の密偵への伝令をさせようと、彼は懐の『発掘品』を取り出して起動させる。
この『発掘品』は二対の薄い板の片方に何かを書き込むと、もう片方の板に同じモノが描き出される伝送具の一種で、帝国に忠誠を誓い、尽力する証に与えられた幾つかの『発掘品』の一つだ。
古代魔法文明の遺跡は帝国領に多く点在し、これもそこで発掘されたモノである。
『発掘品』の伝送具に異国の娘に関する報告と今後の対応について書き綴り、部下からの返事を待つ。やがて板の上に密偵に伝える趣の返事が浮かび上がった。
『この触媒は処分せなばならんな……』
束縛のナイフと対になった発現の鍵である呪文が刻まれた触媒。もはやあのナイフが使われる事は無いのだから、この触媒は邪魔なだけだ。
『やれやれ、あの娘のお蔭で要らん出費ばかりが嵩む』
内心で悪態を付きながら不要になった触媒を砕き、人知れず処分するのだった。
「おまたせ~、とりあえずこれだけ作ってきたよ」
近衛からの報告があった後、『ちょっと手伝って』とフレイを伴って応接室を出て行った朔耶が長方形の箱型のモノを両手に抱えて戻って来た。外は既に日が沈み、夕闇に差し掛かろうとする頃で応接室の中もランプが灯されている。
レティレスティアは午後の祈りの儀式に出ていて不在、ランバルト公は娘の無事を確かめに帰途に付き、レイスも屋敷の修繕関係の用事で帰宅している。
応接室に残っているのはイーリスと部下の近衛騎士だけだったが、用件は果たせるので問題ないと朔耶は荷物を並べた。
「それは?」
「魔力測定器、これを使えば街の中に紛れ込んでる魔術士も探し出せると思うよ」
「おお……これが、噂に聞く魔力測定器ですか」
テーブルの上に並べられた長方形の木箱。片側にある二本の突起を対象に向けると、丸く切り取られた蓋部分でゆらゆら揺れている木針が動いて対象の魔力の強さを指し示す。
「八つあるから、門の所と後は街中の巡回で使えば良いと思うよ」
「助かります、早速使わせて貰います」
「間諜に就く者は少なからず魔術も修学するものですからね、これなら怪しい人物を炙り出せるでしょう」
測定器を受け取ったイーリスと部下の近衛騎士は、朔耶に礼を言うと足早に応接室を後にした。応接室に残された朔耶とフレイは『一仕事やり終えた』と一息ついた。
「ふぅ~~やれやれ…… フレイお疲れ~」
「サクヤ様もお疲れ様でした」
朔耶は首を回しながらソファーに寝そべると、『ぬが~~~』という雄叫びを上げながら伸びをした。既に見慣れたフレイは驚くでもなく、はしたないと諌めるでもなく、朔耶が伸びをする時は大抵雄叫びを上げるモノなのだと認識してしまっている。
「はふぅ……」
「今日はもう御休みになられますか?」
「ん~……もうちょっと何かしてから寝るー」
「分かりました、ではお茶の用意をしておきますね」
フレイは応接室を出て朔耶にあてがわれている部屋に向かった。朔耶は暫らくソファーの上でごろごろと寛いでいたが、身体が解れたので起き上がり、自分の部屋に戻ろうとして応接室の魔術式ランプに目を止めた。
「ふーむ……」
そのランプは火を灯すタイプではなく、光を発現させるタイプのモノで、呪文の刻まれた触媒の上に浮かんだ光の玉が光源となっている。
「むむ?」
朔耶は魔力石ライターの原理と反発力ユニットによる魔力の膜の性質と、目の前のランプの中に浮かぶ光の玉に、懐中電灯代わりの照明に関するアイデアが浮かんだ。
「手っ取り早く光を出すのに……火属性だと熱が……雷属性なら作れるわけだし……分散させてフラッシュライト並に……」
顎に手を当て、ぶつぶつと創作アイデアに没頭しながら部屋に戻って来た朔耶は、そのままフレイの淹れてくれたお茶を飲み干すと、ぶつぶつ言いながら新しい魔力石をテーブルの上に取り出し、ぶつぶつ言いながら加工を始め、ぶつぶつ言いながら測定器を作る時に余った木材を削っていった。
「ふう……」
「お疲れ様です、今回はまた随分と入れ込んでましたね?」
「うん、結構良い感じに浮かんだからね……ごめんね? こんな遅くまで付き合せちゃって」
「いいえ、私はサクヤ様の専属警護ですから」
