第十七話 そういえばあの人は
第十七話 そういえばこの人は
ドイツの上司の人はとにかく滅茶苦茶怖い人なのですがこの人は意外にも菜食主義者です。お肉もお魚も食べませんしお酒も煙草もしません。ところが極めて好戦的なことばかり言っているのでした。
「戦えドイツよ!」
これがいつもの口癖です。
「優秀にして偉大なるゲルマンの誇りを胸に!」
「・・・・・・何故こんなにも違うんだ」
彼はここでイタリアのことも考えるのでした。
「この人はトマトだってかなり食べているのにどうしてあいつと全然違うんだ」
そう考えて不思議で仕方なかったのですがここにも秘密がありました。それは。
「ドイツよ。あの曲を聴くぞ」
「あれですか」
「そうだ、あれだ」
ドイツに指示して出させたレコードはワーグナーのものでした。それを聞きながらこの人は悦に入るのでした。
「聴くのだ、この偉大な曲を」
聴いているのは最初はワルキューレの騎行、タンホイザーの大行進曲、ローエングリン第三幕前奏曲等です。上司のお髭のおじさんは聴いているうちにやけに好戦的な笑みを浮かべるようになっていました。ワーグナーの名物である合唱曲なんかを聴いているともう完全にあれになってきていて。遂には。
「そうだ。ドイツは負けはしないのだ。このドイツは」
「・・・・・・あいつもワーグナーを聴いていれば変わるのだろうか」
そんな上司を見てふと思うドイツでした。さてさてどうなるか。あまり期待はしていないのですがそれでも少し考えてみるのは儚い夢であります。ドイツもドイツで困っているのです。
第十七話 完
2008・1・10
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