ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
本編
02話:光の魔術士




 朔耶は驚きと戸惑いに一瞬呆けてその人物を見た。

 すっかり日も暮れ、周囲は文字通り真っ暗になってしまい、荷物の中から取り出したLEDライト式の懐中電灯で確保した僅かな視界の中。ようやく見つけた川岸(かわぎし)に添ってイザ歩き出そうとしたその時、ガサガサという物音に振り返ると木々の奥から物凄い勢いで飛び出してきた一人の少女。

 外国人らしきその少女は、何故かドレスを纏っていた。

 (すそ)の広がったスカートには彼方此方(あちこち)擦り切れた跡があり、所々破れていたが、高級品を感じさせるような金糸(きんし)の細かい刺繍(ししゅう)と控えめな装飾がLEDライトの光を反射して少女の腰の辺りまでふわりと伸びる少し乱れた金髪と同じようにキラキラと輝く。

 何故こんな場所でドレスの金髪少女? と思考が固まったが、相手も此方を見て驚いたように固まっていた。まるで何処かのお姫様のような少女はしかし、直ぐにその表情が此方を警戒するように鋭くなった。

『ああ! もしかして何時の間にか誰かの私有地に入り込んじゃってたとか……それもなんだかロイヤル〜な外人さんのっ。でもって実は近くに城みたいな家が建っててココはその家の庭の一角だとか! げっ あたし不法侵入者じゃん!?』

 少女が此方(こちら)を睨みながら何かを言おうと口を開き掛けた所で、これは急いで誤解を解かねばと考える。

『不可抗力、不思議現象、迷子…… うん、迷子が一番今の自分を現してる ……迷子だし』

「あ、あのぉ……」
「○x?」

 ふっと少女の顔から警戒が薄れた。

「えっと、実は迷子になっちゃって…… 決して怪しい者では無いですハイ」
「△&○x#@。?」

『う、言葉分からん…… どうしよう』

 聞いた事の無い響きの言葉に、朔耶はどうしたものかと迷っていると、少女はすっと手を伸ばして朔耶おでこの辺りに指を添えた。

「え? な、なに?」
「>+○@△……――△*○*◇*――」

 何事かを囁き掛け、言葉とも音とも付かないような声で何かを呟く。途端、朔耶の頭の中に水が流れ込んでくるような不思議な感覚が走った。

「わっ うわっ ……何これ!?」
「『疎通(そつう)の加護』を使いました、これを……」

 少女はそう言って自分の指に填めていた指輪の一つを外すと、事態に付いて行けずアワアワしている朔耶の手をとって指に填める。

「私はフレグンス王国の第一王女、レティレスティア・フィリス・フォルティシス・フレグンスと申します。何処の国から参られた方かは存じませんが、魔術士殿、どうか私に力を御貸しください、賊に追われているのです」
「へ? 王女……? 魔術士……? 賊……? って、この指輪」
「それは水の精霊の加護を永続させる指輪です、それを報酬として貴方に差し上げます。不躾な方法とは思いますが、何分緊急事態ですので…… どうかそれを持って魔術士殿のお力を!」

 そこへレティレスティアを追ってきた集団が姿を現した。帷子を着込んで短剣を装備した男達が次々と木々の間から飛び出し、川岸に立ち竦む朔耶とレティレスティアを取り囲む。

 その内の一人が、ターゲットであるフレグンスの姫の隣に立つ人物を見て一瞬怯んだ表情を見せた。
 見慣れない服装と大荷物を背負っている姿から旅の者と推察(すいさつ)出来るが、その人物の右手から白く眩しい光が放たれている。只の明かりにしては強すぎる光、眼も(くら)む様な強力なあの光は明らかに戦闘用のものだろうと警戒する。

「気をつけろ、魔術士がいるぞ」

 男達は手にした短剣を構えて臨戦(りんせん)態勢を取った。魔術士が相手となると、程度の差はあれ通常の戦士の力では魔力によって具現化する力には及ばない。
 随分と歳若い魔術士のようだが、これほど強力な光を保ち続けている事から、見た目と実力は比例しないと考える。