外はすっかり暗くなっており、夜空には星が瞬き、欠けた月が王都の街並みを照らし出している。やはり路上には街灯のようなモノは無く、各家の窓や門の所に備え付けられたランプの灯りが街の灯りとして夜景を演出している。
「レイスが寂しがってるかもよ~?」
「……い、一日くらいは 我慢して頂きますから」
赤くなりながらそんな事をのたまうフレイに、『なにをだ!』と突っ込みをいれるべきか、『なにをかな~?』と突っ込みを入れるべきか、どちらにしても突っ込みを入れるべきかと迷う程、いい感じに疲労が溜まってきている朔耶だった。
「と、所で 今回は何を御作りに?」
「むぅ……なんか誤魔化された気がするけど。一応、懐中電灯をね、朝方見せたフラッシュライトみたいな感じで光ればいいかな~って」
テーブルの上には筒状の物体。片方に穴が空き、其処から反発力ユニットが内側を向いて並んでいるのが見える。反対側には電池代わりの雷属性の魔力石を詰めてある。稲妻ビンタの気合で電撃を発現出来るようになったので、自力で雷属性の石を作って手っ取り早く光源にしてしまおうと考えたのだ。
朔耶の計算では反発力ユニットによって圧縮された魔力の膜を作りだし、そこにライターの要領で具現化させた雷属性の『芯』を入れる事で筒の中に雷球を作り出してフラッシュライト並の明るさを確保出来る筈となっていた。
構造的には魔力石ライターの属性を雷にしたモノを、反発力ユニットを向かい合わせて圧縮反発力を発生させる機構にくっ付けたような感じだ。
「火だと燃えそうだし、雷でもチカチカするかもしれないけど、一定量の放電状態を維持できればイケると思うのよね~」
反発力ユニットを敷いた盾はレイスの魔術で生み出された魔力の塊である氷塊を自らの反発力と共に四散させた。朔耶はそこに目を付け、反発力ユニットの生み出す魔力の膜は魔力の塊を分解分散させる効果があると読んだ。
向かい合わせに張られた魔力の膜の中に魔力石から生み出した電気を放電して分解分散する過程で、石の先に生まれる小さな放電の光を魔力の膜一杯にまで広げるという仕組み。圧縮反発力になったのは反発力ユニットの仕様上の問題で、偶々である。
「木製だから、もしかしたら中が焦げるかもしれないけどね」
朔耶は試作魔力石ライトを手に取ると、テーブルの下の暗い部分に向けてスイッチを入れた。ジジッという放電の音と共に筒から光が伸び、テーブルの淵を削り取るように焼き斬って床の絨毯に丸い焦げ跡を作った。
「! な、なんじゃあこりゃあーーーー!!」
「ひ、光の剣……」
うら若き乙女としてはどうかと思うような驚愕の叫びを上げる朔耶の手の先を、フレイは呆然とした表情で見詰める。光は五秒ほどで魔力切れになって消えた。
しん……と静まり返る部屋、そして我に返った朔耶は思わず頭を抱えて悶絶する。
「魔力石ライト作ろうとしたのに魔力石ライトセ○バー作っちゃってどうすんのよあたし!」
「す、凄いですサクヤ様! 光の剣ですよ、光の剣! 私、あんなの初めて見ました!」
『なにヤバイ物作ってんだーー』と騒ぐ朔耶に『凄いです!』を連発する尊敬モードに入ったフレイ。テーブルの淵とか絨毯の焦げ跡とかどうしよう?と焦る朔耶は『換えさせましょう』と使用人を呼ぼうとするフレイと微妙に意思疎通のズレたやり取りを行うなど、暫らく二人で大騒ぎしていたが――
「とにかくこれは失敗作! 破棄よ破棄」
「えええ! 勿体無いですよぉ」
その後もやはり大騒ぎしていた。
「こんな危ないもん使えるかぁーー!!」
「では、そのようにお伝えください」
何の変哲もない安宿の一室に宿泊する男の下に、フレグンス王都での諜報活動を支援している貴族の部下がその主の伝言を伝えて帰っていく。最近の工作や謀の失敗を何処か遠方の異国から来たらしき少女が原因として、早々に始末して欲しいとの内容に、帝国の密偵である男は鼻白んだ。
我々を暗殺者か何かと間違えているようだと、男は件の少女についての資料を取り出す。男の他にも、部下として数人の密偵がフレグンス王都内に潜伏しており、彼らは其々全く関連性を持たない生活を送りながら諜報活動に勤しみ、不定期的に収集した情報を男の元に届けている。
『名前はサクヤ以外は不明、出身国も不明……? 王女の身柄確保の際これを魔術にて妨害、経緯不明……以後、数日間消息不明……魔術属性不明……なんだこれは』
いくら何でもここまで正体不明が続くと、流石にフレグンス貴族からの依頼を戯言と軽視する事は憚られる。最新の情報を漁って部下から届いた伝管を開いて行く。
『ん……年齢十八、王室特別査察官に就いているも貴族にあらず……? ほぼ無詠唱にて雷を纏う術を行使……魔術の腕はかなりのモノか……。ん? 見た目も肌も若過ぎる、秘訣を探るもはぐらかされた……って、何を書いとるんだアイツは……』
腕は確かだが任務中直ぐに脱線しようとする困った悪癖を持つ部下からの伝管だった。
その後は『髪はサラサラで手触りが良い』とか、『中々男心を擽る仕草を身につけている』とか、どうでもいい様な事が綴られており、最後に『隊長~あたし達いつ帰れるの~?』とか書いてある。
『俺が知るかっ』
部下の報告に突っ込みを入れながら他の伝管にも目を通し、めぼしい情報を纏めて頭の中の叩き込みつつ『発掘品』の本に収める。この本は特定のキーワードを書き込む事で中に書かれた内容を閲覧する事が出来、別のキーワードを書き込むと全く違う内容が表れる。表向きは日記帳として、裏には集めたフレグンス内部の情報が満載だ。
『さて、しかし…… どうしたモノかな』
男はサクヤという少女の暗殺を引き受けた場合のメリットとそれに伴うリスクを計算しようとしたが、件の少女に関する情報が少な過ぎて結論は出せない、という結論に到ってしまった。協力者の貴族も気運に見放されている感があり、今回のような勘違いをした依頼を向けて来るようではそろそろ見切りを付ける必要性も出て来る。
『一度本国に問い合わせてみるか』
――事件から三日後
「そこには、元気に走り回るエルディネイアの姿が!」
「いきなり何ですの?」
「いや別に、ちょっと言ってみただけ」
朔耶は模擬戦の見学に改めて学院を訪れていた。ほぼ三日おきに行われるという個人戦と団体戦、さらにその三日後には数十人からなる大規模な対抗戦がある。
「にしても、ボロボロだね」
「ぜぃ……ぜぃ……やは……ぜぃ……サクヤ……ぜぃ……じゃないか……ぜぃ……」
「あーあー喋んなくて良いから、休んでなさいよ」
「す、凄い根性ですね……」
息も絶え絶えに打ち身に擦り傷、もみくちゃにされて髪の毛も鳥の巣状態にありながら斜めに構えて腰に手を当て、口の端だけで笑いながら髪を掻き揚げようとするドーソンに、朔耶は肩を押して座らせ、フレイはある意味で感心していた。
「しっかし、ルディも容赦ないねぇ?」
「私のパートナーになるのですから、相応の腕を身につけて貰いませんと」
殆ど息も上がらず、ふふんと澄まして見せるエルディネイア。彼女は団体戦の自分のチームメンバーにドーソンを加える為、朝から屋外訓練所の片隅で剣の猛特訓を行っていた。模擬戦用の武器庫から持ち出されたありとあらゆる武器類がズラッと並べられてあり、身長程もありそうな大剣やメイスのような鈍器類、戦斧や杖まで揃っている。
「でも、困りましたわ……剣に関しては本当に素人なんですもの。 このままではメンバーが納得しませんし……」
「無理に参加させなくても良いんじゃないの? ほら、ドーソンって勤労学生だし」
「今はもう勤労学生じゃ無くてよ?」
三日前の事件の後、二人は一端其々の家と寮に戻って休み、翌日学院で再会した。その時にエルディネイアは一つの提案をドーソンに持ち掛けた。選択、と言っても良い。
『私の従者として家に仕えれば、学費は全て負担、卒業後はブラフニール家が後見となって貴方を貴族に推挙してさし上げますわ』
ドーソンはその提案を受けた。従者と言ってもエルディネイアの家に住み込みで働くには貴族の屋敷での振る舞い方などを学ばなくてはならない身なので、今はまだ学生寮に住んでいる。
朝、エルディネイアが学院入りした時から帰途につくまでの間、ずっと傍に居つづける事になる。
「まあ、最初は相手も警戒して様子を見て来るでしょうから、私の傍に居れば狙われる事も無いでしょうけど」
「バレたらドーソン狙い捲りだね」
「そうですの……団体戦は人数を合わせて行いますから、此方は常に一人欠けた状態で戦う事になりますわ」