 見た感じでは姫の家臣というわけでは無さそうだし、旅の魔術士が偶然この場に出くわしただけかもしれない。そう判断したこの集団のリーダーは、交渉を試みる。

「我々は無用な争いを好まない、魔術士殿、その女性を此方に渡して貰おう」


 突然刃物を持った集団に取り囲まれてそんな事を言われた朔耶は、現状に理解が追いついていなかった。頭の中は既にパニック状態である。

「あんた達…… 一体、なんなの?」

 混乱する意識の中、ようやくそれだけ口にする。それは殆ど独り言を呟いたようなモノだったのだが、集団の男達はこれを誰何(すいか)と取り、律儀にも自分達の任務で与えられた権限の(ゆる)される範囲内でそれに応えた。

「我々はバルティア帝より直々に任を賜った者だ、所属と階級は言えない」
「バルティア帝! ではやはり、貴方達はグラントゥルモスの手の者ですか」
「如何にも。レティレスティア姫、既に退路はありません。我々と共に来て頂こう」

 王族に対する敬意を込めた命令口調でレティレスティアに投降を促す集団のリーダーは、同時に彼女の隣で沈黙を続ける魔術士の動向に最大限の注意を払う。

 魔術士には皆変わり者が多く、独善家で気難しいと聞く。この件に関与しないつもりならその方が有り難い。駄目押しとばかりに、如何に此方が有利な状態にあるかを説いてみた。

「いくら魔術士といえど、我等を相手に力を振るうには(いささ)か距離を詰められ過ぎている」
「……」
「少数とは言え我等もグラントゥルモスの精鋭、当然、対魔術戦闘の心得もある。そちらの魔術士殿は偶々この事態に巻き込まれたとお見受けするが、無益な争いは好まない様子」

 未だ沈黙する朔耶に縋るような眼を向けるレティレスティアだったが、確かにこのまま巻き込めば国家間の争いに引きずり込む事になり兼ねないと思いなおす。

 追っ手に追われ、森の中を独り彷徨った心細さからつい、目の前に現れた異国の魔術士に縋ってしまったが、よく見るとまだ歳若く、恐らくは見習いの身であろう見ず知らずの旅人を、これ以上危険な事態に巻き込む事は躊躇(ためら)われた。

「……分かりました、この方は私とは無関係です。害を加えない事を約束して下されば、大人しく投降しましょう」
「承知した。元より我々も事を荒立てるつもりは無かった、貴方の身柄を確保する事が目的ゆえ」

 男が仲間の一人に合図すると、部下らしき者が鎖の付いた革の輪のようなモノを取り出してレティレスティアに近付く。その拘束具を見たレティレスティアは一瞬、ビクリと肩を震わせて身を引くが、気丈に踏みとどまった。

「失礼かとは思いますが、貴方の逃亡と精霊術を封じる為の処置です、危害は加えません」

 枷を填められる事への不安と怒りと羞恥で顔を赤くするレティレスティアだったが、現状ではどうする事も出来ない。大人しく従おうと自ら一歩踏み出したその時。

「なんか…… ムカつく」

 低い呟きと共に、この辺り一帯を照らし出していた白い光が突然消えうせた。今まで眩しい程の光に眼が慣れていた為、一瞬にして視界が暗闇に閉ざされる。

 全員がぎょっとして呟きの主、先程から沈黙していた若い魔術士の方を振り返るが、その瞬間、眼も眩むような鋭い閃光が瞬いた。 
 200ルーメンのストロボフラッシュライトが激しく明滅する。さっきまでの光とは比べ物にならない光量は、文字通りそれを見た者の眼を眩ました。

「しまった!」『今まで沈黙していたように見えたのは詠唱を行っていたのか!』

 集団のリーダーは慌てて防御体制を取った。魔術士を前に視界を奪われて無防備になるなど致命的に過ぎる。少しでも魔術による攻撃の被害を抑えようと後ろに跳び退(すさ)って地に伏せた。

「こっち!」
「え!?」

 その隙を逃さず、朔耶はレティレスティアの腕を引いて走り出した。







+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。