今までの人数での連携にも乱れが出るので、ドーソンは戦力として頭数に入れられないが、それだとドーソンをメンバーに入れる事に意味が無く、仲間が納得しない。
「いっそ似非ワイルドカードにしちゃえば?」
「? なんですの? それは」
使い所が無いのならば無理に使わず、使えるように見せかけて他の使えるメンバーを補佐させる。要するに、後方で如何にも目を離すと何か仕掛けてくるかのように振舞わせ、他のメンバーへの注意を引き付けるハッタリ役だ。
「一回バレたらアウトだけど。 まあ道化師だね」
「う~ん……不本意ですがそれしかありませんわね……」
「き、君たち、言いたい放題だね……」
やっと回復したドーソンが大汗を垂らしながら頬を引き攣らせていた。
特訓を再開したエルディネイアとドーソンを眺めていた朔耶は、フレイに以前の川原での出来事について話を聞いていた。王都までの旅の途中、バーリ街道第一中継地での小さな事件。あの時もドーソンが文字通り身体を張って頑張った。
結果はどうあれ、あの事件で朔耶はドーソンの事を少し見直したのだ。その時の詳しい状況を聞くにつれ、朔耶は三日前の事件の光景を思い出して頭の中で情報の整理を始めた。そして一つのイメージが思い浮かぶ。
「ドーソン ドーソン」
「ん? なんだい?」
「ちょっとこっち来て」
「? ……ちょっと、何ですの?」
特訓を中断させ、おいでおいでをしている朔耶にドーソンは戸惑いつつも、エルディネイアの了承を得て歩み寄る。そうして地面に何か描きながら、時折何かの動きを指南するようにドーソンに身振り手振り、手取り足取り教えている朔耶にエルディネイアはヤキモキした視線を向ける。
フレイはエルディネイアの矛先が自分に向かないよう祈りながら気配を静めていた。
「じゃあ、やってみて」
「う、うむ」
朔耶から一通りの指導を受けたドーソンは、腰に手を当てて苛々とした様子で待つエルディネイアの所に戻った。
「随分親しそうに話してらしたわね」
「そうかい? 彼女は誰にでもあんな感じだよ」
「ふんっ どうだか。 続き、始めますわよ」
フェンシングのような構えを取るエルディネイア。彼女は細身の片手剣での突きを主体とした技が得意だった。一方ドーソンは朔耶が選んで手渡した剣の鞘を握ると、柄に手をあてて半身に構えた。エルディネイアはドーソンの行動に怪訝な表情を浮かべる。
「何をしてますの? 早く剣を構えなさいな」
「あ、いやその……こういう構えなんだよ、サクヤの話だと」
エルディネイアは何と無くムッとなる気持ちを抑え込む。朔耶の国の『賢者の言葉』のように、この奇妙な構えも朔耶の国の剣技なのかもしれないと思いなおした。
「じゃあ、行きますわよ」
賢者の言葉では完敗だったが、剣技では魔術士に負けるつもりは無いとばかりに、朔耶に教わった構えを取るドーソンに向けて鋭い突きを繰り出した。
その瞬間、バキンッ という破壊音と共にエルディネイアの模擬剣が圧し折れて弾き飛ばされた。目を瞠るエルディネイア。
「なっ……!」
ドーソンはエルディネイアが打ち込んで来た瞬間、模擬剣の横面を目掛けて踏み込みながら抜刀した剣を振りぬいたのだ。
朔耶が眼を付けた点は二つ、川原での事件でドーソンは殆ど暗闇に近い状態で飛んできた酒瓶を正確に打ち払い、しかも砕いている。そのせいで中身の酒が目潰しとなって不覚を取った訳だが、かなり動体視力に優れている事が窺える。
二つ目は打ち払いの威力、飛んで来た酒瓶を棒切れで砕くなど、薙ぎ払いの威力は三日前の事件でも傭兵崩れ二人を怯ませる程の鋭さを持っている。
「まあ、もう一つ付け加えるなら結構根性あるってとこかな」
以上の点から、付け焼刃になるが『抜刀術』を使えばハッタリをかますにしても相手の虚を付く事は出来そうだというのが朔耶のアドバイスだった。大量に並べられた武器の中から日本刀に良く似た形の剣を選んでドーソンに使わせてみたのだが、結果は予想以上に馴染んでいるようだ。
その後の模擬戦では後方に立つドーソンの奇妙な構えに警戒した相手チームが連携を乱した隙にエルディネイアが突っ込んで二人を倒し、仲間二人が相手の孤立した一人を倒した所で、魔術士が優秀な相手チームの反撃で味方の二人が倒された。
そこで何時もの悪い癖を出したエルディネイアが魔術士に突撃を仕掛け、味方の魔術士が無防備になった所を相手の魔術士と剣士の連携に討ち取られて援護の無くなったエルディネイアが孤立してしまい――
「くっ しまった!」
「ふふっ 相変わらずネイアは勇ましいね」
相手チームのリーダーである剣と盾を使う騎士スタイルの青年と剣士に挟み込まれて万事休すとなった。
「あら~~ネイアさんたら、またやってしまいましたのね~」
「何時ものパターンか……」
既に倒されて陣の外に出た仲間が達観にも似た呟きで敗北が告げられるのを待っていた。その時、エルディネイアの援護に駆け寄る影が一人。剣を鞘に収めたままのドーソンが突っ込んで行く。状況は三対三、相手は攻撃型の魔術士と騎士スタイルに剣士スタイル、味方は細剣のエルディネイアと支援型魔術士、それに抜刀術のドーソンだ。
今まで後方で動かなかった初見の相手が突っ込んで来た為、ここは様子見も兼ねて実力を見極めようと、相手チームはエルディネイアを騎士と剣士で牽制して足止めし、魔術士に攻撃を任せた。風の塊がドーソンを襲う。
が、味方の支援魔法がドーソンの前方に風の壁を作って攻撃を中和した。一気に距離を詰めて剣士に突っ込んで行くドーソン。相手剣士はドーソンが剣を収めたままなので攻撃のスタイルが読めず、何処から攻撃が来ても対応出きるよう正眼に構えて迎え撃った。それが裏目に出た。
エルディネイアと模擬戦までの特訓で集中的に練習を重ねた結果、相手の武器を弾き飛ばすのはドーソンの十八番になっていたのだ。
バキッという破壊音がして、しっかり握っていた筈の剣を弾き飛ばされた剣士は、自分の模擬剣が半ばから圧し折れている様に目を瞠る。返す刀で一撃を入れられて討ち取り確定、その剣技のとんでも無い威力に気を奪われた騎士の僅かな隙を突き、エルディネイアは騎士をすり抜けて相手チームの魔術士に再突撃を掛けた。そして遂に念願の魔術士打倒を果たしたのだった。
「いやー中々白熱した試合だったねぇ」
「サクヤ様の授けた剣技の存在が大きかったですわ」
帰りの馬車の中で、朔耶とフレイは今日観戦した模擬戦を評し合っていた。試合後エルディネイアのチームを労いに行くと、既に朔耶の事を聞いていたメンバーは三日前のような自然な応対も出来ず緊張しまくっていた。
エルディネイアとドーソンだけが普通に話しているのを見たメンバー達は、ドーソンを特別な身分に在る人物と認識した。あながち、間違いでもない。
「今度は大規模戦ってのも見てみたいなぁ」
「対抗戦は屋外ですからね、迫力ありますよ」
次はレイスも解説役に連れて行こうなどと話しながら、朔耶は王都での楽しみが一つ増えたとご満悦だった。そして、ふと呟く。
「学生かぁ……いいなぁ」
「サクヤ様?」
「あたしもホントは高校生なんだよね、卒業式までに還れるのかなぁ~って」
「サクヤ様……」
若干憂いを帯びた朔耶の寂しげな横顔に、フレイは胸が締め付けられる想いがした。朔耶が別の世界から精霊に喚ばれて来たという話は以前聞いている。今は元の世界に還る為に精霊術を学んでいるという話しも聞かされていた。何時かこの世界から居なくなってしまうのだろうかと考えると、とても寂しい気がするのだった。
「あーあーもう、フレイが落ち込んでどうするよ」
「あ、す、すみません」
久しぶりに恐縮スパイラルに入り掛けたフレイに、朔耶はうりゃっと抱きつくとその身体をぎゅーっと抱き締める。フレイは直ぐに意味を理解したので慌てなかった。そのまま優しく抱き返すと、ゆっくり髪を撫でてやる。
アンバッスのように甘えられる相手が居ないので、フレイに甘えているのだ。
「はぁ~~落ち着く……ごめんね、ヌイグルミ代わりにしちゃって」
「いいえ、私はサクヤ様の専属警護……心も身体も御守りしますわ」
二人を乗せた馬車は静かに城への帰路を進んで行った。
「で、レイスには心も身体も捧げちゃってるわけね?」
「はうああ~~」
回復すると同時にからかいモードに入る困ったちゃんな朔耶だった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。